第二十四章 本格始動
1ヶ月ぶりの更新になってしまいました…;
「つまり何かい、勘だけで僕の居場所が分かったと…?」
「はい!!あと、風に乗ってきた利道様の匂いで…!!」
「……君は犬か…?」
ヴァーディアの唐突な再会の後、利道はミレイナ達の村に戻っていた。切り倒した樹木は村の人達に任せ、先に戻って休むように言われたのだ。正直な話、全然疲れてなかったがヴァーディアも居ることだしお言葉に甘えることにしたのである。しかし、当然のことながら…
「ねぇねぇトシミチ、その人って誰なの?知り合いみたいだけど…」
ミレイナに訊ねられない訳が無かった。無論、他の村人たちも同様で話を聴きたがってる様子を見せている。しかし彼女の素性をそのまま話すとなると、自分の事もある程度は話さないといけなくなる。自分の異常さをある程度受け入れてくれているとは言え、どこまで話していいのか微妙なところだ…
「えっと、彼女はヴァーディアって言うんだけど……取りあえず御察しの通り、知り合いだよ…」
「そんな利道様、私とのことは遊びだったのですか…!?」
「あんまり冗談が過ぎると怒るよ…?」
「始めましてミレイナ様。私、エイシェント王国王城にて侍女をしております、『ヴァーディア・マリアーヌ』と申します。以後、お見知り置きを…」
利道の一言で、一瞬にして態度を変えたヴァーディア。彼女のその様子にミレイナは若干引き気味になったが、名乗って貰った手前ちゃんと返事をする…
「よ、よろしく…私は『ミレイナ』よ。トシミチには昨日、『冥界の軍勢』に襲われているとこを助けて貰って知り合ったわ」
「あら…ちゃんと勇者してるんですね、利道様!!」
―――咄嗟に魔法込みの全力で彼女にデコピンを放った…
「痛ったああああああああああぁぁぁぁぁぁ!?頭がもげるうううううぅぅぅぅ!?」
「君ってワザとやってるでしょ…?」
その肩書きと立場を使って何かをするつもりは無いが、むやみやたらに教えて良いモノでもない。だから頃合いを見てから言おうかどうしようか悩んでいたのだが…
「……今、勇者って言った…?」
ミレイナにはバッチリ聴こえてしまったようだ。思わずデコを抑えて地面をゴロゴロとのたうち廻ってるヴァーディアを睨みつけるが、当の彼女はそれどころじゃ無いようだ…
「へぇ、トシミチって勇者だったんだ。ちょっと納得したかも…」
「ははは…まさか、僕が勇者なわけ無いじゃないか。王国に召喚された勇者の特徴は、君も知ってるだろう?」
「茶髪でノッポ、煌びやかな聖剣に白装束だっけ…?」
ミレイナの言った勇者の特徴が勇次のものであることに、利道は安堵する。王国も兵士たちの士気高揚や民衆の支持を集めるために、しっかりと勇者のことを宣伝していたようだ。
「そうそう。ほら、僕は全く違…」
「で、その勇者をパシリにした最強の男は黒髪黒目の優男…そっちね、トシミチは?」
「え゛…?」
咄嗟の事に思わず反応できず、引き攣った笑みを浮かべて固まってしまった。その利道の様子からミレイナは、自分の予想が当たったことを確信する。
「うわぁお…凄い人だとは思ってたけど、まさか勇者を超えた『黒髪の覇王』様だったなんてね……」
「ちょっと待って、何その異名!?ていうか、どうしてそんな勇者の顔に泥を塗るような話が広がってるわけ!?」
「はい!!私が広めました!!」
―――本日二度目のデコピンが炸裂した
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……というわけで、あんまり言い触らさないで欲しいのだけど…」
「正直言うと面倒だけど…命を助けて貰った手前、断ったりはしないわよ」
「ありがとう、助かる」
あれからデコピンを喰らって悶えるヴァーディアを引き摺るようにし、ミレイナの家へと案内された。今はお茶を出して貰いながら、彼女にさっきのヴァーディアの話について説明をしている。そして、その事は出来るだけ他の者達には伏せておいて欲しいということも…
取りあえず、村の人全員に素性を明かすことは保留ということになった。この村の住人達には話しても良いかもしれないが、彼らを経由して誰に伝わるか分からない。下手をすると、巡り巡って王都に噂が伝わって勇次達が来るかもしれないのだ…
「別に良いじゃないですか、むしろ一緒に王都に帰りましょうよ…」
「それは無理…」
隣に座っていたヴァーディアがボヤくが、利道としてはそれは勘弁して欲しかった。勇者の予備戦力として扱われるのは別に構わないが、このままだと勇次では対処しきれない事が起きるかもしれないのだ。そして、それを防げるのは恐らく自分だけ……ならば、やるしかあるまい…
「……分かりました、連れ帰るのは諦めます。けれど同行はさせて貰います…!!」
「邪魔だから帰って……と言っても、無理やりついて来るんだろうね…」
「当然です」
彼女の場合、異世界にすっ飛ばされてもその日の内に戻って来そうである。利道は溜息を一つだけ吐いて彼女から離れる事を諦め、さっさとこれからの事について考え始めた。
「……取りあえず、外見的特徴は広まってるのか…」
そう言って利道は徐に指をパチンと鳴らした、すると…
「「……え…?」」
ヴァーディアとミレイナの声が見事に重なったが、無理も無い。何せ目の前に座る利道が指を鳴らした瞬間、彼の髪の色が闇夜のような黒から雪の様な銀髪へと色を変えたのだ。その二人の様子に利道は怪訝な表情を見せたが、すぐに何かに思い至り後悔する…
「もしかして、この世界にこういう魔法は存在してない…?」
「え…あ、はい。魔法とは戦いの為の武器であり、それ以上でもそれ以下でもありません。」
「本当に凄いねトシミチ!!もしかして、金銀財宝や豪華な料理も出せちゃうの!?」
「ははは、出来ない事も無いけどここでは無理…かな…?」
この魔法は四つ目の世界で出会った友に教わり、それ以降に訪れた世界でもよく使わせて貰ってるが重宝している。ミレイナの要望も、彼なら普通に応えれたかもしれない。魔法に関しては彼の方が上であり、同じ時代を生きている限りその分野で彼を追い抜くのは無理だろう…
今思えば、『ゼルデ』の世界で力を手に入れた自分と本当の意味で対等に接してくれたのは、後にも先にも四つ目の世界で出会った彼らだけだったのだから…
「……元気でやってるかなぁ、皆…」
「トシミチ…?」
「あ…いや、何でも無いよ。それより、少し散歩に行ってくる」
「え、ちょ…!?」
言うや否や彼は立ち上がり、彼女達が戸惑うのも無視してさっさと外に出て行ってしまった。しかし、ある意味それは仕方の無い事だ。四つ目の世界…魔法を教えてくれた友と『ベルフィーア』での事を思い出したら、悪巧みの塊とも言えるもう一人の友人の事も思い出した。彼と共に居たせいか、大抵の人間が思いつきそうな策略やら謀略には敏感に察知できるようになってしまったのだ。
魔法同様、現在進行形で凄く役に立っているのだが…
「さてと、そろそろ奴らが動き出す頃か…」
彼と比べたら、そんじょそこらの策士が立てた計画なんて穴だらけで蜂の巣も良いとこだ。隠密性も、正確さも、周到さも、意表の突き方も全て中途半端だ。故に、ぶち壊してやるのも簡単である…
「……んじゃ、サクッとやろうかね…」
その呟きと共に彼は集落を離れ、ひと気の少ない森の方へと足を進めた。獣人の耳ですら聞こえないほど遠くから届く、大勢の者達の足音が響く方向へと…




