待ちに待った勇者(娘)のまさかの事情に魔王(吾)の何かが反応した
続編です!
今回は魔王様のターンだぜ!
吾の名はギルクライシャス・ギッシュ・メューイク5世。
此処 魔界ジュディアーリの第5代目魔王である。
よく吾の配下からは「貴方の名前ややこしいから略してギルねぇ」とか「最後の名前の発音どうなっておられるのですか」言われてしまうのが魔王としての尊厳を失わずにいる。
ふむ、そんな話はよい。今はこの目の前で吾が作りし菓子を頬張る人間の娘について話をしよう。
一応勇者たる娘、マコ・ユウナギ、この者の祖国ではユウナギ・マコらしいが、この勇者についてだ。
しかしまずは此方の事情から話さなければな。
此処 魔界ジュディアーリは名の通り魔族が主に暮らしている悪魔の国である。元々この国は只の悪魔の住む地という呼ばれ方しかしなかったのだが、いつの間にか人界に住む人間という生き物によって魔界という名が付いた。
ジュディアーリというのはこの魔界で初の魔王と成られた初代魔王の名であり、魔界初の魔王は女王だったと書物には記されている。何の因果がその初代魔王は初代勇者の母親だったとも記されていた。
初代勇者が初代魔王を殺しに来た先に待ち受けていたのが己が母とは思ってもいなかったであろう。
初代魔王の首を見事討ち取った初代勇者はそのまま母の首を抱え自国を滅ぼし闇に呑まれ2代目魔王へと成ったのだ。
そこから先はお約束に近かろう。人界では初代勇者は初代魔王に呪われて死んでしまったとされ、国を滅ぼした次代魔王を討ち取らんと新しい勇者が次々と人界から人間を引き連れやって来るようになる。
2代目魔王は極端に強かったらしい。数々の勇者やその仲間が返り討ちに合い死んでいったとも。
と、この話は全部人界のみに伝わっている作り話で、実際のところはこれは単に初代魔王と初代勇者による壮絶過ぎる親子喧嘩なのだ。
何でもこの初代魔王、初代勇者が滅ぼしたという国の国王と結婚してたらしいのだ。
その間に産まれたのが初代勇者で、国王が実は結婚する前まで衆道だったのを知って初代魔王ようは母親が魔界に帰ってしまいそれを追い掛けた息子これが後の初代勇者なのだが、まあ、そういうことなのである。
簡単に要約するなら、国王が「嫁さんを連れて帰って来てくれぇ!!」と息子に泣きつき息子は理由も分からないまま母親の元に行って「ごめんなさい…1度落ち着いたら戻るから」と母親からの手土産を渡され国に帰ると……国王である親父が真っ昼間から男とくんずほぐれてイチャイチャしてたもんだから手土産片手に後宮で暴れまくり母親の元に向かいそのまま後を継いだ、………これが2代目魔王の真相である。
親子喧嘩というより夫婦喧嘩だろうと思うがもうこの世に居られない方々には何も言えまい。
2代目に代わり3代目魔王が決まった年は何度も人界へ戦争を仕掛けたことで3代目は名を馳せている。
この3代目、実は2代目の弟で国王である親父の国にのみ活発な戦争活動をしていたために魔界は人界から完全なる悪と認識されてしまったのである。
反抗期に親父に喧嘩を吹っ掛けたようなものだと、当時から生きている長齢の悪魔が言っていた。
4代目魔王は3代目達とはなんの繋がりもない、実力で魔王になった方で争いを好まぬ性格ではあったが何故か戦闘好きであった。
吾は4代目とその妃が治めていた次代に産まれた悪魔である。
4代目つまり先代はよく来る勇者一行を打ちのめしては「また余を楽しませに来い勇者よ」と殺さず国に帰していたな。
今思えば先代が一番人界の奴らと上手く付き合っていたのだろう。妃が人間だったのだから余計にな。
先代は魔王であり、人とはやはり生きる時間も何もかも違っていた。
だが人間の娘を自らの意思で妃にし生涯その妃以外愛さなかった。
そして4代目は妃が崩御されたと同時に自害された。悪魔でそれ故魔王であられるのだからそう易々と死ぬことは出来なかった筈。だが先代は妃の死語すぐに自害された。
それから何故か当時それなりに力があり大漁の悪魔を束ねていた吾が5代目の魔王に成ってしまったのが今より410年前の出来事である。
当初は5代目魔王に成ったのだからと気を張っていたがやることや改善することが有りすぎて今では気を張ることすら面倒臭くなった。
その間に吾は勇者と呼ばれる存在が来ることを楽しみにしていたのだ。
勇者との一勝負はとても愉しいのだと先代は言っていたからな。
しかし……
「…何故待ちに待っていた勇者がお前のような何も知らぬ弱き娘なのだ」
「魔王さんそれじゃあ私が世間知らずと言ってません?」
「マコの世界では知らぬが此方では世間知らずであろうが」
「はいはい!私あっちでも世間知らずです!!」
「威張るな胸を張るな!」
吾の目の前で菓子を片手に手を上げ声を張る現勇者であるマコに吾は心中で溜め息を吐く。
このマコはまさかの異世界から無理矢理召喚された勇者なのである。
後、マコが召喚されたであろう魔力の元へと部下の1人を向かわせたら、なんとも変わったことが分かった。
近年、勇者になりたいという若者が少なくなっているらしい。
そして「勇者という不確かな収入のために自分の命を何故掛けなければいけないんだ、それだったら普通に学校を出て安定した職に就職した方がマシだろ」という夢を見ない若者が増えたのだと。
………うむ?
「なので異世界から適当に勇者を選定して魔王の元に送ってやろうと人間の神官の爺共が躍起になったらしく」
そう部下が眉間にしわを寄せて言った時は流石の吾も今回ばかりは人間の国を攻めた3代目に賛同したくなったのは気のせいではあるまい。
そしてその被害者たるマコは暢気に菓子を頬張り周りに花を散らすかのように幸せだと雰囲気で語っている。
さて、あのとき流れで元いた世界に帰るまで保護してやると保護者になったはいいものの果たして魔族の王たる吾が此れで善いのだろうか?
幸せそうに食べているその菓子は吾の手作りで、今飲んでいるその紅茶は吾が淹れてやった物だ。
……それより何故だ、この者を見ていると構ってやりたくなるというか放って置けない気持ちになるのは。
マコがこの魔王城に来て早1週間と4日。
未だに帰らせてやれる見込みが見えない。最近はマコにラウディンやアルスーラをつけてそれなりの常識を教えさせているもののコイツ勉強が嫌いだと教材を窓の外に投げたことがある。
投げんなよ、それは昔吾が先代から譲り受けた本だぞ!?って叱ってやった。
これが年若い娘を持った父親の気持ちなんだろうか、と今日も思いながらマコに聞く。
「美味いか?」
「イエス、マザー!!」
「まざー?」
なんだ、意味は分からぬが今の言葉に違和感を感じなかったのは。