第10コーラス目「始動!」その3
お待たせいたしました。ひさしぶりに更新です!
「Nコン!」第10話です。
煌輝真湖は、小学校を卒業したばかりの中学1年生。従兄妹の翔平が果たせなかった、合唱部で全国大会に出場するという夢を果たすべく、合唱部に入部を希望していた。ところが、合唱部は2年前に廃部になっており、指導する先生もすでに他界していた。
前途多難の船出にもめげずに、放送局を占領して、全校放送で合唱部入部希望者を募る。3年生に脅されたり、色々障害がありつつも、現先輩の協力もあり、校長先生に条件付きながら、合唱部の創部を認められた。さあ、頑張るぞ!
ところが発声練習のやり方さえ知らない真湖たちに、現もがっかり。さて、どうなることやら…?
皆様の感想などお待ちしております!
「そう言えば、あなたたち、好きな歌とかある?いわゆる合唱曲じゃなくって。歌謡曲でも、ボカロ曲でも、アニソンでもいいけど」
玄関で靴を履き替えた後、グランドの手前で準備体操をしながら、現が思いがけないことを聞いてきた。真湖たちも、合わせて体をほぐしながら聞いていた。
「好きな…曲ですか?」
合唱曲ではなく、との条件付きだと、すぐには出なかったが、
「IKB48の曲なら、大体好きですけど」
と、乃愛琉が少し控えめに言うと、
「IKB48なら、わたしも知ってるー」
真湖も合わせた。
「IKB48って、何?」
ところが、翔が目を点にさせながら、そう聞いた。
「IKB48知らないの? 今や国民的アイドルの頂点と言われてるんだよ?」
「ああ、ごめん、ボク、テレビとか見ないんだよね」
翔は頭を搔きながら苦笑いした。
今ドキ、ゲーム機も持っていない、音楽プレーヤも持ってない小学生はほとんど稀だった。しかも、翔は田舎出身ではなく、ここよりずっと都会の札幌から来たのだから、さらにテレビも観ないとなると、家にいる間何をして遊んでいるのかと、3人はさらに不思議に思った。けれど、翔の屈託のない笑顔を見ると、そこはつっこんでいいところなのかどうか、3人共に躊躇った。
「あ、ああ…そうなんだぁ……」
と、現が相づちを打つのが関の山。
「あ、じゃあ、この曲は知ってる?」
乃愛琉は、IKB48のある曲を口ずさんだ。それは、昔ヨーロッパで流行った曲のカバーだと言われている曲で、一昨年のレコード大賞でも、IKB48が受賞曲として歌った曲だった。翔の父親がイタリアの人だと聞いていたのと、テレビは観ていなくても、街角やスーパーでもよくかかっていたこともあるので、もしかしたら思い、選曲してみた。
「あ、なんか聞いたことあるかも」
翔が反応したのを聞いて、乃愛琉はさらに歌うのを続けた。サビの部分に入ると翔も何となく口ずさみ始めた。
「よし、じゃあ、その曲でいこう!」
現が指を鳴らした。
「この曲がどうしたんですか?」
真湖がこれからグランドを走ろうというのに、どういうつながりがあるんだろうと訝しんだ。
「その曲を歌いながら走るのよ」
「え?」
当然のように答える現に、3人は驚きの声を上げた。
「好きな歌を歌いながら走るのは、楽しいわよ!」
これも三越先生の受け売りだった。もちろん高齢だった三越先生が生徒と一緒に走ることはなかったが、どうせ走るなら楽しい方が良いだろうと、昔から続けてきた指導方法だったらしい。現も最初は周りに珍しがられるのがイヤだったが、周りも慣れてくると、誰も気にしなくなっていた。確かに何もしないでただ走るよりかは楽だった。
「じゃ、行きましょう。合歓<<ねむ>>さんが歌い出しお願い。で、みんなで一緒に歌いながら走るわよ。サンハイ!」
4人は、現を先頭に走り出した。現のペースはかなり遅いものだった。言われた通り、乃愛琉はさっきの曲を歌い出し、真湖と翔が続いたが、先頭を走る現にさえ聞こえないくらいの小さな声だった。
「聞こえない! もっと大きく!」
現は振り返って、乃愛琉に向かって叫んだ。さすがに経験者だけあって、声が響く。グランドで練習中の他の部員達の数名がこちらを振り返った。
「あ、はい…」
そうは言われても、やはり、周りの目が気になる乃愛琉。なかなか大きな声が出ない。
(まあ、仕方ないか。わたしも最初はこんなんだったしな)
とは、思いつつ、一応先輩、いや、臨時ではあるにしても部長なのだから、きちんと部員達には指導しなければならない。
「はい、もっと大きく!」
自らも歌いながら走る。そして、言われれば言われるほどに、乃愛琉の声は小さくなっていった。
その時、
「YA YA YA YA! 恋の波打ちぎわに~!」
翔がいきなり大声を上げて歌い出した。思わず現も振り返るくらいだった。時折、英語なのかイタリア語なのかよく分からない歌詞も交えて。確かに曲は合ってるが、もしかしたらカバー曲の元曲なのかも知れない。
「Hey Hey Hey Hey!」
それに続くように、真湖が大声を張り上げた。ちょとハチャメチャにも聞こえるアイドル曲が、二人のデュエット曲かのように、グランドいっぱいに広がった。
乃愛琉がびっくりした顔で翔と真湖を見た。そして、笑顔でそれに続いて一緒に歌い始めた。負けじと現も続く。声量では3人個々には現には全く敵わないが、3人寄ればなんとかで、彼らの声はグランドの端から端まで響き渡った。




