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第九章 二の正義

一応、自分の中で結論は出してますが、今回の話に関しては色々と意見を言って欲しいです。




 この世界の歴史に少しだけ触れた利道は、何とも言えない気分になっていた。この世界の成り立ちは、最低限しか聴いてなかったため今の世界が出来上がった背景を知った自分の今の感情は、自分自身でも良く分からなかった…。



「さて利道よ、お主はどう思う?」



「大和連邦のことですか…?」



 だとしたら、自分は迷い無く大和を愚かな国と称するだろう。しかし、天牙が尋ねたかったのはそっちでは無かったようで…



「違う……拙者のことで御座るよ…」



「え…」



 そう言われて彼は考えてみる。天牙は祖国を見限り、あっさりと国を捨てた。だけどそれは大和連邦が悪いのであって、天牙自身に非は無い筈である。


 そんな感情が表情に出ていたのだろうか、利道の顔を見た天牙は溜息を一つ漏らして口を開く…



「利道……拙者は国を、仲間を、友を全て見捨て、挙句の果てには何もせず田舎に引っ込んでいただけで御座る。あの戦時、拙者は誉められる様な真似を何一つしてないので御座る。さぁ、どう思う…?」



「……。」



 言われて利道は沈黙するしか無かった。悪い言い方をすれば、自身は戦いから逃げただけの卑怯者…目の前の師匠は、そう言いたいのかもしれない。 


 そもそも、何が正しくて何が間違っているのか…それが良く分からない。大和連邦とて、自身が正しいと思ってやったことしかやってないのである。だが傍から見ればそれは、全て他者にとっての滑稽にしか映らない。実行に移さなかっただけで、他者との価値観の違いに良い感情を抱いてない者は、そんなに少なくないのだから。


 実際この世界で遭遇した盗賊達の中には、やってることは一緒の筈なのに抱く感情が違う一団がいくつもあった。それどころか、ただの村人達にさえ違いがあった。ただひたすら物事に耐える者、他者を傷つける事を躊躇わない者、自身を顧みない者、成り行きで正義を名乗る者、家族の為に悪に成り下がる者…


 人によって様々な立場と事情を持ち、過去を元に今を生きながら未来を作る。誰しもがそうだ。そこに善人も悪人も無い……いや、そんなものを気にするのは人間達だけで、世界には元から善悪なんて存在しないのかもしれない。少なくとも、利道が訪れた当時の二ズラシアはそうだった…。




―――だけど自分は…




「……当時の師匠の行いに対して、僕は何とも思いません…」

 


「…ほう?」



「大和連邦が正しいと思って戦争を起こしたように、師匠は自分が正しいと思った事をしただけです。」 


「拙者は、祖国を捨てた卑怯者…前代未聞の親不孝者で御座るよ……?」



「僕は親戚と貴方が対立したら、迷う事無く貴方を選ぶ自信がありますよ?」



 血の繋がりを大事にしない者は、世間的には悪に映るかもしれない。だけど自分の親戚達は迷う事無く自身を孤児院に送りつけ、送った後も自分に会いに来る者は誰一人居なかった。逆に一切血の繋がりを持たないこの人は、あらゆる事を自身に教え、与えてくれた。



「その国に生まれたからとか、その人の血を引いているという理由だけで僕は何かを決めれる気はしません。世間的に咎められるかもしれませんが、僕は自分が受け入れられないと思ったモノは、何であろうと拒絶します。それが誰であっても…」


 

 無論、目の前の師とて例外では無い。自分がこの人を師と崇め、敬うのは『師弟』という称号だけの話では無い。そうしたいと思うに値する感情とその理由があったからこそ、自分は天牙を慕っている。


---だから自分は、血縁よりも、生まれよりも、関係よりも、自身の感情と理由を重視する…




「……僕って、狂ってますかね…?」



「そうかもしれんな……だが同時に、そうで無いかもしれん…」



 ふと天牙の顔を見てみると、何故か嬉しそうな笑みを浮かべているところだった。てっきり、昔の行いを後悔しているのかと思ったが、もしかしたら違ったのかもしれない…。



「利道よ…おそらく世界には、今のお主の言葉に賛同する者と反発する者は、両方とも数多く存在するで御座ろうな……だが、それが普通なので御座るよ…」



「え…?」



 天牙の言葉の意味が分からず、不思議そうな様子を見せる利道に構わず天牙は言葉を続ける。

 


「世界には様々な考えを持つ者が居るで御座る。お主と同じ様に道理を重視する者、逆に義理を重視する者。他社の命を何よりも大切にする者、身内の命を誰よりも大切にする者。何かの為に非道を貫く者、甘さを捨てない者……その全てをどちらが正しく、どちらが間違ってるか等と一概に決めることは出来ないので御座る…」


 

 感情、思想、価値観…その全ては、それぞれが積み重ねた経験や過去等の様々な要因によって作られている。人々に個人と個性という概念がある限り、全ての人々は似たようなモノが作り上げられても、全く同じモノで統一されることは有り得ない。全ての人々が全く同じ環境、同じ時間を経験することは無いからだ。


 だからこそ一つの物事に対し、全ての人間の考えが一致するなんて日は永遠に来ないだろう。もしもそんな日が来るとしたら、世界から人間が異様なまでに減少したか、個性を捨てて機械の様な生き方をする未来しか無いだろう…。



「それに伴い、世界には様々な正義が溢れている。そんな中で全てを善悪に二分し、白黒ハッキリさせるなんて真似が出来るほど、世界は単純には出来てないので御座る。必ず誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪になるので御座るからな……だが、それでも片方を増やし、片方を減らすことは出来ると思うので御座るよ…」

  


 それは全てを終わらせ、己の行動を振り返らない限り結果は分からないかもしれない。それが出来るようになるまでは、己が決めた信条…つまりは正義に従うしかない。



「さて利道…我が弟子よ、これはあくまで拙者の考えで御座る。共感して参考にするも良し、下らぬと切って捨てるも良し。それを踏まえてもう一度訊ねよう……お主にとって『正義』とは、何だ…?」 



「……僕にとって、正義とは…」





---その夜に導き出した利道の答えは、少なくとも自分の師匠を喜ばせるには充分過ぎた…







◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「で、何て答えたんですか…?」



「はいはい顔が近いよ…ていうか、何で君まで牢屋に入ってるのかな?」



「細けぇこたぁ気にすんなって奴ですよ。ほらほら、そんな事より早く続きを!!」




 勇次が出て行った後、ソーサレイドでの出来事を語っていたのだが、いつの間にかヴァーディアが同じ牢屋に入っていた。鍵はもう付いて無いから自由に入れるといえば入れるが、自ら入るか普通?



「まぁ、その時の僕の返事は置いといて…」



「え、何でですか?」



「どうせ後で言う羽目になるから、後回しでも良いでしょ。さて、とりあえずその後の事なんだけど、ついでだから師匠に白狼刀夜が何の話を持ちかけたのか訊いてみたんだよね」 


 

 あの日、師匠と二人きりで話しこんでいた刀夜。結局は決裂したみたいだが、何かの誘いを受けていたのは確実だった。故にその真相を訊ねてみたのだが…



「白狼刀夜は、当時唯一の公共施設ともいえる大監獄の長をやっていたんだ。世界に蔓延る盗賊とか無法者の中で殺すに値しない、けれども放置は出来ない人間を引き取ってたんだけど、いつまでも減らないそういう輩に痺れを切らした彼は行動を起こすことにしたみたいでね。その協力者として師匠を誘おうとしたらしい…」



 大戦時、去り行く者とそれを引き止める者として二人は対立した。が、彼と師匠は本人が名乗った通り友だったそうだ。故に大戦が終了した当時、刀夜は天牙の元を訪れることを躊躇わなかった。


 

「互いの実力は互いによく理解していたし、性格も分かっていたつもりだった。だから白狼刀夜は、師匠が自分の誘いを断るなんて夢にも思わなかったんだろうなぁ…」



「その人、天牙さんに何の話を持ちかけたんですか…?」



「大和連邦の再建、及び秩序の再生」



「……はい…?」



 あの時の師匠も、目の前のヴァーディアみたいに呆けた表情を浮かべていたのかもしれない。結局、彼は天牙が何を思って大和連邦を抜けたのか理解していなかったのである…。



「もう誰も…少なくとも当時は誰もそんな事は望んでいなかった、師匠も含めてね。確かに無法者はそれなりに蔓延っていたけど、全体的に見れば大戦前と治安の度合いは大して変わってなかったようだし…」



 むしろ隣国だの外国だのという境界が消えた為、それ以外の脅威は無かった分まだこっちの方が平和だったかもしれない。大戦時の記憶を教訓とする人々は大規模な争いを回避するように心がけ、互いに譲歩しあい、受け入れあった。刀夜が仕切っていた大監獄以上のものなんて、誰も望んでいなかったのだ。



「そんな人々の気持ちなんて考えず、知ろうともしなかった彼は、自分で自分の独りよがりな正義に振り回されてたのかもね。せめて自分の周りの人間の言葉に耳を傾けてれば、少しは違ったろうに…」



「あれ?何かそこまでとは行かないけど、他人の事情を一切考えない熱血漢と会ったような…」



「まぁ、彼には彼の正義があったんだろうけどね。でも自身のそれを妄信し過ぎて、周囲の意見を聞かなずにそれを振りかざしてるとそれは、ただの独りよがりに成り下がる。例え自分で自分の信条に矛盾した行いをしても、それに気づく事は永遠に出来ない……それを確かめる為の、唯一の手掛かりを無視するんだから…」




 利道のその言葉は友にさえ呆られた亡国の大剣豪に向けたものなのか、それとも物事をあまり考えない二人目の勇者に言ったものなのか、ヴァーディアには分からなかった。もしかしたら両方に向けて言ったのかもしれない…。



---自身の正義を信じて疑わなかった刀夜と、狭い視野で物事を決める勇次に同じものを感じた利道は…




「さてと、その白狼刀夜だけど…結局のとこ、彼は自分が志したものを諦めれなかったみたいで、遂に全ての実行を開始した。自身の城とも言える大監獄を中心に『新生大和連邦』の樹立を宣言、大陸に住まう人々を勝手に大和の民と称して半ば強引に管理下においたんだ」



 突然の事に人々は戸惑い、反発した。ところが新生大和は、その事に不満や異を唱える者を全て悪と称し、反乱分子として扱った。民衆の意思なんぞお構いなしである…



「終いには大和再建の大義名分である無法者を、人手不足を理由に雇って戦力にする始末で本末転倒もいいところだよ。もうやる事なす事全てが滅茶苦茶で、ソーサレイドの歴史上、最も最悪の時代になったみたいだったね…」


「もう、言葉になりません…」



 これだけの事をしておいて未だに新生大和の連中は自分達が正しいと信じ込んでいた。彼らからしてみれば、自分達が昔から信じていた大和の正義に従っているだけなのだ。誰も受け入れることは出来なかったが…



「だから師匠と僕はこれ以上事態が悪化する前に、彼らを止めることに決めた…」






---新生大和連邦建国から一週間、ソーサレイドの歴史に永遠に残る事になる、二人の英雄による伝説の幕が上がった…


利道が導き出した答えは次回に

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