マンホーム
「東芝さん、おはようございます!」
「あ、あぁ……おはよう松下さん元気だね」
「晴れやかな月曜日の朝から元気無いなんて東芝さん……さては、土日に奥さまとヤリ捲りですか?!」
「お前見た目美人のくせに、開口一番最悪だな!」
「えぇ〜東芝さんこそ何想像したんですかぁ~?私は筋トレとかMMORPGを徹夜でぇ……」
「間際らしい上に極端だな!怠惰かアクティブか」
「東芝さんセクハラですよぉ…どっちも引き篭もって出来ますしね」
「セクハラはお前だよ!」
「元気になりましたね」
「元気じゃねぇよ……呆れてるだけだ。大体休み明けの憂鬱な月曜日の朝で、台風来てて晴れやかでも何でもないぞ!寧ろ低気圧で頭痛がするわ」
「その頭痛の種は低気圧ではなく、アタシでした!」
「分かっているなら絡むな!」
「東芝さん、ソレが聞いてくださいよ」
「話の流れどうした松下?!」
「…『とうした』と『松下』っておんなじイントネーションですね!」
「もう良いか?」
「あ、ちょっと何言ってんですか、トーシバさんこれからが本番ですよぉ」
「何だよその変なイントネーションの話か?」
「トーヨコ・イン」
「ビジネスホテルになっちゃったよ!」
「私にイン」
「セクハラだ!」
「ソレは東芝淫デスね〜」
「完全アウトじゃねぇか!」
「だから……違いますって」
「何が?!」
「最近怖くて……」
「え?突然とうした?」
「東芝さんが最近怒りっぽくて……」
「え?未だ続くのこの話?!……っていうかソレこそオレに相談してどうするの?」
「私としては東芝さんの怒りを癒したく…」
「お前が話しかけなきゃ平和だよ!」
「私最近気付いてしまったんです……」
「……」
「都会の道路を歩くのが……」
「…………」
「えっと……部下の心配してくれないのですか?」
「警戒しているんだよ……だけど、道路を歩くのがっていうのは、真面目な話なんだよな?何だ?まさかストーカーとかか?」
「東芝さんストーカーだったんですか?」
「なんでだよ!もう行って良いかな?」
「あーん、ホントごめんなさい!!違うんです!」
「何が……」
「明るいノリ作らないと辛くて」
「おいおい、本当に顔色悪いぞ」
「すいません…あの、都心の道路って全部舗装されているじゃないですか」
「いきなり社会インフラの話?まぁ、車社会だからな…」
「最近雨多いじゃないですか」
「台風来ているしな」
「大雨降っても都心は冠水しないじゃないですか」
「何度か冠水して整備進んだからなぁ……それでも毎年何処かで水没だの、土砂災害だのニュースは流れているしな」
「マンホールってあるじゃないですか」
「まぁあるな……さっきから何の話を……」
「基本的に舗装された道路って水が流れないので下水、マンホールにな流れ込みますよね」
「そうだな」
「マンホールって怖くないですか?」
「何の話だ?」
「人の穴ってことですよね?」
「む、マンはそのまま男って意味で最近は“メンテナンスホール”とも言うらしいぞ」
「人が1人入る穴がそこかしこに開いているんです」
「確かに暗い夜道で蓋がなかったら見事に落とし穴になるな」
「そうなんですよ…」
「でも簡単に開いたり落ちたりしないよう蓋も工夫されているらしいぞ」
「それは『意図的に外さない限り』という条件がついていたらですよ……故意に外されていたらどうにもならないじゃないですか」
「そりゃ確かに」
「下水って氾濫しないよう地下調節池に集約しますよね… 神田川・環状七号線地下調節池は世界最大級になるとか」
「聞いたかとあるな…何かすごい巨大神殿みたいって見学ツアーもあるとか」
「そうですね……見応えありましたよー」
「え?松下、そんなのに興味あるんだ」
「興味なんかありませんよ……強制的に連れて行かれたし」
「何だ、じゃあ彼氏とかの趣味?」
「あはは……私彼氏居ないの知っているくせに」
「え?あ、いや、スマン」
「何で忘れてるんですか?」
「え?あ、いや、スマン」
「私、東芝さんのこと……」
「な、なあ、ここは会社だしさ」
「何で、忘れているんですか?」
「え?あ、いや、スマン……これ、繰り返してる?」
「マンホールに落ちたらどうなりますか?」
「え?いや、落ちたこと無いからなぁ……でも狭くて暗くて怖そうだね」
「そうなんですよ……人が一人やっと通れるしかないですもんね」
「え?、松下さん入ったことあるの?」
「わたし……怖いんです」
「えっと……マンホールが?」
「本当に覚えていないんですね……だから、平気で出社できるんですね」
「あ、いや……どういう……え?松下さん……何で濡れているの?!」
「え?何を言っているんですか?……私は濡れていません」
「だって今見たら……何で、足元にそんなに水たまりが出来て……え?」
「東芝さん……昨日は何をされていましたか?……一昨日は?」
「昨日は日曜で普通に自宅でくつろいでいたかな?一昨日だって……何でそんなこと聞くの?」
「東芝さん……線状降水帯に呼び込まれるようにして台風が来ましたよね」
「酷い雨だったね」
「わたし……見ちゃったんです……駅前横の脇道で」
「あそこ冠水しかかってて危なかったよね」
「東芝さんが消えるの……」
「消え……えっ?!」
「今朝、奥さんと共に遺体安置所に行ってきたんですよ?」
「だ……誰の……か、確認をしにいったんだい?」
「決まっているじゃないですか……」
「え?あ、いや、スマン……なんのこと……なぁ……それ、なぁ」
「私は濡れていません……ただ、涙は止まりません」
「嗚呼、そうか……濡れているのは僕か」
「何で、私のところに来たんですか?奥さんのところじゃなくて……」
「いや、まあ、あれだ……最後に見たのが君の姿だったからかな?」
「……わたし、必死にスマホで連絡しようと」
「警察に?消防に?……それとも」
「東芝さん、あたし、毅然として誰にでも正面から向き合う東芝さんが好きでした。結婚されてて、奥さんがいらっしゃるから、この気持ちは墓まで持っていこうと……」
「松下、どうして今そんな話を……」
「もう、分かっているクセに」
「ああ、そうだね」
「……」
「……ありがとう、さようなら」




