第三十五章 四の人の世
また一ヶ月以上間が空いてしまった上に、全然進まなくて申し訳ありません…;
もしかしたら、後で書き足すかも…
「利道様の世界って、勇次様と一緒で平和な世界ではなかったのですか?」
「いや、僕達の国は比較的マシだったけど、全体で見ればここやベルフィーアと大差ないよ」
当時のヴァンの問いに対する応えを言ってみたところ、ヴァーディア達に意外そうな顔をされた。自分の故郷でもある世界に関しては、二人目の勇者である勇次が城の者たちに語ったことを人伝で聞いたのだろうか…
「確かに、戦火に巻き込まれること無く一生を終える人も居るし、僕や勇次君の国の人達は大抵がそうだ。けれど逆に、少年兵というものが当たり前に存在する国だってある…」
俗に言う戦後の時代、日本は戦争に直接関わる事を極力避け続けた。その甲斐もあってか、最近は生きている内に戦場というものを経験するような日本人は滅多に居ない。少なくとも自分の身近には銃を撃ち、銃で撃たれたことのある人間は居なかった。
しかし中東やアフリカには、日本にとって滅多に無い出来事が毎日のように繰り返されている国もあり、大人になる前に銃を手に持ち、戦火の中に身を投じて若い命を散らす子供達も決して少なくない。
無論、他国同士の戦いに介入し、争いの早期終結を試みた国もあった。しかし、その大半は火に油を注ぐような結果を招き、戦いを泥沼化させる場合が殆どだった。
「でもね、それだけ多くの争いが自分達と同じ世界で起きていると分かっていても、無関係な人は最後まで無関係を貫くことが可能なんだ。まぁ、軽い気持ちで首を突っ込む位なら、その方がマシだろうけど…」
そして、如何にその事実を知ったところで、他国の住人…それもただの一市民がそれに直接関わるのは殆ど不可能である。例え異郷の地で誰が死のうが、どこの国が消滅しようが自分達の身に何かが起きない限り平和な日常は支障なく続くので、所詮は遠い国での出来事でしかないのだ。
場所によっては税金という形で政府に金を渡し、その金を政府が資金として使うという形で間接的に関わっていると言えなくも無いが、これだけで『戦争の関係者』と呼ばれた場合、納得出来る者は果たして何人居るだろうか?
「早い話、平和な場所はとことん平和で、その逆はとことん逆で、まるで一つの世界の中に別物の世界が幾つもあるように感じる……僕達の世界は、そんな感じの場所だと思うよ…」
この事は利道たちの世界だけでなく、ある程度歴史を積み重ねた人の世界ならどこにでも言えるかもしれないが、ここまで他国の消滅や分裂が周辺に無関心でいられる世界は未だに珍しいと思う。
基本的に平和だったニズラシアはともかく、ソーサレイドやゼルデの場合、自分の国が戦争をしているという意識の元、あらゆる者達が様々な形で戦いに関わっていた。特にゼルデの民達は一般人も戦いに参加するというのは当たり前で、戦えない者は資金や物資の支援などをしている者が多かった。
それに対して此方の世界やベルフィーアはというと、戦いは完全に軍人とその関係者の仕事と割り切っていつもの生活を続け、尚且つそれで支障が殆ど出ないというのが現実だ。
「戦いに参加したくない者達は参加しなくて済むと考えるなら、それはそれで良いかもしれない。だけど、だからこそ僕は何が最善なのか分からなかった…」
一つの現実として、世界を壊してでも変えなければ苦しみ続ける人達が居る。しかし、そういう仕組みの世界になっているからこそ世界を変えた途端、人々に与える影響は他の世界とは比べ物にならない。
苦痛に耐えてきた者達には平和な毎日を、安寧の日々を送ってきた者達には悪夢のような日常を…違う場所からやって来て、違う人間を、違う価値観で断罪し導くという勇者と大差無いこの行動が招くのは、大抵がこれだ。後は精々前者を増やす過程で、如何に後者を少なくするかの違いしか無いのである。故に決して少なくない…むしろ多い位に感じる数の人々が平和を甘受している世界を、態々壊してでも変えるべきなのかどうか悩んでしまったのである。
「だからベルフィーアで僕はすぐには行動せず、ヴァンに渡された仕事をこなしながら何と向き合えば良いのか考えてたんだ…」
ヴァンにあの質問をされた頃には既に、ベルフィーアの現状を維持しているのは例の二大国家である事は分かっていた。しかし、この二つに挟まれ安心して夜も眠れない空白地帯の住民に平和を届けるには、その二カ国をどうにかするしか無かったのだが、王国と帝国には自分と互角の実力を持つ戦士たちがゴロゴロ居る上に、二大国家には空白地帯に負けず劣らずの人数が平和に暮らしている。この時点で、今までのように力だけでどうにかするという選択肢は利道に中から消え、必然と大きな行動は暫く控えるようになっていった。その間も無法者や違法部隊を蹴散らして空白地帯の住民を助け続け、それなりの信頼関係も築き上げていったが、逆に言えばそれくらいしか出来なかったのである。
「さて話が逸れたけど取り敢えず、その時のヴァンの問いに対する返事は大体こんな感じだよ」
「それで、彼は何と…?」
「特に何も。大して表情も変えずにただ一言、『そうか』って言っただけさ。もっとも、彼が次に口にした話題が唐突過ぎてそれ所じゃ無かったんだけどね…」
柄にも無く真剣な雰囲気で、真剣な視線を向け続けていたヴァンだったが、自分に語らせるだけ語らせ終えるや否やいつものヘラヘラした態度に戻り、あっさりと次の話題に移った。随分とそれっぽい空気を出しておきながら、やけに簡単にそれを引っ込めたので拍子抜けしてしまったのだが、彼が持ってきた二つ目の話題の威力は、そんな些細なことを一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「そんなに凄い内容だったんですか…?」
「少なくとも、あのタイミングで出てくるような話題では無かったと、今でも思うよ…」
苦笑を浮かべながら思い出すのは、あの時のこと。真剣な表情を見たばかりだったこともあり、いつも以上にニヤけた顔に見える笑みを浮かべ、まるで昼食に誘うかのような気軽さで、彼はこう言った…
---『アストとフィノーラに普通の恋愛生活を送らせたいから、世界を壊すの手伝ってくんない?』
このサイトで小説を書くようになってから、初めてレビューを書いて頂きました。いなばの黒うさぎさん、本当にありがとう御座います…!!




