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第五章 二人の勇者

感想待ってま~す

 

 先刻、二人目の勇者である『大葉勇次』が騎士団長と剣をぶつけ合っていた訓練場。先程はその二人と彼をこの世界に呼び出した巫女…『クリスティア』の3人しか居なかった場所に、城に居る大半の人間が集まっていた。しかも、まるで今からお祭りでも始まるかの様な賑やかな雰囲気に包まれていた。



「勇次様ぁ!!頑張って下さーい!!」



「……どうしてこうなった…?」



 そんな訓練場の中央に立つ二人の人影の片方、勇次はクリスティアの声援に戸惑っていた…いや、むしろ困惑の表情さえ浮かべている。そして、そんな彼の反対側には…




「それはね…半分位は君のせいだと思うよ……?」




 まだ何もしていないにも関わらず、既に彼と同様に疲れた表情を浮かべる一人目の勇者…『彼方利道』が立っていた…。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「何が『以後よろしく』だ…!!」



「おや、残念」



 笑顔で差し出された手を、勇次は払った。ヴァーディアは勇次のその行動に思わず口を出しかけたが、利道が大して動揺も困惑もしてなかったので敢えて口を噤んだ。そんな利道の態度が余計に気に障ったのだろうか、勇次はさらに険しい表情を浮かべる…。



「どうしてこんな場所に引き篭もっているんだ?」



「……さぁ…?」



「ッ!!」



 気の抜けた返事が返ってきた瞬間、勇次は利道の胸倉を掴んで鉄格子に叩き付けた。地下牢にガシャンという物音とヴァーディア達の小さな悲鳴が響く…。




「外では多くの人間が…罪も無いただの人間達が苦しんでいるんだぞ!?それなのにお前は、何でこんな場所に閉じこもっているんだ!!お前も勇者としてこの世界に呼ばれたんだろ!?」



「ま、一応ね~」




 少し離れた場所でその様子を見守っていたクリスティアが震える程の激昂を目の当たりにしても、利道は相変わらずヘラヘラとしており、その彼の様子に早くも勇次の我慢が限界を迎えた。彼は思いっきり腕を振り上げ、利道の顔面に向かってその拳を放った…


 この世界に召喚される際、勇次はクリスティア達が言うところの『神の加護』を受けている。その効果は色々とあるのだが、主なものとして『常人離れした身体能力』というものがある。故にこの世界における彼の拳は、並みの人間が殴られたりでもしたら怪我をする程度では済まない威力を持っている。


 その事を忘れ放たれた一撃は、音の壁をぶち破りながら空気を切り裂いて、真っ直ぐに利道の横っ面に飛んでいき…





---ガッ!!





「……おい、君は今の自分のパンチの威力、ちゃんと自覚できてるかい…?」  



「なッ…」





---利道によって当たる直前に手首を掴まれ、実質片手であっさり止められてしまった…





「勇次様の拳を止めた!?神の加護で強化された筈の拳を!?」



「あ…」



 此方を責める様な視線を送る利道と、本日二度目の常識崩壊により叫んだクリスティアの言葉によって勇次はやっと自覚した。自分が今放った拳は、いつもなら人をよろめかせる程度の威力だろう。しかし、今は違う。神の加護とやらを受けた今の自分は、拳で人間を殺せる可能性があるのだ。


 目の前の利道は自分と同じく召喚された勇者なので同様に加護を受けているかもしれないが、さっきはそんな事まで考えてやったわけではない。下手をすれば自分は…




「あ…いや、すまない……」



「……う~ん、思いのほか短気だね。すぐに自覚して反省できる点は良いけど、これは少し不安だなぁ。勇次君、君ってあんまり“考える”の得意じゃないでしょ…?」



「へ…?」



「さて、どうしたもんか…」




 困惑する自分を他所に…いや、今の自分の心情を察してるのでそうでもないが、目の前で利道は手を顎に当てながら何かを考えていた。どうすればいいのか分からず、先程から利道の胸倉を掴み、片腕を掴まれた状態という可笑しな体勢を維持したまま時間だけだ過ぎてく…。


 が、ここでその場の空気を敢えて読まず、クリスティアが口を挟んできた。まるで利道を召喚した当時のように、恐る恐るといった感じだったが…




「あの、勇者様…」



「ん?……あ、巫女様お久しぶり。あの時は御迷惑を掛けましたね。多分、暫くはあんな真似はしないと思うので御安心を…」



「あ、いえいえ…その事は、何とも……むしろ、どちらかと言うと今の方が困ってるのですが…」



 “今の”とは、勿論利道が牢屋に引き篭もっている現状の事であろう。神から代役・・として勇次が呼ばれた今となっては、利道は御役御免でも良い筈である。しかし、態々戦力になるかもしれない人物を遊ばせておくほど彼女らも甘くは無いし、余裕も無いだろう。


 今日まで余り世界救済を強要してこなかったのは利道が実際は勇者等では無く、何かの手違いで呼ばれた一般人である可能性があったからだ。その可能性もつい先程、勇次の人外な拳を止めた時点で消えてしまったのだが…。



「あぁ…それはちょっと、まだ無理ですね。自分勝手なのは重々承知の上ですが、すいません。それに、一応彼も勇者でしょう?」



「そこをどうにか…確かに勇次様はお強いです。ですが、強い方は多いに越した事はありません。どうか、勇次様と共に世界をお救い下さい……!!」



「イヤです」



 目の前で頭を下げてまでされた彼女の懇願はバッサリと両断されてしまった。思わず項垂れるクリスティアだったが、それを切欠にようやく勇次も我に返る事ができた。さっきのやり取りの事もあり、幾分口調を抑えたものになりつつも利道を問い詰める…



「何でだ、何でそうまでして嫌がるんだ?俺達は人を救うことが出来る力を持っているんだぞ? なのに何でお前はその力を誰かの為に役立てようとしないんだ…?」



「もう疲れた……ただ、それだけの事さ…」



「疲れた…だと…?」



「そうとも。君を含め誰にも理解できない、身勝手で自分勝手な理由だよ…」



「ふざけんな!!まだ何もしていない癖に疲れただと!?」



「ん…?」



 早くも再度激昂した勇次の言葉に何か引っ掛かった利道だったが、彼の瞳が何かを決心したかのような輝きを帯びたのに気付いてそれどころでは無くなった。そして案の定…




「俺と勝負しろ…!!」



「……それはまた、ベタな…」




 地下の牢獄に、利道の深い溜め息が木霊した…








◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 その会話の後、真っ直ぐに訓練場へと向かった3人…そう、3人である。勇次達のやり取りの最中、やけに静かだと思ったらいつの間にか居なくなっていたのだ。心配になったものの、入り口を守る監守長が彼女が出てくるところを目撃していたので杞憂に終わったが…。


 しかし、やたら人の気配が少なくなった城を闊歩しながら決闘の場に決めた訓練場に足を運ぶと、とんでもない光景が広がっていた。訓練場に、ほぼ城中の人間が集まっていたのである…。


 適当にその辺に居た人に話を伺ってみると、誰かが城中を駆け回りながら利道と勇次が決闘することを言いふらしていたそうだ。しかも二人の実力は微妙に誇張されており、城の者達の興味を引くのには充分過ぎた。その為、二人の決闘を見ようと多くの人々がこの場所に集まってきたというわけである…。



---因みに、二人の決闘を言いふらした誰かとは勿論…




「利道様ぁ!!格の違いを教えてやっっちゃって下さーーーい!!」



「……ヴァーディア…」



 この状況を作った張本人の声援を受け、思わず頭を抑えてしまった…。だが、こうなってしまった以上は仕方が無い。少しばかり不本意ではあるが、これを機会に色々と“確かめさせて”貰おう…。



--―そう、色々とね…




「御二方、位置に着いてくだされ」



 訓練場…むしろ闘技場と化したこの場所の中央に、騎士団長が立っていた。どうやら審判役を買って出てくれたようだ。見届け人は多すぎるくらいに居るので不要だろう…


 騎士団長の言葉に従い、二人は渡された十本の模擬剣の内の一本を手に取って向かい合った。この剣十本分を手から弾き飛ばしたり使用不能にしたりして勝敗を決するのがこの世界の決闘法らしく、集まったギャラリー達に半ば強要される形でこのルールで勝負する事になってしまった。


 だが、別にそんな事は大して気にしてないのだろう…勇次は利道を睨みつけるその瞳に闘志を宿らせながら、口を開いた…。



「約束、忘れるなよ…?」



「勿論さ、『敗者は勝者に従う』。負けたら素直に君に従うよ……」



「それでは両者、構えて…」



 言うや否や二人は剣を構えた。勇次は剣を両手で持ちながら正面に構え、対する利道は剣を片手にぶら下げて棒立ちしていた。ていうか、構えてすらいないように見えた…


 ギャラリーから野次とブーイングが利道に向かって飛び交ったが、大して気にした様子も無く平然としていた。その様子に開始の合図を出していいのか騎士団長は少し悩んだものの、意を決して…




「始め!!」



「うおおおぉぉ!!」




 開始の合図を出した。それと同時に勇次が一気に間合いを詰めてくる。神の加護を受けたそのスピードは人間離れしており、普通の人間では目に捉えるのも一苦労である。そんな勇次の突進を、利道は最初と同様に構えもせずに正面から見ていた…



「あぁ、負けたら従ってやるとも……そう…」





―――キィン!!




「負けたら、ね…」




「えっ…?」




 間合いを詰め、必殺の一撃を繰り出すために勇次は剣を全力で振りぬいた。振りぬいた一撃は、利道の剣を遥か彼方まで弾き飛ばす筈だった。しかし実際は利道の手には相変わらず剣が握られたままであり、宙を舞い、そのまま地に落ちて突き刺さったのは……勇次の剣だった…




「い、一本…!!」




 しばし現実を受け入れることが出来ず、その場に居た誰もが言葉を失っていた。比較的早く我に返った騎士団長の声がやけに響く。そんな中、勇次は暫く地に刺さった剣と何も持ってない手を交互に何度も見つめ直していた…



「さて、と…」



「ッ!!」



 だが、それも利道の語り掛けによって中断される。反射的に勇次は顔を声がした方…利道の居る方向へと向けた。すると彼は先程とは違い、持った剣の切っ先を此方に向けていたところだった。そして…





「まだ、始まったばかりだよ?……存分に語り合おうじゃないか、新米君…」





―――不適な笑みを浮かべた一人目の勇者は、二人目の勇者とは対照的に冷めた瞳でそう言った…




二つ目の世界の話は大分端折る予定です。肝心なのは3つ目と5つ目、そして6つ目の世界です。特に5つ目と6つ目は、彼の自殺衝動の最大の要因かもしれません…

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