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謁見3


 願い事とは、すなわち。


「アーカイス国へ赴いたとして、すぐにレオナール様にお会いすることはできますか? …無理なら伝書鳩でも魔法便でもいいです。なるべく早急に、彼と連絡を取りたいのですが!」


 感情余って強い口調になった灯里に、エルヴァは肩をすくめた。その顔には疲れが出ていて、灯里は内心首を傾げた。


「……相当な事情がない限り、あいつは執務室から出てこないよ。僕にだって、あまり会おうとしないくらいなんだから」

「えっ!?」


 私の記憶では、たしか、お二人は一週間に一度以上のペースで会っていた気が……。

 それが、この六年間でほんの数回しか会っていない──しかも、レオナール様から会おうとはしない、と?

 そこまで理解して、思考が停滞した。


 ……何の冗談だろう。

 悪い冗談だと思いたいけれど、エルヴァ様の真剣さから鑑みるに、それはあり得ない。


「──そうなったのは、わたくしが原因ですか?」

「……」


 灯里の思い詰めた質問に、小さく困ったように微笑み、明言を避けるエルヴァ。

 その言動を見逃さぬように凝視していた灯里は、長年の経験もあって、それだけで答えを理解した。

 けれども早とちりだといけないので、念のために確認をしておくことにする。


「私が死んだのは、こちらでは何年前になっていますか?」

「六年前だよ」

「…そうですか」


 予想を確信に変え、灯里は思考を巡らせた。

 …こちらとあちらの時間の流れ方が違うのは置いといて。

 間違いなく、レオナール様がおかしくなったのは私のせいだ。

 私のせいだといっても、自決をしたわけではないけれど、あれは、私がもう少し注意をしていれば防げた事だった。

 あまりに突然のことだったというのもあって、遺言すら遺せないまま逝ってしまった。

 もう少し時間があれば、伝えたかったことが伝えられたかもしれないのに。

 生まれ変わってすぐ──赤ん坊の頃にはよく、そうやって後悔していたものだったが、今ではもう吹っ切れた。

 最愛の人を遺して逝ってしまったという事については、今も昔も未練ばかりしか抱かない。

 その後悔と過ごした幸福な日々を思い出す。……死んでから、一日たりとも彼らを忘れたことはなかった。


 欲を言えば、生き返りたかった。

 生き返って、もう一度だけでいいから、最愛の人と言葉を交わしたかった。

 痛みと辛さでまともに喋れなかっただろうけれど、せめて笑顔で逝きたかった。私の死に際の表情は、きっと苦悶を浮かべていただろうから。


 …けれども、他の世界に転生してしまった以上、再び彼らとまみえることは出来ないのだと、理屈で自分を納得させていた。

 ──だというのに、私は今、こうしてふるさとの世界に還っている。召喚された先は祖国ではないけれど、運の良いことに、友好国だった。


 もしかしたらまた彼に会えるのかもしれない。

 そう希望を持つのを、誰が咎められようか。


 一度は捨てた幻想だけれど、こうして再びそれを手にすることができるチャンスが巡ってきたのだ。

 …それを、誰が諦めると思う?

 少なくとも、私は諦めない。



「エルヴァ様。──どうか、伝書鳩か魔法便を貸してください」


 スカートの裾を片手でふわりと持ち上げ、頭を下げる。

 この独特の動作は、前世で嫌というほど叩き込まれた、アーカイス国での最上儀礼だった。


「……」


 エルヴァからの返答はない。

 灯里は頭を垂れて床に視線を寄越しているから、一瞬たりとも表情を窺うことすらできない。

 アーカイス国では、何かしらの返しがあるまでは、決してその体制のまま動いてはならない。動いたら最期、それは死を意味するからだ。


「し、シスリア…?」


 エルヴァの困惑したような声(実際すごく困っているのだろうけど)にも総無視を決め込んで、灯里は沈黙を守る。

 ……いや、無視というより、これが礼儀なんだけども。


「……」

「──赦す」


 エルヴァから、その言葉に付属して疲れたようなため息が聞こえてきた。

 ちなみに、何故ため息を吐かれたのかは不明だ。

 …幼なじみだったとはいえ、さすがにそこまでは分からない。私はエスパーではないのだ。


 兎にも角にも、重要人物からの協力は得られた。

 私は思わず微笑を零した。


『有り難うございます』




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