第9コーラス目「家族!」その4
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「Nコン!」第9話です。
煌輝真湖は、小学校を卒業したばかりの中学1年生。従兄妹の翔平が果たせなかった、合唱部で全国大会に出場するという夢を果たすべく、合唱部に入部を希望していた。ところが、合唱部は2年前に廃部になっており、指導する先生もすでに他界していた。
前途多難の船出にもめげずに、放送局を占領して、全校放送で合唱部入部希望者を募る。3年生に脅されたり、色々障害がありつつも、現先輩の協力もあり、校長先生に条件付きながら、合唱部の創部を認められた。さあ、頑張るぞ!
ところが発声練習のやり方さえ知らない真湖たちに、現もがっかり。さて、どうなることやら…?
皆様の感想などお待ちしております!
「ただいま」
灯が塾から帰ってくると、すでに両親は寝床についていた。食卓テーブルの上にはいつもの様に夕食が置かれ、フキンが被せてあった。その上に走り書きで、『冷蔵庫にほうれん草のおひたしが入ってます』とメモがついていた。灯は制服を着替えもせずにそのまま冷蔵庫に向い、おひたしをとって、ご飯をよそった。灯の家の食卓は昭和のにおいのする畳敷きの居間で、正座して食事を始める。
両親は共に農業に従事しており、陽が落ちれば就寝し、陽が昇る前に畑に出る生活を長年続けてきた。とは言っても、小作でしかなく、生活も豊かとは言えなかった。母が灯を産んだのは高齢出産と呼ばれる頃で、そのため、二人共に灯にかける期待は高く、幼少のころから学業には手をかけてきた方だった。灯自身も物心がつくようになり、他の子たちと比較して家が貧しいことに気がついた頃から勉強に打ち込むようになった。将来は自力でなんとかしなければならない、両親の面倒も自分が見なければならないと自然に考えるようになったのだ。
小学校では神童と呼ばれていたが、けっして灯は天才肌ではなかった。例えば、真湖の従兄である翔平などと比べると雲泥の差で、ひらめきも思考の柔軟さもない。ここまでの成績はあくまでも毎日の努力で積み重ねてきたものだ。けれど、特に勉強が好きというわけでもない。年老いた両親が苦労しているところを何度も見聞きしているうちに、脅迫的に身についたものなのである。
家計が苦しくても、自分の教育費だけには出費を惜しまない両親には感謝もしている。ただ、これ以上の負担はかけたくなかったので、札幌の中学を受験することは断念した。
灯の最近の悩みは、中学に入る前あたりから徐々に成績が落ち始めていることだ。自分に才能がないことは分かっているだけに、時間をかけて覚えて予習復習をしても、難関校レベルの応用問題が解けないことが多くなってきていた。
食事を終えると食器を台所に片付け、食卓テーブルの上で塾の宿題と翌日の予習を始めた。
その夜、真湖は夢を見た。それは自分のことではなく、翔平のことだった。いつか見た翔平の過去。イメージの中で翔平は西光中学の制服を着ていたので、それは中学生時代の翔平だったと思われる。コンクール会場での場面。一所懸命に歌う部員達。審査を待ち、そして発表の瞬間。抱き合う仲間達。断片的ではあるが、コンクールで優勝した時の記憶なのだろう。
その時の翔平の気持ちを自分も味わいたい。そう思ったから、合唱部をつくろうと思ったのだろう。そして、コンクールの最後に会場全体で唄う、『大地讃頌』が心に響く。けれどその響きは翔平の心の響きでしかない。実際に自分の耳で聞いて感動したい。それが真湖の今の願いだった。
そして、それぞれの夜が過ぎていく。




