第20コーラス目「混沌!」その2
「あと、伴奏どうするかって、考えてる?」
雅はメモを取りながら現に聞いた。
「いえ。まだそこまでいってないですね。わたしもピアノは弾けませんし」
「喩え現くんがピアノ弾けたとしても、歌う方が疎かになってしまうからダメだよ。とりあえず、部員でピアノ弾ける子探してみて、いなければ、校内で探すか、最悪校長のツテでプロを探すしかないか」
「そう言えば、合歓さんがピアノやってたって言ってました。前に自己紹介の時に」
「合歓乃愛琉さんだっけ?」
「はい、そうです」
「あの子も、十分歌えるから、伴奏にはもったいないな」
「ですよねー」
栗木はそう言って相づちを打ってから弁当のご飯を口にした。そして、しばらく3人は沈黙する。部員のことはもちろんのこと、その他にも問題が山積している。新栄中学との格差を見せつけられた現と栗木にはさらにその困難が大きな壁として認識させられたのだ。彼らに比べて、こちらはまだスタートラインにさえ立てていない。二人が感じているのは、もうすでに苛立ちでしかない。
「すまんな。むしろ、君たちににプレッシャーにしかならなかったかな?」
雅は何がとは言わなかったが、現には察しはついていた。むしろ、自分の中の苛立ちが表に出ていたのかと反省した。
「いえ。いずれ知ることですし。いえ、それを知っていたから、逃げてたのは一番分かっていることですから」
合唱部が廃部になった時、ある意味気が楽だった。どんなに頑張っても強豪校には勝てないんだと自分を偽っていたからだ。でも、それは逃げでしかなかったのだと、今になって気がついたのだ。最初から勝負を諦めてしまって、楽な道を選んでしまっていたのだと、改めて気がつかされたのだった。合唱は楽しければいい。コンクールは形だけでも出られれば十分だと、思い込もうとしていたのだ。
栗木も同じ思いだったので、なんとも言えない顔をした。
そして、それを気がつかせてくれたのは、あのポニーテイルの子だった。あの、真っ直ぐな、何をも恐れない瞳を思い出した。
「前途多難だなぁ」
雅はまるで他人事のようにしてそう呟いた。現の言葉を聞いていなかったかのように。しかし、そう言いながらも、表情に暗さはない。むしろ楽しんでいるかのようだ。
「すみません」
現はそう言って謝った。
「ああ、そういう意味で言ったんじゃないんだ。現くんを責めるとかそういうことじゃなく。むしろ、僕も色々と逃げてきた人間だからさ。むしろ、ここに壁があるからこそ、挑戦しようっていう気になるっていうか」
「そうなんですか?」
現には少し意外な話だった。
「まあね。大人になるとさ、色々あるんだよ」
しかし、そう言われてみると、東京の音大まで出て(英メモ情報)、こんな田舎で用務員をやっているのは大変不思議だし、新栄中学を訪問した際に交わしていた、知り合いと思われる教師との会話の雰囲気からは、何か過去にあったのかも知れないと思わせるような素振りもあった。しかし、彼の過去にどんなことがあったかなど、詮索するべきではないと、現の第六感は囁いていた。
「合唱ってさ、何が一番大事だと思う?」
現たちが遠慮して、話を続けようとしないと、雅からそんな質問が出た。




