第21コーラス目「後悔!」その3
「みくちゃん、ごめんね~」
最後の部長が現に掛けた言葉がこれだった。ついに合唱部が廃部になった、合唱部最後の日、残った部員は、3年生が1人と現と栗木の3人だけ。新歓では合唱発表もできずに終わったため、新入生も入ることもなく、そのまま廃部が決定した。たった一人の3年生であり、唯一の部長である彼女は、大して残念でもない顔で現にそう言ったのが、合唱部としての活動の最後だった。OBからの提案ということで、各学級から有志を募る形式になったというのを聞いたのはその後だ。
現も心の中では安堵していた。キツい練習もしなくて良いし、苦労してコンクールでいい賞を取る必要もない。
言い訳は、「だって合唱部はもうないんだから」
「有志」という名の、いやいや集められた生徒達で出場したNコンは当然のことながら、奨励賞。体の良い参加賞だ。それでもいいと思っていた。ただ、歌うことが楽しいだけだから。全道に出て何かあるの?苦しい練習して、頑張って、先生に怒鳴られて、結果、何かあるの?高校受験に有利になるの?ならないよね。じゃあ、楽しく歌えればいいじゃん。でも、1年通してみて、結果は「楽しくはなかった」。
だから、意固地になっていた。あのアナウンスを聞いたときは。
「1年3組煌輝真湖です! 合唱部を作ります! 歌うの大好きな人集まってください! よろしくお願いいたします!」
合唱部を作る?何を今更。煌輝って、あのOBの一人だったはず。もう、合唱部は要らないって、決めたんだから、この心を揺さぶらないで。そう思った。
でも、本当は、後悔していた。何故、あの時、先輩を説得して、新歓で頑張らなかったのだろうか。他にも合唱やってみてもいいっていう人もいたはずなのに。
1年。たった1年でも、合唱部がなかったことがこんなに大きなことになるとは思ってもみなかった。0からのスタート。むしろ、マイナスからのスタート。そうしてしまった原因の一つは自分にある。
「ホント、1年の子たち、自分勝手だな。瞳空がどんなに気苦労してるのか分かってんのかな」
雅との打ち合わせの後、栗木がボヤいた。
「ううん。元々は自分で撒いた種だもの。あの子達のせいじゃないし」
「瞳空だけじゃないだろ。って、本当にお前って、苦労性だな...」
あきれ顔の栗木に、そう言う蒼斗だって...と言いかけてやめる。実際、彼がいなければ、部長の役目もどこまでできていたことか。そこは本当に感謝している。確かに、神宮のようには人当たりが良いわけでもないし、風体は上がらないかも知れないが、自分のことを一番考えてくれる人だというのは、現には分かっていた。それは、付き合い始める前からずっとだ。だから、彼のことを好きになったのだ。
多分、栗木とは高校は別々になる。栗木は学年トップクラスの成績で、石東を狙っている。対して、現は中の上。とても、石東を狙える位置にはいない。それでも、同じ市内だろうから、ちょくちょく会えるだろうが、学校が分かれれば、心も分かれるかも知れない。だから、去年一年間、部活動がない分、二人で過ごす時間が長かったのは本当に楽しかった。逆に、今年は部活が始まってから、一緒にはいるのだが時間に追われるようになり、去年のような濃密な時間はなく、このまま3年が過ぎるのかと思うと、少し切ない気もする。
そんな相反する気持ちを現は抱えていた。
「それと、気になるのは、あの人なんだよね...」
呟くように現が漏らした言葉を栗木は神妙に拾った。
「よしだ《・・・》先輩かい?もう忘れてるだろ?そもそも、あの先輩だったのかってのも怪しいしさ」
「だと良いんだけどね...」
現の不安が近く的中する(すでに的中している)のを二人はまだ知らない。




