第20コーラス目「混沌!」その6
「合宿とかどうでしょう?」
その日の放課後、音楽室に集まった面々に、さきほどの雅との会話を皆に伝えると、最初に如月が嬉々として答えた。
「合宿ですかー? じゃあ、僕の...」
と、その尻馬に乗って、神宮が提案を出そうとしたところ、
「ダメです」
被せるように現が遮った。
「僕の別荘で合宿どうぞだなんて、ありきたりの青春萌えアニメ作品みたいなご都合主義的な展開はお断りです」
「えー、なんでー?」
と、神宮が口をとがらせた。
「そもそも、わたしたち、受験生よ?それに、中学生が合宿とか、親の許可が下りるわけないし、同行の先生だって」
「いや、いいんじゃない?合宿」
と、雅が話の腰を折った。
「せんせー」
今後は現が口をとがらせる番だった。神宮はそれを見てニヤニヤしている。
「受験生である3年生のことは十分に考慮しようと思う。そもそも、3年生は練習時間必要ないくらいの実力を持っているわけだしね。練習時間を多く持たなきゃならないのはむしろ1年生と2年生。練習時間はそちらにできるだけ向けるよ。その間は3年生はお勉強だな」
「それはそれで、なんだか欲求不満が溜まりそうですね」
と、栗木がぼやいた。
「重要なのは、皆が共有する目的意識をどれくらい持てるかにかかってるからさ。それが早くできれば、それに越したことはない」
雅は続けた。
「で、神宮くんは、どんな提案があるんだい?」
と、現が遮った神宮の提案を促した。
「僕の両親が経営している会社の保養所が、郊外にありまして。日の出の奥の方です。まあ、別荘ってほど立派なものではないんですけど。会社の研修とかで使ってたらしいので、20人くらいは寝泊まりできるんですよ。まあ、無理すれば、通えないこともないくらいの距離なんで、泊まりNGの子は通いでもいい距離かなって」
と、神宮はさりげない自己アピールをするも、いつもよりは穏やかだった。後で、現が聞くと、「だって、それは親の財産で、僕のではないからね」と、謙遜にも聞こえない謙遜をしたらしい。
「日の出のどのあたり?」
と、如月がさりげなく聞いた。
「JAの倉庫のある辺り。知ってる?」
「あー。あの緑の倉庫?」
「そうそう」
「おばあちゃんの家がある近くだわー。バス停近いですよね?」
「そう。だから、通えないこともないかなって」
土地勘のあるメンバーは大体、目星が付いたらしい。
「え、それ、どこ?」
って聞いたのは、ただ一人、元々地元民ではない、エンリコだけだった。
「じゃあ、決まりかな?」
と、雅がまとめを始めると、現が心配そうに
「先生、そんなに簡単に決めていいんですか?」
「いや、簡単じゃないから、楽しいんじゃないか?」
と、現に雅がウインクした。栗木が若干ピクリとしたのを、乃愛琉は見逃さなかった。
「多分、職員会議にかけたら、即終了だろうね。みんなの親御さんの許可も取らなきゃならんだろうし。まあ、やることは沢山あるね。これも、顧問の仕事だからね。ま、みんなはそんな心配より、まずは練習、練習」
雅はそう言って、現から自由曲のチョイスをもらった後、練習を始めるように伝え、音楽室を出て行った。




