第二十三章 獣人族の村にて
話が進んでるような進んで無いような…
―――最近、何かがオカシイ…いや、オカシかったのは最初からだったのかもしれない。
―――ニズラシアから帰った時も、ソーサレイドから戻った時も、ゼルデで全てを終わらせた時も、自分の中で何かが渦巻いていた…
―――異世界へと跳ばされる度に何かを得て帰ってくる自分は、元居た世界に帰ってもそれなりに上手く過ごすことが出来た。積極的に人と関わろうとしなかった幼少時代と比べれば、大きく進歩したと言っても良い…
―――運動はそれなりに得意だったし、勉強だって人一倍出来た。自分で言うのも何だが、それなりに人望もあって友達も多かった…
―――傍から見れば、理想的で充実した毎日を送っていたと言っても過言では無い…
―――だけど、帰って来た自分の世界で…
―――どれだけ友と笑い合っても…
―――どれだけ動物達と触れ合っても…
―――どれだけ身体を動かしても…
―――どれだけ空を見上げても…
―――この胸の中で蠢くモヤモヤが消えることは、最後まで無かった…
―――何故、言いようの無いこの感覚は消えてくれないのだろう…?
―――そう思い、幾度となくこの感覚が何なのか考えてみたが、やはり答えを見つけることなど出来やしなかった…
―――この感覚が何なのか気になるのは確かだったが、別に分からなかったところで生活に支障が出る訳では無い。何時までもそんな事に考える時間を費やせば、それこそ逆に日常に悪影響になる…
―――だから僕は、この得体の知れない感覚から目を逸らす事を選んだ…
―――その感覚の正体を知り、自分が壊れる音を聴いた、あの日を迎えるまで…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……重ッ…」
周囲を見渡せば、自分を取り囲むようにして聳え立つ大木の数々。その一本一本は並の一軒家を軽く凌駕するような大きさを誇っており、物言わぬまま圧倒的な威圧感を溢れさせている。
そんな木々に囲まれるようにしながら、森の中を歩く一人の少年が居た。全身黒ずくめで腰には曲刀…日本刀を携えており、頭には黒ハットを被っている。心なしか、その彼の表情は優れない…
「ちょっと、それって私が重いってこと?」
「いや、重たいのは君が乗っているモノだよ…」
げんなりした表情で呟きながら彼…利道は後ろを振り返った。するとそこには、この森に聳える木々の中でも特に巨大な樹木が倒れており、その上には獣人の少女が座るようにして乗っている。
「……コレをここまで普通に持って来て言われても説得力無いんだけど…」
「そう…?」
因みに利道の手には、この巨木の枝の中で最も太い部分が握られている。さらに彼の通った道には、何か巨大なモノを引き摺ったかの様な跡が延々と続いていた。
もしかしなくてもこの巨木は、利道が一刀の元に切り倒し、そのまま彼自身の手でココまで引っ張ってこられたのである…
「ていうか、本当にコレ切って良かったの?それが分からないからこそ、君を呼んだんだけどさ…」
「大丈夫、大丈夫。私達『森の住人』にとって、このサイズは手頃の分類に入るわ。むしろ、これより小さいのはまだ成長途中だから逆に駄目よ」
「ふぅん…」
『冥界の軍勢』に襲われる彼女を助け、お願いされた通り村に送り届けた翌日。ほんの少しとは言え化け物染みた力の一端をミレイナに見せた手前、村の人達にはすぐさま追い払われるなりなんなりされると思っていた。強すぎる力を無闇にさらし、普通の方々に恐れられた経験はこれまでにも何度かあったし、それが原因で野宿する羽目になったのも一度や二度の話では無かった…。
けれど意外な事に獣人族の人達は、ミレイナの命の恩人として普通に接してくれた。彼女が自分の目にした利道の力を余すことなく、それも少々誇張して伝えたにも関わらず村の人達は彼をすんなり受け入れたのである。こういう気質の人達にも何度か出会ったことはあるが、実際そんなの全体に比べたらほんの僅かなものだ。
なので『何かしら裏があるのでは?』と思い、その辺に居た若い村人にちょこっと魔法を使いながら本音を聴いてみたのだが…
『アンタがミレイナの言う通り化物みたいに強かったとして、どうやって追い出すんだよ…』
『そんな人に失礼な態度とって怒らすくらいなら、媚び売ったりゴマ擦ったりして御機嫌とった方がよっぽど有益じゃないか』
『まぁパッと見アンタは本当に良い人みたいだから、俺達は普通に仲良くなりたいと思ってるけどね』
―――半端無い罪悪感に駆られる結果になった…
長年掛けて編み出した『サトリ魔法』の効果は百発百中であると自負している。故にこの村人の言った言葉は全て真実だと思って良いだろう。正体不明の相手に最初から本心を晒すなんてしないのは当然の事だし、柔らかく接するとしてもあくまでそれは礼儀や建前でのことに過ぎない。
もっとも、一応彼らが自分を拒絶してない事は確かなようだし、それが分かればもう充分だ。
そんな感じでこの村で御厄介になりながら一夜明け、朝のうちにこの事を知り、今は昼を迎えた。まだ大雑把な方針しか決めていない上に、もしかすると目的のモノがこの村に来るかもしれない。どちらにせよ、当分居座る事になる可能性があるのならば、村の仕事を何か手伝うのが自分なりのルールだ。
というわけで、森でのメジャーな仕事全般を扱ってる彼らから『木こり』の仕事を任されたのだが…
「そもそも、普通は半日掛かる仕事を半瞬で終わらせた自覚ある…?」
「……。」
「あ、一応あるのね…」
さっきも言ったが、利道は今自分が引き摺っている大木を一太刀で切り倒した。何十何百と斧を叩き付けてやっと倒れるデカさのモノを、だ。しかもそれだけに飽き足らず、魔法で補助しているとは云えそれを一人で村の近くまで引っ張って来たのである。その一部始終を見ていたミレイナは途中から驚くのをやめ、呆れるしか無かった。
「正直言って、アレを見たら村の皆はブッたまげた後に大騒ぎするわよ?しかも、絶対にあなたを放置しないわね…」
「ははは、今度こそ追い出されるかな…?」
「いや、むしろ最強の働き手として定住することを望むかも…」
「……。」
半ば冗談で言ったことに返されたこの言葉には、思わず引き攣った笑みを浮かべるしか無かった。何となくこの村の人達がどんな性格してるのか解ってきたかもしれない…
「と…そろそろ村の近くね、これ運ぶの手伝って貰う様に皆を呼んで来るわ。トシミチはちょっとそこで休んでて」
「ん、分かった」
言うや否や彼女はさっさと村の方へと行ってしまった。一人残された利道は引っ張ってきた大木を背に地面へと腰を下ろし、お言葉に甘えて休憩を取る事にした。心地よいそよ風が顔を撫で、耳を澄ませば鳥のさえずりが聴こえてくるし、上を見上げれば綺麗な青空がどこまでも続いている…
「……暫く牢獄に引き籠ってたからなぁ…」
短い間だったが、認めたくない現実から逃げるために自分は担うべき役目を放り出してあの地下牢に閉じこもった。それは全部自分の身勝手でやったことだし、今はその身勝手で世界を救おうとしている…
自覚したのは五つ目の世界から帰って来た時で、トドメになったのは六つ目の世界に行った時だ。けれどこの認めたくない現実というものは、一番最初…ニズラシアから帰って来た時から始まっていたのかもしれない。
「だけどそれは…僕が認めれないだけで、本当の現実は違う……」
これは自分の問題であり、自分のエゴが原因だ。幾ら自分にとって辛いことだろうが、そんなの世界に生きる人達にとっては関係ないことだ。ならば自分の問題は後回しにして、今はただ目の前のことに全力で当たる方が現実的で合理的だ……ただ問題を先送りにしているだけかもしれないが…
「まぁ、なるようになるさ。今回ので駄目なら……」
―――『世界を助けて』とか『我らを御救い下さい』とか言われる前に、今度こそ…
「……とにかく、今は休むとしようか…」
しかし、本当に空が青い。殆ど文明が衰退していたニズラシアやソーサレイドの空も凄く青かったが、ここも負けず劣らず澄み渡っている…
「ピクニックには打って付けだなぁ……今度はお弁当持参で散歩しよう…」
「紅茶と焼き菓子ならありますが、いりますか?」
「ん、欲しい」
「どうぞどうぞ」
渡された焼き菓子と、水筒に入れられたそれをありがたく頂く。良い感じに狐色に焼かれた焼き菓子は程良く塩で味付けされており、小腹の空いた今の状態には丁度良かった。そして、ほのかに温かい紅茶がまた美味しさに拍車を掛ける…
「うん、美味しい…」
「それは何よりです」
―――ちょっと待てぃ…
「……『何で此処に居るの?』とは訊かないけど、どうして僕の行方が分かったのかな…?」
「利道様への愛故に、です!!」
この世界に来た時からずっと自分に構い続けてくれた彼女…ヴァーディアはいつもの良い笑顔で、いっそ清々しい位にそう言い切った。
やっぱあんまり進んで無い…orz




