第三十三章 一名追加
大変お待たせしました、久しぶりの更新で御座います。
先月は一度も更新出来ませんでしたが、今月はもうちょい頑張ります…;
王都から離れた草原に敷かれた道を、一台の馬車が走っていた。無駄に装飾が施され、上等な馬二頭に引かれているそれは、一目見ただけで身分の高い人間が乗る物であると分かる。このエイシェント王国に名立たるシルバニア教のトップ、ギルデロイの私物である事を考えれば、当然と言えば当然だが…
「トシミチ殿、代わりましょうか?」
「ううん。むしろ、このままで良いや」
しかし今、その御者台に座り、馬の手綱を握っているのはギルデロイの部下でも無ければ、本人でも無い。元騎士団所属のローグを隣に座らせ、心なしか楽しそうに馬車を操っているのは、一人目の勇者こと利道だった。 先日、利道の手によって自らの所業を世界に暴露されたギルデロイ最高神官長は、予想通り問答無用で牢へと繋がれた。自身の行為をあれだけ正当化しようとしていた癖に、連行されるや否や濡れ衣を主張し出したそうだが、日記や彼自身が発行した命令書、そして彼の部下達の証言が決定打となり、結局牢獄行きを覆すことは出来なかった。今頃彼は、自らの処刑が執行される日を薄暗い地下牢で震えながら待っていることだろう…
そして、現在対処できる懸念事項を全て片付けた利道は今、本格的に冥軍の対策に乗り出すべく、勇次達が居るであろう最前線へと向かっていた。
「しかし君も物好きだね、僕たちに同行したいだなんて…」
「シルバニア教を信仰する者として、自らの心に従ったまでです」
冥軍を装い、ミレイナ達の村を襲撃しようとした部隊に所属していたローグだったが、利道に部隊を退けられた後、彼は彼で色々と裏で暗躍していたらしい。冥軍出現の原因が最高神官長である事は先日まで知らなかったのだが、元からそれを抜きにしても神官達には不信感を抱いており、獣人の村を襲撃する際も上官に反発した。巨人の出現で部隊が混乱した事により、それを助長するに留まったが、最悪の場合は直接的な妨害を行おうかと考えていた程である。
村での出来事を経た後は、箝口令を無視して自分達の身に何があったのかを積極的に周囲の人間に伝え、『白い巨人は女神の使いである』と説いてまわった。本当に巨人が女神の使いなのかは分からなかったものの、そう言えば大抵の者が神官達の意思に疑念を抱くと踏んだのである。実際効果は絶大で、利道が積極的に行動していた事もあり、驚く位に短期間で教会から支持者を減らすことが出来たのだった。
そしてギルデロイが投獄された時も、自分が知る限りの全てを証言した。その過程で、白い巨人による妨害が利道の手によるものだと知る事になり、即座に彼の元へと足を運んだ。使えそうなギルデロイの私物を頂戴し、前線へ向かう為の準備を行っていた利道の元に訪れたローグは開口一番に神官長の企みを阻止してくれた事への感謝を、その次に利道の旅路に同行する意を表明して彼らを驚かせた。
「まさか来るなり『自分も連れて行け』だなんて言うとは、思いもしませんでしたね」
「そうよねぇ。ほんと、物好きな奴が居たものだわ」
「……それを君たちが言うか…」
馬車の窓から二つの声が上がり振り向くと、彼の皮肉気な言葉など何処吹く風とも言わんばかりの表情で、明らかに旅行気分な雰囲気でお茶と菓子を片手に寛いでいるヴァーディアとミレイナが居た。
本音を言えばヴァーディアを戦地に連れて行くのは嫌だったが、放っておいても彼女は自力で利道の居場所を突き止め、勝手についてきてしまう。なので彼は敢えて目の届く範囲に置いておく方が無難であると結論付け、半ば諦める形で同行を許可した。
因みに利道は最初、馬車ではなく転移魔法での移動を考えていた。ところが、いざ出発しようと思って荷物を纏めた際にとんでも無い事態が発生した。冥軍対策に必要だったのでギルデロイから取り上げた例の怪しげな水晶玉が、収納魔法で亜空間に仕舞った瞬間に暴走したのである。あの世とこの世を跨いでやって来た代物なだけあって、内包していたパワーは半端なく、暴走したそれを抑えるために久しぶりに全身全霊を持って封印術を行使する羽目になった。そして現在も暴走を抑えるために封印の術式を継続中で、転移魔法なんて高度な術式を使ったら集中力が切れて再び暴走してしまうので、目的地への移動は封印術を行使しながら馬車を用いる事になったのである。
「僕自身が文字通りの爆弾持ちっていうのもあるけれど、これから行く場所はあまり安全を保証できないんだよなぁ…」
「何を今更。それに今のこの世界で、利道様の近くより安全な場所など無いでしょう?」
「それは言えてるわ…」
「自分も心から同意致します」
洒落にならない力の奔流を強引に抑えた場面も含め、彼の実力を目撃した経験を持つ3人は、色々な意味で彼の事を信頼している様である…
「君達ねぇ……ていうか、どうしてミレイナもついて来てるのかな…?」
「あれ、王都に行った時も言わなかった? 私、ちょっと村長から仕事を任されたんだって…」
冥軍を装った騎士団を撃退し、その後もギルデロイの企みを阻止し続けて、最終的に彼を断罪する時もミレイナはヴァーディアと一緒に利道についてきた。彼の体験談の続きが気になるという点もあるが、それに加えて彼女は村長から、とある役目を与えられていた。
彼ら亜人達は(人間もだが…)国を持っているものの、それ以外の場所…国境付近や辺境地で集落を作り、生活している者も少なくない。そう言った者達は基本的に世間と隔離された状態に近く、情報が不足している事が多い。ミレイナの集落も例外では無く、あまり世間と関わろうとしないので、必要最低限の情報以外はそこまで求められなかった。しかし、ミレイナが冥軍のハグレ部隊に殺されかけ、村が人間の騎士団に襲われそうになっていたりと、最近の出来事を振り返ってみると、そうも言ってられなくなった。
そこで村長は彼女を含めた何人かの若者に、せめて冥軍騒動が終わるまでは集落の外での出来事や情報を集め続け、定期的に伝えるように命じたのである。そして彼女は村長の言われた通り、自分が目にしたもの、耳にしたものを手紙に纏め、伝書鳩や伝送士…この世界の郵便屋を用いて集落に外の出来事を伝え続けていた。
「それは僕も分かってるよ。そうじゃなくて、なんで僕に付っきりなのかってこと…」
「だって、村長が『お前はトシミチさんに付いてけ』って言ったんだもん」
騎士団を撃退したあの日…魔法で眠らせたにも関わらず、ヴァーディアはいつの間にか目を覚まして彼の行いを何処かで目撃していたらしい。翌朝になって自分がこっそり片付けた筈の厄介事の詳細が集落中に伝わっており、自分の実力の一端までもが広まっていた。利道の実力云々は元から集落の人達もある程度認識していたので大した問題にならず、利道が最も警戒した要素に注目するような人物も居なかったのでそこまで互いに気にすることは無かった……村長以外は…
「なんか村長ってば、『素性は知らんが、トシミチさんは世界の出来事に深く関わっているようだ。行動を共にしていれば、自然と色々な事を知ることが出来るだろう…』とか言ってたわよ。トシミチの素性を考えると、まったくその通りだとは思うけど…」
ミレイナの口から聞かされた村長の言葉を全く否定できず、利道は思わず苦笑いを浮かべて沈黙するしかなかった。実際、一人目の勇者という肩書を持っている時点で既に一般人とは言えず、冥軍騒動の裏で暗躍していた神官長達の企みを暴き、こうしている最中も冥軍の集まる地へと向かっている最中だ。今頃最前線で奮闘中の勇次を除いたら、現在のこの世界の出来事に最も深く関わっている人間は確かに自分かもしれない。
「ところで利道様、そろそろ話の続きが聞きたいのですが…」
「話の続き?……あぁ、すっかり忘れてた…」
言われて漸く思い出したが、自分は四つ目の世界…『ベルフィーア』での話を途中で中断していたのだった。あの時はミレイナの集落を襲撃しに来たローグ達を察知し、撃退の邪魔になるかもしれないので彼女たちを眠らせ、強引に話を切り上げたのである。その後も神官達の計画を阻止する為に奔走し続けていたので、今の今まで続きを話す機会がなかったのだ。
「ていうか、本当に僕の話なんか聞いて面白いの…?」
「当然です!! ね、ミレイナさん?」
「うん、そりゃそうよ。さぁさぁ、キリキリ喋りなさい!!」
彼女達に目をキラキラさせながら言われてしまっては、もう何も言えない。どうしてそこまで執着するのか二人に聞いてみたところ、ミレイナ曰くこの世界には利道の経験談ほど刺激的な童話や物語が少ないのだそうだ。現存する勇者伝説などをモチーフにした物語などあるにはあるのだが童話の域を出ず、如何せん盛り上がりに欠けるとの事である。一度だけ王都の本屋でこの世界の小説を手に取ってみたが、全体的なクオリティが子供の時に読んだ絵本と大差無く、元本の虫として少し悲しくなった。文化水準から考え、そういったモノがまだまだ発展途上である事を考えると、当然と言えば当然だが…
「まぁ、二人がそう言うのなら良いけど…でも内容が内容だから、出会った人間に片っ端から言い触らす様な真似は、流石に自重して欲しいんだけどね?」
「だ、そうですよミレイナさん」
「ヴァーディア、トシミチがデコピン構えてるから普通に謝った方が良いわよ…」
ミレイナの言葉を聞いて即座に土下座した彼女は、神官長を叫弾しに王都へと共に戻った際も再びやらかした。ギルデロイの企みと罪を暴いた事によって利道から『腑抜け勇者』のレッテルがとれたのを良い事に、彼女は彼の実績や秘密をこれでもかと言わんばかりに王都中に広めたのである。流石に利道が六回もの異世界召喚を経験した事実は伏せてくれたみたいだが、今や利道の名声は王国のみならず、勇次の名前と共に世界中に広まりつつある。おまけに…
「では利道様、早速4つ目の異世界での冒険のお話を…!!」
「4つ目の世界? 何のお話ですか、ヴァーディア殿?」
「何ってローグさん、今までに6つもの異世界を救った真の勇者、利道様の英雄譚に決まってるじゃありませんか……て、あッ…」
---いっそ彼女も水晶玉と一緒に封印してしまおうかと、一瞬本気で考えた利道であった…
今回の話のデキが、色々な意味で不安です…;
そして現在、これまで通り『利道の過去』を重点的にやるか、それとも今後は『七つ目の世界(現在)』を重点的にやるか悩み中です…




