第8コーラス目「発声!」その2
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「Nコン!」第8話です。
煌輝真湖は、小学校を卒業したばかりの中学1年生。従兄妹の翔平が果たせなかった、合唱部で全国大会に出場するという夢を果たすべく、合唱部に入部を希望していた。ところが、合唱部は2年前に廃部になっており、指導する先生もすでに他界していた。
前途多難の船出にもめげずに、放送局を占領して、全校放送で合唱部入部希望者を募る。3年生に脅されたり、色々障害がありつつも、現先輩の協力もあり、校長先生に条件付きながら、合唱部の創部を認められた。さあ、頑張るぞ!
ところが……?
皆様の感想などお待ちしております!
「じゃあ、腹式呼吸ってできる?」
「腹式呼吸って、なんですか?」
『できるわよね?』と言おうとしていた現であったが、はっきりと否定され、がっかりだった。しょっぱなからこれでは先が思いやられる。実は三人が三人ともにド素人だったわけだ。あれだけ大騒ぎして合唱部を創るとしてきた煌輝でさえ、合唱、コーラスの基本中の基本である腹式呼吸さえ知らないのだというのだから。
「いい? 合唱の基本はまずは発声。声をどうやって出すかによって歌が全然変わるから」
とは言っても、現自身きちんと指導を受けたのは、2年前に三越先生が亡くなるまでの期間だけ。人に指導できるほどのものはないと自分では思っているが、少なくとも、全くの素人相手であれば、自分の方が遙かに知識はあるはず。三越先生がどう言っていたのかを思い出しながら、話を続ける。
「腹式呼吸は、お腹から声を出すの。肺呼吸で声を出すには限界があるから。普通に、『あー』って出すのと、お腹に力を入れて『あー』って発声するのと、ほら、全然違うでしょ?」
実際に実演してみせる。
「ぜんぜん違いますね!」
明らかに後者の方が大きいし、迫力があるのが真湖達にも分かる。
「あなたたちもやってごらん?」
同じように、『あー』と、3人揃って声を出してみる。が、当然のことながら、全くバラバラで現のような声は出ない。その時、現の目が瞬いた。
「エンリコくんだっけ? ちょっと、もう一回声出してもらえる? 同じ感じでいいから」
「はい? えっと。『あー』」
「じゃあ、わたしの音に合わせて、『あー』」
「はい。『あー』」
「もっと高く。『あー』」
何度も何度も音程を上げていく。どんどんと上がっていき、現が苦しくなってきても、翔の声はまだまだ上がる。
「ちょっと、キミって、声変わりしてないの?」
「はい、まだ変声期はきてないみたいですね」
確かに、彼の声は前に会った時から高いと思ってはいたが、ここまでとは。現は比較的女子としては低めの声なので、アルトパートではあるのだが、女子より高い声が出るのには驚いた。小学生の時にはクラスに1名程度男子でも高い声の子はいたが、中学生になってもとは。
逆に、現は今度は低い声を試してみた。今度は翔の方が先に声が出なくなった。完全にソプラノ域である。変声期を過ぎていないということならば、いわゆるボーイソプラノだ。良く見ると、彼の喉の凹凸は同年齢と比較しても平坦であるし、ハーフの割には顔も童顔っぽい。他の男子に比べて成長が遅いのだろうか。彼の問題はいつ変声期を迎えるかだが、当座のところは女子パートを担当させることでこちらとしては問題はないだろう。
「じゃあ、あななたちは?」
合わせて、真湖と乃愛琉にも声出しさせてみる。真湖はソプラノ域、乃愛琉は若干アルト向きのようだった。
現在合唱部入部希望者は全部で10名。女子が現、如月、外園、真湖、乃愛琉の5名、男子が栗花落、保家、射原兄弟の4名にエンリコの予定だったのだが、男子パート4対女性パート6になってしまう。5対5を予想していたので、現には若干の失望感が漂った。
ただ、現状だけの話としては、1年生3人ともに女子パートの練習だけで済むのだから、考えようによっては良かったとも言える。来週の勧誘会は、校歌で、混声二部合唱なので問題はなさそうだ。あとは勧誘で男子も同じように集まってくれるかどうかだ。概ね全国的にみて、合唱部は男子が集まりにくい傾向にある。
「じゃあ、思いっきり、お腹に力を入れて、大声を出してみて」
現がそう指示すると、三者三様に大声を張り上げる。
「はいはい、それじゃ、ただのがなり声。しかも、お腹に力が入ってない!」
しばらく考え込む現。三越先生に指導された時のことを思い出す。
「そしたらね、三人とも、そこに仰向けに寝っ転がって。それから、足をちょっとだけ上げて。5センチくらい浮かせる感じで……本当はそのまま90度上げるといいんだけ……ど」
現の言う通りに、三人はその場に寝転がり足を上げる。が、真湖がその言葉通りに、ひょいと足を天井めがけて上げようとした。
「真湖ちゃん!」
乃愛琉が気がついてすぐにその足を戻そうとしたが、時遅く、すっかりスカートがまくれてしまった。慌てて足を下ろさせる乃愛琉。栗花落の目を押さえる現。何事かと、驚いて起き上がる翔。ほんの少しの間時間が止まった。
「あ、ごめーん、スカートだったの忘れてたー」
小学校の時は、特別な行事の時以外はほとんどジャージかパンツだったこともあって、いまだに動作がやんちゃな真湖であった。頭を掻きながら乃愛琉に謝る。
「縞パン……」
すぱこーん!
栗花落の言葉に、現のビンタが飛んだ。




