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第二十五章 一蹴

またもや一ヶ月ぶりの更新に…;



 一つしか無い大陸で二つの大国と、何もない空白地帯に分かれた4つ目の世界『ベルフィーア』。科学の国『帝国』と魔法の国『王国』の二大勢力によって戦争が続けられ、あらゆる者達がその戦火に巻き込まれた。利道はその世界に初めて訪れた時、かつての『ゼルデ』を思い出した。あながちその第一印象は間違っておらず、世界が二つに分かれて戦いを続けているという点は同じである。しかし、このベルフィーアはゼルデと決定的に違う点が一つだけあった。 



―――俺は灰色が好きだ。白でも無く、黒でも無く、白と黒が混ざり合った灰色が…



 空白地帯に住む者達…どちらの勢力にも付かず、自身の意思を貫く者が居た。国を持たない彼らは帝国と王国に自分達が生きる土地を戦場にされ、命を軽んじられながらも逞しく生き続けた。そして、そこで自分は彼らに出会った…



―――白黒ハッキリさせろだなんて言葉は良く耳にするが、俺は御免だね。どちらを選ぶか悩む位なら、最初から両方とも選んじまえば良い…



 何かの使命感を帯びた自分と違い、彼はどこまでも自由だった。世界平和になんて微塵も興味が無く、ただ己の人生が楽しい物になりさえすれば良いと考えていた男である。わざわざ異世界から呼ばれ、世界を救うために奔走する自分を彼が笑った時は、流石にちょっとキレて本気の喧嘩になった。



―――欲張りだって?当たり前だ、バーカ。俺は騎士でも軍人でも無ぇんだ。お前らみたいにクソ真面目な生き方をする気は無いね…



 自分の願望と欲を満たすために全力を尽くす彼は、今まで嫌悪し、退けてきた外道と何ら違いは無いように思えた。だけど、何故だか彼の生き様は…



―――家族と仲間が愛したこの土地も、神様の悪趣味な台本に踊らされる親友達も、気に入ったモノは全て奪い取る。相手が国家だろうが運命だろうが、知ったことか。何せ俺は、ただの薄汚い盗賊だからな…



 抗い難き運命にさえ真っ向から逆らう彼の生き様は、どこまでも人間らしく、どこまでも眩しかった…




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 獣人族の集落から遠く離れた森の中に、その一団は居た。黒い鎧を身に纏い、鈍く光る剣と矛で身を固めた彼らはひたすら歩き続け、何とも近より難い異様な雰囲気を放っていた。行軍の最中、一切言葉を発していないのが不気味さに拍車を掛けている。その空気を察した森の動物たちは、彼らが近づいた瞬間に即座に逃げ出すくらいだった。 



「…!!」


「来たか…」



 故に、彼らは自分達の前方にポツンと佇む一人の男にすぐ気が付いた。こちらとはまた違う質の黒色で統一した衣服とマントを身に纏い、腰には細長い曲剣を携えている。顔には依然として幼さが残っており、年齢はまだまだ少年の域を出ないだろう。

 そんな彼に対して、行進を続けていた黒騎士達のうちの一人が腰から剣を引き抜き、躊躇せず斬りかかった。少年と黒騎士の間にはそれなりの距離があったが、黒騎士はどこか洗練された動きで一気に間合いを詰め、剣を目の前の少年へと振り下ろした。剣はヒュンと風切り音を出しながら、真っ直ぐに少年の頭へと向かって行き…



「なッ!?」


「……欠伸が出そうだ…」



―――触れる直前、瞬時にして柄から先が消滅・・した…



「な、何をした貴様!?」


「こいつ…!?」


「馬鹿、喋るな!!」



 その光景を目撃した途端、塞き止められていた何かが解き放たれたかの如く、ざわめき出す黒の一団。どうやったのか眼前で剣を一瞬で使用不能にされた黒騎士も動揺して動きを止めてたが、それが大きな隙となってしまう…



「もう殆ど確信しているけど…」


「え…」


「念の為に、確かめさせて貰う!!」



 キンッと僅かな金属音が響いたその瞬間、少年の目の前に居た黒騎士の鎧が砕けた…否、細切れにされた。そして黒騎士が立っていた場所には装備を全て外させられ、無傷で呆然としている男が立ち尽くしているだけであった…



「……こんな真似をする位なら、最初から直接『冥軍』と戦えば良いものを…」


「貴様ッ…カナタ・トシミチか!?」


「んなッ!?こいつが、勇次様でさえ手も足も出なかった『黒髪の覇王』!?」



 その容貌と技量を目の当たりにして思い出したのか、少し離れた場所で此方の様子を窺っていた黒騎士の一団から幾つもの声が上がる。その声を聴いて我に返ったのか、武装解除された先程の黒騎士は血相を抱えながら利道から逃げ、一団の方へと慌てて逃げ戻った。

 それから暫く緊張に包まれた膠着状態が続いたが、やがて騎士団の隊長格らしき男が利道の方へと歩み寄って来た。そして、何やら仰々しい態度で話しかけてくる…



「御機嫌麗しゅう、トシミチ・カナタ様。自分はこの騎士団の隊長を任されました、『レグト』と申します。以後、お見知りおきを…」


「これはこれは、御丁寧にどうも」


「……トシミチ様、何故このような場所に?この近辺には蛮族の集落がある上に、冥軍のハグレ部隊が度々現れる危険地帯なのですよ…?」



 口調から察するに、このレグトという男は王城に居た騎士の内の一人のようだ。基本的に利道の存在は王都に籍を置く者にしか伝わっておらず、地方の戦砦や駐屯部隊の者達はその詳しい情報さえ教えて貰ってない。ヴァーディアが広めた噂のせいで、今はどうなっているか知らないが…

 だが『蛮族』という言葉を使ったという事は、この男は間違いなく王都出身だろう。何せ、あそこ居た連中の殆どは亜人達を『蛮族』と称し、嫌悪すると共に侮蔑していた。それでいて自分の事を知っている風に話すということは、王都もしくは王城に勤務していた者に他ならない。

 さっきまでミレイナ達と過ごしていた事もあり、正直言って目の前の男には不快感しか抱かなかったが、今はまだ表には出さない。ひとまず利道は、レグト隊長の問いかけに答えた…



「確かに居ましたね、冥軍。10体ばかり……」


「そ、それは本当ですか…!?」


 

 先日の出来事を踏まえてそのまま答えただけなのだが、レグトは予想外なくらいの動揺を見せた。利道は『おや?』と思い、彼の背後に控える騎士団の様子を遠目で窺ってみたが大体同じ様な感じである。まさかと思い、ちょっと揺さ振りを掛けてみる事にした…



「あぁ、本当さ……見つけたのはさっきだから、まだその辺に居ると思うよ…?」


「何ですと!?」


「おい、話が違うぞ!!」


本物・・は居ないんじゃ無ぇのかよ!?」



 利道のその一言により、騎士団は瞬時にして混乱状態に陥る。彼らにとってよっぽど想定外の事だったのか、明らかに喋ってはいけない様な単語まで聴こえてくる始末だ。最早これ以上、事の真相を確認する必要は無い。迷わないで済む程度には充分な確証は得た、あとはいつも通りに行動するだけ…



「ところで、あなた達は何をしにここへ?」


「わ、我々はこの近辺に現れる冥軍を撃退するべく派遣された、討伐隊です。」


「へぇ……白銀の鎧が正式装備の王国軍が、冥軍と同じ黒色の鎧を着てねぇ…」



―――冥軍の格好をして、冥軍の名前に恐怖しておきながら、何とも白々しい事だ… 



「ところでトシミチ様、一体今まで何処に行かれていたのですか?勇次様は勿論のこと、巫女のクリスティア様も心配なさっておりましたよ?」



 流石にこの雰囲気は不味いと思ったのか、レグトは話題を切り替える事を試みたようだ。だが利道にとってこの話題は、逆に好都合な事この上なかった。目の前のレグナでさえ気付かない程に小さく、そしてどこか冷たい笑みを浮かべながら、彼は口を開いた…



「その事に関しましては、大変ご迷惑をお掛けしました。ただ僕は、漸く自分の役目を果たす気になったのです。その役目を果たす為には、王都から離れなければなかったのです…」


「役目…と、言いますと?」


「今ここで、改めて誓いましょう。この僕、彼方利道は世界救済の役目を引き受けると…」


 

 利道の言葉を聴いた途端、さっきの空気はどこへやら。あっと言う間に騎士団の雰囲気は明るい物へと変わっていき、勝手に盛り上がり始める…

 


「おぉ!!それは本当で御座いますか!?」


「勇者に加えて覇王が俺達の味方になったという事か!!」


「やったぞ!!これで冥界の軍勢に勝てる!!」


「エイシェント王国に栄光あれ!!」



―――すぐに一人残らず、他でも無い利道自身の手で絶望に叩き落とされるとも知らず…



「いや、貴方が行方をくらました時はどうなるかと思いましたが……しかし、これで安心です。勇次様に加え貴方が味方に付くとなれば、王国は無敵となりましょう!!」



 騎士団の心情を代弁するかのようにレグト騎士長は語りながら、彼は利道に向かって手を差し出してきた。どうやら、握手を御所望のみたいだ。

 しかし、敢えて利道はその手を取らなかった。その事にレグトは僅かに怪訝な表情を見せ、暫く利道が差し出した手を取ってくれるのを待っていたが遂に諦めて手を引っ込めた。そして気を取り直し、再び口を開いた。 

 


「では取り敢えず、貴方の無事を報告する事も兼ねて我々と王都へ…」


「あ~何か勘違いしているようですが、僕は世界・・を救うと言ったのですよ?」


「……はい…?」



 だがその言葉さえ、利道に遮られてしまった。レグトは思わず随分と間抜けた声を出しながら聞き返したが、利道は一切のお構いなしで言葉を続ける… 



「だから、僕は世界の救済をやると言ってるのです」


「……仰りたい意味が、分からないのですが…」 


「いや、ね……最初は駄々をコネて迷惑を掛けた手前、勇者としての責務はキッチリと果たすつもりですよ。冥軍との戦いに終止符を打ち、世界を救います…」


「でしたら…」


「だけど、それはこの世界全体の為であって“王国の為じゃ無い”」



―――その言葉が彼ら騎士団の耳に届いた時、辺りは水を打ったかのような静けさに包まれた…



「だからこそ、僕は何とだって戦ってみせましょう。世界に混沌を齎す者が冥界の軍勢であろうが、君達が蛮族と称する亜人達であろうが退けてみせましょう……そして…」



 沈黙し、固まるようにして立ち尽くしている騎士団をしり目に、利道はゆっくりと腰に下げた刀に手をやる。そして…



「冥軍のフリして獸人族の集落を襲い、無駄に戦火を広げる王国軍とだって戦いましょう…!!」


「ッ!?」


 

 言うや否や、利道は愛刀を抜き放つ。傍から見れば、たったそれだけの動作。にも拘わらず、彼の目の前に居たレグトは身に着けていた装備を全て細切れにされながら吹き飛ばされ、森の木々に叩き付けられて沈黙した。

 


「れ、レグト騎士長!?」


「そ、総員抜剣!!トシミチ様を…否、逆賊を殺せッ!!」



 隊長が瞬殺され、浮足立つ騎士団だったがすぐに持ち直し、一人残らず武器を掲げて利道に向かって襲い掛かる。先日遭遇した本物の冥軍と比べたら激しく見劣りするが、訓練された兵士なだけあってそこらの盗賊や普通の獣人よりかよっぽど危険である。



「……馬鹿共が…」


「な、に…?」



 しかし生憎この程度の敵、ゼルデは愚かソーサレイドにゴロゴロ居た…否、これ程脆弱な者は逆に一人も居なかった。あの世界の戦場に居た者たちと比べたら、こんなモノ障害にすらならない。

 


「生まれ変わって出直せ…!!」


「「「「「うわあああああああああああああああああ!?」」」」」



 持った刀を右から左へと一閃…たったそれだけで、騎士団は一人残らずレグトの二の舞に遭った。身に着けていた装備は目に見えない位に細切れにされ、攻撃の余波で勢いよく吹き飛ばされていく。ある者は大木に衝突し、ある者は宙に飛ばされた後に地面に叩き付けられ次々と意識を失っていく。何人かは気を失わずに済んだものの、痛みで立ち上がれずに呻き声を上げるしか出来なかった… 



「神官共め……何処の世界に行っても、信仰を食い物にする奴はロクデナシか…」


「う…がはッ!?」



 一人残らず無力化したことを確認した利道は、最初に吹き飛ばしたレグトの元に歩み寄って彼を蹴り起こした。激痛で苦悶の表情を浮かべているが傷は負っておらず、“他の騎士団と同様”に命に別状は無い。なので遠慮はしないし、敬う気は無いので敬語もやめる。 



「さてと、色々と教えて貰おうか。まぁ、さしずめ…いつまで経っても協力してくれない獣人達に、戦いに参戦して貰うための偽装工作ってとこかな……?」


「な、何故そのことを……がはっ…」


「それは企業秘密ということで…」


「クッ…調子に乗っていられるのも、今の内だ化け物め……!!」


 

 半分虚勢の様に見えたが、レグトは此方を馬鹿にするような高笑いを上げながら言葉を続けた… 



「ふ、ふはは!!もうすぐ貴様も、あの薄汚い蛮族共も終わりだ…この世界において王国の威光は、絶対なのだ!!我々が何の準備もせずに来ると思ったか?馬鹿め、我々に抜かりは無い!!」


「本物の冥軍と遭遇する可能性や、こんな稚拙な作戦で獣人族が本当に騙せるか考えて無かったのに?」


「黙れ!!」


 

 痛い所を突かれたせいか、割と本気でレグトは怒鳴り返してきた。それでも尚、彼はすぐに冷静さを取り戻して此方を嘲笑することを再開するのだが…



「見ていろ、すぐに王国の精鋭部隊が貴様らを……」 


「精鋭部隊って、ここから東の方に待機してる“千人ぽっち”の盗賊こと…?」


「……え…?」


「当たりみたいだね……あ、もう用は無いから、君は寝てて良いよ…」


「ごふ!?」



 起こした時と同じ場所を蹴り飛ばし、今度は強引に眠らす。魔法を使えばもう少し安らかな眠りに誘う事が出来るが、彼に使ってあげる気にはならない。



「さてと、他にはもう居ないよね…?」



 自分に敵意を向けれる様な者が周囲に残ってないことを確認した利道は刀を鞘に納め、マントを翻してその場を後にする。向かう先はレグトも言っていた、精鋭(自称)が来ることの無い命令を待つ駐屯地。

 地下牢に籠っていた時に、鼠達から人間至上主義で亜人嫌いな神官達による計画を教えて貰ったのが全ての始まり。王国を脅かす冥軍と目の上のタンコブである亜人達を衝突させ、これを機に邪魔者を全て排除しようというこの計画は、今頃世界を救うために奮闘しているであろう勇次の行為を全て無駄にしかねない。さっきのレグト達の手際の悪さからも察せる通り、この計画は恐ろしく杜撰な上に後先の事をまるで考えていない。例え冥軍の件が片付いても、この調子で行くと… 



「……まだ取り返しはつくけど、最悪の場合は王国を…」 



 レグト達にも言ったが、自分は己を喚び出した世界を救うために行動する。故にそれを脅かす存在であるのならば、かつての『ゼルデットの末路』を再現するまでだ。もっとも、その選択肢しか残らない未来を避けるために、自分は行動を開始したのだが… 

 


「……ならこんな時、どうしたかな…?」



 こんな奴らよりずっと賢くて、ずっと逞しくて、ずっと素晴らしい奴だったあの男。彼は二人の親友の為に世界を相手取り、挙句の果てに勝利した。白と黒に分かれるのが当たり前の世界で、最後まで灰色の立場に誇りを持ち、その矜持を貫いた。


 

―――そんな彼ならこの世界でも、自分より上手く事を運べたのではないかと、つい思ってしまう…



「ま…弱音ばかり吐いてたら、それこそ鼻で笑われかねないし、そろそろ次に行こうかね……」




 一人苦笑を浮かべながら、彼はゆっくりと歩み始めた。かつて彼と共に、二人の魔法使いと兵士の為に世界を救った、四つ目の世界『ベルフィーヤ』での事を思い出しながら…




「利道様あああああああぁぁぁ!!」


「……もう驚かないよ…」


「トシミチーーーーーーーーー!!」 


「……流石に君まで来るのは予想外だった…」



四つ目の世界『ベルフィーア』は、以前書いてた『黒猫~』の世界をベースにする予定です。

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