◆13◆
中国製のトカレフが、まるで花火のようなこざっぱりした音を奏でた。
しかし、銃口からは確かな青白い煙と硝煙の臭い。
琉美の脇腹から血が流れ、赤いTシャツを黒く染め出した。
「な、何てことをするんだ」
重三郎が叫んだ。
……あぁあ、ブン太の奴、琉美を助けるどころか、助けられてやがる
土間の入り口付近の花壇の陰で様子を覗っていたソラは、呆れた顔で呟いた。
「そのガキが飛び込んだんだ。俺は犬を狙ったんだ」
下っ端が、震える声で叫んだ。
「どうします? アナタが早く陶器を造らないから」
スーツの男は顔色一つ変えずに、寧ろ笑顔を浮かべて言った。
「琉美を病院へ」
「じゃあ、陶器を造ると一筆書いてください。あ、それから拇印も」
そう言っている間にも、琉美のシャツが黒々と染まっていく。
……しょうがねぇな。一宿一飯の、いやそれ以上か……とにかく恩返しと言う事にしておくか。
ソラはそう思いながら立ち上がり「僕のガラじゃないけど」
『おい、チンピラ!』
下っ端は後ろから聞こえた声にビックリして振り返った。
ガッ!
「うわぁぁぁ!」
一瞬の出来事だった。
ソラは彼の右手に噛み付いた。トカレフ事噛み千切らんばかりの力だ。
「イテェ、放せ、放せ……」
銃が手から落ちて、男も土間の入り口に転がった。
下っ端の手は、もう銃を拾える状態ではない。指の骨がバラバラだった。
ソラが下っ端を倒して土間に入ったとき、スーツの男が懐から手を出した。
その手に握られているのは中国製の粗悪なトカレフなんかではない。本物の拳銃。
高性能オートマチックのシグの銃口がソラを狙った。
高級なステンレスのボディーがギラリと光った。
ドンッ! ドンッ!
男は二度連続で素早くトリガーを引いた。
仕留める為の基本テクニックだ。
薬室から飛び出た空薬きょうが、勢い良く固い土の上にキンッ、キンッ、と音をたてて転がった。
ソラは素早く左に回避行動をとって、それをかわした。
兆弾で土間の土が小さく盛り上がる。
男は再び銃口をソラに定めようとする。が、一瞬速く、ソラは土間と茶の間の段差に足を掛けてスーツの男に飛び掛った。
ドンッ!
「クソッ」
弾丸は天井に向かって放たれた。
ソラが飛び掛った勢いで、男は仰向けに転がった。
そして、その手にはソラの鋭い牙が突き刺さっている。
グルルルル…………グルルルルルル
鼻を鳴らし、喉元から響く唸りにスーツの男は少なからず恐怖した。
「ちきしょう……」
男の左手が、スーツのポケットを探っていた。
取り出した飛び出し式のナイフを、ソラの身体に向かって構えた。が、しかし
「イテッ」
その時、男は左手にも痛みが走って思わずナイフを落とした。
白い小さな生き物が、男の左手に噛み付いていた。
ソラは渾身の力で男の右手を深く噛んだ。彼の歯に男の手の骨の感触が伝わった。
勝負は着いていた。
グルルルルル……『愚かな人間…』
ソラの声にスーツの男は目を見開いた。
「バカな……お前、化け物か……」
バキバキッ
「うぐぅあぁぁぁぁ!」
次の瞬間、男の手の骨は砕けた。
「恩は返しましたよ。オオ犬さん」
白い家ネズミはソラに向かってそう言うと、チョロチョロと凄い勢いで、外に駆け出して行った。
その手にはしっかりとサツマイモの切れ端が握られていた。




