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変化2


 診断:高熱

 原因:(推定)精神的疲労及び体力消耗による、免疫力低下。

 治療法:体力が戻るまでは絶対安静。食事をとる事が出来るのであればそれが最善策だが、無理なようであればせめて水分補給はする事。

 いきなり固形物を流し込むのは弱っているであろう胃に負荷をかけるため、流動食から慣らすのが良い。

 用意できる流動食は、ミルク、果汁、スープ、ゼリーなど。

 備考:当面の食事は、十分に栄養面を考慮すること。面会は基本的には規制しないが、休めないようである等の理由があれば可。詳細は主治医の判断に任せる。





『一日ぶりです。高熱でぶっ倒れました、笹川灯里です。

 あれから目が覚めたら、ずらりとベッドの周りに兄弟たちが居て驚きました。彼らによると、六時間くらい意識を失っていたようです。

 ちなみに、意識を取り戻した私に最初に気が付いたのは海でした。

 目が覚めたばかりでぼーっと空を見つめていたら、蛍が抱きついてきました。身動きが取れない上に、妹の頭が鳩尾辺りに入りまして…。

 呻き声を上げたら蛍にさらに心配され、お前が元凶だと言わんばかりに、海に引き離されていました。

 一騒動あった後に、皆から怒られました。無理をするなとか、そうなる前に相談くらいしろとか。そして、妹には泣かれました。

 ともかく、多大なる心配とご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。

 第二王子様にもよろしく言っておいてください。本当であれば直接会って話をするべきですが、まだ何とも言えないので猶予を戴けると嬉しいですとお伝えください。

 ───だそうですが』


 何でもない事のように、見たばかりの異国の言葉で書かれた手紙をスラスラと読み上げたオズウェルは、その手紙を目の前の人物に横流しした。

 渡されたものの、他人宛の手紙を読んで良いものなのだろうか…と悩んでいるのは、この国の第二王子であるレオナール・アーカイスだ。

 オズウェルに『全て読みましたから、見ても変わりません』と促され、恐る恐るといった体で手紙を手に取り、読み進めていく。

 最後の署名まで文章を目で追ってから、手紙をそっと机の上に置いて、机の向かい側で軍人のように直立不動で此方を見下ろしているオズウェルに問うた。


『何故お前に対して敬語なんだ?』

『さぁ、解りませんね。ですが、憶測程度であれば──変に気を使うたちのあの人の事ですから、恐らく、私達と深い関係であるのを悟られまいとしたか、どこかで盗み見られても問題がないように敬語にしたかのどちらかだと思います。…とはいっても、検問が無いので前者の気遣いは無用ですし、この封筒は盗み見される心配もないものですから、そんな心配りは的外れですが』


 この手紙が入っていた封筒は、ある特殊な封筒だった。

 特定の人以外が開けようとすると高圧の電気が流れる魔法が織り込まれているので、宛先欄に書かれた人物以外の者が開けるのは不可能なのだ。

 一度形作られたら、その魔法(電気が流れる仕組み)は解除不可能となる魔法陣も描かれているらしく、他の者が穏便に覗き見するのはできない造りになっている。

 見た目は普通の封筒と大差ないのだが、その実、非常に高性能な封筒である。

 盗み見される心配がないので、密書や重要書類の送信によく用いられている。また、色や形も様々なので、他人には読まれたくない手紙(恋文など)を入れる場合もあるらしい。


『それはそうと、レオナール様。彼女が生まれ変わって目の前に現れたことに関して、どう思われますか?』

『…それは、原因を考察しろという事か?』


 突然の質問に、どういう意図があるのかと訝しげな表情でレオナールが問いかける。

 オズウェルはそれをあっさりと否定した。


『いえ。感想をお聞ききしたいと思っただけです』

『……。まだ、あまり実感がないから何とも言えないが…純粋に嬉しいと思う。お前は?』

『概ね共感できますが、私はまた会えたことが嬉しいというより、性格が変わっていることにそう思いました』

『…そうなのか?』

『そうですよ。…ああ、そういえば、レオナール様はまともに話していらっしゃらなかったですね』

『…わざわざ傷を抉るような事を言わなくても良いだろう』

『そんな気は一切ありませんが』


 レオナールは、飄々と言ってのけるオズウェルに頭を抱えた。


 オズウェルは確かに小さい頃から毒舌家だったが、シスリアが生きていた頃はここまでではなかったのだ。

 姉が儚くなった事によってやさぐれたというのなら納得するが、それはこいつが普通の神経をしている場合の事だ。

 こいつがそんなかわいい性格をしているわけがないのは、周知の事実である。

 教えて欲しいと言って素直に教えてくれる奴ではないし、しつこく聞いたらその何倍もの嫌みが返ってくるだろうから、誰も聞かないが。


『なんというか…愉快になってました』

『愉快? それは誉めているのか?』

『ええ。前は周りの視線や評価を気にして縮こまり、基本他人に流されるだけの性格でしたが──今の性格なら、そう苛つくこともないと思います』

『…そうか』


 お淑やかだとか、もっと言いようはあるだろうに。

 そもそも、貴族の令嬢はそういう事なかれ主義のような性格の者が多い。というのも、貴族の令嬢は実家の繁栄の為に嫁ぐという認識が未だに強いからだ。

 自分の意志を貫く事が許される令嬢は、公爵家か、最低でも伯爵家に生まれた者くらいのものだ。

 それでも、許されない行為などもあるため、好き勝手が出来るという意味ではないのだが。


 だから、本当はそこまで批判されることではない。

 それよりも、駆け落ちの方が卑しいと言われるのが普通なのだが──どうも、目の前のはそういう考えでないらしい。


『──で、如何します? 会われるというのであれば日程調整しますが』

『会いたいのは山々だが……彼女の体調はどんなだ?』

『…今すぐ魔法便でも飛ばして、ご自分で確認なされば宜しいでしょうに』


 仕事はどう見ても完璧なのに、恋愛となると…と内心で溜め息を吐いたオズウェルは、乗り気でないながらも、仕入れた情報を報告する。

 ──毎度のことだが、国の長である王族に対する態度として、あるまじき態度である。

 尤も、当の本人である王子が咎めないので、他の誰も文句を言えないのだが。


『倒れたのは高熱によるものであるというのが、担当した医者の見立てです。あとは一週間飲まず食わずだったようなので、それのせいで体力と免疫力が下がってますが、そこまで重体ではないようです。面会は特に規制されないらしいので、行くのはいつでもいいと思いますよ』





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