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第二十章 三の堕天

やや久しぶりの更新で御座います。本当は昨日更新するつもりだったんですけど、途中でやらかしまして…


まだ不完全ですが、今回で利道の召喚者としての思想がある程度確立されます。


 ゼルデの世界において、最も煌びやかな栄華を誇っていた天空都市ゼルデット。白き翼と魔法により支えられてきたその都は今、その長い歴史に終止符を打とうとしている…


 芸術的であった街並みは悉く破壊され火の手が昇り、それを守る騎士団は軒並み地に倒れ伏していた。長くこの都市を見守り、天空都市で最も神聖とされる大聖堂に至っては文字通り跡形も無く消滅させられており、辛うじて意識を保っている者達は心の底から絶望した。


 そして同時に憤怒と戸惑いを、この惨劇を“たった一人で”作り上げた男に向けた…



「何故…何故このような……!?」



 その男は本来、自分達の力となるべき存在だった。忌々しいデモニアを根絶やしにする為の、最強にして最恐の剣。その剣は今、どういうわけか自分達にその刃を向けている…



「正義は我らにあるのですぞ…!?」



 この世界ゼルデにおいて、ゼルデットは至上の存在。地上に住まうどの生物よりも長い歴史を誇り、奴らでは足元にも及ばぬほど素晴らしい繁栄を見せた。そして何より…



「我々は、正しき歴史の名の下に聖戦を…」



 その正しさは異端の考古学者ロータスが証明している。奴の処分し損ねた資料とデータの数々は、我々に絶対の正義を保証してくれた。


 だからこそ我々は、新たな剣を異世界から招くことを決意した。


 その剣を使って今度こそ地上を、先祖が命懸けで造り出した地上を奪い返すと決意した。


 ゼルデットから大陸を奪った、デモニアを根絶やしにしようと決意した。



―――しかし…





「くだらない…」




―――突如として帰ってきた裏切り者は、そう言うや否や二人目の勇者召喚の儀式を壊した…



―――天空都市を壊した…



―――立ち塞がる騎士団を壊した…



―――歴史を壊した



―――繁栄を壊した



―――誇りを壊した



―――壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して、そして遂に… 


  



「結果論で言えば、確かに君達にも正しさはあった。正義はあった……だけど…」



 見方によっては、ゼルデットは先祖の土地を取り返そうとしただけだ。先祖が多くの犠牲を払って生み出し、そして奪われた大地を取り戻そうとしていただけだ。


 けれどそれは、結果論に過ぎない。



「君達は、そんな事と関係なく殺戮を楽しんだ。デモニアに対する虐殺を行った。その歴史を知る以前から、君達は最悪の存在だった…」



 ゼルデットの民がこの事実を知ったのは、つい最近のことだ。その歴史を知る以前から彼らはデモニアの迫害を行っており、根拠のない正義を掲げていた。


 あの正義が、あの行為が、あの虐殺が神聖なものなどと認める気は無い。



「目を逸らし、大分遠回りをしてしまった。でも、それも今日までだ…」



 辿り着いてすらいない結果だけに目をやり、目の前の光景を直視できていなかったとようやく自覚することが出来た。



 種族がどうした?……獣が獣を襲う様に、人が人を殺すことが当然の世界で何をぬかす…


 

 歴史がどうした?……僕の世界に在る国は全て、多くの戦と犠牲で今を創った…



 平和がどうした?……あらゆる可能性の中からコレを選んだのは他でも無い、お前達自身だ…




「こんな結末よりも、より良く穏やかな未来はあった。誰の血も流さずに迎える未来もあった。僕がお前達に呼ばれることも無ければ、こんな風に滅亡を齎さずに済んだ未来もあった。だけど、それでもお前達はこの未来を選んだんだ…」



 ゼルデットに戦いの意思を捨てる気配は無く、それどころかより一層強い戦意を持った。この世界に座する大陸の規模が想像以上に広大であり、デモニアとゼルデットの両者が揃ったところ管理しきれない程の大きさがあると分かっても、その意思は変わらない。


 デモニアが戦いを望んでないと分かっても…


 ゼルデットが繁栄するのに必要な領土が、大陸の10分の1もいらないと分かっても…

 

 交渉さえすれば、ゼルデットもデモニアも血を見ずに領土が手に入ると分かっても…


 由緒正しき歴史を免罪符に、デモニアを根絶やしにすることはやめない。やめる必要は無い。何故なら、奴らは虫けらだから。居るだけで胸糞悪い蛆虫だから。そんな害虫は全て、駆除するに限る…



 そんなことを考えるような者達に、僕が味方につく理由がどこにある…?


 

 彼らを全面的に肯定することで、喜ぶ者はどれだけ居る?悲しむ者はどれだけ居る…?





「もう後戻りは出来ないし、する気も無い。僕はただ、得たもの全てを使って手にした価値観に基づき、この世界に最善の未来を…より多くの可能性をもたらすだけ。それこそが僕の決めた事であり、僕の意志だから……」




---正義を名乗ることは、もう出来ない…



---様々な可能性を持つ選択肢の中からこの道を選んだのは、他でもない自分自身…



---ならば、今ここで誓おう



---これからも、最後の決断は自分の価値観に委ると誓おう



---例え訪れた世界の真理に、神に、背く道を選ぼうとも



---全ての決断は最後まで、自分の意志を貫くと…




 この世界を救うためにこの世界へと招かれた少年は、薙ぎ払った相手の返り血と過剰な魔力の行使によって黒く変色した翼を広げ、先程破壊した大聖堂から強奪した聖剣を高々に掲げ…







―――さぁ、可能性せかいを救おう…




 

 長きに渡る天空都市の歴史に、引導を渡した…







◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「キリエさんの旦那さんは昔、盗賊に襲われて亡くなった…」



 愛する者と結ばれ、子供をその身に宿した彼女は幸せの絶頂に居た。だけど、その幸せは呆気ないほど簡単に崩れ去る。新居を目指して馬車を走らせている最中、そいつらは現れたのだ…


 同胞であるデモニアの民で構成された、盗賊の一団に…



「では勇次君…君は大切な人を殺されたら、そいつをどう思う?怒るかい?憎むかい?怨むかい?」

 


「それは勿論…」



「当然、良い思いは抱かないだろう。ならば、そいつが君たちと同じ日本人だったらどうする?……いっそ、この世に生きる日本人を全て皆殺しにするかい…?」



「するわけないだろ!!」


 

 今日一番の怒鳴り声が地下牢に響いた。暗闇に潜んでいたネズミたちがその大声に驚き、チョロチョロと逃げていく。そんな怒声を正面からぶつけられても、目の前の男は微塵も動じない…


 それどころか、もっと滅茶苦茶なことを言い出した…



「それじゃあ、もしもその大切な人の死が国に仕組まれたことなら?国中の人間たちがグルになって大切な人を死に追いやったとしたら?あらゆる人間が君の大切な人を奪おうとしていたのなら…?」



「そんなの…そんなのあるわけ……!!」



 もはや勇次は、利道が何を言いたいのか分からなくなっていた。キリエから聞かされた彼女の夫の死に関する話を切っ掛けに、利道はゼルデットを滅亡させる選択を取ったのは分かった。

 

 ただ、肝心の部分が分からない。彼女の夫の死と、彼に決断をさせた要因との関係性が…



「そう、そんなのあるわけが無い」



「へ…?」



「種族、国家、団体、組織…どんな背景にどんな理由で集まろうが、大規模な集団ほど意志の統一なんて不可能なことだ……」


 

 どんな過程にどんな構成で集まろうとも、人の意志が完全に同じになることは有り得ない。そんな事は、自分達の世界の現実を見れば嫌でも理解できる。いや、二人の世界に限った話などでは無い。


 現にあの様な世界には、ゼルデットでありながらデモニアの為に故郷から追放される道を選んだ考古学者が居た。救世主として異世界から喚ばれたにも関わらず、敢えてゼルデットに反旗を翻した者が居た。ソーサレイドという世界には、己の祖国に自ら引導を渡した男さえ居た。


 その者達は全員、自分の意志で、自分が身を置く世界に逆らった。その意志に対し、自身に流れる血が関わる余地など欠片も存在していない…



「それをデモニアの人達は、長い時を経ていくうちに理解した。そんな彼らだからこそ、人の意志は流れている血ごときで変わりはしないと理解した…」



 一口にデモニアと称しても、その実態は様々な種族の集まり…所謂『多民族』だ。互いの種族間で人種的問題が発生しないわけが無かった。もっとも、利道がゼルデに召喚された時は既に、天空都市に負けず劣らず長い時間を経た彼らにとって人種差別など時代遅れも良いとこな代物に成り果てていたが…。



---何故なら、彼らは理解したからだ。“正しい順番”を…



---自分たちが相手に抱く感情は全て、相手の行動からくるものであると…



---相手がその血をその身に流しているから、自分にこの感情を抱かせることが出来たわけじゃ無い…



---自分にこの感情を抱かせた者に、その血が流れていただけ…




「故に彼らは自分たちを直接傷つける聖騎士団を憎んでも、天空都市に住まう全てのゼルデットを憎んだりはしなかった。自分と同じデモニアに大切な人を奪われたキリエさんも、そいつを怨んでもデモニア全てを怨むなんてことはしなかった。それと同じように、彼女もまたゼルデットの民全てを憎むという選択もしなかった…」



 大切な人を自分と同じデモニアに奪われた彼女だからこそ、信じることが出来た。ゼルデットの民全てが、デモニアに敵意を向けるわけでは無いと。ゼルデットにも、デモニアと分かり合える者が居ると…。 

 そして彼女の想いは、ロータスとの出会いにより報われた… 




「過去は今を創り、今は未来を創る。過去がなければ今は生まれないし、同時に未来も生まれない。だけど過去は、未来を殺すこともある。過去を築き上げるということは、自分自身による行いを積み重ねること。その行いの数々によって訪れる未来は…選ぶべき道は幾らでも増えるし、変わりもする」



 長い長い積み重ねが、あの時の世界を創った。ゼルデットとデモニアの関係を創った。歪んだ救世主を呼び寄せる未来を創った。夥しい量の血が流される未来を創った…


 願わくば、時を遡ることを望みたい。より良き可能性と選択が溢れる過去へと訪れたい。そうすればきっと、もっと素晴らしい未来を創ることが出来る…


 だけど、そんな事は出来ない。だから自分は喚ばれた時代の中で、喚ばれた場所の中で、喚ばれた状況の中で、後世に生きる者達にとって最もマシな選択を…より多くの可能性が残せる選択をするのだ。

 


 






「だから僕はあの世界で、ゼルデットの天空都市を一つ残らず大地に引き摺り落とした…」





 

 デモニアの意志と対話させる為に、不時着・・・という形で…




あぁ…やっと次でゼルデの世界の話が終わる……やっとタグから『旅立たない主人公』を消せる…

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