第19コーラス目「憂鬱!」その3
「Nコン!」第19話です。
煌輝真湖は、小学校を卒業したばかりの中学1年生。従兄妹が果たせなかった、合唱部でNコンの全国大会に出場するという夢を果たすべく、合唱部に入部を希望していた。ところが、合唱部は2年前に廃部になっており、指導する先生もすでに他界していた。様々な障害がありつつも、幼なじみの合歓乃や先輩達の協力もあり、再び合唱部を創ることができた。
いよいよ全国を目指すための第一歩として、全国大会常連校である札幌の新栄中学を見学し、衝撃を受けた西光中学合唱部の面々。
そして、その帰り道……。
合唱部に賭ける、青春ドラマです!
「で、誰の見たの?」
乃愛琉は極々簡潔に聞いた。
「えっと、新栄中のあの一年生と、雅先生と、あと、エンリコくん」
真湖はすぐに乃愛琉の意図を汲み取って即答する。
「一日に三人も見るなんて、初めてじゃない? それは疲れたんじゃない? 多分そのせい?」
「うん、多分そうだと思う。帰りの電車の中でも眠くて、眠くて」
「道理で静かだと思った」
思い返せば今日一日緊張の連続だった。初めての遠征、全国レベルの合唱、初めてのライバルとの出会い、そして、雅先生の語らない秘密。最後にエンリコ翔の過去。
どれも他人には触れられたくはない記憶だったはず。それを一気に触れてしまったために、その記憶に飲まれてしまっていたのだろう。
「うん、あたしもびっくりした」
まだ頭の中で整理がつかない。様々な記憶がイメージとして流入してくるため、一気に入ってくるとどれが自分の記憶で、どれが誰の記憶かが分からなくなってしまっていたのだ。
「それにしても、乃愛琉、さっきのはひどいんじゃない? あんな嘘」
「真湖ちゃん、まだかぐや姫が来てないのにって?」
「うーん! そういう言い方やだー!」
「よしよし、大丈夫もうすぐくるって」
乃愛琉は真湖をなでなでした。真湖が中学生になってもお客さんがきてないことは乃愛琉も知っていた。多分クラスでもかなり遅い方なはず。色恋沙汰に不器用で奥手なのも、多分その影響もあるのだろう。
「だから、そういうことじゃなくって!」
もしかしたら、真湖の能力はその裏返しなのかもとも思う。もしかすると、もうすぐそれはなくなるものなのかも知れない。けれど、それは乃愛琉の想像であって、本当かどうかは分からない。言葉にするのは躊躇われた。
「とにかく、早く帰って、休んだほうがいいよ。疲れたんだったら」
乃愛琉は真湖の手を取って、立ち上がった。
「あ、うん……」
真湖はされるがままに立ち上がって、乃愛琉の後をついて行った。
「そう言えば、乃愛琉、聞かないんだね、何見たか」
「うん。真湖ちゃんが言わないってことは、言いたくないのか、言わない方がいいと思ったのか。多分どっちかだからね」
「そっか、ありがと」
「ううん。必要になったら言っちゃえばいいんだし、言いたくなったら言ったらいいよ。わたしでよかったら聞いてあげるし」
他人の心の裡を、秘密を覗き見ることの負担というのはどのくらいのものなのだろうかは乃愛琉には分からない。ましてや、自分で知りたくて知るのではなく、自分の意志とは関係なく見えてしまうのだから。時々真湖から相談事のように聞かされる時に感じるのはそういった、負の部分しか感じられない。多分、真湖のまっすぐな性格がそうさせるのだろう。
そういった素直さが乃愛琉にとっては、真湖の良いところだとも思えるのだけれど。




