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第三章 一の試練

二ズラシア編が終わらなかった…orz


そして今回、最後の方に少しだけ彼が出ます。これでなんとなく人柄が分かるかもしれないっす



「『負の黒雲』?」



「そうじゃ。その名の通り、この世界のを司るモノの塊じゃ…」



 昼は太陽が明るく照らし、夜は月と星々が輝くニズラシア。しかし…その空は今、夜空よりも黒い霧の様なもので覆われていた。しかも、もうとっくに夜明けの時間であるにも関わらずに、だ…。


 そんな中、利道たちはセレイヌアスの家に集り、古くから置いてある資料やら本やらをあさりながら色々と調べていたのだが…



「さっきようやく引っ張り出せたのじゃが、この文献を見てみろ」



「なになに…」



 器用に尻尾で持ったその資料を手渡され、利道はとりあえず目を通してみる。そこに書かれていたのは、この世界…ニズラシアの仕組みそのものを記したに等しい内容が書いてあった。


 まず、このニズラシアの全住人には血縁なるものが存在しない。これを知ったのは召喚された当日にこの世界の常識として教えられた時だが、子供の作り方も知らない小僧であった当時の自分は、とりあえずニズラシアには血の繋がった親やら兄弟は存在しないということで納得した…。


 しかし改めて考えると、この世界の住人は直接“命を産まない”という意味だったのだろう…。


 では、いったいどのようにしてニズラシアに命は増えていくのだろうか?別の理由でその事を尋ねた時、セレイヌアスは一応教えてくれた。何でもこの国に聖域と定められた場所が存在し、そこの遺跡の様な場所に儀式場があって、そこで新しい命が誕生するのだ。


 かつて、一度だけ連れて行って貰って実際にその瞬間を目にすることが出来た。儀式場の中心に生涯を共にすると誓った者同士…要はつがいになる事を誓った二人(二匹)が頭を垂れて祈るような姿勢をとった瞬間、まるで自分をニズラシアに飛ばした召喚陣と似たような光が周囲を包んだ。やがて光が収まるとそこには、1頭の子馬が立っていた……因みに、その時のカップルは山羊と狼だったのだが…


 さて今更ながら後々大事なことになるので、この世界の住人たちの食べ物に関しても触れておこう。何となく察したかもしれないが、この世界の住人たちに弱肉強食の概念は殆ど無い。山羊が狼とつがいになるくらいだ、互いを天敵だの餌だのと認識するようなことはしない。そんな彼らの主な食料は昆虫や魚、そして森に生える果物なのだが……この果物が物凄く特殊な代物だった…。  


 何とその果物の木々の中に、食用の肉を実らせるものが存在してたのだ…。


 中には御菓子やら乾物まで実らせるモノまであり、肉を食する動物として産まれた者はそれを食べて生活していたのである。その為『肉=木になる物』という概念が根付き、ライオンがウサギを見たとしても『可愛い』と感じても『美味そう』とは一切思わないようになってるのだ。



---そう…“なっている”のだ、この世界は……全ての住人達が、動物として捨てられない筈の本能さえ制し、互いに争い合わないように…







◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「食物連鎖も、子孫を残すために争うことも、生存競争と呼べるものがほぼ存在しない。そんな世界だったんよね、二ズラシアってさ…」



 今思えば無茶苦茶にも程がある世界だった。こっちの世界の生物にとって当たり前の行いを全て捨て、それでいて見事な繁栄をみせていたのだ…。



「で…でも、異世界ならそういう事があっても不思議じゃな…」



「それが…そうでも無かったんだよねぇ、これが……」



「え?」



 当時のことを思い出し、利道は肩をがっくりと落とした。ただでさえ暗い牢獄だというのに、利道の牢屋だけさらに暗くなった気がする…。



「まぁ、とにかくさ。セレイ様が見つけた文献には『負の黒雲』に関することも書かれていてんだよ。何でも黒雲は、一万年に一度の周期で訪れる災害みたいなものらしくてね…」



 この黒雲が巻き起こす現象はただ一つ、世界を照らす日の光を完全に遮ること。何だその程度と思うかもしれないが、二ズラシアの住人達にとっては死活問題である。何せ、二ズラシアの住人にとっての生命線は植物である。そして、植物にとっての生命線は日光だ。その植物の生命線である日光が遮られては、

二ズラシアは滅亡への第一歩を踏み出したようなものである…



「なのにペンギン様含める城の皆は悠長なもんさ。『所詮は雲、いずれ晴れるであろう…』何て言ってたぐらいだし…」



 どっぷりと平和に漬かってしまった二ズラシアの住人達は、大賢者セレイヌアス達と過ごしていた当時の利道より圧倒的に事態の深刻さを理解できず悠長なものだった。その為、リーフとセレイヌアスの3人で事態の解決に乗り出すことになったのだ。



「幸いにも、その文献には黒雲をどうにかすることが出来る儀式場の場所が記されていたんだ。何だかんだ言ってもう年齢的にキツかったセレイ様に留守を任せ、僕とリーフはその遺跡に旅立ったんだ……いや、距離的には足を運んだって言うのかな…?」



「どこにあったんですか?」



「ペンギン様の自宅の地下」



「皇帝ェ…て、王城ですか!?」



 事情を話したらすんなりと城の中に通らせて貰えたのだが、そこからが大変だった。城の持ち主でさえ存在を知らなかった儀式場を、簡単に見つけられるわけがなかったのだ…。


 黒雲を今すぐにどうにか出来るのならそれに越したことはないので、ペンギン様を含む城の者達はこぞってその儀式場の捜索を買って出た。ところが犬達の鼻を使っても、猫の髭を使っても、鳥達のチキンハートを使ってもまるで発見できなかった。気づいたら儀式場の捜索だけで三日使う羽目に…



「しっかし、アレだよ…ようやく見つけた時は、その場に居た全員でペンギン様を睨み付けざるを得なかったね、ホント……」 



「ど、どこにあったんですか…?」



「お風呂場…」



「……。」



 曰く、城の改築をする際にうっかりやってしまったとか何とか…。その時ばかりは頭を下げるべき立場と人数が見事に逆転しており、その当時の光景は今でも忘れられない、ていうか忘れない。



「そんなこんなで入り口は見つけたのだけど、何故か皆いきなり怯え出したんだ。理由を尋ねてみても皆して『分からない』の一点張りでさ、結局僕と無理してついて来たリーフの二人だけで進むことになったんだ…」  


 浴室の風呂桶を退かして現れた儀式場への入り口。それを潜り、抜け出た先に現れたのはいつだか見た聖域と似た形をした遺跡だった。ここで何をすればいいのか考えようとした最中、突然その儀式場が光り輝いた。まるで二ズラシア特有の生命誕生の瞬間と同じ様に見えたのだが、光が収まった時にそこに佇んでいたのはとんでもないものだった…。




『来たか…異界より招かれし勇者よ……』




---この世界には決して存在しないと聞かされていた、『ドラゴン』が居た…




 像よりも二回りはは巨大なそれは、まだ小さかった利道にとって怪獣そのものに見えた。リーフも同様に震えまくっていたが、ドラゴンはそんな事お構いなしと言わんばかりの勢いで襲いか掛かって来くる…。


 リーフと共に森を駆け巡る毎日を送っていたせいか、体力は自分でも驚くほど身についており、暫く逃げ回っていてもまだまだ余裕だった。けれど、精神的な方はそうも言ってられない。何せ自分より遥かに巨大な存在が、自らを押し潰さんとばかりに何度も何度も突っ込んでくるのだ。突進してくるドラゴンを避け、その拍子にドラゴンが壁に衝突して響かせる轟音を聴くたびに、心臓が止まりかけたものだ…



「『死の気配』というものを覚えたのは、これが最初だったかなぁ…?」



「何をそんな悠長な!!本当に良く死にませんでしたね!?」



「あぁ、大丈夫…何だかんだ言って、あれは絶対に死なないように出来てたらしいから……」



「え?」



「長い鬼ごっこを繰り返すうちに、僕達は遂に壁際に追い詰められてしまったんだ。万事休すと思ったそのとき…僕とリーフ、そしてドラゴンの間に光輝く魔方陣が出現したんだ。驚く僕らを余所に、そこから一振りの剣が現れたのさ…」



 その時のことを思い出すと、ついつい遠い目をしてしまう。年を増やしてこの世界の事を思い出すたびに、勇者召喚の言い伝えを考えた二ズラシアの前住民・・・には参ったとしか言い様が無いし、恐ろしいとさえ思った…


 魔方陣から現れ、思わずリーフが『聖剣』と呼んでしまったその剣……だが、利道にはその剣にもの凄く見覚えがあったのだ。だって、どう見たってその剣を形成する刃は…








---赤い光…レーザーとかビーム等と呼ばれる、明らかに科学的なものだったのだから……






 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「お疲れ様です、勇者様!!」



「いえ…むしろ稽古を付けて貰い、ありがとうございました!!」



 城の騎士達がよく使う訓練場、そこに騎士団長と先ほどまで模擬剣をぶつけ合っていた一人の少年は頭を下げて礼をしていた。年は10代半ば、髪の色は茶色で随分と整った容姿を持っていた。それでいて飾った様子は見せず、今みたいに礼儀を欠かすことも無い。まさに好青年と呼ぶに相応しい。



「勇者様!!」



 そんな彼に向かって、先程までやや離れた場所から二人の様子を眺めていた巫女が駆け寄ってくる。勇者に向けるその表情…というか瞳は、憧れの存在を見つめるそれの様にキラキラと輝いていた。



「本当にお見事でしたわ!!流石は勇者様です!!」



「んな大袈裟な、俺はただの学生ですよ…?」



 相変わらず謙遜な態度で応じる彼だったが、さっきから向かい合うような形で正面に立っている当の騎士団長が、笑って首を横に振りながらそれを否定した。



「いえいえ、仮にも団長である私と剣で渡り合ったのですぞ?もっと自信を持って下され!!」



「そ、そうですか…」






---そう言われ、少年は照れたように頬をポリポリとかいた。その様子を見て、団長はポツリと漏らしてしまう…






「まったく、1人目の勇者様にも貴方を見習って貰いたいものですな!!」



「ッ、騎士団長!!」



「……1人目の勇者…?」



「あ…」





---二人の勇者邂逅の時は、近い…














「あれ、利道様?何故にストレッチを…?」



「誰かがバトルフラグを立てた…じゃなくて、口を滑らした気がしたから……」



「は…?」




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