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異世界で生きるには  作者: K.A.U
2/2

1-2『四人』

粗暴な帝国軍人――ドリフターズのあの人しか発想できなかったから、こうなりました。

さて、今の状況を一言で表すとすれば、理解不能の一言に尽きる。

コンビニの前にいたと思えば、周囲に森が鬱蒼と生い茂るところにある建物で寝ていたのだ、これをどうやって理解しろと。


「とりあえず、自己紹介だ。俺の名前は佐々木誠、サラリーマンをやっている」


「あ、は……はい、えっと、高校生やってます。一ノ瀬大和です」


少々おどおどとしている様子で、大和は自己紹介を返した。当然だろう、見知らぬ場所に寝ていた、なんておかしな事態に直面しているのだ、寧ろ、誠がおかしい。

しかし、誠が冷静であることには、理由がある。目の前に高校生、年下の少年がいるのだ、それが盛大に怯えていれば、本能的に冷静にならなければと考えた、これにより、なんとか表面上は取り繕えている。


「とりあえず……わかったことを報告し合おう」


「そ、外に城があります」


「うん、あとは携帯の電波がない」


ポケットからスマートフォンを取り出して、電源を入れる、パッと出た画面の左上に、圏外という文字が小さく表示されていた。電波がなければ、地図アプリは容量を圧迫するだけの、無駄な存在だ。


「俺のも、一本も立たないです」


そういって大和は最新機種の携帯を取り出し、眺めた。その後、ポケットへとしまいなおすと、頭を抱えた。


「何なんですか、ここ……意味わからないんですけど!?」


「まぁ幸いにも、監禁はされていないようだよ、鍵はかかっていないし、外に見張りもいない」


泣きそうな声に、フォローになっていないだろうが、楽観的だと思えることを言った。


「とりあえず、外に出て、話を聞いてこなきゃ」


「……え?危ないですよ!俺たちを、攫ったかもしれないんですよ!?」


誠の言葉に、大和は目を丸くして、危ないと止めようとする。

しかし、止まるつもりはない。


「隠れて様子をみるし、ここでこうやっていても、必ず誰か来るだろう?遅かれ早かれ、人と会わなければいけないし、どこかわからない場所で、逃げるというのも、現実的はではない」


様子を見て、話せそうなら話しあう、そして情報を得る。情報は、何物にも尊いと、誠は社会人経験でわかっていた。


「よし、ちょっと言ってくる。二人だと、バレやすいから、待っていてくれるか?どこかに隠れていてもいいし」


「う……わかりました」


大和は、渋々といった表情で頷いた。それを見て、すぐに歩き出した。

扉は、先ほど言った通り、閉まっていなかった。外に出ると、廊下が続いており、扉が複数あった、静かに移動し、扉へと耳を付ける、それを繰り返し、人がいないことを確認すると、廊下奥にあった階段へと向かった。

下に降りると、同じように行動するが、人はいない、階段があったので、さらに降りると、内装が一変した。

ホテルの玄関部分よりは小さいが、それを思わせる豪華な内装だった。二枚扉があり、開いて顔を覗かせると、部屋の窓から見たように、木々が広がり、その中心に石畳の舗装された通路が見えた。


「……監禁じゃあないな」


ほっとした、心の中では、状況的にはないだろうとは思っていたが、やはり少しは恐れていたのだろう、「さて」と心を切り替えて、歩き出した。

すると、どこからか金属がぶつかり合う、カシャッという音が聞こえた。

耳をすませると、再び金属音が聞こえる、耳を澄ませて、音の方向を定め、歩き出した。


(ここからだ……)


視線を、扉に向ける、カチャカチャという軽く、高い音が聞こえる。

耳を付けて中の様子を伺った。

すると、女性の声がした。


「マニラちゃん、あの二人、どうだったかしら?」


「寝てるわ、あぁ疲れた、ご飯大盛りね!」


「はぁ、国王がいると空気が張り詰めて、精神に悪いんだよね」


「――諦めろ」


「といっても、先輩なんて、一度調合を間違えた程度で、クビだよ?」


「ハンバル先輩がどうなろうとも、私たちには関係ないじゃない」


「マニラちゃんの図太さ、見習うべきかしらねぇ」


「……それ、誉めてるの?」


高い声、一人は男性口調で低いが、男性ほどではない、女性だろう。

中にいるのは四人だと、判断した。様子を見る限りでは、そこまで荒っぽいような、攻撃的な性格ではなさそうだが、――ゴクリと、自然に唾を飲んだ。

入るべきだろうか、そう考えて立ちあがった、何度か深呼吸をして、やっと扉をたたいた。


「あら、誰か帰ってきたのかしら」


「二人が起きたんじゃないの?」


扉越しに声が聞こえて、こちらへと近づく足音が聞こえた。

そして、ギィッという鈍い音を立てて、扉が開いた。


「あら、気がつきました?」


開いたドアから、同年代であろうか、長い豊かな金髪をした、まつ毛の長い女性が現れた。


「え、えぇ、まぁ(落ち着け、この人は日本語をしゃべっている、英語を話さなくていいんだ)」


金髪の容姿、一応英語は喋ることができる、仕事場にも外国人は居た。

しかし、初対面となると、やはり腰が引ける。


「やっぱり、いきなりこんなところにいると、怖いものですわね」


「では、やはり」


貴方が、ここに連れてきた人か――


「ええ、あなたでいう、異世界に呼んだ者になりますわ」


「……は?」


「<異界接続>この魔法は、異世界と空間をつなげる魔法ですわ、信ぴょう性は薄かったけど、各国が魔法を使い、そして勇者を召喚しようとして――」


「いや、ちょ」という言葉を無視しして、さらに語り始める。


「そして、貴方達二人が召喚された、ということいなりますわ」


「は、はぁ」


流石に気の抜けた返事しかできなかった。


「と、とにかく、なんというか、悪いようにはしないということはわかりました」


それならば、説明なんてしないだろう、頭のおかしい人か、どっきりか、それか真実かだ。


「だから、もう一人の、大和くんを呼んできますので、そこでこの世界について説明してください」


正直頭が痛かった。どうも会話が通じない人を相手している気分だった。

「それでは、少し遅れて呼んできます、食事の邪魔をして申し訳ないです」と、礼をして、踵を返して歩き始めた。

頭がまともに回らない、

ドッキリとしても、ここまで大規模にやらないだろう。

頭のおかしな人、騙そうとしている人、それでも――ちらり、と左手首の時計を見る、時刻はコンビニにいてから、三十分、日付は変わってはいなかった。


(ダメだ、まともな思考ができやしない)


しかし、いくら考えても、異世界であるという言葉を全面的に否定し続ける自分がいた。

――異世界とか、プロジェクトどうなるんだよ!?引き継ぎできないし、自分が柱として動いていたから、かなり遅れるだろう、一応、仕事場のパソコンには計画書類を入れてあるが、それでも細かいところは頭の中だ、失踪すれば滞ってしまう、そのことが信じてはダメだと言い聞かせてきた。


(とにかく、だ)


――話を聞かねば、そう考えて、誠は階段へと一歩を踏み出した。




「それじゃ、えぇと、よろしく……お願いします、日本語でいいんですよね?」


「まぁ通じるし、いいんじゃないか?」


十分程度時間を空けて、食堂へと戻ってくると、既に料理は片付いており、掃除をしている最中だった。それを手伝い、場所をセッティングすると、テーブルクロスのかけられた机を挟み、4:2の形で座った。


「佐々木誠、誠が名前になります」


「あっ、俺は一ノ瀬大和、大和です」


とりあえず簡単な自己紹介を、こちらから始めると、4人も一人ずつ、自己紹介を返し始める。


「私はリューティリア・エドモンド、リューティリアと申しますわ」


先ほど対話した女性だ。この4人では、見た目からして年長のようだ。


「ハンナだ、家名はないぞ」


赤い髪のショートカットの女性、男っぽい口調だった。


「マニラ・カルテット、家名のほうでよびなさいよ、よろしくするつもりはないわ」


もみあげをいじりながら、不躾にそう言い放った。中学生の思春期の女の子のように見えた。見た目年齢もそれぐらいのようだ。


「――ミア」


透き通るような平坦な声、半眼の銀色の髪が特徴的な、小さな女の子が、ボソリとそう言って、自己紹介は終わった。

ふっと一瞬静まり返ると、待てないといわんばかりに、大きな声で大和が話を切り出した。


「とりあえず、ここはどこなんですか?日本では――」


「ニホン、ニホンってあれか!?粗暴なやつだな!?」


ハンナが、警戒心を強めて、目じりにしわを寄せて、こちらを見た。


「ハンナちゃん、落ち着いて、千年前の話よ、粗暴な人には見えないし、二人とも優しそうじゃない、ごめんなさい、騒がしくて」


こちらに謝罪をしてくる、それを手で制し、頭を振った。


「いえ、いいですよ、千年前に日本人が?」


「えぇ、帝国軍人とか、セントウキという鉄の鳥のようなものに乗って、<異界接続>で現れましたわ」


「へぇ、そうなんですか(千年前、元の場所では約70年ほど前のことだ、つまりは異世界だとすると、15倍ほど時間が違う?いや世界と時間がセットとして考えると、真実味はないから、あまり考えるのはやめよう)」


思考を整理しながら、話を切り替える。


「とりあえず、今此処にいる場所について説明をお願いできますか。大陸名、国名、現在地の詳細な情報をください」


答えたのは、ハンナだった。


「粗暴じゃなさそうだな……すまなかった、ここはアステル大陸、ハンリカ国、王都、王城から少し離れたところにあるが、城の敷地内にある、魔術士の塔だ」


「魔術士!?魔法があるんですか?」


「えぇ、そうなりますわ」


そういってリューティリアは手のひらを上に向けると、何もない場所から炎が湧きだし、そして其れは瞬時に拡大し、顔ほどに大きな火の球となった。大和は不思議そうに身を乗り出し、手を近付けて「熱ゥィッ!?」と反射的に体をそらし、椅子を巻き込んで転がった。


「アホなのね、アンタ」


マニラはあきれたように言い放った。

誠は、こればっかりは心の中で同意しながら、大和へ手を貸して、立ちあがらせた。椅子を持ってきて、謝る大和に苦笑いを返して、座らせた。

頭のおかしいやつとか、そういう考えが音をたてて崩れ去るのを感じた。


「とりあえず、ここは大陸にある国の一つで、貴方は魔法によってこちらへと召喚されましたわ、勇者として」


「勇者?」


「えぇ、魔界の魔王を倒す切り札として、えぇと、この大陸は人の住む人界、亜人の住む魔界に分かれてていますわ、そしてその間では、長年諍いが絶えない、近年は魔界勢力が攻勢を増して、その原因である魔王を倒せるものが<異界接続>の魔法で現れるとされて、各国はそれを行い、この国もやったところ、貴方たちが召喚された、といったところになりますわ」


リューティリアが簡単に述べた。そこから、言いにくそうに口をもごもごとさせながら、続きを話していった。


「その、勇者は大和さんになります、誠さんはそうではない、とされました」


「となると、俺は――いえ、私はどうなるんでしょう」


むぐ、と口を閉ざして、リューティリアは息をついた。


「その……お、追い出せと、命令されました」


「……はぁ」


それはなぜですか、と問う声は、大和が机に身を乗り出して、両手で机をたたいた音にかき消された。


「そんな!?異世界とか、正直現実味はありませんけど、知らない場所ですよ、追い出すんですか!?」


「か、勘違いはしないでくれ、無一文ではない、生活できるお金は渡すことにしてあるから」


ハンナの言葉を聞いて、大和はさらにヒートアップした。


「そんなもので、追い出しても大丈夫っていうんですか!!」


言い返せず、ハンナとリューティリアが言葉に詰まった。

止めないと、そう考えて誠は立ちあがろうと力を入れた瞬間だった。


「あぁ、もううるさいわね!王様に逆らったら放り出されるか、死ぬかなのよ!この誠とかいう男がどうなろうと私はどうでもいいの!何にも知らない癖に!」


マニラの癇癪を起した声が響いた。売り言葉に買い言葉だ、さらにヒートアップした大和は、拳をギュッと強く握りしめた。


「なんだと!?」


「マニラちゃん、落ち着いて」


「私だって、追い出さなくていいならそのほうがいいわよ!帰らせてあげられるなら、そのほうがいいのよ!でもね、そんなことできないの、許されないの!!」


手を振り上げ――思い切り落とす。

ドォンッ!という音が響き渡り、カタカタと机が揺れた。誠を除く全員がビクリと肩を揺らし、それを起した誠へと沈黙して視線を向けた。


「静かにしろ、というか大和、お前は自分のことを考えろ、勇者とかなんとか言われているがな、戦うことにされそうなのはお前だ、外に出るのと、どちらがキツイとかわかりはしないが、お前も相当ヤバいからな」


「うぐっ」


大和は何も言えずに呻くのみだった。


「あと、あんたたちが不本意なのはわかったし、その王様ってやつが、ヤバいのはわかった、気に病むなとは言わん、寧ろ償いとして、色々と教えてくれ、簡単なものでいい」


誠は、有無の言わせぬ声色で、周囲を見回した。誰も何も言わなかった。

それを了解だと考えて、言葉を続ける。


「それで、いつまでに出ればいいのですか」


「明日、といったところになりますわ」


リューティリアの声は震えていた。


「早急ですね」


「明日、国王が来ますから」


「……そうですか」


其れを言ったきり、誠は色々と思考を巡らしていく。

そして、それが終わると、四人をまっすぐと見た。


「男物の、この世界での一般的な服装と、大きめの鞄が欲しい、それから、本を読ませてくれ、文字がわかるか試したい」


「わ、わかりましたわ」


「ありがとうございます。そしてカルテットさん?でいいかな」


「な、なによ」


マニラの声も震えていた。


「ありがとう、気にかけてくれて、大和くんも怒ってくれてありがとう、――とにかく、俺は明日までに全力で生きるために必要な情報をもらいます。本ってどこにあります?」


ちらりと、リューティリアを見る。

その視線に気づいて、すっと立ち上がった。


「こちら、ですわ」


「あぁ、よろしくお願いします」


「お、俺もいきます」


振り向くと、大和がこちらへと近づいてくるのが見えた。


「文字とか、わかるか知りたいですし」


「そうか」


そういって、視線をリューティリアへと戻す。

そのまま背中を見て、歩を進めながら、今日のことを考えていった。


(生きるためには情報は不可欠、それじゃあ――女性たちの罪悪感を煽って、できるだけ情報を得られるようにしなければいけない、ここにはいられない、国王に、ここにいると気づかれたら、話を聞くに殺されるかもしれないしな、――そういえば)


聞いていないことに気が付き、前を歩くリューティリアへと声をかける。


「そういえば、帰る方法はあるんですか?話を聞く限りじゃ、無いようですけど――<異界接続>とかで、できないんですか?」


「……死ぬかもしれません」


――無いのか、と心の中で愕然とする。


(帰る方法を探さなければいけないのだろうか……できるだけ、やるべきだ)


頭が痛い、今日はそればっかりだった。滞るであろうプロジェクトが、突然の知らない土地が、設計すらできない将来が、のしかかってくる。


「ここに、なりますわ」


気がつけば、すでに目的の場所についていたようだ。


「どうも」


礼をして、扉を開いて室内へと向かった。

目の前には、中心に、木の四人ほどで使える机が二つと、それぞれに4つほど椅子が置かれており、その周囲に棚が広がり、そして棚にはみっちりと本が敷き詰められている、そんな光景が広がっていた。

適当に一冊抜いて、本を開く、ぱぱっと文字を流れるように見ていった。


「わからないな、大和くんは読めるか?」


「いえ、読めないです」


「言葉は通じるんだけどなぁ」


「あの……」


振り向くと、リューティリアが立っているのが見えた。


「あぁ、すいません、時間があればいいんですけど、文字を教えてください、――書くものあったかな」


スーツのポケットを探ってみるが、無いようだ。


「あぁ、そういえば俺、バッグにあった――バッグがない!?すいません、バッグ無かったですか!?」


リューティリアへと大和が問いかけると、心当たりがあるのか、頷いた。


「えぇ、置いてあった光沢のあるバッグなら、保管してありますわ、とってきます」


「あ、お願いします」


そういって、小走りでパタパタと走っていくのを見送り、大和と見合った。


「新品のノート、5冊セットのやつを買っておいたんですよ、シャーペンとかボールペンも余分にあるし」


「それは良かった、とりあえずすぐに、店名とか日用品の文字や、数字を勉強して、外に出たら物価かなぁ、お金は限られているから、大切に使わないと、家計簿にもなるな」


「じゃあ三冊必要ですね」


「お願いできるかな?帰れたら、――まぁどうこう考えるのはやめようか、帰れたらお金を返そう、いや、飯をおごるぞ、一食二万位のフレンチとか」


「ものすごくドギマギしそうですね、味がわからないだろうなぁ」


明るい声で、笑いあった。少しばかり気分がプラスのほうにいったようだ。


「あの、取ってきましたわ……」


そこへ、ちょっと気まずげなリューティリアが現れた。


(――聞かれたのだろうか)


まぁ、どちらでも良いが、罪悪感を煽りすぎてもダメだ、そう誠は考えた。

大和は礼を言いながら、差し出された荷物を受け取った。


「えぇと、文字を教えてもらっても大丈夫ですかね?」


「大丈夫です、えぇ!」


リューティリアは少し嬉しそうに頷いた。


「あぁ、誠さんについてください、俺は、その……時間あるので」


「そうかい?それじゃあ、お願いしてもいいでしょうか?」


「その、同年代のようですし、敬語はいりませんわ」


「じゃあ、リューティリアさんも、敬語無しで」


笑顔で会話を返し続け、机へと、肩を並べる形で椅子に座る。


「あ、ノートと、四色とシャーペンがついてるやつです。あとカップめんあるんですよ、当分は食べられないですし、分けて食べません?」


手渡されたノートとペンを受け取った。

誠はふと気になって、リューティリアへ問いかける。


「あぁ、そういえばここってラーメンとかあるのかな?」


「いえ、聞いたことないわ」


その言葉に、大和は声をはずませた。


「じゃあ、試しに食べてください、友達のぶんもあるんで、三個ありますし」


「ここに置いておきますから」といって、大和はビニール袋を部屋の隅において、外へと歩き出した。


「ちょっと外をぐるっと見てきます」


そういった大和は、少し楽しそうだった。その証拠に、外に出た後、小走りで走り去る音が聞こえた。


「――男の子だなぁ」


「ふふっ、マコトさんにもそんな時代があったの?」


少々気を許したのか、微笑みながら問いかけてきた。

その言葉に苦笑いを浮かべながら、頷き、答える。


「えぇ、まぁ、勇者とか、最強の戦士とか、そんなことを考えていた時代もあったなぁ」


「そうなの――あぁ、すみません、文字教えないと、どんなものを?」


「えぇと、宿屋とか、酒屋、食料品の売ってるところを示す文字などを」


そうして、一日限定の勉強会が始まった。



大和は、玄関から外に出て、飛び出した。

草木が生い茂り、石畳で舗装された道路が永遠と続くかのように伸びている、そして振り向けば巨大な城、さらに振り向けば、魔術師の塔、眠っていた三階よりも、さらに上に伸びていた。


「異世界だなぁ!」


不安感はあるが、それよりも好奇心による心の震えが勝っていた。

誠への心配はあるが、今はこの情景を刻んでいたかった。


「空気が綺麗な気がする!」


深呼吸をする。異世界といえども、あちらとはあまり変わりない、空を見上げれば真っ青な空が続き、土の匂いがした。

夜が来れば、真黒な用紙に黄色い絵の具を溶かした水を散布したような、美しい星空が現れるのだろうか。


「――イチノセ」


「うん?……あぁ――えっと、ミアでよかったか?」


振り向くと、ミアが立っていた、半眼でこちらをじっと見つめて、大和の言葉にコクリと小さく頷いた。


(なんていうか、あんまり声聞いてないから、記憶に残ってない……)


「――配慮、足りなかった」


鈴の音のような、綺麗な声が聞こえた。


「え?」


「――可能性、低くとも、来たらフォローできるよう、考えるべきだった」


驚き、大和はミアをまっすぐと見た。半眼で感情が読めないが、大和の言葉を待っているのか動かず、こちらを見ていた。


「いや、うん、俺についてはいいんだ、後でフォローいれてくれるんだろう?誠さんも、今がんばっているし、フォローしてくれるんだろう?」


「――うん」


小さく頷いた。それだけで大和は笑みを浮かべた。


「その、なんだ……すごい帰りたいけど、話じゃ、無理そうだったし、そうなると、もう流されるしかないし、うん――」


言葉にしようとして、できないもどかしさを感じた。


(俺、誠さんがいないと、確実にヤケになっていた、帰せ、帰せって叫んでいた、暴れていた。だけど、冷静な誠さんをみて、一緒に冷静になれた)


考えを整理する。そして答えはすぐに出た。


「もう、やるしかないならやるよ。運悪かったと思って、生き抜くために、いつか帰れると信じて、やり続けるんだよ、それを手伝ってくれるんだろう?そうなると、怒る相手じゃない、仲間みたいに思っている、そりゃ不満はあるけど、やっぱり、そういう感情は置いておいて、お願いします、俺は、帰ります、帰りたいです。だから、手伝ってくれるか?」


「――うん」


その時、大和はミアが、うっすらとではあるが、微笑むのが見えた。

それは、大和が見惚れるほどに可愛らしいものだった。

心の奥底で、魔術という道のものへの恐怖があった、それが知らずのうちに、解きほぐされていくのを感じた。


「ミアさん」


「――ミア」


「ミアって呼び捨てでもいいってことでいいのか?」


コクリと小さく頷いた。


「じゃあ、俺は大和でいいよ」


「――うん、ヤマト」


ニカッと大和は人懐っこい笑みを浮かべて、空へと拳を突き上げる。


「よーし、魔王とか、勇者とか、もう色々とわからんけど、がんばるぞ!」


「――がんばる」


「うおおお!俺最強!俺勇者!」


「――勇者」




「ふふ、若いっていいわね」


「いや、リューティリアさんも若いじゃないか」


「マコトさんはお世辞が上手いわね」


そう微笑ましく、誠とリューティリアは聞いているが、誠の中には少し心配ごとがった。


(――戦争に巻き込まれるようなものだ)


そう、人と亜人の戦いに、巻き込まれるのだ。

その現実が見えていない、いや、今はテンションだけでも支えにして、突っ走るべきなのだろうが、将来的に、現実が見えてきたときがどうなるか心配だった。


「どうしたの?」


「いや、その――なんでもない」


口ごもった。信じてよいのか、わからない――もう少し見た後に、お願いできるか考えよう、そう判断した。


「次は数字を教えてくれ」


「えぇ、それじゃあ――」

9000文字、一日がんばっても15000くらいしか書けない。

集中力が続かない、最後らへん適当になっているから書きなおさなければ。


次回1-3『旅立ち』

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