1-2『四人』
粗暴な帝国軍人――ドリフターズのあの人しか発想できなかったから、こうなりました。
さて、今の状況を一言で表すとすれば、理解不能の一言に尽きる。
コンビニの前にいたと思えば、周囲に森が鬱蒼と生い茂るところにある建物で寝ていたのだ、これをどうやって理解しろと。
「とりあえず、自己紹介だ。俺の名前は佐々木誠、サラリーマンをやっている」
「あ、は……はい、えっと、高校生やってます。一ノ瀬大和です」
少々おどおどとしている様子で、大和は自己紹介を返した。当然だろう、見知らぬ場所に寝ていた、なんておかしな事態に直面しているのだ、寧ろ、誠がおかしい。
しかし、誠が冷静であることには、理由がある。目の前に高校生、年下の少年がいるのだ、それが盛大に怯えていれば、本能的に冷静にならなければと考えた、これにより、なんとか表面上は取り繕えている。
「とりあえず……わかったことを報告し合おう」
「そ、外に城があります」
「うん、あとは携帯の電波がない」
ポケットからスマートフォンを取り出して、電源を入れる、パッと出た画面の左上に、圏外という文字が小さく表示されていた。電波がなければ、地図アプリは容量を圧迫するだけの、無駄な存在だ。
「俺のも、一本も立たないです」
そういって大和は最新機種の携帯を取り出し、眺めた。その後、ポケットへとしまいなおすと、頭を抱えた。
「何なんですか、ここ……意味わからないんですけど!?」
「まぁ幸いにも、監禁はされていないようだよ、鍵はかかっていないし、外に見張りもいない」
泣きそうな声に、フォローになっていないだろうが、楽観的だと思えることを言った。
「とりあえず、外に出て、話を聞いてこなきゃ」
「……え?危ないですよ!俺たちを、攫ったかもしれないんですよ!?」
誠の言葉に、大和は目を丸くして、危ないと止めようとする。
しかし、止まるつもりはない。
「隠れて様子をみるし、ここでこうやっていても、必ず誰か来るだろう?遅かれ早かれ、人と会わなければいけないし、どこかわからない場所で、逃げるというのも、現実的はではない」
様子を見て、話せそうなら話しあう、そして情報を得る。情報は、何物にも尊いと、誠は社会人経験でわかっていた。
「よし、ちょっと言ってくる。二人だと、バレやすいから、待っていてくれるか?どこかに隠れていてもいいし」
「う……わかりました」
大和は、渋々といった表情で頷いた。それを見て、すぐに歩き出した。
扉は、先ほど言った通り、閉まっていなかった。外に出ると、廊下が続いており、扉が複数あった、静かに移動し、扉へと耳を付ける、それを繰り返し、人がいないことを確認すると、廊下奥にあった階段へと向かった。
下に降りると、同じように行動するが、人はいない、階段があったので、さらに降りると、内装が一変した。
ホテルの玄関部分よりは小さいが、それを思わせる豪華な内装だった。二枚扉があり、開いて顔を覗かせると、部屋の窓から見たように、木々が広がり、その中心に石畳の舗装された通路が見えた。
「……監禁じゃあないな」
ほっとした、心の中では、状況的にはないだろうとは思っていたが、やはり少しは恐れていたのだろう、「さて」と心を切り替えて、歩き出した。
すると、どこからか金属がぶつかり合う、カシャッという音が聞こえた。
耳をすませると、再び金属音が聞こえる、耳を澄ませて、音の方向を定め、歩き出した。
(ここからだ……)
視線を、扉に向ける、カチャカチャという軽く、高い音が聞こえる。
耳を付けて中の様子を伺った。
すると、女性の声がした。
「マニラちゃん、あの二人、どうだったかしら?」
「寝てるわ、あぁ疲れた、ご飯大盛りね!」
「はぁ、国王がいると空気が張り詰めて、精神に悪いんだよね」
「――諦めろ」
「といっても、先輩なんて、一度調合を間違えた程度で、クビだよ?」
「ハンバル先輩がどうなろうとも、私たちには関係ないじゃない」
「マニラちゃんの図太さ、見習うべきかしらねぇ」
「……それ、誉めてるの?」
高い声、一人は男性口調で低いが、男性ほどではない、女性だろう。
中にいるのは四人だと、判断した。様子を見る限りでは、そこまで荒っぽいような、攻撃的な性格ではなさそうだが、――ゴクリと、自然に唾を飲んだ。
入るべきだろうか、そう考えて立ちあがった、何度か深呼吸をして、やっと扉をたたいた。
「あら、誰か帰ってきたのかしら」
「二人が起きたんじゃないの?」
扉越しに声が聞こえて、こちらへと近づく足音が聞こえた。
そして、ギィッという鈍い音を立てて、扉が開いた。
「あら、気がつきました?」
開いたドアから、同年代であろうか、長い豊かな金髪をした、まつ毛の長い女性が現れた。
「え、えぇ、まぁ(落ち着け、この人は日本語をしゃべっている、英語を話さなくていいんだ)」
金髪の容姿、一応英語は喋ることができる、仕事場にも外国人は居た。
しかし、初対面となると、やはり腰が引ける。
「やっぱり、いきなりこんなところにいると、怖いものですわね」
「では、やはり」
貴方が、ここに連れてきた人か――
「ええ、あなたでいう、異世界に呼んだ者になりますわ」
「……は?」
「<異界接続>この魔法は、異世界と空間をつなげる魔法ですわ、信ぴょう性は薄かったけど、各国が魔法を使い、そして勇者を召喚しようとして――」
「いや、ちょ」という言葉を無視しして、さらに語り始める。
「そして、貴方達二人が召喚された、ということいなりますわ」
「は、はぁ」
流石に気の抜けた返事しかできなかった。
「と、とにかく、なんというか、悪いようにはしないということはわかりました」
それならば、説明なんてしないだろう、頭のおかしい人か、どっきりか、それか真実かだ。
「だから、もう一人の、大和くんを呼んできますので、そこでこの世界について説明してください」
正直頭が痛かった。どうも会話が通じない人を相手している気分だった。
「それでは、少し遅れて呼んできます、食事の邪魔をして申し訳ないです」と、礼をして、踵を返して歩き始めた。
頭がまともに回らない、
ドッキリとしても、ここまで大規模にやらないだろう。
頭のおかしな人、騙そうとしている人、それでも――ちらり、と左手首の時計を見る、時刻はコンビニにいてから、三十分、日付は変わってはいなかった。
(ダメだ、まともな思考ができやしない)
しかし、いくら考えても、異世界であるという言葉を全面的に否定し続ける自分がいた。
――異世界とか、プロジェクトどうなるんだよ!?引き継ぎできないし、自分が柱として動いていたから、かなり遅れるだろう、一応、仕事場のパソコンには計画書類を入れてあるが、それでも細かいところは頭の中だ、失踪すれば滞ってしまう、そのことが信じてはダメだと言い聞かせてきた。
(とにかく、だ)
――話を聞かねば、そう考えて、誠は階段へと一歩を踏み出した。
「それじゃ、えぇと、よろしく……お願いします、日本語でいいんですよね?」
「まぁ通じるし、いいんじゃないか?」
十分程度時間を空けて、食堂へと戻ってくると、既に料理は片付いており、掃除をしている最中だった。それを手伝い、場所をセッティングすると、テーブルクロスのかけられた机を挟み、4:2の形で座った。
「佐々木誠、誠が名前になります」
「あっ、俺は一ノ瀬大和、大和です」
とりあえず簡単な自己紹介を、こちらから始めると、4人も一人ずつ、自己紹介を返し始める。
「私はリューティリア・エドモンド、リューティリアと申しますわ」
先ほど対話した女性だ。この4人では、見た目からして年長のようだ。
「ハンナだ、家名はないぞ」
赤い髪のショートカットの女性、男っぽい口調だった。
「マニラ・カルテット、家名のほうでよびなさいよ、よろしくするつもりはないわ」
もみあげをいじりながら、不躾にそう言い放った。中学生の思春期の女の子のように見えた。見た目年齢もそれぐらいのようだ。
「――ミア」
透き通るような平坦な声、半眼の銀色の髪が特徴的な、小さな女の子が、ボソリとそう言って、自己紹介は終わった。
ふっと一瞬静まり返ると、待てないといわんばかりに、大きな声で大和が話を切り出した。
「とりあえず、ここはどこなんですか?日本では――」
「ニホン、ニホンってあれか!?粗暴なやつだな!?」
ハンナが、警戒心を強めて、目じりにしわを寄せて、こちらを見た。
「ハンナちゃん、落ち着いて、千年前の話よ、粗暴な人には見えないし、二人とも優しそうじゃない、ごめんなさい、騒がしくて」
こちらに謝罪をしてくる、それを手で制し、頭を振った。
「いえ、いいですよ、千年前に日本人が?」
「えぇ、帝国軍人とか、セントウキという鉄の鳥のようなものに乗って、<異界接続>で現れましたわ」
「へぇ、そうなんですか(千年前、元の場所では約70年ほど前のことだ、つまりは異世界だとすると、15倍ほど時間が違う?いや世界と時間がセットとして考えると、真実味はないから、あまり考えるのはやめよう)」
思考を整理しながら、話を切り替える。
「とりあえず、今此処にいる場所について説明をお願いできますか。大陸名、国名、現在地の詳細な情報をください」
答えたのは、ハンナだった。
「粗暴じゃなさそうだな……すまなかった、ここはアステル大陸、ハンリカ国、王都、王城から少し離れたところにあるが、城の敷地内にある、魔術士の塔だ」
「魔術士!?魔法があるんですか?」
「えぇ、そうなりますわ」
そういってリューティリアは手のひらを上に向けると、何もない場所から炎が湧きだし、そして其れは瞬時に拡大し、顔ほどに大きな火の球となった。大和は不思議そうに身を乗り出し、手を近付けて「熱ゥィッ!?」と反射的に体をそらし、椅子を巻き込んで転がった。
「アホなのね、アンタ」
マニラはあきれたように言い放った。
誠は、こればっかりは心の中で同意しながら、大和へ手を貸して、立ちあがらせた。椅子を持ってきて、謝る大和に苦笑いを返して、座らせた。
頭のおかしいやつとか、そういう考えが音をたてて崩れ去るのを感じた。
「とりあえず、ここは大陸にある国の一つで、貴方は魔法によってこちらへと召喚されましたわ、勇者として」
「勇者?」
「えぇ、魔界の魔王を倒す切り札として、えぇと、この大陸は人の住む人界、亜人の住む魔界に分かれてていますわ、そしてその間では、長年諍いが絶えない、近年は魔界勢力が攻勢を増して、その原因である魔王を倒せるものが<異界接続>の魔法で現れるとされて、各国はそれを行い、この国もやったところ、貴方たちが召喚された、といったところになりますわ」
リューティリアが簡単に述べた。そこから、言いにくそうに口をもごもごとさせながら、続きを話していった。
「その、勇者は大和さんになります、誠さんはそうではない、とされました」
「となると、俺は――いえ、私はどうなるんでしょう」
むぐ、と口を閉ざして、リューティリアは息をついた。
「その……お、追い出せと、命令されました」
「……はぁ」
それはなぜですか、と問う声は、大和が机に身を乗り出して、両手で机をたたいた音にかき消された。
「そんな!?異世界とか、正直現実味はありませんけど、知らない場所ですよ、追い出すんですか!?」
「か、勘違いはしないでくれ、無一文ではない、生活できるお金は渡すことにしてあるから」
ハンナの言葉を聞いて、大和はさらにヒートアップした。
「そんなもので、追い出しても大丈夫っていうんですか!!」
言い返せず、ハンナとリューティリアが言葉に詰まった。
止めないと、そう考えて誠は立ちあがろうと力を入れた瞬間だった。
「あぁ、もううるさいわね!王様に逆らったら放り出されるか、死ぬかなのよ!この誠とかいう男がどうなろうと私はどうでもいいの!何にも知らない癖に!」
マニラの癇癪を起した声が響いた。売り言葉に買い言葉だ、さらにヒートアップした大和は、拳をギュッと強く握りしめた。
「なんだと!?」
「マニラちゃん、落ち着いて」
「私だって、追い出さなくていいならそのほうがいいわよ!帰らせてあげられるなら、そのほうがいいのよ!でもね、そんなことできないの、許されないの!!」
手を振り上げ――思い切り落とす。
ドォンッ!という音が響き渡り、カタカタと机が揺れた。誠を除く全員がビクリと肩を揺らし、それを起した誠へと沈黙して視線を向けた。
「静かにしろ、というか大和、お前は自分のことを考えろ、勇者とかなんとか言われているがな、戦うことにされそうなのはお前だ、外に出るのと、どちらがキツイとかわかりはしないが、お前も相当ヤバいからな」
「うぐっ」
大和は何も言えずに呻くのみだった。
「あと、あんたたちが不本意なのはわかったし、その王様ってやつが、ヤバいのはわかった、気に病むなとは言わん、寧ろ償いとして、色々と教えてくれ、簡単なものでいい」
誠は、有無の言わせぬ声色で、周囲を見回した。誰も何も言わなかった。
それを了解だと考えて、言葉を続ける。
「それで、いつまでに出ればいいのですか」
「明日、といったところになりますわ」
リューティリアの声は震えていた。
「早急ですね」
「明日、国王が来ますから」
「……そうですか」
其れを言ったきり、誠は色々と思考を巡らしていく。
そして、それが終わると、四人をまっすぐと見た。
「男物の、この世界での一般的な服装と、大きめの鞄が欲しい、それから、本を読ませてくれ、文字がわかるか試したい」
「わ、わかりましたわ」
「ありがとうございます。そしてカルテットさん?でいいかな」
「な、なによ」
マニラの声も震えていた。
「ありがとう、気にかけてくれて、大和くんも怒ってくれてありがとう、――とにかく、俺は明日までに全力で生きるために必要な情報をもらいます。本ってどこにあります?」
ちらりと、リューティリアを見る。
その視線に気づいて、すっと立ち上がった。
「こちら、ですわ」
「あぁ、よろしくお願いします」
「お、俺もいきます」
振り向くと、大和がこちらへと近づいてくるのが見えた。
「文字とか、わかるか知りたいですし」
「そうか」
そういって、視線をリューティリアへと戻す。
そのまま背中を見て、歩を進めながら、今日のことを考えていった。
(生きるためには情報は不可欠、それじゃあ――女性たちの罪悪感を煽って、できるだけ情報を得られるようにしなければいけない、ここにはいられない、国王に、ここにいると気づかれたら、話を聞くに殺されるかもしれないしな、――そういえば)
聞いていないことに気が付き、前を歩くリューティリアへと声をかける。
「そういえば、帰る方法はあるんですか?話を聞く限りじゃ、無いようですけど――<異界接続>とかで、できないんですか?」
「……死ぬかもしれません」
――無いのか、と心の中で愕然とする。
(帰る方法を探さなければいけないのだろうか……できるだけ、やるべきだ)
頭が痛い、今日はそればっかりだった。滞るであろうプロジェクトが、突然の知らない土地が、設計すらできない将来が、のしかかってくる。
「ここに、なりますわ」
気がつけば、すでに目的の場所についていたようだ。
「どうも」
礼をして、扉を開いて室内へと向かった。
目の前には、中心に、木の四人ほどで使える机が二つと、それぞれに4つほど椅子が置かれており、その周囲に棚が広がり、そして棚にはみっちりと本が敷き詰められている、そんな光景が広がっていた。
適当に一冊抜いて、本を開く、ぱぱっと文字を流れるように見ていった。
「わからないな、大和くんは読めるか?」
「いえ、読めないです」
「言葉は通じるんだけどなぁ」
「あの……」
振り向くと、リューティリアが立っているのが見えた。
「あぁ、すいません、時間があればいいんですけど、文字を教えてください、――書くものあったかな」
スーツのポケットを探ってみるが、無いようだ。
「あぁ、そういえば俺、バッグにあった――バッグがない!?すいません、バッグ無かったですか!?」
リューティリアへと大和が問いかけると、心当たりがあるのか、頷いた。
「えぇ、置いてあった光沢のあるバッグなら、保管してありますわ、とってきます」
「あ、お願いします」
そういって、小走りでパタパタと走っていくのを見送り、大和と見合った。
「新品のノート、5冊セットのやつを買っておいたんですよ、シャーペンとかボールペンも余分にあるし」
「それは良かった、とりあえずすぐに、店名とか日用品の文字や、数字を勉強して、外に出たら物価かなぁ、お金は限られているから、大切に使わないと、家計簿にもなるな」
「じゃあ三冊必要ですね」
「お願いできるかな?帰れたら、――まぁどうこう考えるのはやめようか、帰れたらお金を返そう、いや、飯をおごるぞ、一食二万位のフレンチとか」
「ものすごくドギマギしそうですね、味がわからないだろうなぁ」
明るい声で、笑いあった。少しばかり気分がプラスのほうにいったようだ。
「あの、取ってきましたわ……」
そこへ、ちょっと気まずげなリューティリアが現れた。
(――聞かれたのだろうか)
まぁ、どちらでも良いが、罪悪感を煽りすぎてもダメだ、そう誠は考えた。
大和は礼を言いながら、差し出された荷物を受け取った。
「えぇと、文字を教えてもらっても大丈夫ですかね?」
「大丈夫です、えぇ!」
リューティリアは少し嬉しそうに頷いた。
「あぁ、誠さんについてください、俺は、その……時間あるので」
「そうかい?それじゃあ、お願いしてもいいでしょうか?」
「その、同年代のようですし、敬語はいりませんわ」
「じゃあ、リューティリアさんも、敬語無しで」
笑顔で会話を返し続け、机へと、肩を並べる形で椅子に座る。
「あ、ノートと、四色とシャーペンがついてるやつです。あとカップめんあるんですよ、当分は食べられないですし、分けて食べません?」
手渡されたノートとペンを受け取った。
誠はふと気になって、リューティリアへ問いかける。
「あぁ、そういえばここってラーメンとかあるのかな?」
「いえ、聞いたことないわ」
その言葉に、大和は声をはずませた。
「じゃあ、試しに食べてください、友達のぶんもあるんで、三個ありますし」
「ここに置いておきますから」といって、大和はビニール袋を部屋の隅において、外へと歩き出した。
「ちょっと外をぐるっと見てきます」
そういった大和は、少し楽しそうだった。その証拠に、外に出た後、小走りで走り去る音が聞こえた。
「――男の子だなぁ」
「ふふっ、マコトさんにもそんな時代があったの?」
少々気を許したのか、微笑みながら問いかけてきた。
その言葉に苦笑いを浮かべながら、頷き、答える。
「えぇ、まぁ、勇者とか、最強の戦士とか、そんなことを考えていた時代もあったなぁ」
「そうなの――あぁ、すみません、文字教えないと、どんなものを?」
「えぇと、宿屋とか、酒屋、食料品の売ってるところを示す文字などを」
そうして、一日限定の勉強会が始まった。
大和は、玄関から外に出て、飛び出した。
草木が生い茂り、石畳で舗装された道路が永遠と続くかのように伸びている、そして振り向けば巨大な城、さらに振り向けば、魔術師の塔、眠っていた三階よりも、さらに上に伸びていた。
「異世界だなぁ!」
不安感はあるが、それよりも好奇心による心の震えが勝っていた。
誠への心配はあるが、今はこの情景を刻んでいたかった。
「空気が綺麗な気がする!」
深呼吸をする。異世界といえども、あちらとはあまり変わりない、空を見上げれば真っ青な空が続き、土の匂いがした。
夜が来れば、真黒な用紙に黄色い絵の具を溶かした水を散布したような、美しい星空が現れるのだろうか。
「――イチノセ」
「うん?……あぁ――えっと、ミアでよかったか?」
振り向くと、ミアが立っていた、半眼でこちらをじっと見つめて、大和の言葉にコクリと小さく頷いた。
(なんていうか、あんまり声聞いてないから、記憶に残ってない……)
「――配慮、足りなかった」
鈴の音のような、綺麗な声が聞こえた。
「え?」
「――可能性、低くとも、来たらフォローできるよう、考えるべきだった」
驚き、大和はミアをまっすぐと見た。半眼で感情が読めないが、大和の言葉を待っているのか動かず、こちらを見ていた。
「いや、うん、俺についてはいいんだ、後でフォローいれてくれるんだろう?誠さんも、今がんばっているし、フォローしてくれるんだろう?」
「――うん」
小さく頷いた。それだけで大和は笑みを浮かべた。
「その、なんだ……すごい帰りたいけど、話じゃ、無理そうだったし、そうなると、もう流されるしかないし、うん――」
言葉にしようとして、できないもどかしさを感じた。
(俺、誠さんがいないと、確実にヤケになっていた、帰せ、帰せって叫んでいた、暴れていた。だけど、冷静な誠さんをみて、一緒に冷静になれた)
考えを整理する。そして答えはすぐに出た。
「もう、やるしかないならやるよ。運悪かったと思って、生き抜くために、いつか帰れると信じて、やり続けるんだよ、それを手伝ってくれるんだろう?そうなると、怒る相手じゃない、仲間みたいに思っている、そりゃ不満はあるけど、やっぱり、そういう感情は置いておいて、お願いします、俺は、帰ります、帰りたいです。だから、手伝ってくれるか?」
「――うん」
その時、大和はミアが、うっすらとではあるが、微笑むのが見えた。
それは、大和が見惚れるほどに可愛らしいものだった。
心の奥底で、魔術という道のものへの恐怖があった、それが知らずのうちに、解きほぐされていくのを感じた。
「ミアさん」
「――ミア」
「ミアって呼び捨てでもいいってことでいいのか?」
コクリと小さく頷いた。
「じゃあ、俺は大和でいいよ」
「――うん、ヤマト」
ニカッと大和は人懐っこい笑みを浮かべて、空へと拳を突き上げる。
「よーし、魔王とか、勇者とか、もう色々とわからんけど、がんばるぞ!」
「――がんばる」
「うおおお!俺最強!俺勇者!」
「――勇者」
「ふふ、若いっていいわね」
「いや、リューティリアさんも若いじゃないか」
「マコトさんはお世辞が上手いわね」
そう微笑ましく、誠とリューティリアは聞いているが、誠の中には少し心配ごとがった。
(――戦争に巻き込まれるようなものだ)
そう、人と亜人の戦いに、巻き込まれるのだ。
その現実が見えていない、いや、今はテンションだけでも支えにして、突っ走るべきなのだろうが、将来的に、現実が見えてきたときがどうなるか心配だった。
「どうしたの?」
「いや、その――なんでもない」
口ごもった。信じてよいのか、わからない――もう少し見た後に、お願いできるか考えよう、そう判断した。
「次は数字を教えてくれ」
「えぇ、それじゃあ――」
9000文字、一日がんばっても15000くらいしか書けない。
集中力が続かない、最後らへん適当になっているから書きなおさなければ。
次回1-3『旅立ち』