神殿
「(うっわー…)」
これは、俗にいう『召還』というやつなのではないだろうか?
そう冷静に分析している私──いや、私たち(・・・)がいるのは、石段の上だった。
「……」
私はぐるりと周りを見渡す。先ほどの青白い光のせいで目がくらんでいるおかげで、まだきちんと見えてはいないけれど、そうせずにはいられなかった。
確認してみると、私の隣には目を丸くして硬直する兄と姉がいて、その三人の前には、私と頭一つ分背が違う双子の弟妹がいた(海は私より背が高く、蛍は私より背が小さい)。
私だって状況を把握出来ていないけれど、ひとまず兄弟皆が一緒だから大丈夫だろうと安心する。
異境の地で、そこに信頼できる者がいるかいないかは大きな差なのだ。その点、私たちは運が良いと言えよう。
「…何、ここ?」
ようやく驚きから解放されたらしい海が声を発する。それによって蛍も硬直が解けたようで、きょろきょろと辺りを見回し始めた。
目が慣れてきたらしい姉が、不意に足下に視線を落とした。
「……何よこれ」
声音から察するに、動揺しているわけではないらしい。
私もそれにつられて下を向く。
ようやく明かりに慣れた私の目に入ってきたのは、私たちが乗っている石段に直に描かれた魔法陣だった。
なぜ分かるのかというと、前世の記憶のおかげだ。
前世で生まれ育った国──アーカイス王国にも、このような召喚魔法陣というのが存在していた。私はその瞬間を直に見たことがないから、これがその魔法陣だとは断定出来ないけれど、状況から考えておそらく間違いないだろう。
召喚魔法陣というのはその名の通り、特定の者を召喚するための魔法陣だ。
条件指定によって召喚できる者が変わる。どこまで細かく設定できるのかは知らないけれど、たしか、名前指定や場所指定は出来なかったはずだ。
前世の記憶を手繰り寄せてみる。
……ええっと、たしか…こういう魔術を使える者は限られていたように思う。
祖国では、そういう特別な人々のことを加護持ちと言っていて、加護持ちは須く『神殿』の者たちだった。
彼らは『神に一生涯忠誠を誓うこと(以下略』という誓いによってそういう力を得ていたようだから、彼らが神官であるというのは道理なのだ。
まあ、たまに例外(生まれつきそういう力を持った者)も居たようだけど、そういう者たちも最終的には神官になる。
野放しにしておくと色々と危ないから、というのがその理由だ。
力の使い方が分からなかったり、力を暴走させてしまってはいけないから、そういう者たちは神殿が管轄することになっていた。暴走を起こさないためにも、その制度は必要だった。──なぜなら、最悪の場合、それは自分自身や他者の命を狩ることに繋がってしまうのだから。
ちなみに、祖国では、加護持ちが『そういうこと』を起こした場合、責任は全て神殿側にあることになるという仕組みだった。
「もしかして、ここ──神殿?」
だとすれば、目の前にいるたくさんの白い服の人たちは多分神官たちなのだろう。
そう自分自身で納得していると、横から名を呼ばれた。どうしたのかと、顔を上げて兄を見る。
「なぁに?」
「灯里、ここを知っているのか?」
「いや、見たことはないよ。ただ、本の中での神殿がこんな感じだったからね」
兄からの質問に、間髪入れずに答える。
…ここで、「前世の記憶を持っている」なんて言ったら「頭大丈夫か」と言われること間違いなしだろうなぁ…。
私が読書家だったのが功をそうしたのか、兄弟たちはその答えに納得してくれたようだった。
…ラノベを読んでいて良かった。前世も今世も、暇つぶしの意味合いを兼ねて本を読んでいたことが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
「──いかにも。此処は、王都に在る神殿でございます」
「あなたが最高責任者なの?」
頃合いを見計らっていたのか、絶妙なタイミングで口を挟んできた相手に、姉が質問を投げかける。
「はい。私はシェルラツィドと申します。──僭越ながら、私から状況説明を致したいと思うのですが、宜しいでしょうか?」
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