プロローグ
重なるべきではない世界が重なった世界。
太古の霊獣が暴れる大地で、人はで『人ならざる者』の脅威に晒されていた。
人間・ジン・魔術師
高い知能と、異なる生態系を持った三種の種族が、互いに覇権を求め合う世界で、人間は『人ならざる者』に対して弱者であり強者であった。
『人ならざる者』の一つである魔術師に対して、人は強者である。
人知を超えた力で、万物の法則を捻じ曲げた創造を成す魔術師たちではあるが、霊獣に対しての免疫が弱く、霊獣から傷を受ければ生死に関わる。そのため魔術師は、己たちの能力を提供することで、人間の庇護を受け、その命を繋いでいた。
もう一つの『人ならざる者』であるジンに対して、人は弱者である。
ジンと呼ばれる種族は、人間を捕食する。
正しくは人間の脳を喰らい、脳を失った人間の肉体を死せる奴隷として支配する。ジンに脳を喰らわれ、魂を失った人間は、朽ちて土に戻ることも許されず、自分を喰い殺したジンが死ぬ日まで、そのジンの奴隷として働かされる。
だが人間に対しては強者であるジンは、魔術師に対しては弱者である。
魔道士たちの創造の魔術に、ジンは欠かせない材料であるからだ。
人間・ジン・魔術師
その三種の種族は、微妙な均衡を保ちながら一つの世界を共有していた。
そんな世界の西の大陸に、アリオル王国はあった。
建国してまだ一世紀にも満たない若い国だが、『人ならざる者』の脅威に怯え、小さなコミュニティごとに暮らしていた人々は、突然現れた若き王の指揮のもと、猛烈な勢いで国土を開拓していった。
歴史が浅いまま拡大する国土を統治するために、初代国王は、忠誠を誓う各地方権力者に貴族の称号と、『人ならざる者』を制圧するのに必要な術を与えた。
国王に納税と忠誠を誓う代わりに、裁判権・徴税権を与えられた貴族たちは、石造りの牢固たる己の城を築き、己が領地の支配力を固めていった。
『竜騎士』の異名を持つヘイスティン・ネイバルも、国王から国土の一部を領地として預かる貴族の一人だった。