第十一章 二の終わり
前回の締めに使うつもりだった話なので超短いです。
そして今回、利道の苦悩の片鱗が…
「てなわけで二人の剣士により、ソーサレイドは救われましたとさ、めでたしめでたし…」
「いや、ちょっと待ってくださいよ…」
二つ目の世界…ソーサレイドでの出来事を語り終えた利道は、視線をヴァーディアから手元に戻して作業を再開する。まだ聞き足りない部分があるヴァーディアは物言いたげな顔を見せた…
「とりあえず利道様が人外染みた方だったのは分かりましたが…」
「心外な」
「例によってその後はどうなったのですか…?」
刀夜を退け、世界を救った利道と天牙。その後の事を彼女は聞きたくてしょうがないようだ。利道は目を手元から戻さないまま口を開いた…
「師匠は元から大英雄と呼ばれていた人だ、扱いはいつも通りさ。でも僕は少し事情が違った…」
大英雄に弟子が居ることや、その者が大層な実力者であるという噂は最初からあった。しかし直接関わった者を除き、あくまで噂の域を出ず、信憑性の少ない与太話として世間では扱われていた。
だが、刀夜の暴走を阻止したその日から噂は真実として定着し、利道の名前は世界に広まった。おまけに当時の彼の活躍も世間の知るところとなり、いつの間にか『二人目の英雄』と呼ばれるようになっていたのである。
「騒動の後始末も終わって、役目を果たした僕は元居た世界に戻された、と……はい、終了…」
「え、ちょッ…」
「終わりったら終わり。あの世界での出来事で語るような事は、もう無いよ…」
「……。」
取り付く島も無いとは、まさにこの事。いつもとは想像もつかないほど素っ気無い利道の態度に、ヴァーディアはこれ以上の詮索は止める事にした。もしかすると彼にとって思い出したくない事があったのかもしれないし…
「……分かりました、今日のところは失礼します…」
「あぁ、今日もありがとう…」
そう言って彼女は立ち上がり、利道の牢屋から出て地下牢の出口へと向かっていく。その後姿を横目でチラリと見ながら手作業を終了させ、利道は深い溜め息を吐いた…
「……自分が嫌になる…」
我ながら、流石に今の態度は無いだろう。幾ら思い出したくないからと言って、興味本位で聞いてきただけである彼女に対してこれは失礼過ぎた…。
「今度、ちゃんと謝っとくか…」
だけど実際、本当に語るような出来事は無いのだ。それでも尚、段々とあの世界での出来事を語りたくなくなるのはきっと、それほど“あの世界に愛着が湧いていた”ということだろう。
---いや、むしろ6つ目の世界を除いた5つの世界全てに自分は愛着を持った…
自分の世界とはまるで違う常識を、可能性を、未来を秘めた世界の数々。今まで出会ったそれらの殆どに自身は魅了され、虜になった。それらを失いたくないと思うが故に自分は戦い、全てを守り切ってきたのである。
---だけど…
「……どんなに戦っても、どんなに守り切っても、全てが終わった時に僕の心を占めるのはいつも…」
-―-“虚しさ”と“喪失感”だけなんだ…
「誰か教えてくれよ……僕は、いったい、ど、う…した、ら良いん…だ……」
嗚咽混じりに呟かれたその言葉は誰の耳に届くことも無く、薄暗い地下牢の闇へと消えていった…




