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第三十四章 四の問答

今月は頑張るって言ったのに、二話しか更新してない…orz





「さぁて、食料の買い出しはこんなもんで良いかな…?」


「えぇ、充分だと思います」



 購入した食料の大包みを左腕に抱えて、空いた右腕でリンゴを三つ程お手玉の様にジャグリングしながら口にした利道の言葉に、同じく後ろで荷物を抱えながら歩くローグ達は相槌を打った。

 冥軍が集う地へと向かう利道たちは、途中にある小規模な街に立ち寄っていた。王都から離れ、国境に近い場所に位置するということもあり、それほど大きくはないが、馬車でゆっくり移動するしかない利道達にとって必要なものは粗方揃っており、時間を削ってでも寄り道した意味は大いにあったと言える。



「毛布も買っといたし、火の類は魔法や馬車に積んであったもので事足りる。水と食料もさっき買ったから、もうこの街に用は無いか…」


「ねぇねぇ、トシミチ…」


「ん?」


「……もう、許してあげたら…?」



 やや躊躇いがちに声を掛け、自分の背後を指差すミレイナ。彼女が指差した方向へと目をやると、そこには……



―――『反省中』と書かれた紙を顔面に張り付けられ、利道達の後をトボトボとついてくるヴァーディアの姿があった…



「断る。少なくとも、街を出発するまではその状態でいて貰う…」


「いや…ヴァーディア本人よりも、一緒に居る私たちの方が恥ずかしいんだけど…?」



 またもや口を滑らせ、利道の秘密をローグに漏らしたヴァーディア。これ以上秘密を知る人間を増やしたくない利道は彼女に対する折檻の意味合いも込め、この様な暴挙に出た。因みに彼女の顔に張られた紙には軽い呪術が施されており、自力で剥がせない上に喋ることが出来なくなるというタチの悪い効果を持っていた。おまけに何故かちゃんと前は見えているらしく、すれ違う通行人を彼女は華麗に避け続けながら歩いている。

 ある意味当然だが、途中で街の警備兵に何度か職質される羽目になった。しかし、最終的に騎士の称号を捨てる機会が訪れなかったローグが居た事もり、『罰ゲーム』の一言で納得(無理やりだが…)して貰えた。利道としてはそのまま警備兵の方々に彼女を迷子と称して押し付けてしまうという選択肢もあったが、引き渡そうとした途端に彼女が激しく抵抗したのでそれは断念した。

 警備兵に預けられる事を拒絶し、利道達に同行することを望むような態度を見せたので、結局街の人達も此方の言葉を信じ、それ以上追求してくることは無かった。それでも目立つ風貌であることに代わりは無いので、彼女を中心に利道達は街の人々の視線を未だに集めまくっているが…



「どうせもうここは出るんだから、大丈夫だよ。それに、彼女も流石にコレで懲りるでしょ…」



 この世界において利道が『二人目の勇者』であることに関して、本人は当初ほど隠す気はなくなっていた。しかし彼が経験した、六度もの異世界召喚に関しては話が別だ。今のところ大きな問題に発展するような事態には陥っていないが、大々的に異世界の話を広めると、かなりの確率で厄介事が発生する。

 まず最初に、価値観の違いだ。お互いの世界にとっての常識が、お互いの世界にとって非常識だったりするのは最早当たり前だった。特に宗教色が強い場所において、価値観の相違は一瞬で流血沙汰に発展するから堪ったもんじゃない。

 その次に文化水準、及び未知の技術に対する探究心だ。呼び出された本人である利道自身もそうだったが、その手の分野に通じる人間にとって自分の世界に無い力や技術というものは、普通に興味を抱かざるを得ない。実際、四つ目の世界ではオーバーテクノロジーの塊として扱われ、二大国家に何度も捕獲されそうになって解剖されかけたのは、若干トラウマになっている…



「あれ? 例の空賊に面倒を見て貰ってたんじゃないの…?」


「忘れたのかい…彼が、どういう内容と方法で勧誘してきたのか……」



 彼…ヴァンの勧誘(と言う名の脅迫)内容は、『仲間にならなければ、軍にお前の居場所をリークし続ける』というものである。つまり、正確に言うと現状を悪化させるか維持するかの二択しかなく、別に守ってくれると言った訳では無い。仕事や報酬は用意してくれたが、寝床の確保は基本的に自分でどうにかするのが普通だった。

 首領公認の『蒼風一味』の肩書きがあるからこそ、仕事先の村で寝床を用意して貰えたり、空賊同士のネットワークを利用して世界中の情報を確保することも出来たので、役に立った時は無くもなかったが、それに比例してそれが仇になった時もあった。唯でさえ帝国や王国は自分に興味を持っていたのに、空賊の仲間入りなんてしたもんだから、追跡の手は一層厳しいものになってしまい、ほとぼりが冷めてから平和的な接触を試みるというのも殆ど不可能になった。おまけに懸賞金まで懸けられてしまい、護衛の仕事を引き受けた村の人達に嵌められ、軍に売られかけた事も一度や二度じゃない…



「空賊の仲間になったとは言え、トシミチ様はお尋ね者になるような事をしたのですか…?」


「……微妙なとこだね…」



 基本的に自分が回された仕事は、空白地帯に存在する集落や村の護衛だ。ちゃんとした国家や治安維持組織が存在しない空白地帯が無いので、そこに生きる人々は互いに互いを守るのが基本である。その現実も空賊たちにとっては金儲けのチャンスに過ぎず、彼らは嬉々として護衛役を買って出た。無論、集落を襲う空賊も少なくないが、護衛の仕事を引き受けた空賊たちにとってはただの金蔓にしかならなかった…



「依頼主から基本報酬は貰えるし、返り討ちにした奴らから戦利品を奪えるから意外と儲かるんだよね。しかも基本的に集落を襲う空賊って意味を裏返せば、集落しか襲えない程に弱いのばかりだから本当に楽だった…」



 少ない例外もあったが、自ら護衛役を買って出るような猛者達にとって、集落を襲おうとする様な輩は大抵、タカに守られたアヒルを襲おうとするカモに過ぎなかったのである。利道もベルフィーアを滞在中、数え切れない数の空賊を船ごと叩き潰し、彼の名は空白地帯で徐々に有名になっていった…



「ただ…その墜とした船の中に、混ざってたんだよねぇ……」


「何がです…?」


「私腹を肥やす為に、空白地帯に私兵を送り込んで略奪行為を働こうとした帝国軍の船…」


「うわぁ…」



 いつもの空賊よりも錬度が異常に高く、やけに武装が充実していると思ったが、その理由に気付いたのは、船を真っ二つにして撃沈し、その残骸から捕虜と戦利品を回収し終えてからだった。

 原則として二大国家は空白地帯での略奪行為を法として自ら禁じているが、いつの間にかそんな法律はあって無いようなものとして扱われ、この様な出来事は然程珍しいことでは無かった。例によって利道が撃退した彼らも集落を襲う気満々であり、場合によっては住民を皆殺しにする気だったのか、村の子供に向かって躊躇無く、それも警告無しで撃ってきたので、他に選択肢は無かったと思うが…

 この一件が切っ掛けとなり、利道個人の名はベルフィーアで最も悪名高いとされる、『蒼風のヴァン』に並ぶ程に大きくなってしまった。もっとも、元々帝国にも王国にも目を付けられていたし、暫く身を置いていた空白地帯には依然として居続けるつもりなので、追手の勢いが増す事を除けば大して気にする様なことは無かった。



---この出来事を機に、世界の裏で何かが動き始めた事を知るまでは…





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「よぉ、元気そうだな『闇騎士』!!」



 新しい護衛先の集落にある、自分の寝床として宛がわれた小屋でくつろいでいたら、相変わらずイラッとする笑みを浮かべた蒼風一味の首領が現れた。椅子に座ったまま、反射的に小さく舌打ちしてまったが、彼の耳はその音を聞き逃さなかったのか苦笑いを浮かべた。因みに彼が言った『闇騎士』とは、ここ最近になって利道に付けられた異名である。今の空白地帯において、『蒼風』に並ぶほどのビッグネームになりつつある…



「そんなに嫌か? 格好良いじゃないか、フィノーラのは『紅蓮の狂戦姫』とかいう物騒なものだし、アストなんて…」


「与太話は良いから、早く用件を言って帰ってくれ…」



 あの勧誘の一件以来、利道は未だにヴァンの顔を見ると露骨に警戒心を強めてしまうようになっていた。とは言え、これでも彼に対する印象は最初の時より良くなった方だ。

 無理やり空賊入りをさせられてからというもの、彼は約束通り居場所をチクる様な真似はしなかった。むしろ危険が迫っている時は教えてくれるようになったし、仕事先の用意や業界での身元保障もしてくれた。更には先日の帝国兵とのイザコザによる後処理、そのせいで利道ごと目を付けられたであろう集落の住民の保護まで行ってくれたくらいである。

 こういう面や、仲間内や空白地帯の人々に信頼されている点も踏まえ、ちょっとは彼を信用しても良いと思い始めているのは確かだ…

 それでも、利道はどうしても彼を信用する事ができないでいた。主な理由は、ヴァンはあれほど自分の事を欲しがっていたにも関わらず、空白地帯にある集落の護衛依頼ばかり寄越してくるからだ。確かに、護衛の仕事にはそれ相応の実力が必要だが、利道レベルの実力者ともなると、直接的な空賊同士の縄張り争いや潰し合いの時の方が重宝される。だというのに、未だに自分は空白地帯のど真ん中で、空賊稼業の中では比較的簡単とされる護衛依頼の仕事しか任されていない。



---自ら進んで本格的な空賊の仕事をしたい訳では無いが、どうしてもヴァンが何かを企んでいるような気がして仕方が無いのだ… 



「ツレないなぁ…アストやフィノーラでさえ、もう少しノリが良いだろうに……」


「僕がフィノーラだったら、もう殴られてるんじゃない?」


「訂正、俺に優しいのはアストだけ…」



 薮蛇だったせいか、笑みを引き攣らせて彼は目を逸らした。やはり、いつもの様にくだらない世間話でもしに来たのだろう。そう思い、利道はさっさとヴァンを追い返そうと椅子から立ち上がろうとしたが…



「ところで、今日は割と真面目な話なんだ…」


「おや…」



 そう言うや否や、彼の雰囲気が変わる。いつもの様な軽薄な態度は一瞬でなくなり、目つきも刃物の様に鋭いものへと変わっていた。並大抵の者なら彼のこの変わり様と雰囲気に呑まれ、少しも動けなかったろうが、利道は一切動じることなく、視線を逸らさずに真正面からヴァンと向き合い続けた。

 互いに剣呑な雰囲気を出し、睨み合う様な形を取ること数分。緊迫した空気を消さないまま、ヴァンは口を開いた…



「お前、このベルフィーアをどう思う…?」


「……なんだい、藪から棒に…?」


「良いから答えてくれ」



 いつものチャラけた態度は完全に消えうせ、まるで有無を言わせぬ口調で問いかけてくるヴァン。利道は彼のその態度を不信に思ったが、その問いかけ自体にはさして悩むことは無かった。

 自分がベルフィーアに招かれた原因である魔王は既に消えた為、勇者としての役目は実質もう無い。だからと言って、このまま空賊お抱えの用心棒だけを続けるつもりは無いし、目の前にある火種を相手に知らぬ存ぜぬを貫けるような性格もしていない。

 なのでベルフィーアのこの現状をどうすれば良いのか、利道は利道なりに常日頃から考えていた。未だに根本的な解決策は思いついていないが、ヴァンの問いにすんなり答えられる程度には考えを纏める事が出来ていた。




---故に、彼は大して間を置かずに答えた…




「ひとつの世界の中に、平和な世界と争いが絶えない世界が同時に存在していて、立った場所と向けた視点で認識が簡単に変わる……まるで…」




---まるで自分の世界の縮図だ、と…… 



次の話で利道のベルフィーアに対する考察を書くつもりですが、矛盾点とか続出しそうで色々と不安です…;

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