第10コーラス目「始動!」その4
お待たせいたしました。ひさしぶりに更新です!
「Nコン!」第10話です。
煌輝真湖は、小学校を卒業したばかりの中学1年生。従兄妹の翔平が果たせなかった、合唱部で全国大会に出場するという夢を果たすべく、合唱部に入部を希望していた。ところが、合唱部は2年前に廃部になっており、指導する先生もすでに他界していた。
前途多難の船出にもめげずに、放送局を占領して、全校放送で合唱部入部希望者を募る。3年生に脅されたり、色々障害がありつつも、現先輩の協力もあり、校長先生に条件付きながら、合唱部の創部を認められた。さあ、頑張るぞ!
ところが発声練習のやり方さえ知らない真湖たちに、現もがっかり。さて、どうなることやら…?
皆様の感想などお待ちしております!
「何やってんだ、あれ?」
外野で球拾いしていた阿修羅が何事かと、合唱部4人がグランドを走っているのを眺めていた。
「ああ、懐かしいな。現、あれ始めたんだ」
同じく外野で柔軟体操をしていた主将の山咲が阿修羅に声をかけた。
「1年の頃、合唱部毎日ああやって走ってたんだ。名物だったぜ。なんでも、ああやって走って、声量をつけるんだとさ」
「はぁ、そうなんすか」
阿修羅からみると、ただはしゃいで走っているようにしか見えなかったが。
「ほら、球きたぞ」
「はい!」
山咲に言われて阿修羅は慌てて飛んできたボールに向かって走った。
「ね? 楽しかったでしょ?」
5周を走り終え、現が3人に聞いた。さすがに運動部とは違ってスローペースではあったが、すでに3人の息は切れ上がっていた。
「いや、たしかに……思ったほどは苦しくはなかったですけど……なんか、恥ずかしかったです」
最初に答えたのは、真湖だった。元々活発な方の真湖は体育の比較的得意な方で、この程度のペースであれば、ついていけないこともなかった。
「あれもね、実は、舞台の上であがらないようにって意味もあるみたいよ」
三井先生直々ではないが、先輩の一人から聞かされたことである。確かに、毎日この練習をしていると、ある意味、羞恥心が緩和されるという感じはした。
「これ、毎日やるからね」
「マジですか」
翔ががっくりと肩を落とした。走ることに疲れたというより、この先、どれだけの流行曲を覚えなければならないのかと、ちょっと違う方向でのがっかりさだったのだが。
それから、揃って音楽室に戻り、腹筋数回を経て、校歌の練習を始める。昨日渡された曲データはすでに3人ともに聞いていて、さらりとだが、合わせることはできた。もちろん全員が女子パート。翔がソプラノだったのは意外であったが、現が思った通り、練習指導はしやすかった。
そして、現が感心したのは、経験がほとんどない真湖と乃愛琉がなかなか筋のあることだった。元々歌の巧い乃愛琉は幼い頃からピアノを習っていたこともあり、音感はほぼパーフェクトだった。真湖も、性格的に声を出すことにあまり躊躇がない。うまく指導すれば、二人ともかなりいいところまでいきそうだと、現は手応えを感じていた。しっかりとした練習さえすれば、2年後には、今の自分を遙かに超える実力を出すこともありえないことではない。いや、むしろ、そうでなければ、Nコン全国なんて夢のまた夢なのだ。
一方、翔の方はお世辞にも上手とは言えないものの、ハーフとして親から受け継いだものなのか、多少日本人離れした声を持っていた。体の中で音を反響させることができている。これをうまく上達させるといい声が出そうだ、という感触があった。
「はい、今日はこれでおしまい!」
現のかけ声に合わせるかのように、3人はその場にへたり込んだ。
「おつかれさまでしたー」
現の指導が巧いのか、3人共に声を枯らすようなことはなかったが、グランド5周に、腹筋運動、初めての校歌練習と、緊張もあったのか、3者3様に疲労を感じていた。ただ、イヤな感じの疲れではなかった。今晩はぐっすり眠れそうだな、と真湖は思った。
(でも、あまりゆっくりもしてられない)
そんな3人を見ながら、新入生の勧誘会まであと5日に迫っているのだと、現は焦りを感じながらも、この先の合唱部の可能性に期待を持った練習初日であった。




