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第十七章 三の遭遇

ちょい修正



「どうぞ」



「ど、どうも…」



 あの後、連れて行かれるようにして酒場を去り、そのまま彼女の自宅へと招待された。が、はっきり言って出会った状況と自分の事情もあって気まずいったらありゃしない。ぎこちない手で受け取った御茶の味もさっぱり分からなかった…



「改めまして、あの時は助けていただいて本当にありがとう御座いました」 



「いや、あまり気にしないでくれ…」



 ペコリと頭を下げて感謝の言葉を述べる女性。彼女の名前は『キリエ』、デモニアの民の特徴である鬼の様な角以外は普通に20代そこらの茶髪の女性…自分と同じ人間の容姿だ。


 初めて会った時から腕に抱えていた子供も同様で、さっき部屋でスヤスヤと寝ている所を見た時は自然に頬が緩んだ。


 放浪しているうちに知ったのだがデモニアの民は彼女のように、頭に角の生えた人達だけでは無かった。やたら犬歯が発達している種族、鍵爪を持つ種族、魚の様な鰓を持つ種族…どの種族も利道の世界の人間をベースに何かの特徴を追加したような容姿をしていた。そして、その見た目以外は普通の人間と何ら変わらない…。


 おっと、それよりも…



「ところで、会わせたい人が居るって聞いたんだけど…?」



「えっと、そろそろ来るかと…」



 再会した酒場で人目も気にせず全力で感謝の意を示された直後、『会わせたい人が居る』と言われてそのまま彼女の自宅へと連れてこられたのだが、もう既に結構な時間が経っていた。


 実を言うと、今飲んだ御茶は3杯目だったりする。物理的には打たれ強いと自負しているが、こう精神的な面…心は豆腐並みの脆さを誇っているんじゃなかろうか?と、日頃から思っている身としては少々辛い物がある。ていうか、後10分待って来なかったら帰る……


 と、思ったその時…家の外の方に人の気配を感じた。もしやコレは……



「キリエさん、ちょっと失礼しますよ…」



「え…?」



 突然の行動に戸惑う彼女を気にせず、旅の途中に護身用で調達した細身の剣を携えて玄関へと向かう。自分を尾けてきたのか、それとも彼女の誘いが罠だったのか…ともかく、この気配は……。


 等と考えながら玄関にたどり着き、それに合わせるようにして扉が開かれたのはほぼ同時。そして、家に入ろうとしてきた者に向かって利道は… 


 

「すまんキリエ、遅れ目の前に煌めく刃がああああぁぁぁぁ!?」



「……。」



「ろ、ろ、ロータスさんッ!!」



 出てきた瞬間に死なない程度に斬り付けてやろうかと思ったが、目の前の男がキリエの名前を呼んだので振りぬいた剣を鼻先で寸止めした。この気配からして“奴ら”の同族なのは間違いないのだが、本質的な部分では違うようだ。自力で追跡したにしろ彼女が謀ったにしろ、もしも奴らの同類ならキリエの名前を呼んだりはしないだろうし、彼女も彼の名前を呼んだりしない…何より、この狼狽えっぷりは素人だ。



「……失礼、てっきり追っ手かと…」



「え?え?あ、え…?」



 軽く謝罪しながらスッと剣を鞘に収める。いきなり剣を向けられ、そして今度はそれを目の前でどかされて困惑して混乱する目の前の男『ロータス』。剣呑な空気が一応霧散したことにより、背後に居たキリエが安堵の溜息を吐いたのを感じた。



「キリエさん、会わせたい人とはこのロータスさんですか…?」



「あ、そうです」




 だったら事前に、彼がどういう人なのか少しばかり教えといてくれてもいいんじゃなかろうか?こちとら人種差別ここに極まりけりなこの世界に良くも悪くも順応してきた手前、こういう状況には少々神経質になってきたのだから…



「えぇっと…とりあえず、誤解は解けたのかな?」



「はい、本当に失礼しました。ですがロータスさん、僕の現状も察して頂きたいんですが…」



「知っているさ。だからこそ、自分は君に会いに来た……顔付き合わせる前に、剣を突きつけられるとは思わなかったが…」



「今度は剣の腹で殴る程度にしときますよ」



「ちょっと待て…」



 少しジト目で睨まれるが、こっちも今の様なタイミングでロータスの様な人物が来るなんて予想外だった。何せデモニアの民の自宅に居る、天空都市の裏切り者と呼ばれる自分に会いに来たのは…







「で、こんな僕に何か用ですか?……“ゼルデットの民”である貴方が…」




---キリエが会わせたいと言った男、ロータス…彼の背中には、ゼルデットの証である白い翼が生えていた…







◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「ロータスは学者でね、天空都市では変人扱いだったらしいよ。ある日を境に、神殿の連中と思いっきり揉めて都市から追い出されたんだとさ……ちょっと二人とも、何かなその顔は…?」



「いや、すごい大事な部分を端折ってないか…?」



「ロータスさんも気になりますが、放浪中は何をしてたんですか…?」 



 あの時のロータスみたいなジト目で勇次とヴァーディアに見つめられた。ゼルデットの聖戦がどういったものなのか話した時に勇次が唖然としたり、キリエと再会した時の下りでヴァーディアが『フラグですね!!』とか騒いだりと、表情的に忙しかった二人。そしてどうやら今度は放浪中に自分がやってたことが気になるらしいが正直な話、ゼルデットの聖騎士団がデモニアの民を殺戮するように、道中に遭遇した聖騎士団を片っ端から殲滅した事ぐらいしか話す内容が無いんだが…



「まぁ、あの世界…『ゼルデ』の成り立ちはよく理解出来たけどね……」



 あの世界が歩んできた本当の歴史はロータスに会うまで知らなかったが、成り立ちというか現状は良く理解できた。


 とにかくゼルデットの民は、ゼルデット以外の生き物を人間として扱わない…というか、認識しない。そして同時に自分たちを“世界唯一の人類”であると定めており、世界がゼルデットの所有物であると信じて疑わない。


 

「相手の話を聞かないどころか相手を人として認めてない分、大和連邦より酷かったかもなぁ…」



 五十歩百歩と言えばそれまでだが、ゼルデットは大和連邦以上にタチが悪い。ソーサレイドにも人種差別は存在していたが、あれはそんなレベルでは無い。嫌味でも皮肉でもなく、本気で相手を人間として見てなかったのだから…



「何にせよ、それを知ってからはゼルデットに味方する気は起きなかった。でもね、だからと言ってそのままデモニアに付く気にもなれなかった…」



「……何でだよ、どう考えたって悪いのはゼルデットの奴らだろ…!?」



 利道の言葉に憤る勇次。さっきまでゼルデットを『神聖』とか言ってた癖に随分と早い変わり身であると思わなくも無いが、コレを聞いてもまだ神聖とか言えた方が正気を疑わざるを得ないので気にしない。


 でも何か彼って、誰かにあっさり騙されそうな気がする… 



「いや、ね…自業自得とは言え、そんな奴らに肩入れしかけたばかりだったから少し慎重になりすぎて……考えれば考えるほど、ワケが分からなくなったんだよ。今の君みたいに…」



「へ…?」



 本当は少し違う。また選択を誤るのを恐れたと言うのは本当だが、“真の意味で”ゼルデを救う条件が分からなかったのだ。


 ニズラシアでは目的と手段が分かっていた。ソーサレイドでは世界を滅ぼしかねない相手が居た。だから自分は迷うことなく行動することが出来たのだ。


---だが、ゼルデの時は違う。




「例えばだ勇次君、僕たちの世界に存在する国が一つ滅んだとしよう。それは、世界が滅んだと言えるかい…?」



「……いや…」



 少し悩んだみたいだが、一応の返事はくれた。では、次の質問をするとしよう…



「じゃあ次の質問。僕たちの世界から人間が全て消えたとしよう、それは世界の滅びと呼べるかい?」



「あ、当たり前じゃないか!!」 



 勇次は思わず声を荒げながら立ち上がった。その剣幕に隣に居たヴァーディアはビクリと身体を震わせたが、利道はその怒気をあっさり受け流す。



「全ての人間が滅ぶってお前、そんなのどう考えたって…!!」



「確かに人間にとっては破滅だね、“人間にとって”は…」



「……なに…?」



 利道の含みのある言い方に、少しだけ勇次は冷静になる。そしてその言葉の意味を考え始めようと黙り込んだのだが、勇次より先にヴァーディアが言葉の意味を察したようだ…



「あぁ、なるほど…確かに人間の滅びは、人間以外の生物にとっては殆ど関係ない出来事ですもんね」



「なッ!?」



 よもや彼女の口からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろうか、勇次はもの凄く驚いたかのような表情を見せた。それにしても彼女、本当にこの世界の人間か…?



「だって勇次様、貴方や利道様の世界はどうか知りませんが、私たちの世界において人間という生き物は世界を構成する多くの存在の一つに過ぎません。」



「なん…だと…」



「例え私達が滅んだところで、この世界が時を刻むことを止めるわけではありません。だってこの世界には人間たちだけでなく獣が、草木が、亜人たちが数多く存在しています。そして私達が滅んだからと言って、彼らまで滅ぶ道理も理由も無いでしょう…?」



「……。」



「つまり人間が全て滅んだところで、世界に生きる他の者達にとっては関係の無いこと。彼らはいつも通りに過ごし、世界も大して変化しない。確かにそれは“人間の滅亡”と呼べますが、“世界の滅亡”とは呼べませんね…」


 

 人類至上主義である神官達が聴いたら怒り狂いそうなヴァーディアの言葉の数々に、ついに勇次は黙り込んでしまった。その顔はどこか納得していないと暗に語っているのだが、反論することも出来ないようだ…。


 実際、自分の言いたいことはそう言うことだ。そもそも自分達の世界だって、40億年の間に幾度と無く種族の繁栄と滅びを繰り返してきた。滅んだ種族の中には、かつて世界を実質支配した生き物だって含まれていた。それでも自分達の世界は、それを繰り返しながら今まで時を刻み続けてきたのだ。


 だからと言って、『世界の割合的に少数なら何が滅んでも構わない』と言うつもりは無い。もしソレを肯定したら、かつて身を呈して救ったニズラシアやソーサレイドを否定する事になるから…



「例えゼルデットが滅ぼうが、デモニアが滅ぼうがゼルデという世界が滅ぶことは無い。でもね、そんな馬鹿みたいな理由で誰かが傷ついたり死んだりする事も受け入れられない。だったらどちらかを滅ぼすのでは無く、この世界にとっての最善な状況を作り出すことが世界を救うことになるんじゃないかと思ったんだ。その後も考える羽目になったけど…」



 未遂と言えなくもないが、自分で自分が定めた嫌悪の対象に組していたのは事実。しかしデモニア相手には畜生以下に堕ちる彼らゼルデットも、同族や自身が認めた相手に対しては非常に温かい。それは身をもって経験している。故にどちらかを滅するなんて選択肢は、当時の利道には存在しなかった…


 そして最善が何なのか見定めるために、自分は放浪の旅に出た。だが、どれだけ放浪の旅を続けても答えは出すことは出来なかった。


---放浪を続ければ続けるほど、自分が守ろうとしているモノが何なのか分からなくなっていったのだ…


 そんな時に出会ったのが、ゼルデットに身を置いていながら自分と同じように天空都市と決別したロータスだった。その時は彼が自分と似た様な境遇だと知り、もしかしたら彼なら自分の求めた答えを導き出せるのではないかと期待した。だが、実際は…



「彼も似た様なものでね、同類である僕と話をして自分の考えの整理をしたかったのさ…」



 彼は生粋の考古学者であり、天空都市ではそれなりの権威を持っていたそうだ。だがある日、自分の研究する文献の一つにとんでもない内容が記されているのを見つけてしまい、その内容が公になる前に処分したのだ。その際に文献の内容を知らないにも関わらず神殿の連中がそれを要求してきたので、彼らの目の前でソレを燃やしたらしい…



「大切な資料を燃やしたって事で彼は批難され、最終的に都市から追放。だけど彼はソレに記された内容を隠し通す事に成功。でも、それに記されていた事実を知っていたからこそ彼は悩んだ。それをどうすればいいのか分からなくなってね…」



「それは、いったい…」



 緊張した様子で勇次が呟く。流石のヴァーディアもこの時ばかりは余計な茶々を入れてくることは無かった。それだけに続きを語るのを躊躇ってしまうが、やめるわけにもいかない…



---何故ならロータスが手に入れてしまった真実は絶望をもたらしたが、同時に“切っ掛け”を自分に与えてくれたのだから…




「僕は心の何処かで思い込んでいたんだ。あんな奴らが…ゼルデットの連中が世界を司る存在なわけが無いと……少なくともゼルデという世界において、彼らは悪に他ならないと…」



 地上を自分達の畑、デモニアの民をそれに群がる害虫程度にしか思っていないゼルデットの民。彼らの行動のほぼ全てが、本来なら自分が戦うべき滅亡の権化の様な者達。その様な者達に、正しさなんて欠片も存在しない……そう思っていた…



「ロータスもゼルデットの行動に思うところがあったんだ。だからこそ彼は、その文献に書いてあった内容を隠蔽した。当時のゼルデットにその事実を告げることは彼らを一層増長させ、今まで以上の暴走を引き起こしかねなかったから…」



「だからいったい何なんだよ、その内容ってのは…!!」



「ロータスの危惧したことが大袈裟では無いって事が納得できるほど、随分と簡単で最悪な内容さ。要約すると、あのゼルデという世界に存在する全てのものは……」










---元々、ゼルデットの所有物だったのさ…





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