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第十章 二の伝説

内容的に矛盾してた文章を消しました。


そして、出来れば感想や意見をプリーズです。

m(_ _)m

 どこまでも続くんじゃないだろうかと思える荒野に、ひと際目立つ黒い要塞が聳えていた。その周辺…というにはやけに広範囲に渡り、さらに壮絶な光景が広がりを見せる。


 見渡す限り人、人、人の群れ。その全てが思い思いの剣を、盾を、矛を身につけ、己の力を誇示していた。その猛りは地を揺らし、空気を震わせ、大陸中に彼らの存在を告げるには充分すぎた。


 けれども足りない、明らかに足りない。彼らが自身の野望と存亡を懸け、己の全てを籠めて振るった剣は、突き出した矛は、翳した盾は、彼らを襲う理不尽を退けるには圧倒的に足りない。



 振るわれた一閃は、無数の刃を両断し



 繰り出された一突きは、幾つもの矛先をへし折り



 荒ぶる暴風は、数え切れぬほどの盾を薙ぎ払う



 村を、街を、国を吹き飛ばしかねない嵐が人の形をとった…まさしくそんな表現が似合いそうな二人の鬼神が現れてから約5分、新生大和連邦の中枢となった大監獄に集まりし千人を超える武士もののふたちは、たったの百人にまで減らされていた…。


 さっきまで大地を埋め尽くすように広がっていた新生大和の兵士達は、その殆どが地に崩れ落ち、敗者となりて沈黙を保つ。そんな場所で、未だに動きを見せる二つの影があった。



「……数が揃ったところで所詮は野盗上がり、烏合の衆の域は出んで御座る…」



 付着した返り血を落とすように愛刀を振り払い、この光景を作り出した張本人の一人である天牙は独り言のように呟いた。千人近い人数を相手取っているにも関わらず、その顔に疲労の影は一切無く、呼吸に乱れは無い。その愛弟子である利道も似たようなものであり、此方も依然として余裕を見せている。



「まだやれるか、利道…?」



「いけます」



 ここまで大規模な戦場を経験するのは初めてのことだが、利道にとって『戦闘』そのものは既に慣れたつもりだ。長い修行生活の間、何度も村を襲う盗賊との命の遣り取りを行った身だ。今更、相手の質と数が変わった所で精神的な違いは無い。戦場に出た以上、ましてや師匠の手前、全力で己を示すのみだ…。



「と、ようやく現れおったか…」



「……貴様…」



 そんな時だった、憎悪と憤怒を織り交ぜにした声音が戦場に響いたのは。声の聞こえてきた方へと視線を向けると、遠くから二刀を携えし白狼刀夜が凄まじい形相を見せながら歩み寄ってくるところだった。


 ある程度こちらに近づいた刀夜は歩みを止めないまま天牙を睨み付け、怒気を滲ませながら声を荒げて見せた…



「何故だ天牙、何故貴様は我々の邪魔をする!?」



「……言わねば分からぬで御座るか、この馬鹿者が…」



「答えろ天牙!!どうしてそうまでして、我々の正義を阻む!!」



 この期に及んでまだ正義と抜かすかつての友に何かを諦めた雰囲気を見せる天牙は利道に視線を寄越し、師弟関係だからこそ通じるその意味を理解した利道は一度だけ頷いた。そして即座に刀夜に向かって駆け出した。



「なッ!?」



 天牙の弟子とは云え、まさか利道が自分に向かってくるとは思わなかった刀夜は一瞬だけ怯んだ。しかし、即座に二刀を構え直し、それと同時に利道に向かって振り下ろした。





---ガキィンッ!!




「おのれ…!!」



「早とちりするなかれ、お主の相手は拙者で御座る…」



 利道に向かって振り下ろした二刀は、時間差で飛び出した天牙によって阻まれてしまった。その隙に利道は一切足を止めることもせず、そのまま大監獄へ向かって駆け抜けていく…。



「風の噂で聞いたので御座るが…お主、『獄炎弾頭』を手に入れたそうで御座るな?」



「……。」



 『獄炎弾頭』…それはソーサレイド崩壊に一役買ったこの世界最強の兵器の一つである。放射能こそ出ないものの、その威力は利道の世界にある核兵器に匹敵する。ミサイルに込められたそれは一度解き放たれると、“とある方法”を除いて止める術が無い。


 そんな物騒な物があると知った今、一番の厄介者である刀夜を自身が足止めし、利道には獄炎弾頭の処理を任せたというわけである。



「よもや、このチンケな国もどきの為に世界を燃やす気ではあるまいな…?」



「チンケ…だと…!?」



 天牙の言葉が何かに触れた刀夜は強引に腕を振るい、天牙を押し返して距離を取る。そしてそのまま天牙に憎悪を向けながら叫ぶように声を張り上げた…



「我々の国を、新生大和を、チンケな国もどきと称したか!?よりによって貴様がッ!!」



「民と呼ぶべき者は一人もおらず、兵士の殆どは無法者、おまけにその中心にあるのは首都でも城でもなくただの牢獄。これを国と呼ぶのなら、世界は既に国だらけで御座ろうな…」



「何を…!?」



「そもそも大和再建を宣言した時、それを望んだ者は居たのか?……いや、居なかったからこそこのザマなので御座ろうな…」



「抜かせッ!!」



 怒声と共に再び二刀が振るわれる。真正面から襲い掛かってくるそれを、天牙は両手持ちの太刀にて受け止めてみせた。3本の刃がぶつかると同時に、凄まじい音を響かせながら周囲にビリビリと衝撃が走り抜ける…



「我ら大和の正義はソーサレイドの正義だ!!それを理解できぬ者は全て悪だ!!滅ぶべきなのだ!!」



「たわけ。あの様な愚国の掲げた正義など、子供の我侭と大差無いで御座る」



「ッ!!……どうして貴様はそうやって簡単にも、大和を貶める事が出来るのだ!?よりによって…」





---大和連邦の頂点…“みかどの血を引く者”でありながらッ!!




 今となっては思い出すことさえ面倒に感じる己の血…刀夜の言葉により、それを再認識した天牙は少しばかり表情を険しくした…。




「この血を引くからこそで御座るよ、刀夜。お主らが掲げた大和の正義は、かつての先代たちが掲げ、世界に認めさせた大和の正義とは既にかけ離れたものになってるので御座る」




 先代達も刀夜も己の正義に従っている事に違いはない。だが、この両者には明らかな違いがあった…。




「先代達は今のお主の様に正義を掲げ、行動を起こした。だがな、お主と違って自らを“正義と称した事は一度も無かった”で御座る。」



「なに、を…?」



 風潮や弱味、後ろめたさを気にしたという理由もあったかもしれないが、先代達は決して自分達が恥じる様な真似を…周囲の者達に後ろ指をさされる様な真似は決してしなかった。その間に近隣諸国から『聖なる地』、『義の国』などと呼ばれるようになったのである。


---そう、“呼ばれるようになった”のである…



「早い話、お主らは順序を勘違いしていたので御座るよ。大和の名が正義を意味してた訳ではない、正義に相応しい振舞いをしていたからこその大和だったので御座る」



 世界が正義と認め、それに見合うだけの行いを見せたかつての大和連邦。だからこそかつての栄光を手に入れ、世界に名だたる繁栄を見せた。だがそれは、一部の思い上がり達によって終わりを迎えた…。


 

「拙者達が信仰する太陽神様の教えにもあったで御座ろう?『汝、人の手本と成れ』とな。この『人』とは大和の民だけを指した意味では無いと、信教徒の者達も言っていた筈で御座るが…」



「うるさい黙れッ!!」



 その言葉と同時に刀夜は目にも留まらぬ速度で無数の斬撃を放つ。対する天牙も同等の速度で刃を振るい、その全てを防いでみせる。二人の刃が衝突する度に凄まじい衝撃が戦場を駆け巡った…



「信心深い貴様の言いそうな事だな!!だが私は神なんぞの為に己の正義を曲げるつもりは無い!!」



「その正義の概念の元は、宗教から来ているので御座るが…?」



「黙れ!!国を裏切り、我らを裏切った貴様にとやかく言われる筋合いは無い!!」



「もしもあの時、お主らに同調していたら、それこそ拙者にここで口出しする資格は無かったろうよ」



「あんな世迷いごとの様な予言・・を信じる貴様がッ…!!」



「少なくとも、血迷ったお主よりはまともだったで御座るよ。予言の内容も、それによって送られてきた“あの子”もな…」



 この世の全てを否定しかねない勢いで、狂ったように二刀を振り回す刀夜。その瞳には次第に狂気が宿り始めていた。それに対して天牙は何食わぬ顔で落ち着いた口調のまま、冷静に刀夜の斬撃の嵐を捌き続けた。



「『世界に認められし英雄の元に神の御使い現れん。神の御使い英雄の弟子になりて世界を救わん』だったか!?……我らを信じなかった貴様は、寺の坊主の話は信じたのか…!?」



「寺の坊主ではなくて神社の神主だ、馬鹿者。ついでに言うと、夢の中で神に会うまで拙者も半信半疑だったで御座るが…」



 天牙が大英雄と呼ばれてから暫く経ったある日、彼は夢を見た。文献通りの姿をした、自身が信仰する太陽神が自分に頼み事をしてくる夢だ…。




---東一番の大山に、お前の弟子に相応しい男を異界より招いた。面倒を見てやってくれ…




 夢の割にはハッキリしており、やけに記憶に残ったその夢。もしもの事もあるので、結局はその山に件の弟子が本当に来ているかどうか確かめに行った。そこで天牙は利道と邂逅を果たしたわけなのである…



「本当にあの子は、拙者には勿体無い程に素晴らしい弟子で御座ったよ。あの若さにも関わらず剣の腕は凄まじく、自身の頭で物事を考え、それに見合うだけの優しさを持っていた…」



「馬鹿馬鹿しい!!我らの正義を理解できぬ小童など、取るに足らぬわ…!!」



「お主の“空っぽな正義”より何千倍もマシで御座る」



「何を…ぬおッ!?」



 いい加減に苛立ってきたのだろうか、天牙は横に薙ぎ払うようにして重たい一閃を放つ。慌てて刀夜は二刀で防ぐが勢いを殺せず、そのまま吹っ飛んでいった。そんな刀夜に向かって天牙は己の愛刀をピシッと翳しながら口を開く。



「自身の正義を微塵も疑わず、周囲の声を聞かなかった結果が今の状況で御座ろう。お主の掲げた正義は、いったい誰の為のものだったので御座るか?」



「……黙れ…!!」



「個性というものが溢れるこの世の中で、人々が他人の考えを受け入れる時はソレに心から共感できた時のみで御座る。強要すれば、表面上は従っているように見えても、心の中では異を唱え続けているもので御座るよ…」



「うるさい、黙れ…!!」



「だからこそ正義とは押し付けるものでは無く、認めさせるものなので御座るよ。もしも自身の掲げた正義が正しいのなら、人は勝手に付いてきてくれるからのう……お主と違って…」



「黙れえええぇぇ!!」



 怒声と共に刀夜は二刀を振りかぶりながら此方に凄まじい勢いで迫ってきた。それに対し天牙は刃を一度鞘に収める…。




「一回で良いから振り返り、自身の正義が残したモノを確かめれば、違う未来もあったろうに…」



「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」




 狂気を宿らせ、雄叫びを上げながら迫る刀夜に、かつての友の面影は既に無かった。自身の行いを間違いだったと認める事を恐れ、現実を直視する事を拒んだ者の末路と言うべきか…


 何かを決意した天牙は静かに、ゆっくりと自身の愛刀に手をやり、居合いの構えを取った。




「自身が肯定し、認め、掲げた信条だからこそ正義とは、己の在り方そのものを表す……」



「雨之宮天牙ああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」



「故に正義とは各々が掲げ、示し、人々に選択させるもので御座る。」




 腰を落とし、余分な力を抜きながら構えを深くしていく天牙。その雰囲気は刀夜に反して冷静そのもだが、瞳には熱い何かが宿っていた…。




「他者の意思あってこその現実。現実(他者)に認められずに世界の真理を名乗ろうとすること自体が、そもそもの間違いだったので御座るよ…」



「死ねえええぇぇぇ!!」




 既に二人の間合いは10mも無い。ほんの一瞬で二人の距離はゼロになり、互いの刃は届く。けれども天牙は恐れない、動じない…




「そんなに自身の思考を肯定して欲しいのであれば、己の夢の中にでも引き篭もっておれ……永遠に…」



「うおああああぁぁぁぁッ!!」




 狂った二刀が天牙にお向かって振り下ろされた刹那、彼は動いた…




「天照流・一の奥義……」



「ッ!?」





---断界絶空ッ!!





 その瞬間、刀夜はその場に立ち尽くした。さっきまで目の前に居た筈の天牙は彼の遥か後方におり、そのままスタスタと愛弟子が向かった大監獄の方へと歩いていくところだった。


 その背中は明らかに隙だらけ。斬り付けるには絶好の機会だが、刀夜は動かない……否、動けない…





「……天牙、私は間違っていたのか…?」





---刀夜がそう呟いた瞬間、刀夜が立っていた場所を中心にして、1kmに渡り大地が“抉れた”…




「…少なくとも、拙者はそう思うで御座るよ……」




 一切の隙間無く放たれた無数の斬撃により、大地ごと消滅したかつての友に向かって静かに、そしてどこか悲しげに天牙は呟いた。けれども彼は振り返るらず、その足を真っ直ぐ大監獄へと向けた…




---誰に言われるでもなく、自身が導き出したものと同じ答えを出した、愛弟子の元へと…






◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「止めろぉ!!獄炎弾頭の元に行かせるな!!」



「何なんだこの小僧は!?強すぎる!!」



「応援を呼べ!!ここで阻止するんだ!!」



 大監獄の中には、外で利道達と戦わなかった百人の生き残りが待ち構えていた。だが、千人近くの兵士で止めれなかった破壊嵐の片割れを、それ以下の人数で止められるわけが無かった…。



「どけぇ!!」



「ぬあっ!?」



 刃を振るい、突き、薙ぎ払い、時には自身の拳で殴り飛ばす。あらゆる術を用いながら、利道は行く手を阻むあらゆる者達を退けていく。



「駄目だ!!こんな奴に勝てっこない!!」



「邪魔だどけッ!!」



「ッ!!」



 怒声と共に物々しい金属音が響く。視線を飛ばせば、そこに居たのは巨大な機銃を構えた巨漢の男。



「蜂の巣になりやがれ!!」



 その言葉と同時に男は引き金を引き、鉛弾の嵐が利道と男の途中に居るほかの兵士達を巻き込みながら迫る。間の兵士達が必死になってそれを避ける光景を目の当たりにしながら、利道は師匠直伝である居合いの構えを取る。そして…



---天照流・居合い・喪鳳閃



「なっ!?」



 抜き放たれた一閃は、迫り来る銃弾の嵐を弾き飛ばしながら真っ直ぐ飛んでいき、そのまま男の機銃に命中して真っ二つに切り裂いた。



「ッ!?」



「邪魔だぁ!!」



 男がその現実に驚愕して呆然としている内に間合いを詰め、利道は男の即頭部に凄まじい勢いを持って蹴りをブチ込んでやった。蹴られた男は白目を向きながらその場に崩れ落ちる…


 それと同時に兵士達の間に緊張が走る。どうやらこの男、この場所のリーダー格だったようだ。



「もう無理だ!!俺は逃げる!!」



「俺もだ!!こんな化け物と戦えるかッ!!」



「待て貴様ら!!敵前逃亡は死k…」



「うるさい」



「へぶっ!?」



 声を荒げた仕官風の男を鞘でぶん殴り、気絶させた。それが雰囲気に拍車を掛けたのか、残っていた兵士達は一気に逃亡を開始した。それを一瞥した利道は即座に駆け出し、目的地へと急いで向かう。師匠の懸念が当たっていた場合、それは世界に最悪の結果をもたらすからだ…





---『刀夜が狂ってた場合、あやつは結果も何も考えずに世界を燃やすかもしれん…』




 自分の行動を全て正しいと思い込み、何もかもを正当化できると思うほど刀夜が狂ってしまっていた場合、彼は躊躇い無く弾頭を発射するかもしれないという事だ。




「……そんなこと、許してたまるか…!!」



 

 この世界は…ソーサレイドはニズラシアの時と同様、自分にとってこの世界は既に己の生きる場所、現実である。前回と同様、自分は誰かの思惑や計画に付き合わされているのかもしれない。


 だけど、そんな事は関係ない


 一度滅んでも逞しさを見せるこの世界を、居心地の良いこの世界を……そして師匠が愛した…





---知らない筈の父の背中を感じさせる、あの人の世界を自分は守りたいのだ…





「ッ!!そこだあああぁぁぁ!!」 



 

---だから自分は今ここで掲げよう、己の正義を…



 

 自身の勘を頼りに近くにあった壁を切り開き、その奥へと突き進む利道。すると案の定、壁を抜けた先には八つもの巨大な円筒状の物体…獄炎弾の設置場が見えた。


 それを確認した利道は真っ直ぐに、一切の迷いを持たずに駆け出す。それと同時に大監獄に機械的な音声が鳴り響く…



『発射準備スタンバイ』



「失いたくないと思ったモノ全てを、僕は守る!!」



 不吉な言葉と、それを裏付けるかのように火が灯るミサイルの噴射口。それでも彼は止まらない、躊躇わない。愚直なまでに真っ直ぐな走りは、少しも止まる風を見せない。やがて、切り開いた壁を走り抜けた彼はかなりの高さから発射場へと飛び出し、宙に舞いながら刃を構える…



「それが何であろうと、誰であろうと!!……天照流・二の奥義…」





---無天境地ッ!!





 利道の一閃により放たれたのは、8つもの空飛ぶ斬撃。その斬撃は、寸分の狂い無く弾頭本体を切り落としてみせた。大規模な死を振りまく炎が込められた弾頭を落としたまま、ミサイルはモクモクと煙の柱を立ち上らせながら空へと舞い上がっていく。


 それを確認した利道は安堵のため息を吐き、そして自分が結構高い場所に浮いている事を思い出した…




「……あッ…」




---僕、落ちるじゃん




「おわあああああああああああああ!?」




 途端に重力の法則が彼を襲い、彼を地面へと引っ張り出した。最悪な事に今更になって先程までの疲労がドッと襲い掛かってきたこともあり、受身もままならない……不味い、死ぬかも…


 何て半ば諦めかけた、その時だった…




---ヒュガッ!!……ドンッ!!




「うわっ!?」




 突然、自身の腕に走る衝撃。それと同時に落下も止まっていた。何事かと思って視線を腕に向けると、自分の服の袖を見慣れた刀が壁に縫いつけていた…




「やれやれ、まだまだ甘いで御座るなぁ…」



「し、師匠…!!」



 自分が切り開いた壁穴から、天牙がひょっこりと顔を出していた。どうやら落ちる自分を見て、自分の刀を投げつけて助けてくれたらしい。というか、あの距離で良く狙えたものである…



「師匠、外の方は…」



「あぁ…終わったで御座るよ……」



 その師匠の口調に何処か悲しみを感じた利道は何か言おうとしたが、それよりも早く天牙が口を開く。その声は出会った時と同様、図太くて大きく、耳に良く響いた。



「利道ッ!!」



「は、はい…!!」



 返事をした瞬間、何故か天牙の目が泳ぎだした。今までの経験上恐らく、何かこの場に相応しい言葉を思いつこうとしてるのだろう。自身の頭の中の単語辞書をフル活用してその相応しい言葉とやらを検索中なのだろうが、出てくるのは多分…。






「……良くやった…!!」



「…はい!!」




 こういうところは考えるのが苦手なあの人らしい性格の、あの人らしい言葉。それを聴けた利道は、自分はこの世界を守れたという事実を、心から実感したのだった…




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