変化4
魔法便が送られてきた。
送り主はレオナール・アーカイス。
三日後に会いに行くという旨の言伝に、了解しましたと頷く。
イエスかノーかの返事くらいだったら魔法便に返事を託しても問題ないので、そうすることにした。主人に「返事はどうだった?」と求められたら頷くだけで往復手紙の役割を果たしてくれるのだから、楽である。
他に言うべき事柄も無いので、それでよろしくと魔法便を送り出した。
そうして見送ってから、周りの人に「三日後に会いに来るって」と報告した。
エレナとエルヴァには、主に精神面で大丈夫かと問われ、兄弟達には、まだ体調が万全ではないのだからもう少し回復するまで待ってもらったら、と心配の言葉をかけられた。
それらに大丈夫と笑顔付きで返した灯里は、ようやく一息つけるといった感じで息を吐きつつ、ベッドに潜り込んだ。
本日の昼食となっている果物を食べながら、ベッドの背もたれに凭れかかる。
口をもぐもぐと動かしながら、窓の外を見つめた。一人で静かに食べるご飯というものが異様に寂しいので、せめてもの気休めである。
窓から街の景色を見ることは叶わないが、じっと身動ぎをせずに耳を澄ませば、活気のある気配くらいは感じられる。
「(魔王も退治したらしいし、安全だね)」
どうやら、私が寝込んでいた一週間の間に魔王討伐は終わってしまっていたらしい。これは、オズウェルが帰った後に兄弟達から聞かされた話だ。
「魔王ってどんなやつだった?」と訊ねたら、蛍曰く「大きくて黒かった!」らしいが、その色の表現方法だと恐竜時代から生きているアノ生物を思い出すので、やめて欲しいと思った。
私は細かい部分を聞きたかったのだけど、そこからは“どうやって倒したか”を妹が熱弁してきたため、聞く機会を逃してしまったのだった。
伝説では魔王は闇の魔術を使うらしいので、妹の“黒い”という発言はおそらく闇関連のものだろう、という憶測を立ててみる。
行くまでに一日程度、討伐に二~三日(後始末を含めて三日間)、そこから帰ってくるまでに半日もかからなかったらしい。
魔王がどんな者で、どんな能力を持っていて、どのくらいの魔力と知力があったのかは知らないけれど、それでも魔王というくらいだし、勇者が召還されるくらいなんだから、凄く強かったのだろう。相当手強い相手だと思うのだが…それを四人がかりとはいえ、三日で倒すってどうなんだろう。チートか。
「(いや、チートでしたね彼らは)」
適性魔法の種類が二種類ですら特別なのに、兄に至っては三種類。
恐らく水(姉と妹)と火(弟)は、木や地と比べて、魔に対して強いはずだ。分があると言っても良い。
しかも、皆して魔力量が高い&光属性を持っているのだ。
つまりは勇者が四人揃ったようなものなんだから、魔王討伐をさっくりと終わらせてしまうのも道理かもしれない、と思った。
「(しかもほとんどダメージ無いみたいだし)」
子供向けの物語には記されていないけど、とある書物には『勇者は三日三晩、全力を以て命を懸けて戦った。そうしてようやく魔王を倒すことが出来た』──大雑把にしか覚えていないけども、大体同じような内容の記載があったはずだ。
この文章から察するに、勇者は勝利できたものの満身創痍か瀕死に近い状態だったのかもしれない。少なくとも、私の兄弟達のように元気で帰還はしなかったようだ。
この世界の人とは比べ物にならないくらいの強さを持つ勇者たちがそこまで苦戦したというのだから、魔王の強さは押して計るべしである。
何はともあれ無傷で良かった。
これで誰かが怪我をしてきていたら、私が魔力皆無であることを悔やんでも悔やみきれなかったかもしれない。
とはいえ、私が彼らの役に立てるかと言ったらそうとも言えないのだが。
「(なんだかなぁ…)」
ベッド生活中は激しい運動を禁止されている。特にする事もないので、こうしてぼんやりと考え事をすることが多くなっていた。
しようと思えば刺繍なり読書なりベッドの中でも出来ることはあるんだけど、身体を動かすのが億劫なのでやめておく。
といっても、一食を食べ終えただけで腕が疲れるくらい筋力が落ちているので、できそうも無いのだけれど。
けど、リハビリ代わりにやり始めてみるべきだろうか。
このままでは、動かないのでお腹がすかない→お腹がすかないのであまり食べない→体力が付かないので、回復スピードが遅くなり免疫力も低下するため、ベッド生活が長引く→動かない時間が増える(そしてさらに筋力が衰える)、という悪循環に陥ってしまいそうな気もする。
急にハードな運動はドクターストップがかけられるので、それくらいから始めてみよう、と意気込んだ灯里は、食事を下げに来てくれた城仕えの女性にその旨を伝えたのだった。




