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謁見


 あれから。

 なんやかんやで報告を受けたルースラッド国王様に加え、司祭様、浩介、咲、海、蛍の計六名は、灯里との特別な場を設けた。

 ──謁見という名の、聴取を。



「(……えぇっと)」


 目の前の椅子に座るルースラッド王に見つめられ、居心地が悪そうに座り直す灯里。

 誰もが沈黙でいるこの場で、一番最初に口を開いたのは国王だった。


「──面を上げよ」


 灯里は、その声にデジャヴを感じた。

 命じられたままに顔を上げ、国王の顔を見る。その顔を見て、確信した。

 記憶のものより少し年上のようだけれど、シスリア(・・・・)がこの人物を間違えるはずがない。


「エルヴァ様…?」


 レオナール様と同じ『王子』という肩書きを持った方。ルースラッド国と国は隣国同士で、なおかつ友好国だった。だから、幼い頃から何度か会って遊んでいたらしい。

 彼らは二人とも『王子』だったけれど、正確に言えば違う身分だった。

 エルヴァ様は第一王子で、レオナール様は第二王子。言い方を変えれば、正式な跡継ぎとスペア。

 当の本人たちは親友同士だったし、そんなの気にしてなかったけど。…私? なんで気にする必要性が?


 国王は此方を瞬きもせずに凝視してくる。

 …あれ? もしかして、エルヴァ様では無かったのだろうか。こちらでは既に何百年も経っていて、目の前の彼はエルヴァ様の子孫なのだろうか。

 だとしたら、目の前のルースラッド国王は私とは赤の他人で、エルヴァ様と声が激似の別人なのだろうか?

 もしそうなら、発言を許されていないのに口を開いたということで処されるかもしれない。


「(人違いでした? すごく似ているんだけどなぁ…)……あの、」

「名は何という?」


 申し訳ございませんでした、という謝罪の言葉が口から出ることはなかった。

 そうしようと口を開きかけて、王からの制止の言葉が入ったからだ。


「…? 笹川灯里と申します」


 一番はじめに自己紹介をしたはずなんだけど、と疑問に思いながらもそう述べる。


「いや、そうではない。…前世の名は?」

「(あぁ、そういうことですか)」


 ……そうですよね。常識的に考えて、聞かれているのはそっちの名前ですよねー。


「シスリア・ルーデルです」


 ルーデル男爵家長女の。

 そう付け足すと、目を見開かれた。


「…ご存じですか? わたくしを」

「知ってるもなにも……」

「? …あの、お名前は?」

「それは今、お前が今言っただろう」

「……え。本当にエルヴァ様!?」


 嘘でしょう!?と思わず悲鳴を上げると、ルースラッド国王改めエルヴァ様が、椅子の背に深くもたれ、片手で頭を抱えた。


「お、王様?」

「…それはどういう意味かな、シスリア」

「ヘタレのくせに王様務めてるんですか?」

「いや、ヘタレって…!」

「……ここにいる皆に、昔話をしてあげましょうか? あなたの恋物語の」

「っちょ、それは…!」

「じゃあ一つ質問をします。名誉挽回のために答えてくださいね? …エレナはおとせました?」


 その質問をした途端に、エルヴァ様が赤面する。…ややあって頷いた。非常に恥ずかしげに、此方から視線を背けている。


「あら、それは良かったですわね」

「……お前、確実にシスリアだな…」

「ええ。何を今更?」

「今痛感したよ、君がほら吹きでないと」


 あぁ、前世の記憶があるのが嘘だと思われてたのかな? 司祭様がどこまで報告したのかは分からないけれど、私が神殿で話したことをほとんど信じてなかったんだろうなー、この人。

 ま、国の一番上に立つ者としては、それくらい疑ってかかったほうがいいと思うけどね。


「今まで一度も、嘘を付いたことはございませんよ?」

「口が達者なのも相変わらずか…」

「お褒めに与り恐縮ですわ」

「褒めてない!」


 呆れたような独り言にそう返すと、突っ込まれた。…うん、昔の情景とあんまり変わってない。懐かしい。


 逐一ちゃんと反応してくれるから、彼との絡みは楽しい。

 もっとも、ここまで砕けた態度で接することができるようになったのは、初めて会ってから五年が経ってからだけれど。

 …それまでは、いくら恋人の親友だからって私の敵でないとは言い切れなかったから、どこか信用出来ていなかったのだ。『あのこと』が起こらなかったら、こんな風に接することは一生無かっただろう。




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