表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/99

第29話 遊びをせんとや生まれけむ

「これは、藤原得子(ふじわらのとくし)が動き出したと言うことじゃ」


 玉藻は立ったまま陽菜たちにそう告げると、陽菜とエレナは唾を飲み込んだ。

 今度は藤堂が口を開いて、玉藻に問いかける。


「玉藻さん、それは三種の神器が狙われているということでしょうか?」


 玉藻は小さく首を横に振り否定した。


「いや、それはあるまい。三種の神器は名として存在しておるが、実物を見た者はおらぬ。帝すら見たことのない代物じゃ」


 その声には静かな確信が込められていた。そして続ける。


「この版画の紋様は、あくまで討伐を意味するだけであろう」


 藤堂は軽く眉をひそめ、画面から目を離して考え込む。


「それってつまり……」


 陽菜は腕を組み、唸るように言った。


「国家転覆……」


 その言葉に、一同は一斉に息を飲み込む。


 玉藻は立ったまま静かに顔を伏せ、掌で顎を支えるようにして思索する。

 陽菜は拳をぎゅっと握りしめ、背筋を伸ばす。


「いつの世も(まつりごと)は権力の中枢。それを狙っているのは明白。わらわと陽菜も標的になっておる……」


 その言葉は、以前玉藻から聞かされていた。覚悟はできていたが、国家規模の事態となるとさすがに重みが違う。

 不安そうに眉を寄せ、唇をぎゅっと噛みしめる陽菜を、エレナは静かに見つめて声をかけた。


「陽菜……? 大丈夫?」


 その問いに、陽菜は力強くエレナを見返す。

 彩華も心配そうに彼女を見つめる。


「大丈夫そうに見える?」


 そして、陽菜は絶叫した。


「ぬぉぉぉぉ! そんなーー! どんどん普通のJKライフから離れていくーー!!」


 エレナは微笑みながら皆に向かって言う。


「これなら、陽菜は大丈夫そうだね」


 その言葉に、彩華も玉藻も腕を組みながら大きく頷く。

 これなら、本当に大丈夫だ。


 ただ一人、藤堂だけが苦笑を浮かべていた。


「あははは……」


 藤堂はすぐに話を元に戻す。


「んと、それでね。玉藻さんは聞いていると思うけど、この紙が現場に落ちていたというわけ」


 それにエレナが口を開く。


「それって、『いぼ痔刑事(デカ)』で見たダイイングメッセージっていうやつ?」


 陽菜が即座に答えた。


「うんうん! まさにそれだね!!」


 すると、彩華が茶化すように言った。


「あーー、あのポンコツ映画か! クソつまんねーやつな!!」


 それに陽菜が反撃する。


「テメーは勝手についてきたんだろが!!」


 思い返せば、あのデートの時のことだった。直前に彩華から「竜司と別れる!」という連絡をしてきた挙句、勝手にデートに同行してきたのである。そのとき見た映画の話で、また火花が散ったのだ。


「「むむむむむ……!!」」


 ふたりは再びいがみ合いを始める。当然、このままだと再び話がそれ始める。

 それを見かねたエレナと玉藻が同時に咳払いをした。


「「おっほん!!」」


 エレナがさらに続ける。


「ふたりとも、話を逸らさない。その続きはあとにしなさい!!」


 その言葉に、陽菜は心の中で呟いた。


(えーー……エレナが話振ったんじゃん……)


 そう思いながら陽菜はエレナをチラ見したが、腕を組み睨みつけるお姉さんのような表情に、反論することはできなかった。

 ふたりはしゅんとなり、揃って返事する。


「「……はい。さーせん」」


 その様子を見て、玉藻は温かく微笑んだ。


 藤堂はノートPCの画面に目を向けて、話を続ける。


「でも、ダイイングメッセージは当たりね。この紋様、“光華天統(こうかてんとう)”という新興宗教のシンボルらしいわ。それに加えて、武器の密輸を行っているという情報も入っている」


 彩華が思わず眉をひそめ、静かに呟いた。


「……さらに現実的、ってことね」


「そうね……」


 藤堂の声に一同の表情が引き締まる。その空気を払うように、藤堂は付け加えた。


「もちろん、こちらも対策は講じている。密輸は阻止するつもり。ただ、すでに内部に入り込んでしまった武器があるかもしれない、という点だけは念頭に置いておいてほしい」


 短い沈黙ののち、玉藻が静かに口を開いた。


「どちらにせよ、藤原得子(ふじわらのとくし)が、この件に関わっておるのは間違いあるまい」


 藤堂は無言で頷き、玉藻の目を見据える。

 そして、玉藻が続けた。


「黒羽殿とも話したのじゃが、わらわも阻止に立ち会わせてほしい。無論、そなたらの邪魔はせぬ」


 藤堂は軽く頷いた。


「ぜひ、お願いしたいわ」


 それを聞くやいなや、陽菜、エレナ、彩華の三人は勢いよく手を上げる。


「ウチも行く!!」


「陽菜と一緒に、わたしもいくよー!!」


「あたしも、ガチ参加するっ!!」


 その言葉に藤堂が即答する。


「今回は、私たちだけでやるから大丈夫よ」


「「えーーーー!!」」


 三人が同時に叫んだ。その声をぴしゃりと断ち切るように、玉藻の鋭い声が響く。


「だめじゃ!」


「「えぇぇ! いやだーーーー!!」」


 なおも悲鳴を上げる三人に、藤堂も思わず苦笑しながら、やわらかく話をする。


「今回は大人だけの仕事なの。あとで結果を報告するから、留守番しててね」


 まるで子供をあやすかのような藤堂の言葉に、三人はムッとした表情で不貞腐れる。


「藤堂殿の言う通り。今は勉学に励むのが、そなたらの務め。蓮と竜司からもきつく言われておる」


 その言葉に、陽菜は心の中で悪態をつく。


(クソっ……、蓮たちめ……)


 その様子を察したのか、玉藻が目だけで三人を射抜いた。その表情はまさに九尾の怒りといっても過言ではない。


「んあ!? なんか文句あっか? クソども」


 低く響く声に、三人は同時に悲鳴を上げる。


「「ひぃぃぃぃ!!」」


 九尾の本気モードとも捉えられる言動──その圧に、誰も逆らえなかった。

 しかも、現代の汚い言葉を使われると余計に怖い。


 三人はテーブルに顔を伏せ、小声で囁き合う。


「ウチ、現代語使う玉藻さん、ちょー怖えーんだけど……」


「わたしも、陽菜と激しく同意……」


「あたしなんて、言葉でも勝てる気しねーわ……」


 そんなブツブツと三人の小声が聞こえたのか、玉藻はため息をひとつつき、穏やかに言葉を添えた。


「とはいえ、ふたりとも裁定者じゃ。透視術を使えば、寝ている間に様子を覗き見ることはできよう。エレナも、陽菜と想いを通わせれば一緒に見られるじゃろう」


 三人は顔を見合わせ、しぶしぶ頷いた。というより、納得せざるを得なかった。

 本当は、現地に行って、見て、感じたかった。だが、それが“邪魔になる”ことも理解している。

 せめて、覗き見ることで納得するしかなかった。

 それに──玉藻が怒る。そのことを胸の奥で誰もが共有していた──。


 --------


 やがて話が終わり、一同は玄関へと移動した。外はそろそろ夕方になろうとしている。

 ドアを開け、藤堂が玄関外に立つと、振り返って陽菜たちに穏やかな笑みを向けた。


「いい? なにかあったら、いつでも連絡してね。私たちが全力で守るから」


 その言葉に、陽菜たちは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 現実の危うさを知った今だからこそ、その言葉が何より心強い。


「はい! ありがとうございます!」


 陽菜が元気よく答えると、エレナと彩華も同時に頭を下げた。


 藤堂は小さく微笑み、踵を返す。

 背筋を伸ばしたまま歩き去る姿は、どこか頼もしさを感じさせた。


 そのあとを追うように、玉藻も口を開く。


「では、わらわも戻るとしよう」


 そのとき、エレナが首を傾げながらぽつりと尋ねた。


「ねぇ、翅脈ちゃんも、このこと知ってるのかな~?」


 玉藻は、歩き出しかけた足を止めて振り返って答える。


「うむ。もちろん知っておる。蓮にべったりくっついて、最初から話を聞いておったぞ」


 その一言に、陽菜の肩がぴくりと動いた。


「べったり……?」


 小さく呟いたその声に、彩華がすかさず反応する。

 口元を手で隠しながら、にやりと笑って言った。


「ありゃ~、取られちゃうね~♪」


 陽菜は頬を真っ赤にして抗議の声を上げかけたが、それより早く玉藻がさらりと口を挟んだ。


「恋心は持っているだろうが、心配はいらぬ。安心せい」


 静かな声に不思議な説得力があり、陽菜は少しだけ息を呑んだ。

 そして、恥ずかしさをごまかすように、両手をばたばたと振りながら言う。


「あとでメッセージ送るけど、その前に宿題じゃーー!!」


 わざとらしく明るい声を出す陽菜に、エレナと彩華が吹き出す。

 玉藻はそんな三人を見て呟いた。


「……元気でよい」


 柔らかな微笑を残し、玉藻は静かに歩き出した。次の瞬間、その姿は風に溶けるように、すぅっと消えていく。

 残された三人は手を振りながら、その余韻を見送った。


 ──そして、十分後。


 一向に、宿題は進んでいない。


「ぬぉぉぉぉ!! なんでこうなるんだよぉ~っ!?」


 机に突っ伏して叫んだ。

 そんな絶好調な陽菜をよそに、彩華は余裕の笑みを浮かべて言う。


「エレナ~、あたしたちポテチでも食べよっか~」


 エレナも、少し意地悪く口角を上げて頷く。


「うんうん。陽菜、がんばってね~」


 それに、陽菜が反応する。


「くそーーっ! エレナまでっ!? 裏切り者ぉぉ!!」


 陽菜が頭をガシガシとかきながら叫ぶと、エレナが慌てて手を振った。


「えぇぇ!? 陽菜、わたし悪くないよぉ~!」


 そんなふたりを見て、彩華は肩をすくめて吹き出す。


「いや、陽菜。どう考えても、めちゃくちゃなのはお前だって!」


 陽菜はすぐさま反論した。


「だいたいなっ! 命の恩人にその態度はねーだろがー!!」


 すると彩華が、悪戯っぽく笑いながら言った。


「あたし、エレナに助けられたもんね~。陽菜は、美佳さん送り届けただけだし~」


「……」


 その一言に、陽菜は言葉を失った。同時に、エレナも少ししょんぼりと肩を落とす。

 ──陽菜もエレナも、美佳が消えゆくあの時のことを、心の片隅で思い出したのだ。


 静かな間が、ふっと落ちた。


 ──そして、彩華は小さく息をつき、素直に口を開いた。話の弾みとは言え、自身の無神経な不甲斐なさを感じてしまう。  


「……ごめん」


 静かな時間──だが、その静寂は払ったのは陽菜だった。


「なんだとぉぉぉ!? それが“春裁の君”の勤めじゃっ!! ちゃんと仕事してるんだわっ!! ガハハハハ!!」


 陽菜は言葉を続ける。


「彩華! 次、助けるときは、一万なっ!! ぎゃははは!!」


 勢いよく笑う陽菜に、彩華もすぐ乗っかる。

 それは彩華にとっては安堵でもあり、また救いでもあった。


「ざっけんなっ! ダチなんだからタダだろがっ!! このクソがっ!!」


 そんなやり取りを見ながら、エレナはふと微笑んだ。

 ──二人の間には確かな信頼があった。

 敢えて触れずとも理解し合える互いの想いと行動。彩華の小さな謝罪も、陽菜の見えない気遣いも、互いに受け止め合っている。

 その温かさと絆が、今この瞬間の笑いをより輝かせていた。

 エレナの胸にも、ほっとする安堵と、ふたりを見守る優しさがじんわりと広がっていく。


 実は、エレナの胸の奥には、ほんの少しの不安が残っていた。美佳を失ったことは、陽菜にとって決して小さくない出来事だったのだ。

 たった一度の出会いでも、彼女にとって美佳は“姉のような存在”だったのだと、エレナは感じている。

 だからこそ、その笑顔の裏にある焦燥や痛みを、エレナは見逃さなかったのだ。


 けれど今は、ただ、この笑いが続いてほしい。そして、陽菜も理解している。それが美佳の願いなのだと言うことを──。

 あのとき、エレナは誓ったのだ。自分が陽菜のお姉さんにならなければと──。

 

 そう思いながら、エレナはそっと微笑みを深める。


「ふたりとも~、もう止めないよぉ~」


 この、陽菜と彩華のいがみ合いも、彼女たちの日常の一部。そんな騒がしい光景を、エレナは静かに見守っていた。


 ──何より、陽菜にとって、エレナはもう十分“お姉さん”なのだ。


 これから先も、きっといろんなことが待っているだろう。鴉、妖の国、裁定者、そして藤原得子(ふじわらのとくし)──まだまだ、問題は山積みだ。


 けれど、陽菜もエレナも、一緒なら絶対乗り越えられる。そう信じている。それこそが、ふたりの“想い”なのだから。


 陽菜とエレナ、そして仲間たちの冒険と青春は、これからも続いていく。

 ……ただし、目標としていた『普通のJKライフ』の修正は、少し必要かもしれないけどね。


 そんな、ふたりのこれからの時間を、静かに見守るように──陽菜のデスクには、エレナが作った押し花が額縁に飾られていた──。

これまでお読みいただきありがとうございました。これにてシーズン1が完了となります。ご愛読ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ