Ⅱ 囁き 蠢き 飍が吹く
西側にある一件の民家。そこには母親と私が二人で住んでいる。
父親は王に逆らい、私が小さい頃に処刑されてしまった。
でも、この家は今、王に逆らった少年の仮の住まいでもあるわけ。
あの歴史的な日の夜、彼を匿う様な人は母親以外誰もいなかった。彼女は私が呆れるほどお人好しで、それが私の親自慢な所でもある。
最近の趣味はその少年……ルシオラだっけ、彼の特殊な能力について個人的に調査中。
たとえば、今日の朝の話。ご飯食べてる最中に………
「馬が十頭、南東から1㎞先に走ってきてる」
何て、いきなり呟くの。1㎞先なんて人間に聞こえると思う?
「わかるの?」
「まぁ、それ位はできる」
礼儀正しい良い子なんだけど、ちょっと変わってるの、無愛想だし、時々おっかない顔するのよ。近所の子も私を心配して声かけてくれるんだけど二の句には彼の話ばっかり聞いてくるから結構大変。
でも、周りのみんなも悪くは思ってないみたい。やっぱり一番最初の夜の時、王が使わした小隊を一人でいとも簡単にたおしたのがある程度信頼を得ているのかしら。
それからも、彼は今までの攻撃を一人でかたづけてるらしいわ。
あと、ご飯の時以外は家にいることないし………まだ謎が多すぎる。
夜はあんまり寝ていないみたいだし、何やってるんだろう?
†
とある田舎の教会の一室、そこにいたのは身なりのしっかりした人達ばかりだ。
彼らはなるべく質素にしているつもりだが、身につけている高級時計などに裕福な育ちであることがにじみ出てしまっている。
太陽の光が降りそそぐ部屋で4~6人が長い机をはさんで会話を交わしていた。
今、女性がルシオラの横で資料を読み上げている最中だ。
「----どうでしょう、詳細は以下の通りです」
「勝機はあるのかね?今の内容では完全に西の方が不安定に見えるのだが」
「えー安心してよ、僕は負けたことないから」
ルシオラの憂鬱そうな眼は彼の首を縦にしか振らせない。
「みんな見てると思うけど、僕は数々の戦争を乗り越えてきた。だから僕は負けないことをあなた方に約束しよう。だから僕のために“力”をかして」
ただの無邪気な笑顔だけで大量の資産が降ってくる。(あぁ、なんて面白いんだろ)
†
---タン…タン
リズム良く暗い廊下に響くのは軽い足音。静かなココには余計に響く。
目の前を通り過ぎても、警備の人は何の反応も見せない。
彼はそれに気付いているのだろうか。否、気付いてないだろ。
不意に誰かに触れてしまった。
「貴様……誰だ!?」
「あれ?見つかっちゃった?」
相手の顔を見る前に気絶させる。上手く潜り込み、みぞおちに肘をたたきこむ。
背の小さな侵入者の綺麗な長髪が翻され、音もなく大柄な男は倒れた。
薄暗い部屋にろうそくが揺れる。
王は高級そうな椅子に座りほおづえをついて、不吉な笑みを浮かべている。
ろうそくの光は陰を濃く映し、その不気味さを増していた。
“戦争にいるのは力。細かく言うなら金である”これは王の心得。彼の勝つための法則だ。
「あんな、小僧にはそれすらわからんだろ」
王は小賢しくも貴族民が多い東を自分の領土にした。
あと必要なのはなのは情報だけ………
相手の力量がわからなければ無駄に財力を消費する。
一個小隊が全滅、貧民も反抗の意志を見せ始めたらしい。
だが錆びた鉄は鋼に敵わない。
「容易い。勝利は見えているぞ」
ゲラゲラと笑う王の声は城中に響き渡っていた。
◆ ◆ ◆
僕は殺人に対してどんな感情も浮かばない。だって、どうでも良いことだから。
僕が傷ついたとしても、本当に傷つくのは相手の方。だから、そんなこと気にしない。
結果は同じ。残るのは死体だけだ。
昔は『殺せ』といわれて殺してた。
只、ソレガ全テダッタ……
今は誰からも指図されない自由を手に入れた。
只、ソウスルシカ無カッタ……
だけど殺人衝動は僕の中で蠢いている。
嗚呼、頭ノ奥カラ聞コエテ来ル
僕は命令されて殺していたものの、本当は楽しいと思っていたのだ。
ホラ、前ト変ワナライ
僕にとって“殺し”は人も国も関係ない。それが何であろうと殺す。
『それが、お前の存在意義だ。故にお前はそれしかできない』
あざ笑う者は自由になってからも僕の周りをつきまとう。
「あぁ、うざい!!」
“オ前ハ一生変ワレナイ”
カタカナは別にして読んで頂けると幸いです。
タイトルの「飍」は「おおかぜのおこるさま」と読むのですが、『「おおかぜ」が吹く』となります。タイトルに振り仮名が付けられないので後書きに記載すること、ご了承下さい。