Ⅶ それぞれの終演 *
夜空に浮かぶ小さな星々の光を反射する長髪は所々紅く反射する。
西洋風の彫刻が施された屋根の上、風になびくフード付きの黒いコート。
「あーあ、暇ねぇ……」
小さい足を投げだして、彼女はそう呟いた。地上を見下すと満天の星、人の生活が聞こえる。彼女は立ち上がり、めいいっぱい息を吸った。
「誰かいませんかぁー?」
誰も応えることはない。あったらまずい。
遠くから運ばれてくる鉄と硝煙の臭い。それに気付いて、彼女は屋根から降りる。
「……よし、そろそろね」
----ピチャ
液体がはねる音が足下で聞こえた。広くて背の高い廊下を彼女は駆ける。
彼女が去った後
残ったのは紅く染まった城とヒト………
†
見なければ良かったと今頃になって後悔した。
ココでは死に近いが故、死に対して無頓着になる。
だから、紅く染まる彼の姿を見て私は恐怖ではなく憧れの錯覚を抱いてしまう。
屋根の上まで爆風は届いた。
飛ばされそうになりながらも、必死にこらえてまじまじとその光景を見つめる。
人間が紙切れのように吹っ飛んでいた。見たことのない重そうな乗り物は炎を吐く。
彼女はその光景から目を離すことが出来なくなっていた。
そして、彼女は不意に微笑む。
(まぁ、ルシオラが死ななければ誰が死んでも構わないわ)
†
村の端に火が放たれた、ごうごうと音をたてるその炎に向かって彼女の母は住民達と一緒に消火活動に専念していた。
どれだけ水を運んでも足りず、一つの家が消えたと同時に隣の家が炎に包まれる。
村中に劈く悲鳴がとぎれることなく響いていた。
炎と同時に狩人も現れる。
無抵抗な女子供も容赦なく片っ端から切り刻む彼らの表情はもう人とは呼べない。
男達はかかんにも挑むが、相手は殺し・戦争のプロである、実力差がありすぎた。
(お願いだから、こっちに来ないで。逃げて)
愛娘は家にいるはずだ。そこまで狩人が来るのにはまだかかりそう………
---ザシュ
母は手に持ったバケツを落とし、気を失うように倒れた。
水がバケツから流れ、不気味な色と混ざり合う。仮面の狩人は次の獲物へと走っていく。
†
「何をしておる!小僧だけ殺せばよいのだ!ええい、怯むな!」
罵詈雑言をまき散らす王は恐怖で青ざめているのを必死で隠した。
彼もまさか最新兵器が出てくるとは思っても見なかったはずだ。大量に減る自陣の駒は、もう始めの2割にも満たない数になっている。
「もうすぐだって言ったでしょ」
耳元で聞こえる声は笑っていた。
「教えてあげたのに、信じないから悪いのよ。どうせ、負けるんじゃないのかしら?」
「黙れ、貴様。私が負けるわけ無かろう?」
「いや、負けるよ?お・じ・さ・ん?」
刹那、前の護衛が全員倒れる。
「おじさん、もうちょっと粘ってくれなきゃ面白くないんだけどさ、他に作戦とかないの?」
不思議な形の剣がキラリと鈍色に輝く。王は大いに嗤って見せた。
「貴様の望み道理になると思うな小僧」
そういって出てきたのは12人の仮面の兵士達。騎士の中でもよほどの腕利きと見える。
「ふーん、ならこっちも」
彼が微笑んだ時、最新兵器の横から人が雪崩のように押し寄せてくる。
村の住人達の眼は怒りに狂い血走っていた。
「これでどうかな、おじさん?」
仮面の人間と同じ数のフードの子供が姿を見せる。顔色も何も闇の所為で伺えないが、彼らの無邪気なクスクスと嗤う声が不気味さを引き立てていた。
†
その頃、焦げた異臭に気付き、私は屋根から降りた。村全体が火の海に包まれている。
人の叫び声の中何かに突き動かされたように、走り出す。
「お母さん!どこっ!?」
哀しき叫びは母の耳に届くことはなく、彼女に届いたのもまた母の声ではなく裂かれる何かの音だった。
…えっ………?
最期に視たのは私の人生ではなく。好きだった人の傍らにいる、彼によく似た女の子。
彼らは悲しむことも笑うこともせず、只見つめ続けるだけで声もかけない。
……彼女は誰?あなた達は何?私たちは殺されなければいけないの?
†
同刻、アラストラル王は戦死。
よって内乱は終わりを告げ、隣国が植民地として国を引き取る。
衣食住には苦労しない生活を手に入れることに国民達は成功した。
後に銀髪の少年は姿を消し、国民は救世主として彼をあがめる。
国はその後……………