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第三十一章 因果応報

大分時間が経ってしまいました…;


 人間の国と、獣人の国の境に位置する広大な森林地帯。両国の明確な国境は定められていないが、互いにこの森を一応の境界として認識しており、流れ者や一部の商人、森そのものに住み着く者を除いて誰も近寄ろうとしないのが常である。



「全隊、整列ッ!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」



 その様な場所であるにも関わらず、森の入り口付近には、とても多くの兵士達が集まっていた。一人残らず黒い甲冑を身に纏い、あらゆる武器を手に完全武装している。千人からなるその集団の立ち振る舞いはまるで、これから戦にでも行くかのようであった…



「隊長、総員配置に着きました」


「うむ…」



 馬に跨った指揮官格の中年の男は、副官である青年からの報告を鼻を鳴らしながら聞いた。冥軍との戦いを…王国の命運を握る重要な任務であると、直属の上官にそう言われこの地へと送り出された。上官の期待に応えるべく、そして自分が信仰する神の為に、彼はいつも以上に意気込んでこの地へと赴いた。己が用意できる精鋭の兵士を全て送り込み、念には念を入れて私兵も一人残らず連れてきた。

 自分が実現できる限りの事で、最高の状態である。その現状に満足して御機嫌な彼に反し、副官の青年はどことなく浮かない表情だった。そして少し躊躇いながらも、指揮官の彼に対して口を開いた…



「しかし、よろしいのですか?」


「…何がだ?」


「この様な真似、女神シルバニアの教えに、真っ向から背いているとしか思えないのですが…」



 『シルバニア教』…白銀の女神を象徴とする、人間達の国家宗教である。世界に慈愛と正義を持って悪を滅ぼし、人々を平和な未来へと導く事を主な教えとして多くの人間に信仰されており、この世界の人間の善悪の基礎にもなっている。そして何より、人を騙し、傷つけ、奪う…この世界の人々に、ただの森の獣から、文明の中で生活する人間として生きる為に、これらの行為に対して罪の意識を植え付けたのは、他でもないこのシルバニア教なのだ。



「幾ら相手が獣人とは言え、冥軍を装って彼らを襲うなんて行為は流石に…」




―――そして彼らは今宵、その悪の定義を一度に全て行おうとしている…




「何を言っているのだ、ローグ。よもや、レグトが戻らない事に怖気づいた訳ではあるまいな…?」


「いえ、決してそんな事は…!!」



 自分の言葉を否定する副官に冷ややかな視線を送り、彼は嘆息する。偵察も兼ねて先行させたレグト率いる精鋭部隊だが、昨日から何の音沙汰も無いまま戻ってこないのである。

 精鋭であるレグト隊が戻って来ないという事態は、思いのほか兵士達に不安感を与えた。彼らが戻って来れなくなる何かを恐れたという面もあるが、大半はこの若い副官と同じで致命的な迷いを抱き始めたからであろう。

 教えを破った自分達が、女神シルバニアの怒りに触れたのではないかと。先に向かったレグナ達は、神の怒りに触れ、天罰を受けてしまったのではないかと。彼らはまだ若い…故に彼らは、女神シルバニアの教えの本当の意味を、正しく理解していないのだ……



「いったい貴様らは何を恐れている? 我々はただ蛮族を…否、女神シルバニアに仇なす悪を滅ぼしに行くだけだ……」



 王国の民が冥軍に攻められ、滅亡の危機に瀕しているにも関わらず、奴ら蛮族は我々を見殺しにしようとしている。そもそも下等種族の分際で、我々と対等であろうとすること自体が烏滸がましい。その大罪を寛大な心で我々は目を瞑り、許してきたというのに、奴らはその恩を仇で返してきた。



―――そうとも、奴らは滅ぼすべき『悪』なのだ… 




「そうだと言うのならば何故、冥界の軍勢と同じ格好などを…!?」


「これは冥軍の格好などでは無い、我々の装備を夜戦用に黒く塗り替えただけである!!……もっとも、蛮族共が勝手に我々を冥軍と勘違いしようが、知った事では無いがな…」 



 そして、そのまま蛮族共は冥軍に戦いを挑まざるを得ない状況になったと思い込み、ようやく重い腰を上げて戦いに参加する。流石に一度や二度の襲撃で動くことは無いだろうが問題は無い、気が変わるまで我々はこの行いを繰り返せば良い。

 冥軍は強大だが、蛮族の戦士達も負けず劣らず強力だ。ぶつかり合えば両方とも唯では済まず、互いに疲弊していくだろう。それまで我々王国は戦力を温存し、最終的には…



「これが…これが本当に正義なのですか……!?」


「ローグ、いい加減に口を慎め。貴様が何と言おうが、これはギルデロイ様…シルバニア教最高神官長の御意思でもある。この作戦を否定する事は即ち、シルバニア教を否定するに等しいと理解しておけ」


「ッ…」


「理解したか? 理解したのなら、速やかに持ち場へ戻れ」


「……了解しました…」



 拳を強く握りしめ、明らかに不満げな表情のまま、ローグは踵を返してその場を立ち去った。そんな副官の後ろ姿を一瞥した後、彼は目の前にズラリと整列した自分の部下に号令を掛けるべく、大きく息を吸い…



「全軍!! 進げ…」


「敵襲ーーーーーーーーーーーーーッ!!」



―――盛大に咽込んでしまった…



「て、敵襲だと? 蛮族共が出てきたのか?」



 レグト達が戻って来ないせいで情報が足りず、本格的な進軍を躊躇ったのが仇になった。千人もの軍勢が何時までも同じ場所に留まっていれば、仕方の無い事だとも思えるが…

 とはいえ、やる事は変わらない。生意気にも攻撃を仕掛けてきた蛮族共を殲滅し、その全ての行いを冥軍になすり付けてしまえば作戦は完了である。



「総員戦闘準備!! 我々に仇名す蛮族共に女神の鉄槌を…」


「隊長、敵は獣人ではありません!!」


「……なに…?」


「あれを御覧下さい…!!」



 一番近くに居た兵士が指差した方へと目を向けた途端、彼は絶句した。自分達が陣を張っていたのは、境界である森からほんのニ,三キロ離れた平野だ。武器を身に着け、馬に跨り、森の中にあると言われる獣人族の集落へ攻め入ろうとしていた自分達の正面には森が広がっており、その間には何も無かった。

 だが、何もなかった筈のその場所に…彼らの目の前に、とんでも無いモノが現れていた……



「…何だアレは……何だあの化物は…!?」



―――森と軍勢の間にはいつの間にか、山のように巨大な白い巨人・・が現れていたのだ…





◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「う~ん、中々の出来だ…」



 森の入り口付近の木陰に隠れつつ、利道は突如出現した巨人を見上げていた。体長は30メートルは優に超えており、まるで雲のような身体を薄らと白く光らせ、暗い夜の平野にその巨体を見事なまでに誇示していた。 遥か向こうに居る冥軍モドキの軍団は、遠くからでも分かる位に動揺しており、ついさっきまで整っていた陣形が完全に乱れ、中には恐慌状態に陥って巨人に突撃する者さえ出る始末だ。指揮官やそれに準ずる者達が必死で兵達を落ち着かせようとしているみたいだが、あの混乱を完全に収束させるのは暫く無理であろう。



「おや、無謀な奴が数人居るな…」



 パニック状態に陥った何人かの兵が、やけくそ気味に巨人に向かって突撃を敢行してきた。それを見た利道が軽く腕を振ると、それに合わせるようにして巨人が動き出した。

 もうお分かりだと思うが、この巨人は利道が作り出した物である。彼が自身の魔力に色と実体を持たせ、三秒で生み出したのだ。やり方そのものは簡単だが、使っている魔力量が半端では無いので、この世界の普通の魔術師では決して真似出来ない代物である。

 故に、それと相対した王国軍の兵士達は、この化物が一人の人間の手によって生み出された魔力の塊である事実に気付くことは不可能だろう。



「死なない程度にデコピンスマッシュ!!」



 利道の意思に従って巨人は片膝を突き、勇ましく向かってきた兵士達を指で思いっきり弾き飛ばした。砲弾の様に吹き飛ばされた兵士達は、地面に叩き付けられる直前に利道が魔法で勢いを弱めてやり、痛い思いをするだけで済んだが、恐怖の色は一層濃くなったようだ。彼らは大慌てで陣の方へと逃げ帰り、その光景を眺めていた他の者達は、半ば怖気づいてしまい、ざわめく事さえやめていた。



「……さてと、そろそろ仕上げといきますか…」



 向こうの様子を見て呟いた利道は、この世界で仕入れた曲刀を鞘から抜かないで手に持った。そして、それを左手で鞘の部分を、右手で柄の部分を握って水平に構える…



「人が真に信じるは、『自分の世界』。人が真に恐れるは、『理解できないモノ』。それさえ解っていれば大抵のハッタリは成功する、か……」



 あの空賊曰く、『知らない事と、有り得ない事は紙一重』だそうだ。確かに、その通りだと思う。世界は丸いということ、恐竜という生き物が存在していたこと、地球が太陽の周囲を回り続けていること…今でこそ世界的な常識として扱われるこれらの事実は全て、世間に証明されるまでは有り得ない事として扱われた。常にそれらの事実そのものに、皆が触れていたにも関わらず…

 実際問題、幼い時から身に付けた常識を簡単に覆すなんて事は容易な話ではない。その常識が自分だけでなく、周りの人間にとってもそうなら尚更だ。



「だからこそ、彼らにとっての有り得ない事を実現できる僕には、色々と都合が良い…」



 この世界特有の魔法の限界は、勇次を観察していた事により把握している。自分が魔法を使える事と、その技量が彼らにとって非常識な領域に位置する事も理解している。一度だけ勇次達の前で牢破りの魔法を使ったが、この様な魔法を使えるとは想像だにしていない筈である。

 そして王国騎士団はこれらの事実を知らず、唯でさえ白い巨人のせいで混乱中だ。ここで更に追い討ちをかければ、彼らは利道の思惑通りに行動するだろう。



―――よりによって、自分達がやろうとした事と同じ方法を使われるとは思うまい…




「……それじゃあ騎士団の皆様、そろそろお帰り願いましょうか…」



 そう呟いた途端、彼を中心にして周囲から音が消えた。森の獣が、虫が、風が、木の揺れる音が、その場に聴こえていた筈のあらゆる音が消えた。まるで時が止まったかの様な静寂の中、利道は先程と同じ構えのまま、同じ場所に立ち続け、白い巨人に翻弄され続ける騎士団を見据えていた。そして…



「天照流・三の奥義…」



 流れる沈黙を打ち破るようにして、彼の周りに音が戻ってきた。しかしその音は、決して夜の自然が流す音色では無い。戻ってきた音はまるで、地鳴りのような腹の底に響くゴゴゴという恐ろしげな音だった。その音は段々と大きくなっていき、森の木々はその音だけで小刻みに揺れ、近くに居た動物達は本能的な恐怖に駆られて一目散にその場を離れていった。そして、その地響きにも似た音が、鼓膜が破れそうな程に大きくなった瞬間…



「俊迅神風ッ!!」


---利道は、己の剣を…本気の一撃を抜き放った……






◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「何をしている、早くどうにかしろッ!!」


「む、無理です!!」



 突如現れた巨人により、騎士団の様子は混迷としたものになっていた。大抵の者は巨人に恐れを為して腰を抜かしてしまい、勇んで突撃した者は簡単に蹴散らされ、遠くから放たれた弓や魔法は一切効いておらず、さっきからずっと同じ姿勢で微動だにせず、仁王立ちしたまま此方を見つめていた。正直言って、完全にお手上げ状態である。それでも尚、無様に撤退するという選択だけは、彼らの中には無かった。



「ローグ、全軍に突撃隊形を取らせろ!! あの巨人目掛け、一斉に攻撃を仕掛ける!!」


「本気ですか!?」



 その言葉に副官は驚愕していたが、最早生半可な攻撃でどうこう出来る相手では無いのは明白だ。ならばこの際、亜人共の事は忘れ、この目の前の脅威に全力で対応せざるを得ない。例えそれにより、部隊に作戦が遂行できなくなるほどの被害が出ようとも…



「今後王国に災いを齎さないとも限らん、ここで確実に討ち取れ!!」


「しょ、承知しました!! 全軍、突撃用意!!」


「……くそ、どうしてこうなった…」



 自分に従って指示を出す副官を横目に、指揮官である彼は呻くように呟いた。自分は神の教えに従い、正しい事をしている筈なのに、どうしてこうも障害が自分の前に立ち塞がるのだろうか。これも全て、神からの試練だというのならそれまでだが、あのような化物の相手をさせられるとなると、幾ら何でも度が過ぎていうように思える…




―――キィインッ…




「む…?」



 そんな時だった…彼らの耳に、甲高い金属音のような音が聴こえてきたのは……



「……何だ、今の音は…?」



 辺りを見回すと、他の者達にも聴こえたのか一人残らず不思議そうにしながら周囲を窺っていた。隣に居た副官も例外ではなく、怪訝な表情を浮かべて此方を見ている。巨人は相変わらず、同じ場所で、同じ姿勢のまま立ち誇ってたが…



「お前も聴こえたか?」


「はい…何やら、勢いよく“鞘から剣を抜いた音”の様にも聴こえましたが……」



 自分も似たような感想を抱いたが、千人もの人間の耳に一人残らず届く抜剣の音など、有り得るのだろうか。等と考えていた、その時だった…




―――パキン…




「は…?」



 突如、何かが折れる音が響いた。音の発生源へと目を向けるとそこには、柄から先が綺麗に無くなった剣を手に持って、呆然としている兵士が立っていた。良く見ると刃の部分は持ち主の足元に落ちており、どうやら折れた様だ。当然ながら、近くに居た者は何が起きたのか尋ねようとした。しかし、そうする事は叶わなかった…



―――ペキッ…



「え…」


「ちょ、俺の剣が…」


「な、何が起きて…」



 号令に従い、巨人に突撃を敢行する為に兵士達が引き抜き、構えた武器が、次々と音を立てながら折れていく。 剣が、槍が、戦斧が、楯が…数々の戦場で相手の命を刈り取ってきたそれらは、まるで飴細工の様に崩れ落ちていった。しかも、その現象は目の前だけでなく、部隊全体で起きているようで、耳を少し澄ませるだけで武器が折れる音と兵士達の動揺の声が聞こえてくる。

 しかしその騒ぎも、時間が経つにつれて小さくなっていった。武器が折れる音は次第に減っていき、最終的には兵士達のざわめきだけが聞こえ様になった。そして騒ぎが収まり、部隊がある程度落ち着きを取り戻したのを見計らって一人の兵士が指揮官の元に走り寄って来た。



「部隊長ッ!!」


「どうした、一体何が起きた…!?」


「ほ、報告します!! 先程の騒ぎにより、全兵士の武器が一本残らず使用不能になりました!!」


「兵士全員だと!? 千人分もの武器全てが!?」



 千人という決して少なくない人数分の武器が、訳の分からない現象で全て壊された…その様な事態に直面しては流石に動揺を隠せず、彼は思わず叫んでしまった。それが場の混乱に拍車を掛けてしまったのか、誰かがポツリと呟いた…



「……俺達は、女神シルバニアの怒りを買ったんだ…」



 その言葉を聞いた途端、指揮官の男は顔を引きつらせた。自分はこの作戦が神に背く行為であるとは微塵も思っていないが、一部の兵士達は先程の副官の様に不信感を抱いている。そんな状態の彼らに、このタイミングでその様な事を言ってしまったら…



「そうだ、アレは…あの白い巨人は白銀の女神、シルバニアの使いなんだッ!!」


「きっと、罪を犯そうとした俺達に罰を与えに来たに違いねぇ…!!」


「やっぱ騙してまで獣人を戦いに巻き込もうとしたのが間違いだったんだよ!!」



 案の定、先程の呟きが起爆剤となって、部隊全体に恐怖と混乱が爆発的に伝染してしまった。ただでさえ、彼らは自身の行いに疑いの念と罪の意識を抱いていたのだ。そこへ正体不明の白い巨人、更には武器が一人でに壊れるという怪奇現象に直面したとあっては、冷静でいられる訳が無かったのである。

 そして恐怖に駆られた今の彼らは、自分の身に降りかかる全ての災いを神による祟りとして認識し、目の前の巨人を白銀の女神そのものとして捉えかねない勢いだった…



「狼狽えるな!! あんなモノが女神シルバニアの意志な訳があるか!! アレは我らを誑かし、神を騙る悪魔だ!!」



 崩壊寸前の部隊を立て直すべく、声を張り上げるが大して効果は無かった。指揮官である彼の目の前で壊れた武器を投げ捨て、その場から逃げ出す者達が続々と現れた。彼の言葉に耳を貸した者は、ほんの一握りである。神官直轄部隊というだけあり、兵士の大半が信仰心の強い者達で構成されている。その為、神に対する恐怖心も一般兵より人一倍大きかったのだろう…



「えぇい、愚か者共が…ローグ、残存部隊を再編しろ!!」


「ローグの奴なら、自分の部下を引き連れて真っ先に戦線を離脱しましたが…」


「……あの小僧…」



 あの生意気で臆病な若造に思わず殺意を抱いたが、鋼の理性でそれを押し殺す。今最も優先すべき事は、依然として自分達の前に立ちはだかる巨人の対処だ。

 千人も居た部隊はいつの間にか、三百人程度にまで減っていたが、まだ終わった訳では無い。何より、ここに残った者達は自分と同じ真のシルバニア教徒。あの弱卒達とは違う、本物の信仰心を抱いた神の使徒である。本当の戦いはここからである…



「我々に敗北は有り得ない!! 我らには、偉大なる女神シルバニアの加護が…!!」



---キィン…



「……え…?」



 自分を含めた残りの兵達への激励を遮るようにして、またもやあの音が鳴り響いた。また何か起きるのではないかと咄嗟に身構えたが、なんの意味も成さなかった。身体を強張らせる彼らの目の前で、唐突に仲間の“甲冑が次々とバラバラに”崩れていったのである。

 鎧が崩れた者は動揺のあまり悲鳴を上げていたが、目立った外傷は無く、むしろ一切無傷の様である。しかし、この現象が三百人全員・・・・・に起こったとなると、何の慰めにもならない…



「に、逃げろぉ!!」


「女神シルバニアの祟りだああああああああああ!!」


「待て、逃げるなッ!!」



 訳の分からない出来事に直面し、武器と鎧を壊された今、辛うじて残っていた彼らの戦意はついに消滅した。僅かに残っていた兵達は一斉に踵を返し、一目散に逃げ出す。それでも尚、完全に瓦解した部隊をどうにかしようと指揮官の男は叫び続けていたが、自分の耳にズズンという低重音が聴こえてきた事により、思わずそっちを見てしまった。

 彼が振り向くとそこには、いつの間に動いたのだろうか、白い巨人が自分のすぐ近くにまで歩み寄っており、その山の様な巨体で自分の事を見下ろしていた。輪郭と表情がボンヤリとした白い巨人を、ポカンと口を開けたまま、声も出せずに震えながら至近距離で見上げていた彼だったが、やがて…






『去れ』






―――恐怖に駆られ幻聴を耳にした彼は、必死に女神に許しを乞いながら、部下達の背中を全力で追いかけた…




  

 逃げ帰った千人の兵士達の口より王国中に伝えられたこの出来事は、“とある勢力”の士気を激しく低下させた。そして、その結果を耳にし、一人ほくそ笑む黒髪の少年が居たのだが……当事者達が、それを知る由もなかった…


新作のネタを思いついたのですが、連載中である七界の事も踏まえて書こうかどうしようか葛藤中…

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