Ⅵ 一角獣の舞に踊らされ *
王はそれを眺めていた。
兵は所詮、数に過ぎない。いくら殺されようが、自分さえ生きていれば十分だった。
何もしなくても、金は手に入る。
自分に逆らう奴など力でねじ伏せてしまえばどうって事ない。
信じているのは自分の考えと金という名の力だけ。
全ては自分が正しくて、周りが間違っているのだ。
「そうだ、間違っているはずない」
だから、負けるなんてあり得ないんだぁぁぁぁっ!
「いいや、間違ってるんだよ?お・じ・さ・ん」
ねっとりとした、鼓膜にへばりつくような妙に明るい声。
背筋を虫が這うような感覚に渋面した王は唾を呑む。
「何者だ?小僧なら一人、目の前で戦っているぞ?」
「そうだね、一人は向こうで雑魚をひねり潰してるところだよ?」
振り向こうとしても、体は言うことを聞かない。
少し声は高いが身長等は完全に目の前で戦っている少年そのもの。
「まぁ、向こうもそろそろこっちに着くよ。もうすぐだからね」
「もうすぐ?!何がだ?」
「それをおじさんに言うと思う?」
声は後ろから離れない。見張りの兵も何も気付いていない様だ。
……ならば
「さては、お前。わしの幻聴だな?」
そう言うと声は不気味に含み笑う。
「まぁ、そう考えていた方が楽だと思うよ?」
王は聞かなかった振りをして、兵に言う。
「何をやっておるのだッ!相手は小僧たった一人ではないか!!」
王は恐怖を怒りで隠し、ひれ伏す民にあたった。
†
戦場の最前線では少年が変わった形の剣を手に踊っていた。
まるで、サーカス団のような滑らかな動きで騎士達を魅了する。
ステージはみるみるうちに艶めかしく紅い絨毯を敷く。
断末魔は心地の良い歓声となり、相手は綱渡りの綱よりも容易く千切れてしまう。
彼の中で繰り返し流れていた愉快な音楽。しかし、それは唐突に止まった。
それと同時に動きを止めた少年は後ろに積み上がった死体を視て、深く深呼吸をした。
「飽きた、もういいや」
それでも兵は止まらない。近くにいた十数人が一斉に斬りかかる。
眠たそうな眼で睨み付けたかと思うと、剣から返り血を振り落とした。
血の一線を引くと、そこから逃げるようにして後退する。
その逃げ腰な姿に驚いた兵は、丁度その線で止まる。
刹那、兵達の目の前に閃光が瞬く。
手暗がりだった周りが一瞬のうちに昼間となり眼を灼いた。
吹き飛ばされている事も自覚しないままに、最前線の兵は死に至った。
巻き起こった風は砂を吹き飛ばし、地は震え、一線の周りの土が盛り上がっている。
未確認で不可解なその力は民に恐怖を植え付けるのには十分すぎる物だった。
王の命令も無視して、一目散に人が引いてゆく。
そんな姿をルシオラは大笑いしていた。
まるで牧羊犬の気分だ。愉快、痛快、壮快!
今時、剣も盾も弓も矢も古いんだよ。
これからは、簡単に人が殺せる時代が来るのさ。それも一度に大量に。
人間も馬鹿だよね、守るために殺すんだから。(……何ヲ?)
あぁ、そういえば僕も人だったっけ………?
結局、自分が良ければ良いんだよね……僕もそう思うよ。
後ろを振り向くと大きく禍々しい鉄の塊がこちらを向いてゆるりとやってくる。
時折、大きな音をたて爆発したかと思えば、向こうの土が舞い上がり、人が朱く踊る。
それを見て彼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「まぁ、こんなオモチャも金がなかったら手に入らないんだけどね」
すると、馬に乗ったフードをかぶった少年が先頭をきって、ルシオラに近づいた。
「遅かったじゃないか……君が××××国からの使い?」
「ええ、霧が濃く移動に少々時間がかかってしまいまして」
「でも丁度良かったよ、おかげでコレに王は気付かなかった」
「この後どうなさるおつもりで?」
「まぁこれ以上“利益”を無駄に消費させたく無いしね、ちゃっちゃと主を殺しちゃうよ」
「こちら側としても、それが望ましいと思われます」
「4班はどうなってるかなぁ?」
「無事に成功されたようですよ」
ははっ、と乾いた笑いをルシオラはもらす。
「おじさん怒るだろうな」
「確認する前に貴方に殺されてしまうでしょう」
「そうだね、でも、つまんないから半殺しぐらいにしようかなぁ……」
すると横から冷めた声が耳に刺さる。
「それは、困ります。あくまで条約は守って頂かないと」
「わかってるから大丈夫だよ、僕はこんな国、興味はないから」
さてと、どうするんだろうね“おじさん”は………
無邪気な笑い声が爆発の音に吸い込まれて消えていった。