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第一章 とある侍従

今月中に終わるのか早くも不安に…


「では、行って参ります!!」



「おう、本当に気をつけろよ?」



「分かってます!!」



 城の地下牢を守る監守長に元気な返事をし、人ひとり分の食料を持って少女はズンズンと牢獄を突き進んでいった。彼女が目指すのはここの一番奥の牢屋、そこに入れられている人物に食事を運ぶことが目的である。諸事情により誰も入っていない牢屋を見向きもせず鼻歌交じりで足早に通り過ぎ、一切迷うことなくお目当ての牢獄を目指して歩を進めた。


 そして、常人ならば半日は掛かるであろう道のりをたったの10分程度でたどり着いてしまった。牢獄を守る監守長でさえこうも早くは行けないだろう…。



「お待たせしました!!ご飯ですよ~!!」



 地下牢に入る時と同様、彼女は元気な声でその牢屋の中に入っている人物に声をかける。牢屋に入れられる様な人物に用いる口調では無いかもしれないが、彼女は全く気にしない。

 

 それに答えるようにして、牢屋の隅で体を丸めながら眠ったように静かにしていた彼は身じろぎし、そのままのそりと起き上がって彼女に返事をした。



「……やぁ、『ヴァーディア』。いつもありがとう…」



「いえいえ、私がやりたくてやってるだけですから!!お気になさらず、勇者様!!」



「ははは、僕は勇者なんかじゃないよ…」



 召喚当時よりはマシになったものの、相変わらず弱々しい雰囲気のままで勇者…『彼方利道』は目の前のヴァーディアに返事を返す。そのいつも通りの覇気の無さと、自嘲気味な態度に彼女は少しばかり苦笑を浮かべた。



「またまたぁ、そんなこと言ってぇ~。調べはついてるんですよ?さぁ!!キリキリ吐きなさごふぅ!?」



「だ、大丈夫かい…?」



 利道に食事を牢屋越しに手渡しながら、彼女はまるでドラマの刑事の様に彼に詰め寄った。調子に乗り過ぎて詰め寄った拍子に頭を鉄柵に強打し、その場にうずくまってしまったが…



「痛たた…と、とにかくアレです!!貴方が勇者様である事実は、翌日に巫女様が授かった神からの御告げによって間違いないのです!!」



「……当てになるのかい、それ…?」





 勇者召喚騒動の翌日、召喚早々に自殺衝動に駆られた利道の扱いに困った王国の者達は、とりあえず牢屋に閉じ込めて彼の今後を見極める事にした。暫くすると彼は人並み程度の落ち着きを取り戻したのだが、今度は引きこもる様にして塞ぎ込んでしまったのである。


 頼みの綱である勇者がこの様な代物である事に半ば絶望した巫女達はひたすら神に祈った。



―――我々が求めたのは、この様な腑抜けでは無い!!



―――我々が欲したのは、闇を打ち払う圧倒的な光!!



―――神よ!!今度こそ我らに真の勇者を!!



 そのしつこいまでの祈りと願いが通じたのかどうかは定かでは無いが、遂に神から巫女に対して御告げが下されたのだ。夢の中で神は巫女に対してこう言った…




『そこまで言うのなら、もう1人だけ勇者を遣わせよう。ただ覚えておくがいい……1人目は正真正銘、間違いなく本物の勇者だ。必ずや丁重に扱うのだぞ…』





 その御告げの事もあり、丁重とは程遠いが実質ただの迷い人に等しい利道の面倒を王国の民はしぶしぶとみているのである。



「ちょっと待った…」



「はい?」



「……もう1人の勇者って言った…?」



「えぇ、言いました。そしてつい先程、召喚に成功したと聞きました。今城中はその話題で持ちきりですよ?」



 それを聞いた瞬間、彼は両手で頭を抑えながら俯き、深い深い溜め息を吐いた。その様子にヴァーディアは怪訝な表情を浮かべる。



「……どうかしたんですか…?」



「いや、何で考えつかなかったんだろうと思って、ね…」



 そう言ったきり利道はさっきより一層落ち込んだ様子を見せ、黙り込んでしまった。自分の予想と違う反応をされ、ヴァーディアは戸惑いを隠せなかった…



「何で暗くなってるんです?てっきり諸手を上げて喜ぶもんだと思ったんですが…」



 文字通り死ぬほど嫌がっていた世界の救済を代わりに引き受けてくれる者が現れたのだ。利道にとっては朗報に他ならない筈なのだが、彼にとってそうでは無いらしい…



「確かに、そう思うところもあるよ……だけど…」



 顔を上げた利道は自嘲気味な笑みを浮かべ、情けなさそうな口調で答えた。



「だけど同時に、自分を情けなく思う気持ちもある…」



そう言って彼は再び俯きながらも、言葉を紡ぎ続けた…。



「馬鹿みたいだろ?その勇者がこの世界に喚ばれた原因は、僕がいつまでも駄々をこねていたからだ…にも関わらず、僕は彼に対して済まないという気持ちを抱くんだ!!だったら最初から自分で世界を救いに行けば良かったのに…!!」



 途中から口調が荒くなり、後悔と憤りが混ざったような声音で利道は叫ぶ。その慟哭にも似た喋りに、流石のヴァーディアも少し怯んだ。けれど彼は口を閉ざすことはなく、どこまでも続く地下牢の闇に己の声を響かせ続けた…。



「だけど…だけど僕はもう限界なんだ!!自分が何をしたいのかさえ、分からないんだよ…!!」



「それは、どういう意味で…」



「……言葉通りの意味だよ…全てを投げ出したいと思っている筈なのに、それを躊躇う自分が居るってことさ…」




---新しい勇者に全てを丸投げしたい自分と、それを無責任と断じる自分が…




「ッ…」



「可笑しいだろう?矛盾してるだろう?……いっそ笑ってくれよ…」




 全てを投げ出し、世界の救済という重圧と苦難から逃れたいのは本心だ。しかし、同時にそれを簡単に放棄できない自分が居るのも事実だ。まだヴァーディアには言ってないが、実は彼女が食事を運んできてくれるまでの間、自分は自身の命を絶つ方法ではなくこの世界の情勢について考えていたぐらいだ。それも無意識のうちに…。


 現在の自分が思う二つの本心。矛盾しているが故に、決してこの二つは両立できない。だからこそ彼は今の自分が分からず、やるべきことも、やりたいことも分からなくなっていた…。



「ッ、すまない。こんなつまらない愚痴を聞かせるつもりは無かったんだけど…」



「……。」



 目の前で呆然としているヴァーディアの姿が映り、ようやく冷静さを取り戻した利道。その様子に少しだけ罪悪感と気まずさを覚え、運んできてもらった食事を持って逃げるように牢屋の奥に行こうとした…



「……じゃあ、今日もありがとう。最後に不快な思いをさせて、ゴメン…」 



「…!!……あ、あの!!ちょっと待ってください!!」



「ん?」


 背を向けようした途端、彼女は自分のことを引き止めるようにして声を掛けてきた。何だろうと思いながらも、利通はしっかりとヴァーディアの方を振り向く。どうせ大した用事では無いだろうと、この瞬間までは思っていたのだが…




「……あの、どうせですから全部ぶっちゃけてみませんか…?」



「はい?」




 どうやら、そうでも無さそうだ…




「勇者様が何で今の様な状態になったのかは存じません!!ですが、もし貴方がそうなってしまった経緯を教えて下さるのならば、何かしら相談に乗ることができるかもしれません!!」



「……相談に乗ってくれるの前提なんだ…」



「当然です!!」



「ははッ…」



 思わず苦笑を浮かべてしまったが、あながち間違ってないかもしれない。それにどっちの本心に従うにしても、気持ちの整理をしないことには何も始まらない。不本意だが、それは今までの勇者生活の経験から言っても間違いなかった…。




「そうだね…それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな?……ただ、ある程度は端折るつもりだけど、かなり長い話になるよ…?」



「むしろドンと来いです!!是非とも異世界での活躍をお聞かせ下さい!!」



「…あれ?」



「どうかしました?」



「あ、いや…何でもないよ。じゃ、始めようか……」





―――そうして、“臆病で勇敢な少年”は自身の過去を語り始めた…





過去話は利道とヴァーディアのやり取りを中心に…というか、直接語って貰う形で描写するつもりです。

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