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第三十六章 四の意思

バイト続きで執筆時間が減った上に、詰まって他の作品に逃げたりして執筆が滞っておりましたが、大変お待たせしました…;


漸く内容もまとまり、また少しずつ話が書けそうです。執筆時間の少なさは変わらないと思いますが、それでもペースはマシにはなると思いますので、これからも完結目指して頑張ります。

「で、話に乗る気になってくれた?」


「いいや、僕の返事は変わらない。君こそ、考え直したらどうだい?」


「ハッ、冗談」



 利道が滞在している村から大分離れた場所で、剣同士が衝突する金属音と、周囲を薙ぎ払う爆音が何度も鳴り響く。森に音が一つ響く度に木々は吹き飛び、大地は抉れ、瞬く間に地形を変えていく。その嵐のような光景を作り続けている二人の人物は互いに刃をぶつけ合い、もう何度目になるか分からない問答を再び繰り返した。



「そもそも、何でそこまで頑なに嫌がるんだよ。お前だって実感してんだろ、今のこの面倒くさい世の中を作り、維持させている元凶が何なのか…」


 

 自分に決して引けを取らない剣戟で襲い来るヴァンのサーベルを、この世界で手に入れた愛刀『夜羽』で冷静にいなしながら、利道は淡々と応えた。互いに口調こそいつも通りだが、その動きの方は明らかに本気であり、いつの間にか二人のやり取りは、この世界でも指折りの規模を誇る戦嵐と化していた。



「必要無ぇ…むしろ害悪と成りうる存在をぶっ壊すことに、何故悩む必要があるんだ?」


「君のやり方は無関係な人達を、多く巻き込むことになるからだ」



 唐突に訪れ、なんの前触れもなしにヴァンが提案したとある計画。その計画に協力するよう求められた利道は自身の考えもあって断り、むしろヴァンを止めようとした。確かに彼の計画が成功した場合、帝国と王国は消滅し、この世界は変わらざるを得なくなるだろう。だがその計画は、成功させる過程で確実に多くの一般人を巻き添み、数えきれない程の人数が犠牲になる。しかもヴァンが絶対に消したいと思っている国の兵士や関係者を加えたら、その数字と規模はもっと増える筈だ。

 まだ他にもマシな選択肢はあるし、選ぶことが出来ると考えている利道にとって、このヴァンの計画は到底受け入れる事が出来ず、むしろ彼を止めようとした。しかし彼が素直に諦める訳も無く、二人の主張は平行線を辿り、挙句の果てには武力行使に発展してしまったのである。流石にその場で災害規模の決闘を始めては村に甚大な被害が出てしまうので、場所を変える位の冷静さと分別は弁えていたものの、爆撃の様な魔法を撃ちあい、大木が一瞬で切り倒されるような斬撃の応酬を繰り返すこの二人の戦いが長引けば、その意味も無くなってしまうかもしれない…。



「帝国と王国がこの世界の状況を停滞させている事に関しては同感だよ。でも、その過程で無関係な人達に犠牲を出すような真似は出来ないね」


「そこが理解できねぇんだよ、俺は…」


「……なに…?」



 戦闘を始めてから一瞬たりとも動きを止めなかった二人だったが、ヴァンの言葉に利道は思わず動きを止めた。それに合わせてヴァンも一息つくように静止し、言葉を続けた。


「名も知らない赤の他人の命なんぞに、何故そこまでこだわる?」


「逆に訊ねるけど、どうして憎んでもない人間を、平気で死なせることが出来る?」



 今まで、利道は幾つも命を奪ってきた。それでも彼は彼なりに、殺しの基準ともいえる線引きを持っている。殺生そのものを全面的に肯定する気は無いが、それ無くして成し遂げる事が出来なかった物事も確かにあったが故に、全てを否定する気も無い。だからこそ、その線引きが完全に正しいとは思わないが、せめて自分で決めたそれだけは守り続けようと決め、現に今もこうしてそれを信じ、目の前の自分と異なる思想を持った男と対峙している。


―――もっとも彼の場合、もう一つ肝心な理由があるのだが…


 そんな利道の返事を兼ねた問い掛けに対して、ヴァンは肩を竦めながら答えた。



「まぁ俺だって、いつだかの殺戮魔王のような悪趣味は持ち合わせてねぇよ? だけど俺言ったよな、アストとフィノーラ達が普通に恋愛出来る世界にする為に、今の世界をぶっ壊したいって…」



 そう言った途端、虚を突く様な形で利道に斬りかかる。完全に不意打ちのような形だったが、利道は動じることなく反応し、襲い来る刃を自身の刃をで受け止めた。そして何度目になるか分からない鍔競り合いの姿勢のまま、ヴァンは語り続ける



「善良な小市民だろうが、罪無き一般人だろうが、所詮は赤の他人だ。そんな奴らと、長年連れ添った身内や仲間達を天秤に掛けた時、その傾きが拮抗する瞬間が存在すると思うか?」



 大抵の人間は、人間を平等に愛する事は出来ない。それが間違っているとは思わないし、むしろ人の在り方としてそれは正しい。

 人は本能的に、または理性的に、相手に対して様々な思いを抱く。好き、嫌い、愛おしい、憎い、守りたい、傷つけたい、喜ばせたい、悲しませたい…それは最初から血の繋がった家族だったり、他人同士として始まった友であったり、自分に何かをくれた恩人だったりと様々だ。

 そして人はそれらの存在に対して知らぬ間に比較し、少なからず序列を作る。自分の中に存在する繋がりの中で、『あの人よりも…』が大なり小なり生まれる。


―――あの人よりも尊敬できる…


―――彼ほど憎い奴は居ない…


―――彼女は誰よりも魅力的だ…


―――誰よりも愛したい…


 そうやって人は自分の中で人に対する優先順位を作り、向ける、または向けられたいと願う感情の量と質を変える。誰かに愛を与えて貰えば、その人を誰かより愛したいと想い、愛されたいと想う。また憎悪と悪意を向けられた時は、その相手だけに怒りと悲しみをぶつけ、誰よりも憎むようになる。



「今回は、その身内や仲間達の未来が懸かっている。そんな時に顔も名前も知らない、どんな声をしているかすら分からない奴らよりも、気心の知れた友や自らの恩人…繋がり続けた縁と絆の持ち主達を大切に、そして優先したいと思うことの何がおかしい?」


「……いや、おかしくは無いよ…」



 故に自分にとって大切な人間と、他の人間…ましてや縁もゆかりも無い、文字通りの他人を比べた時、勝負になる筈が無かった。何故ならそれが、複雑な感情を持った『人間』と言う生物としての、正しい在り方なのだから。

 そしてその考えは、既に利道自身も肯定している。実際に彼はソーサレイドで己に様々なモノを与えてくれた師を、何も与えてくれなかった親族よりずっと尊いと思い、そう断言したのだから。



「とまぁ、俺が他人を巻き込むことを躊躇しない理由はこんなとこだ。お前やアストみたいな御人好し野郎の人助け精神は嫌いじゃないが、俺には真似出来ないね。自分の意思も無く、周りの言われるがままに、ただ淡々とロボットや傀儡人形みたいに命懸けてるお前らの様にはな…」


「……なんだと…?」



 ヴァンの言葉に動揺したのか、利道の腕に込められた力がぶれ、暫く続いていた均衡が崩れた。その隙を見逃さず、ヴァンは次々と斬撃を繰り出す。その悉くを利道は防ぐが、先程の余裕がそこには無く、反撃もおぼつかなくなってきた。そんな状態にも構わず、ヴァンは剣をふるいながら話を続ける。



「異世界の事情に巻き込まれ、世の為人の為、骨身を惜しまず命まで懸けて頑張ります…お前のやってることは確かに立派だ、正義の鏡だ、まるで物語の勇者だ、尊敬してやるよ!! ほぼ無関係な人間を相手に、そこまで聖人君子になれる奴は居ねぇさ!!」



 言葉と共にヴァンの剣は鋭くなり、それに比例して利道の剣は鈍くなっていった…



「だが同時に俺はお前に対して、人間味を感じない。余所の世界の伝説やら言い伝えに巻き込まれた身でありながら、それにひたすら従順なお前を理解できない!!」



 ヴァンのサーベルが勢いを増すにつれ、利道の刀の動きは逆に勢いがなくなっていった。先程まで続いていた実力の均衡は今まさに、崩れようとしていた…



「勇者の役目を担い続けるお前も、『猫に呪われた男の子』を演じ続けるアストも、俺には馬鹿馬鹿し過ぎて理解出来ない。俺にとってお前らは二人とも、自分の意思を貫くことを諦めた馬鹿野郎だッ!! そして、そんな馬鹿野郎共を縛る鎖の全てをぶっ壊したいんだよ、俺はッ!! それを手伝わないってんならせめて…」


「ッ!!」



 重めの一撃が放たれ、防ぎきれなかった利道の身体が揺れた。好機と見たヴァンが、トドメをさすべくサーベルを大きく振りかぶった。そして… 



「俺が全てをぶっ壊すまで、黙ってすっこんでろッ!!」


「……ヴァン…」



―――利道目掛け、勢いよく振り下ろされた黒いサーベルは…


























「ヴァン、君は僕を買いかぶり過ぎだ。僕はこれまで一度も、そんな立派な意志と精神で、世界を救ったことなんて無かった。僕を突き動かすのはいつだって…」


「てめッ…!?」




―――黒刀に防がれ、ビクともせず…






「『見殺し』そのものに対する『嫌悪』と『恐怖』、そして未知の『出逢い』に対する『希望』だった…!!」






―――迷い無き一閃に、持ち主ごと弾き飛ばされた…



ヴァンの問いに対する答えが中々纏まらなかったのが、今回の更新が超遅れた理由だったりします…orz


因みに二人の決着はここでは付かず、次の戦場に持ち越しになる予定です。その時に利道の答えに関する補足などを…

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