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荷馬車の中で・・・  作者: 麻香
第一章 傲慢と謙譲と
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Ⅴ 願いと欲望は紙一重 *


彼女はこれまで部屋にこもりながら、耳をふさぎ、忘却の神にすがっていた。

それが彼女にとって良かったのかは解らないが、おかげで殺し合いから逃れられたのだ。


これは、悪い夢、転がっているのは人じゃない。違う違う違うでも……

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うチガウ!!!


もう、彼女は死体が視界に入っても、頭は認識しない。昔のままの屋敷であるだけ。

握っているのは護身用の銃だけど使い方なんて知らない。

みんな死んでいるのに何故か哀しくない。あれ?何でこうなったんだっけ……忘れてしまったわ


                  †


幼い少女の目に映るのは憶えている笑顔。

「おめでとう御座います、お嬢様、貴方が当主ですよ?」

金髪はサラサラしてて、眼は綺麗な碧色で、頭も良くて、何でも教えてくれる。

それに、私を無視したり殴ったりもしない。

「兄様、敬語は直らないのね」 「ご…めん?」

この困った顔が私の一番のお気に入りだ、あぁ、変わっていない。

「誤る事なんて無いわ、癖はそう簡単には直らない物よ」

「……そうかも知れないな」


地獄の中でたった一つ手に入れた天国へ行ける道にすがるように、彼女は少年に抱きつく。

静かにあふれる涙は清らかすぎて、俺にとっては不愉快でしかない。

しかし、彼は小さく温かい義妹(いもうと)を突き放そうとはしなかった。


「みんな逝ってしまったのは何故(なんで)?」

「さあね、僕には理解出来ない。でも、何か原因があるから物事は皆変わっていくのさ」

「じゃあ、ハジマリは何処(どこ)?」

「僕が来たときからかもしれないし、もっと前かもしれない」


「これからどうすれば良いのかな?」

「それは、君が決めるんだ………」

静かに眼で頷き義兄(あに)として義妹(いもうと)に告げる

「---もう君の人生は君の財産だ、自分で選ばなきゃ駄目じゃないか。人になんか渡しちゃ、きっと君が後悔するよ?」


「ねぇ、三つお願い聞いてくれない?」

「俺に可能なことだったら、三つくらいどうって事無い」


「……あのね、兄様の本当の名前が知りたいの」

「俺の名前はレオンだけど………」


「それは、祖父様(おじいちゃん)が付けた名前じゃない」

「俺はそれしか、名前がないんだよ」 「憶えてないの?」

「あぁ、だからコレが俺の名前。獣の王者からとったらしいけど、俺は嫌いじゃない」

「じゃあ、その名前大事にしてね、約束だよ?」

「……それが、二つめの願いか?」

「ちがうちがう、約束だってば。ずるいよレオンは」

(にいさま)を呼び捨てとは良い度胸だな」

軽く微笑む少年をみて少女は無理に笑って見せた。


「二つめはね、誰が何人、何のためにどうやって殺したのかが聞きたい」

「そんなことに二つめを使っていいのか」

少女が縦に首を振るのをみて、少年は本を読むときと同じように語りかける。


「まず、爺さんは息子…君の父親が金を積み雇った殺し屋に殺された。

 次に、父親と三日目の死者は君の母親に。四日目は俺が四人殺した。

 そして、五日目は皆自殺に見えるが、転落死した二人は他殺だ、犯人は……」

「---私、六日目のお母様も私が殺した。自覚は無いんだけど、そんな気がする」


「そう、君は2人しかいない十代の使用人を突き落として自殺に見せかけ、母親は君に刺されて死んだ。というかアレは事故死だったんじゃないか?」

「わかんない。お父様の部屋が凄い臭いしてて、気になってあけてみたら。お母様がペーパーナイフ片手に飛びかかってきた」

「俺は、無意識に自殺に見せかけるよう動いたお前は頭が良いと思ったけどな」

「でも、いけない事じゃない?」うつむき辛そうに話す義妹

「俺もあの状態ならそうしてたし、この屋敷内で俺の推測道理に動かなかったのはお前だけだった………」これは俺の本音でもあり、賞賛の言葉だ。

優しい声で話すその顔はどことなく悔しさがにじんでいた。



「兄様は殺した人だけしかわからないのかしら」


高く冷たい声が屋敷に響く、少年は驚き、そしてニヤリと好奇心旺盛な笑みを見せた。


「わかるさ、君より俺は馬鹿じゃない。顔をわからなくする細工は君が全部やったんだ。人の顔面が崩れていく様の感想はどうだったんだ?」


くすくす、と小さな笑い声が聞こえる、先刻の涙がまるで嘘のように彼女は横にいた死体の顔を踏みつぶした。プチプチと肉が潰れる音が聞こえる

「ええ、楽しかったわ。使用人達(こいつら)みんな私を無視するんだもん腹が立ってしょうがなかった。あんな醜い顔で哀れみの視線を向けてくるなんて吐き気がするわ」

容赦なく踏みつけるその姿は別人格のようだ。


「そうか、一度は会いたかったんだよ君に。三つ目の願いは何だい?」

「お兄様。このきったないお屋敷焼いてもらえるかしら?」


屈託のないほほえみで彼女はそう告げた。


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