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第二章 一の世界

今回で確信した……十話前後じゃあ完結できないや、これ…



 彼方利道は孤児である。物心つく前に両親は事故で他界してしまい、親戚は誰も自分を引き取ろうとしてくれなかった。故に彼が施設に送られることが決定するまで、そう長い時間は掛からなかった。


 そういった事情が要因になったのか定かではないが、利道はやけに内気で大人しい子になった。大抵の時間を一人で過ごし、部屋の隅で絵本を読みふける毎日を送り、まともに誰かと言葉を交わす日なんて殆どなかった。けれど完全に周囲の人間を拒絶していたわけでもなく、話しかけてきた相手にはそれなりに接するという妙な性格もしていた…。


 もしも彼が完全に人と接することを拒んだのであれば問題になるのだが、そういう訳でもないので施設の大人たちは彼のことを大して気にしなかった。その為、利道の事を意識する人間はさらに減ってしまい、今では一言も喋らずに一日を終えるのが殆どになってしまったのである…



「ふぁあ…」



 そして今日、最初に口から出た声は言葉でなく欠伸だった。それも、夜の八時に…



「読みすぎちゃった…」



 いつも通り部屋の隅で座る自分の目の前にあるのは山積みされた絵本の数々。本日はいつにも増して読書欲に駆られ、通常の倍以上の本に手を出した。最近になってよく読むようになった分厚い小説も混ざっており、時間があっという間に過ぎたのはこれが原因かもしれない。主人公が魔王に囚われた御姫様を救いに仲間達と共に冒険の旅に出るという随分ありきたりな話だったが、このような本格的な分厚い小説を読んだのは初めてだったのでとても面白かった。


 

「……先生に見つかる前に早く寝よ…」



 持ち前の内気な性格が悪化…もとい昇華したことにより身に着いた影の薄さを利用し、こんな時間になっても自分の存在を誰にも悟られずに読書三昧だ。けれど見つかる時は見つかるし、やっぱりその時は先生の雷が落ちてくる。だからこそ、見つかる前にさっさと部屋へ逃げ込むに越したことは無い。


 そう思いながら、彼は足音を立てぬように忍び足でその場を去ろうとした……のだが…





---キイィン!!




「ッ!?」




 突然まるで金属音のように甲高い、それでいて美しく感じる音が足元から鳴り響いた。一瞬何かを踏みつけたのかと思い、慌てて足元に視線を落とした。だが、その目に映ったものは彼を余計に混乱させただけだった。




「……何、これ…?」




 まるで自分がさっきまで読んでいた物語に出てくる、光り輝く魔方陣のような物が自身の足元を中心にして部屋中に広がっていたのだ。唖然としている彼を他所に、ただでさえ眩しいくらいに光っていた魔法陣はその輝きをさらに強めていき、そして…




---カッ!!



「わッ!?」



 一瞬だけ視力をも奪いかねない程の閃光を放ち、利道はその光に包まれてしまった。意味不明で非現実的な状況に、ただひたすら混乱するしかなかった彼は目を瞑ることしかできず、流れに身を任すこつぃかできなかった。ところが、暫くして…






「……おい、お前が勇者か…?」

 


「…え?」



 突然聴こえてきた誰かの声。けれどその声は、聞き慣れた施設の人間の誰のものでもなかった。未だに不安と恐怖を感じるが、勇気を出して目を開けて見る。すると、最初に映った光景はさっきまで自分が居た部屋と本の山などでは無く、随分と豊かに生い茂っている森の木々と…




「お前が勇者なのか、って訊いてるんだが…?」



「……え、えぇ…?」




---自分に人語で話し掛けてくるだった…




「おい、まさか言葉が解らないわけじゃないよな…?」



「あ…いや、解りますけど……」



「…んだよ、だったら答えろよ。お前は勇者なのか?」



 

 大きさは普通の狐サイズなので、相手は自然と此方を見上げる形になるのだが…この狐、やけに態度がデカイ…。だが突然の事態に思考が追いつけず、ただ混乱するしかなかった利道の口からは『あ~』と『う~』しか出てこなかった。



「あぁ、クソッ!!もしかして別のもん呼んじまったのか!?」



「何をしておるかこの馬鹿者がぁ!!」



「ッ!?」



 と、目の前の狐の背後から怒声が響く。その声に狐は驚いたように身を竦ませ、そしてビクビクしながら後ろを振り向いた。つられて利道も同じ方へと視線を移すとそこには、かなり巨大なが狐を罵りながらこっちにズルズルと這いよってくる所だった。一瞬だけ彼が気絶しかけたのは内緒である…



「ゲッ!?し、師匠…!!」



「この馬鹿弟子!!どんな姿形であろうと、その魔方陣にて召喚された者は勇者であるから丁重に持て成せと言ったであろうが!!」



「だ、だけどよう…」



「黙れい!!」



「はいぃ!!」



 狐に説教する大蛇…と言う、やけにシュールな光景を目の当たりにして、再び思考がフリーズした利道。そんな彼の様子に気づき、大蛇は利道の方へと顔を向けた。その時利道は、大蛇と顔を向け合う形になったにも関わらず、不思議なことに恐怖を感じなかった。そして、大蛇はそんな彼を見てニコリと笑った様に見えた…




「ようこそ勇者様、我らの世界『ニズラシア』へ…!!」





---これが10年前の…彼方利道が6歳の時に経験した一度目の異世界召喚である……







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「ちょっと待って下さいよ!?」



「ん、何?」



「今6歳の時って言いました!?」



「言ったけど…?」


 

 薄暗い地下牢にヴァーディアの叫びが木霊する。彼女のその様子に利道は、心のそこから不思議そうな顔をしていた…。



「そんなに驚くことかい?僕の世界の漫画…いや絵巻には、何度も世界の危機を救ってた幼稚園児の話とかあったけど…」



「いやいやいやいやそういう問題ですか!?」



 とは言われても、世界を救う救わないの決意はともかく異世界に飛ばされる事自体に自分の意思は基本的に反映されない…。それに当時は幼かったということもあり、あまり事態を深刻に捉えることができなかったのだ…。



「まぁ、冗談はさておき…」



「…本当に冗談で言ったんですよね?本気で言ったわけじゃないですよね?」



「さぁね。何せ最初に訪れたあの世界は、良くも悪くも一番平和で楽しかったからなぁ…」



 あの世界での出来事は何年経っても忘れられない自信がある。人語を話す狐と大蛇に連れられて、森の奥を抜けて最初に目に入ったのは立派な城下町だった。まるで今まで読んだ絵本の世界を思い出させる中世ヨーロッパ風の町並みは、当時の利道の心に深く刻み込まれている…。 

 

 しかし、行けども行けども町に居るのは人語を喋る動物達。自分の様な人間らしき住人は一人たりとも存在していなかった。街の警邏隊は犬が、魚屋は熊が、銀行には猫が、郵便屋は鳩が……そんな感じで、現実では絶対に有り得ない光景が広がり続けていたのだ…。


 そんな不思議な光景を目の当たりにしながら大蛇と狐について行くこと数刻、自分はとうとうその街の中央に聳え立つ王城…国王が座する場所へと辿り着いた。



「国王ですか…やっぱり、王様と言うからにはライオンでした……?」



「……いや、コウテイペンギンだった…」



「……。」



 王冠とマントを身に着け、玉座におわすペンギン様…6歳児故、当時は何にも変に思わなかったのだが、今思えばシュールな光景この上無かったと思う。ましてやライオンや虎とかの猛獣達は逆にペンギン様の側近で、ズラリと並んで頭を垂れていたのだ……元の世界に帰ってからは、自分の中の動物に対する序列が物凄く狂ったのは言うまでも無い…。



「で、ペンギン様…名前は『エンテラス・デ・クラウン13世』なんだけど、その人から世界の事を色々と説明して貰ったんだよ」



「そうですか…それで、その世界はどのような危機に瀕していたのですか……?」



「何も」



「…は?」



「世界が滅びそうになる要素なんて、な~んにも無かった…」



「は!?」



 ペンギン様にこの世界が呆れるくらいに平和であると聞かされた時、自分を召喚した狐の『リーフ』、大蛇の『セレイヌアス』に勇者と呼ばれた身としては、ただただ首を捻るしか無い……わけでも無かった。ていうか、あんまり頭が良くなかったので理解が追い着かなかったというのが本音である…。



「今思い返すと説明を受けたあの時の僕、『結局、勇者ってのはただの呼び名になるんだぁ』て、勝手に結論付けてたかもしれない…」



「それは…なんというか……」



「おまけに召喚した本人達も、勇者が必要な理由が分からないって言うんだもん…」



 世界は平和、それを脅かす存在も皆無。しかし古くからの言い伝えに、とある決められた時期と条件と場所で召喚の儀式を行い、その者を勇者として持て成せとあったのだ。そうしなければ世界は滅ぶとも伝えられていたのだが、さっきも言った通り利道が呼ばれた当時のニズラシアは平和そのもの。勇者だの救世主だのが必要になりそうな要素は微塵も無かった…。



「だけど、その世界で古代からずっと伝えられてきた伝承を無下にもできず、万が一という事もあるから実行したんだって。」



「でも結局は何も起きなかった、と…」



「そういうこと、おまけに喚び方は分かっても還し方は分からないときたもんだ。いきなり呼び出しといて用無し扱いは失礼にも程があるから、帰るまでの間は面倒を見て貰える事になったんだ…」



 もっとも、自分の世界では基本的に独りで過ごしていたので未練は無く、そのまま帰れなくても別に良いやとさえ思っていたのだが…。



「僕の世話はリーフとセレイ様に見て貰ったんだけど、今思い返してもあの時は楽しかったなぁ…」



 国の大賢者であるセレイヌアスとその弟子、リーフとの毎日はとても楽しいものだった。最初は今までどおりセレイヌアスに借りた本で読書三昧だったのだが、アウトドア派のリーフに半ば拉致られる形で外に出た瞬間に全てが変わった。森の中を共に駆け回り、珍しい薬草や果物を見つけたり、不思議な現象を巻き起こす精霊たちに出会ったり……元の世界に居た時では考えられない出来事や、自身の行動に驚いてばかりだった…。


 そしてニズラシアの住人たちは異世界から召喚され、皆と全くと言って良いほど違う姿形をした自分を彼女らはすんなりと受け入れてくれる。そんな事もあり、利道は名実ともに充実した毎日を送っていた…。






「だけどそんなある日、遂に僕が勇者として喚ばれた意味を理解する時を迎えたんだ…」






---利道がニズラシアに喚ばれてから暫くして、突如世界は闇に包まれた…




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