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第十八章 三の歴史

何で『8月以内に完結させる』とか言ったんだろ…もう9月終わるのに、まだ半分もいってない……


 昔々、大空と大海原が殆どの大陸の無い世界がありました。


 そんな世界でも命は産まれ、成長し、やがてその姿形を変えていきました。命はこの世界で暮らすために大きくて白い翼を生やし、空を飛ぶことを覚えました。やがてその命は、手にした翼で世界中を自由に飛びまわり、同時に世界を手に入れました。


 どこまでも続く大空、いつまでも続く繁栄…終わり無き未来を信じ、命は日々を過ごしました。


 ところが、いつもの様に世界を飛び回っていたある日、命は疲れを感じました。確かに世界は素晴らしい、どこまでも続く空と海も素晴らしい。そして、そこで飛び回ることは何よりも素晴らしい…


 でも、もうじき限界だ。そろそろこの翼を休める場所が欲しい。飛ぶことに疲れた者達が、文字通り羽を休めることが出来る場所が必要だ。だけど、大空と大海原しか無いこの世界にそんな場所は無い…


 そこで命達は考えました 



---だったら、創ってしまおう。無いなら造ってしまおう。我らが安息の地に相応しき、限りなく広がる大陸を作ってしまおう。



 命達は大海原に大きな大きな大地を作り上げるために、ありったけの魔法と力を使いました。いつもは静かで穏やかな海は荒れに荒れ、どこまでも青い空は黒雲にすっかり覆われてしまいました。そのせいで命達は少なからず減ってしまいましたが、彼らは諦めません。大地を作るために、命達は必死になって頑張りました。


 そして、ついに命達はやり遂げました。多くの時間と命を使い、とうとう世界に大陸を作り上げることに成功しました。頑張った命達は、心の底から喜びました。


 けれどその時、命達はまだ気付いていませんでした。



---自分達は大陸と一緒に、新しい命を創っていたことに…



 その事実に気付いた命達はとても慌てました。大陸を作る為に力を使いきり、多くの命を減らして疲れきった今の自分達は新しい命達をどうにかすることは出来ません。


 命達は、新しい命達が溢れる大陸に住むことを諦め、空へと逃げました。幸い、新しい命達に自分達のような翼は生えていませんでした。その為、命達は安心して空で暮らすことが出来ました。そして彼らは大陸を諦め、空に街を造る事にしました。造った街は思いのほか素晴らしく、命達はこれで満足することにしました。


 やがて長い年月を経ていく内に、結果的に自分達にとって悪いことしかもたらさなかった大陸に対し、命達は考えることをやめて忘れることにしました。今はただ、使った力と減らした命の分だけ休みたい…それしか考えることが出来ません。


 そうして命達は、これまで溜まりに溜まった疲れを癒すために長い眠りに着きました。



---誰もが大陸の創られた理由を忘れる、その日まで…




 



◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「まさか…」



「そうです、この世界『ゼルデ』の中枢とも言えるこの大陸は、ゼルデットの先祖が創ったのです」



 居間でテーブルを挟んで向かい合ってた利道とロータス。ロータスの口から聞かされた事実によって、二人の間には通夜の様に重苦しい雰囲気が充満していた。しかしその事実は利道に深い衝撃を与え、彼の頭の中を真っ白にさせるには充分だった。



「私も最初は疑った。今のゼルデットに大陸なんて大規模なものを創る魔法や技術は存在しないし、ましてやこんな大切な事実を神殿の連中が知らない筈が無かった…」



 ある日、ロータスはいつもの様に神殿の奥深くにある古い資料室にお邪魔して資料を漁っていた。そんな時に見つけてしまった、一際ボロボロになっていた一冊の文献。最初はそのボロボロっぷりを怪訝に思ったのだが、その文献が書かれた時期を見て心臓が止まりそうな程に驚愕した。


 

「利道君、この世界の歴史については教えてもらったかい…?」



「はい、ここ5百年前後の出来事を大雑把にですが……そういえば、この世界の歴史は5百年以上前の出来事は何も分かってないんですよね…?」



 異世界より召喚された者として、ゼルデの神官達にこの世界の常識を教えて貰う時、ついでに教えられた。そして確実に千年単位の歴史を持っているにも関わらず、何故か5百年より前の歴史は一切不明になっているのである。神官達はその時期を『謎の空白期』と呼んでいたが…



「私が見つけた文献は、まさにその『謎の空白期』に書かれたものだったのさ…」



「ッ!!」



 その事に気付き、そして調べた結果それが本当であると知ったロータスは嬉々として中身を確かめた。そして、そのせいで知りたくも無い事実を知る羽目になってしまったのだ…



「私は信じられなかった…信じたくも無かった。こんな経緯で大陸とデモニア、そして天空都市が生まれ、ゼルデという世界の現状が出来たなんて……」



 遥か昔、大陸より先に存在していたゼルデットの民。彼らはその背中の翼で自由に世界を飛び回ることができ、どんな種族よりも世界に広がる事が出来た。故にゼルデットが世界を掌握するのに対して時間は掛からなかった。


 しかし精々島程度の陸地しかないその世界において、彼らが繁栄に限界を迎えるのは流石に避けることが出来なかった。そして文明的にも生物的にも行き詰まった彼らは打開策を模索し、大陸を自身の手で作り出すという荒技を選択したのである。


 その結果多くの犠牲を出し、さらには大陸と一緒にデモニアの始祖とも言うべき存在を創りだしてしまったという訳だ。その後ゼルデットは天空都市を造ってそこに逃げ込み、その折に彼らの間で『大陸の事実』に関する事は禁句となった。当時は大陸を創る際に出た数多くの犠牲によって人口は凄まじく減っており、情報統制などでも掛けたら真相の一つや二つ、容易に根絶やしに出来たのだろう。それ以前に、その事を思い出したくない者達が殆どだったのかもしれない…





「ただでさえ地上でやりたい放題の私達ゼルデットの民がこの事実を……大陸を創ったのが自分達の先祖だったと知ってしまったら、今まで以上に歯止めが効かなくなる…」



 だからこそロータスは、この事実を隠した。噂を聞きつけた神殿の連中がその文献を要求しに来た時、彼らの眼前でそれを焼却してまで。今まで築き上げた地位を剥奪され、故郷である天空都市を追い出される羽目になってまで…


 そして地上に追い出される形でやって来た彼は、事の真相を確かめる為に世界中を巡った。都市で調べた事のある神殿や遺跡を訪れ、デモニアの民が使う資料館まで訪ねた。全ては例の文献の内容が間違いである事を願って…


 だがその願いは、無情にも叶わなかった…



「訪れた古代遺跡、デモニアの民が保有していた資料。その全てが、あの忌々しい文献の内容が真実であると物語っていたのです…」



 その時彼は、心の底から絶望した。流石にデモニアの資料に直接的な記述は載っていなかったが、例の内容を連想させる似た様なものは幾つも存在していた。何より決定的な証拠を数多く残していた遺跡や神殿の在処は、デモニアの資料の御陰で見つけられたのだ。もう、否定する事は出来ない…



「これが私の知りたくもなかった、このゼルデの真実です…」



「……。」



 顔を俯かせ、消え入りそうな声で呟かれたその言葉。けれど目の前の利道には、しっかりと聞こえた…


自身が所有する秘密を改めて口にした事により、彼の重苦しい雰囲気がさらに暗さを増す。しかしその暗さを保ちながらも、彼はゆっくりと、それでいてしっかりと此方に顔を向けながら口を開いた…



「利道さん…」



「……はい…」



「私はずっと誰かに訊ねたかった。ゼルデットでも、デモニアでも無い完全なる第三者の人間に…」



 初めは『有り得ない』という感情の元、事実が間違っている可能性に縋った。その為に『真相を確かめる』という建前を自分に対してまで使い、時間を浪費した。


 しかし、それも限界だ。『地上に住むデモニアに対し、悪逆非道を繰り返すゼルデットが地上に存在する全ての創造主であり、所有者』。その真相を確信してしまった今、素直にどちらか一方の肩を持つことは出来なくなった。


 だからこそ彼は目の前に座る、彼が心の底から求めた『第三者』に問い掛ける…



「利道さん、貴方はどう思われますか?……この世界『ゼルデ』において…」





―――いったい何が正しいのでしょう…?



―――いったい私は何をすれば良いのでしょう…?





 そのロータスの問い掛けに、利道は何も答える事が出来なかった。


 何せ自分は、その問いの答えを見つけられないからこそ、放浪の旅を終わらせる事が出来ないでいるのだから…



利道の『世界の定義』は次回になってしまいました…orz

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