第20コーラス目「混沌!」その4
「正直、雅先生は、僕たちの目標、Nコン全国大会出場、について、どう思います?実現可能だと思いますか?」
「それなー」
栗木の質問に、雅は少し間をおいて、
「現実的で冷徹な見解と、夢のある希望的観測とどちらがいい?」
「現実でお願いします」
現と栗木がハモった。
「わかった」
雅は箸をおいて、眼鏡をくいっと上げてから言った。
「二人を含む、3年生には悪いけど、今年は無理だろう。地区大会でさえ、どうかというところだ。他校は去年の冬から厳しい練習に向かってきた。先日見た通り、新栄中では、2軍が来年のNコン目指して頑張ってる。僕には、いくつか秘策はあるけれど、魔法使いではないから、一足飛びにみんなを鍛えることはできない。さっき話した、皆で心を同じくして、ハーモニーを作るというのは、あくまでも全体の話で、個々人では、それぞれの資質や力量をアップしていく必要がある。それは、君たちにも分かるだろう?そして、今のメンバーは、3年生を除けば、ほぼ素人と言っていい。それを全国レベルに引き上げるためには、最低1年は必要だと僕は思っている。
僕の筋書きは、こうだ、今年はなんとか、地区大会で金賞か銀賞を狙う。全道ブロックに出られれば、御の字だ。しかし、来年は必ず全道ブロックに出場する。これはマストだ。そして、可能なら、全国ブロックを目指す。しかし、全道だってそうそうは勝たせてくれないだろう。その経験を生かして、再来年、2020年には、全国出場が目標。これが僕に課されたストーリーだと思っている。
そして、そういう意味では、君たち3年生には、踏み台になってもらわないとならないと思ってる。すまない」
雅は、一気にそう語って、二人に頭を下げた。
「いえ、大丈夫です。わたしたちもそのつもりでしたから。まさか今年全国に行けるなんて思ってませんし」
現は手を差し出して手を振った。
「いや、みんなの前では、全国に行くつもりでいてもらわないとならない。動機付けとしては、今、目標を下るつもりはない。あくまでも、部の目標としては全国だ」
そこはきっぱりと雅は言った。
「そうですね。分かりました。でも、わたしたちも、踏み台になるつもりは、最初からありますし、そのうえで、全力で当たって、砕けるつもりでいきます」
栗木もそう言って、雅に拳を向けた。
「そうでなきゃ」
その二人の様子を見て、現は眩しそうに微笑んだ。
その時、休み時間終了の予鈴が鳴った。
「じゃ、また、放課後にお願いします」
そそくさと弁当箱を片付けて、現と栗木は教室へと戻って行った。雅はそんな二人を見送った。それからゆっくりと立ち上がって、
「前途多難だなぁ」
二人の後ろ姿を眺めながら、今度は深い息をついた。




