じゃがりこの思い出
夕暮れの公園。ベンチに座る彩香は、小さな紙袋を膝にのせていた。袋の中にはコンビニで買ったじゃがりこが一本。いや、正確には一本だけ残っている。
「最後の一本、どうしようかな…」
じゃがりこを食べるとき、誰と分け合ったかをよく思い出す。友達と授業の合間に突っつきあった日、弟と取り合って笑った日、疲れて帰った夜に自分を慰めるように食べた日。どれも、ささやかなけれど確かな思い出になっている。
ベンチの隣に、見知らぬ女の子が腰を下ろした。ランドセルを背負った小学生くらいの子だ。少し泣き腫らした目をしている。
「ねえ、お姉ちゃん。それ、じゃがりこ?」
彩香は驚いて頷いた。「うん、そうだよ。食べる?」
袋を差し出すと、女の子は目を丸くした。「いいの?一本だけなのに。」
「最後の一本だからこそ、一緒に食べたら忘れられないと思うんだ。」
女の子はおそるおそるその一本をつまみ、彩香と顔を見合わせる。二人は同時に口へ運んだ。ポリポリという音が、なぜか胸の奥まで響いた。
「ありがとう。元気でた。」女の子はそう言って立ち上がり、夕日の中へと走っていった。
彩香の膝の上には、もう空っぽの袋だけが残った。けれど、不思議と満たされている気がした。
――たった一本のじゃがりこが、今日を温めてくれた。