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第八章 二の戦争

何度も書き直してたら全然進まなかった…orz


 明野村…農業主体の自給自足で生計を立ててるこの村は、かつてこの近辺を縄張りにしていた盗賊団によって良い食い扶持にされていた。その盗賊団の規模はかなりのものであり、どうやら軍人崩れのようで一人一人が西洋剣と甲冑で完全武装していた。そんな奴らが相手では、流石の村人達も黙って従うほか無かったのである…。


---そんな時であった、『鬼神の親子』が現れたのは…


 かつての大国『大和連邦』の名残を見せる着物と刀を身につけた男と少年は、今まさに村の人々から全てを奪わんとする盗賊団を瞬く間に壊滅させてしまった。その二振りの刀は盗賊たちの剣を断ち切り、鎧を砕き、盗賊達の心を悉くへし折ってみせた。そして百人は居たであろう盗賊団はものの数分で壊滅してしまい最終的には一人残らず峰打ちで昏倒させられ、全員拘束されてしまったのである。


 捕らえた盗賊達は全員、この世界で唯一の公共施設と呼べる『全域監獄』へと送りつけられ、明野村には久しぶりの平穏が戻ってきた。そして村人達は放浪の旅をしていた村の救世主二人を歓迎し、招き入れたのである。目的があって旅をしてたわけでは無かった二人…『雨之宮天牙』と『彼方利道』はそれを拒む理由も特に無かった為、暫くこの村に滞在することを決めた。


 修行をする傍ら、村の仕事を手伝う日々を送り続けてる内に、気付いたら既に一月も経過していた。その間、天牙と利道が居ることもあり、月夜村は平和そのもので剣呑とした雰囲気とは一切無縁だった。




---今日、この日までは…




「……。」



 師匠である天牙と、その友を名乗った『白狼刀夜』の二人が入っていった小屋を薪割りをしながら遠目で眺め、利道は色々と悩んでいた。



「どうかしたの、利道?」



「あ、紅葉くれは…」



 そこへ、村の住人であり、利道と同い年で割と仲の良い少女、『紅葉』が話しかけてきた。とりあえず手を休め、彼女と向き合いながら半ば愚痴る形で相談してみることにした。



「いや、あの白狼って人の雰囲気が…どうにも嫌な感じがしてさ、そんな人に『話がある』とか言われて小屋に連れ込まれた師匠がちょっと心配で……」



「確かに…あの人って、見た目がバリバリの肉食系だったもんね……」



 白狼の名に相応しい獰猛さを秘めたあの男の雰囲気、あれを一言で表現するならば『禍々しい』だ。そんな男と師匠が友人関係という事実もかなり気になったが、それ以上にどんな話を持ちかけられているのか不安で仕方ない。ほぼ確実に碌でもない話な気はするのだが…



「あの白狼って御方、天牙様に『アッー!?』とか『ピー!!』とか『ドゴーン!!』とかしてたらどうしようかしら…」



「……紅葉、僕が心配しているのはそういう意味でじゃないよ…」



 誰だ、この子にそんな知識を植えつけた馬鹿野郎は…。なんて思った矢先、天牙達の居た屋敷の扉が乱暴に開け放たれた。そして、中から出てきたのはやけに不機嫌な表情を浮かべる刀夜だった。


 彼はその不機嫌な目つきで屋敷の中…恐らく天牙に対して一瞥をくれ、まるで獲物を取り逃がした獣のようにゆらりと前に向き直りながら小屋の前を離れていった……此方に向かって歩を進めながら…

 

 やがて、刀夜は戸惑う利道と紅葉の前まで歩み寄り、その長身を持ってして彼らを見下ろしながら口を開く。利道を見下ろすその瞳は、天牙とは真逆で絶対零度の冷たい雰囲気を放っていた…



「少年…貴公は、此の世をどう思う?」



「……どう、とは…?」



 刀夜の雰囲気に呑まれそうになりながらも、利道は何とか言葉を返す。その反応が気に入ったのかどうかは分からないが、刀夜は口角を吊り上げながら言葉を続ける。



「そのままの意味だ…かつての世界大戦により、境界の消えた今の世は乱れている。貴公と天牙が居ついたこの村を襲っていた盗賊、かつての国々の残党……平和を乱す愚か者達が世界中に蔓延っているのは、貴公とて理解出来るであろう…」



「……。」



 確かに、師匠である天牙にも何度も聞かされたが、この世界はそういう輩で溢れている。師匠もそれらをどうにかしたいと常々言っていた……しかし、この男が言うとどうにも…



「故に必要なのだ…あらゆる悪を滅し、秩序を司る強大な存在が……そしてその役目は我々にこそ…」



「刀夜、そこまでにするで御座る…」



 気づくと、天牙もまた此方に近寄ってくるところだった。段々と熱を帯びていた口上を遮られた刀夜は振り向きながら忌々しそうに天牙を睨み、舌打ちを一つして今度こそ去っていった。去り行くその背中には、どこか寂しげでありながら何か恐ろしいモノがにじみ出ていた様に利道は感じたが、隣に居る紅葉と天牙は何も思わなかったようだ。天牙に至ってはすぐに刀夜から視線を逸らし、彼もまた背中を向けて村の中心へと歩き出す。



---そんな師匠の背中は、いつになく悲しげなものだった…






◆◇◆◇◆◇◆◇






 あれからというもの、村でいつもの様に仕事を手伝い、天牙と共に夕食を済ませた利道は何をするでもなくただ普通に夜の散歩を楽しんでいた。この世界はニズラシアには劣るが、自分の世界と比べたら遥かに自然が豊かだ。上を見上げれば、そうそう御目に掛かれない壮大な星空が視界を埋め尽くす。耳を澄ませば心地よい風音と虫の声が聴こえてくる。ここにはニズラシア同様、利通の世界には無いものが溢れかえっている。




---けれど、この世界にはニズラシアにさえ無いモノがあった……それは…




「……あれ、師匠…?」



「む、利通で御座ったか…」



 適当に村の付近を彷徨っていたつもりだったのだが、外れの草原に佇む岩の上に此方に対して背中を向けるような形で胡座をかいてる天牙が居た。そんな利通の気配に気付いたのだろうか、彼もまた此方の方を向いてその姿を確認する。それと同時に『こっち来い』とでも言うかのように手招きをしだした。断る理由は無いので、彼はそのまま真っ直ぐ天牙の元へと向かって同じ岩の上によじ登り、その隣に腰を下ろす。


 しかし、座ったはいいが生憎今の利道に気の利いた話のネタは無かった。いつもならともかく、先程のように天牙の過去を知る男が現れた日とあっては何かの地雷を踏み抜きかねない。何せ、天牙は己の過去を詳しくは教えてはくれなかったからだ。大戦前に存在していたとある国に籍を置いていたとのことだが、それ以上は教えてくれなかったし知る気も無かった。だから何時の間にか、天牙の過去に触れることは暗黙の内に禁句となっていたのだが…



「なぁ、利道よ。お主は、『正義』とは何だと思うで御座るか…?」



「いきなり何ですか?」



「何、ちょっとした前座で御座るよ……いや、拙者としては此方が本題で御座るな。それに対する参考の為に少しばかし、昔話に付き合ってくれんかの…?」



 今日はその禁句を破るようである。その事に利道は少しだけ目を見開いたが、やがてゆっくりと首を縦に振った。その様子に天牙は少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべ、己の過去の一端を語り始める…





◆◇◆◇◆◇◆◇





「昔、『大和連邦』なるソーサレイド全体においても指折りの大国があってな…その国は古くからの伝統と文化を尊重しながら長く繁栄してきた…」



 ソーサレイドに存在する国々の文化は利通の世界と似たようなモノが多い。天牙や刀夜のような侍も居れば中世ヨーロッパを思わせる騎士たちや、三国志を思い出しそうな武人達も居る。国境無き今の世界でそれらの人々は、殆ど場所や時期に関わらず入り混じっているが、境界が存在していた当時は違った。それぞれの文化と人種が己の国を持ち、その境界でくっきりと線引きをしていた。


 そんな中で大和連邦は、侍と和文化を維持しながら長い時を栄えてきた。領土には豊富な資源が眠っていた為、隣国に戦争を仕掛けられた事も何度かあったが、その悉くを打ちのめし、傘下に治めてはその勢力を伸ばしていったのである。


 

「他の国と違って自ら戦争を仕掛けた事も無く、さらには大きな内乱や反乱が起きたこともない。大和の民も、諸外国の人間達も口を揃えて『聖なる地』だの『義の国』だのと呼ぶようになった。その事もあってか段々と大和の民はそれを誇り、同時に驕り始めた…」




―――自分たちは聖なる地に在りし義の国、大和に住まう者…



―――我らこそが正義、我らこそが真理…



―――故に大和こそ世界の中心、大和の理こそが世界の理…



―――異国の民よ、我らにひれ伏せ!!我らは大和の民、この世の導きなり!!




「残念なことに大和の中には、その歪みに気付けたものは圧倒的に少なかった。挙句の果てには民衆でさえそれを信じ込むようになってしまい、愛想を尽かして国を出て行く者も少なくなかったで御座る…」



 この時ばかりは大和連邦の内政手腕の良さを恨めしく思った。何せ気付いたときには、民衆の殆どが『大和至上主義』に染まっており、誰もその事を疑おうとさえしなかったのだ。実際彼らの行いは規律と秩序の厳守など、人の手本となるような真似しかしてなかったのだが、それが逆にいけなかった…



「大和の正義は所詮大和の正義でしか無いというのに…愚かな事に大和の民は、それを隣国にまで強要するようになったので御座る……」



 本人達は本気で、愚かなまでに何の疑いも無く隣国にそれを要請した。その時の内容は今思い出しても怒りがこみ上げてくる。その時の内容は要約するとこうだ…








―――貴国の規律と秩序は乱れに乱れている。即刻我らを見習い、悔い改めるべし。







 御丁寧に具体的な案…民衆の就寝及び起床時間、食事の量、労働の基準、法案、挙句には人々の習慣にまでと何から何までに余計な口を出した内容の書類を送りつけたのだ。それも戦争や内乱とは無縁な、至って平和な国に対してだ…。


 当然ながら大和にこんな事をされたその国はそれを侮辱と受け取り、かなり強めに抗議してきた。その反応に心底不思議そうにしていた当時の大和の民の間抜け面は、天牙は忘れられそうに無い…。



「だが、この結果に懲りなかった馬鹿共はとうとうやりおった……宗教国家の宗教に口出しするなんて馬鹿は馬鹿でもとびきり大馬鹿な真似を…」



 大和の国は『太陽神』を信仰しており、日が沈む夜間を太陽神の加護が届かない『魔の刻』と称し邪悪な物として扱っていた。ところが隣国の一つに『月の女神』を信仰する国…『ムラート皇国』があり、夜を『聖なる時』として敬っていたのだ。その国の存在を知った大和は何の迷いもなく使者を送り、前回の隣国にした時と同様、単刀直入に要求した。








――-貴国らが崇めるているのは邪神である、速やかに神に対する態度を改めよ




 『月の女神』を千年以上・・・・信仰し続けているその国に向かって、そうほざいてしまった…




「長年信仰してきた自国の神を邪神呼ばわりされたムラートの民は、当然ながら怒り狂ったで御座る。だがそんな彼らの気持ちを露ほども理解できない大和の民は、彼らを邪教徒と称して宣戦布告したので御座る…」



 大和とムラートの開戦は、予想以上に多くの国々を巻き込む結果になった。世界に名だたる大国に取り入ろうとする国は大和に、大和の増長を危惧した国はムラートに付き、最終的には世界の国々は大和派とムラート派に分かれていた。つまり世界が滅亡した原因である世界大戦の引き金を引いたのは…



「あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、当時は既に愛国心なんて欠片も残ってなかったで御座るよ…」



 それでも自分の生まれた国、自分が所属する国ゆえに去るという選択肢は取れなかった……なんてことさえならなかった。大和がムラートに宣戦布告した瞬間に、自分は荷物を纏めてさっさと国を去った…。



「もう裏切り者呼ばわりされても構わんから、とっとと祖国と縁を切りたかったので御座る。自慢する様で気が引けるが、拙者は腕っ節だけは確かだったため国の者達は全力で引きとめようとしておったがな…」



 その時の一悶着…というには激しすぎる戦闘によって大和の精鋭達は大分減ってしまい、大和の戦力を大幅に削っていた事実を天牙は知らない。



「本当はその場で拙者が大和連邦に引導を渡せていれば良かったので御座るが、流石にそこまで世の中甘くなかったで御座る。拙者に匹敵する実力者…刀夜みたいな男が何人か居ったしのぅ……」



 それに心の何処かで、こんなくだらない戦争はすぐに終わるとタカを括っていた自分が居たのも事実である。それまでは下手に戦場をかき回すより、大人しくしていた方が良いと当時は結論付けた。そして案の定、世界大戦はほんの半年で終結した。




―――世界の崩壊という結果で…



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