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所謂転生ってやつです



 今世の私の名前は、笹川灯里ささがわあかり

 地球という丸くて青い惑星にある、日本という国に住む女子高生だ。

 歳は今年で17。前世の世界では大人に分類される歳なのだが、こちらではそうじゃないらしい。子供でもなく大人でもない、微妙な年齢だ。


 そんな私は今、地元の高校に通っている。偏差値は県内平均よりやや上だという特徴だけの、なんの変哲もない高校だ。

 私としては高校に行かなくても良いと思ったのだが、両親(+教師)が行くようにと奨めてきた。

 今世の両親は、普段は優しく、時に厳しく…子供のことを大切に思ってくれている、良い親だ。

 そんな両親を私は尊敬しているから、「強制じゃないけれども、高校進学をして欲しい」という二人の希望に頷いた。

 

 そうそう。私には、兄弟がいる。

 上は兄の浩介こうすけと姉のさき、下は双子の兄妹であるかいほたる

 私を含めた五人兄弟の仲は良く、総じて家族関係も良好だ。

 美形の両親から生まれてきたからだろう、子供も皆、系統は違えど美形だった。

 前世が平凡な顔の私としては、いたたまれなかった。というか恥ずかしかった。

 どこかに出掛ければ注目を浴び(美形集団だから)、異性(たまに同性)から黄色い悲鳴を浴びる。

 美形は、自分がなっても全然嬉しくないのだと実感した。


 この顔のおかげで異性にもてるのが一番嫌だった。

 なぜって、嫌がらせ多発だし嫉妬されるし友達出来ないし…良いことがないのだ。

 嫌がらせは前世だけで十分だと思ったのに、今世でも日常茶飯事。

 学校の行事について聞かなければいけないことがあっても、男子には聞けない(私のことを敬遠気味。話しかけても赤面されるので鬱陶しい)し、女子に聞いても教えてくれない(そもそもこちらをちらちら見ながら悪口を言ってくる性格の悪い彼女らが、まともに教えてくれるはずがない)し。

 散々だ。

 対して、前世では美形だと有利なことが多かった。

 そんなに身分が高くなくても、上に見初められれば玉の輿に乗ることだって夢じゃなかったし、縁談がひっきりなしにくるから自分好みの相手を選べるし。

 ……あぁ、このまま前世に行けたら良いかもしれない。こっちの世界では宝の持ち腐れだから。


「……はぁ」

「どうしたの? 灯里」

「お姉ちゃん…」


 リビングでぐったりとしていると、夕食を作っていた姉の咲が具合でも悪いのかと訊ねてきた。

 その問いに否の返答を返しつつ、また内心でため息を吐く。

 そうしていると、二階から浩介が降りてきた。


「灯里? …咲。こいつ、どうかしたのか?」

「さあ。私にも教えてくれないのよね」

「灯里、大丈夫か?」

「……うん」


 私が頷くのとタイミングよく、咲の「ご飯出来たわよ」の声。

 それと同時に聞こえてきた、階段を駆け下りてくる足音は、二人分だ。


「「ご飯ー!」」

「(ハモった…)」


 さすが双子、と感心しながら、夕食の準備を手伝う。お皿を並べたり、料理を運んだり。

 その途中、心配げな視線を投げかけてきた姉に「もう大丈夫、吹っ切れたよ」と笑顔付きで話しかけると、ほっと安堵のため息を吐かれた。

 心配させてしまったことに少しの罪悪感を抱き、それほど大切に思ってくれていることに感謝する。それは、両親へと、私を除いた四人兄弟に対してだ。


 共同作業で並び終えた料理が乗るテーブルを前に、五人全員が座る。

 一斉に発した「いただきます」の言葉が、おかず争奪戦開始の合図だ。

 前世とは間逆の食事風景だけれども、これもこれで楽しい。

 まぁ、基本的に各自の分はお皿に盛ってあるためにおかずにありつけないということはないので、安心して争奪戦を繰り広げられるというのもあるんだけど。もしそうじゃなかったら必死だろうな、と思う。


「…にしても、お父さんたちってラブラブよね」


 食事も半ばになってきた頃、しみじみと呟いたのは咲だった。

 それに同意した浩介が、壁に掛けられたカレンダーをちらりと見る。

 そこには、昨日から一ヶ月間『両親旅行』の文字が。いわゆる結婚記念日旅行だ。…いささか長すぎるような気がしないでもないが。

 けどまあ、心配はいらないだろう。

 兄は大学三年生、姉はその一つ下の大学二年生、私は高校二年生。

 もう大人に分類される年齢の人たちが三人もいるのだ。お金は用意しておいてくれたから留守番くらいはできる。

 それに、兄はアルバイトをしているから臨時収入もあるし、姉は料理上手だからその心配も一切無用。

 双子の弟妹は中学三年生だが、既に推薦が通っている(高校は私と同じ)から受験ムードでもないし。

 だから、両親は安心して旅行にいけたんだろう。

 とはいえ一ヶ月は長すぎる気がするのだが…まあ、何も言うまい。両親の仲がいいのは非常に良いことだろう、うん。


「珍しいよね、結婚してから二十年以上は経ってるのにあんなに愛し合っているなんて」

「すごいよね、四十代前半なのに三十前半に見えるなんて」


 双子は「ねー」と顔を見合わせる。

 その言葉を聞いて、何やら思い出したらしい兄が「…あ」と呟いた。


「どうかしたの? 浩介」

「お前の大学の入学式のとき、両親来ただろ? あのあと、同級生に『お前って姉か兄がいたのか? 結婚してる』って言われた」

「それって……」

「「「…………」」」


 みんなして黙り込む。兄なんて、当時のことを思い出して頭を抱える始末だ。

 補足をしておくと、ラブラブなのは家の中だけで、家の外では『普通に仲のいい夫婦』として通っている。

 ところかまわず人目を気にせず、じゃないだけマシだろう。…とはいえ、目の前で砂糖を吐きそうなくらい甘い雰囲気を醸し出された方は、たまったものではないが。

 その被害者である五人が遠い目をする。

 前世と今世の両親の落差が激しすぎる、と心の中で呟いた私は、ふと部屋がいつもより明るいことに気が付いた。

 私は、他の兄弟を見た。その表情を鑑みるに、誰も気が付いていないようだった。

 気のせいかと首を傾げた私は、次の瞬間、眩い青い光に包まれたのだった。



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