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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第28話:不穏な動向

「ぬぉぉぉぉ!! マジでわからんぞっ!!」


 絶好調(?)の陽菜の叫びが、部屋中に響き渡った。


 いまは宿題中。──つまり、陽菜は“猛勉強中”のはずだった。

 だが、机のノートは真っ白に近く、シャープペンも転がったまま。進捗率はほぼゼロ。


 そんな陽菜の苦闘などお構いなしに、エレナと彩華は陽菜の部屋で仲良くスマホで動画を見ていた。

 テーブルの上にスマホを立てかけ、クッションを抱えたエレナがうっとりと呟く。


「これ、おいしそーだね」


 隣では、テーブルに肘をついて顎を手のひらに乗せた彩華が、にやりと笑う。


「エレナも料理作ってみたらー?」


「やってみようかなぁ。できたら、彩華も食べてみてほしいなー」


「おっけー、採点してあげる!」


 彩華はそう言いながら、あぐらをかいて座り直した。


 ──そして、ふたりのキャッキャ無邪気なやりとりが、陽菜の耳には妙に刺さる。


「……だぁぁぁ! うっさぁいっ!! ウチはいま、生死をかけた戦いの最中なんじゃぁ!! クソどもがぁ!!」


 突然の絶叫に、エレナと彩華がくるりと振り向き、一瞬だけ目をぱちくりさせる。

 すぐに、彩華がにやりと口角を上げた。


「あーー、”春裁の君”さんはお勉強中だったもんね~」


「ああああっ!! なんでウチなんだよぉぉぉ!!」


 陽菜は両手で頭をかきむしりながら、机に突っ伏した。


 ──そう、そもそもの始まりは藤堂からの一本の連絡だった。

「少し話を聞きたいことがある」とのことで、女子組──陽菜、彩華、エレナ──が集まることになったのだ。

 女子同士のほうが話しやすいだろう、という藤堂の配慮である。結果、話の流れで自然と「陽菜の家集合」となり、今に至った。なお、エレナはそんな理由もあり獣人化──つまり人間の姿で居る。


 ちなみに、男子組の聞き込み担当は黒羽だ。

 いま、陽菜だけが、それまでのあいだ“勉強という名の地獄”に放り込まれているわけである。


 そんな陽菜が、突然顔を上げて叫んだ。


「……閃いたっ!! ウチ、マジで神っ!!」


 その言葉に、エレナがジト目で返す。


「またー、いつものカンニングとか言うんじゃないよね~?」


 ──図星だった。


「ぬぉぉぉぉ!!」


 陽菜の叫びに、彩華がため息をつきながら呆れ顔で言う。


「ったく……進歩ねーヤツだな」


 隣でエレナも腕を組み、真顔でうんうんとうなずく。


「うんうん。わたしもそれには激しく同意~」


 それを聞いた陽菜が、勢いよくふたりの方へ振り向き、叫んだ。


「だいたいなっ!! 『陽菜ちゃん大変ですね。ジュースでも持ってきましょうか?』くらいの優しさは、テメーらにはねーんかよ!!」


 そう叫ぶ陽菜の顔は真剣そのもの。……が、その主張はもう、むちゃくちゃだ。

 そんな彩華が反発した。


「なんで客人が、もてなすんだよっ!」


 勢いそのままに、彩華はエレナのほうへ顔を向けて、ドヤ顔で首をかしげる。


「ねー♪」


「ね~♪」


 エレナも同じタイミングで首をかしげて相槌を打つ。息ぴったりだ。

 その完璧な連携プレーに、陽菜が両手を振り上げて叫んだ。


「ウチ、完全に悪者ポジやんけっ!!」


 その時、陽菜のデスクの上にあるスマホが震えた。それは藤堂からであった──。


「藤堂さん、来たみたいだね」


 察したエレナの言葉に、陽菜と彩華も頷いた。


 数分後──。


 藤堂は陽菜の部屋のテーブルの前で、きっちりと正座していた。

 黒髪のセミロングに、すらりとした体つき。黒のパンツスーツを纏ったその姿は、どこか冷ややかで凛とした印象を与える。

 一見して自衛官には見えないが、彼女の所属は『陸上幕僚監部情報本部別室二班』──通称“別班”。

 極秘任務を扱う、いわば諜報部門の組織である。


 陽菜たちも、藤堂に倣ってテーブルの前で礼儀正しく座っていた。

 静かな空気の中、藤堂がふっと息を整え、口を開く。


「この間は……ありがとう。それに、あまり役に立てなくてごめんなさい」


 柔らかくも、どこか自嘲を含んだ笑み。

 その言葉に、陽菜はすぐさま身を乗り出して即答した。


「いえ! そんなことないです。すごく助かりました!!」


 エレナも頷きながら微笑む。


「うんうん。藤堂さんたちがいてくれて、本当に心強かったよ!」


 彩華も続いた。


「まったくです。あたしたちだけでは、どうにもならなかったです」


 陽菜が改めて言葉を添える。


「藤堂さん、それに黒羽さんや自衛隊の皆さんがいなかったら……たぶん、ひどい結果になってたと思います」


 ──それは、三人の本心だった。

 戦いの最中、正直に言えば、彼女たちの胸には「もしかしたら敵になるかもしれない」という不安もあった。

 だが、今は確信している。信じてよかったのだと。


 身を挺して、命を懸けて守ろうとしてくれた人たち。その姿は、まぎれもなく“強さ”そのものだった。

 自分たちには到底真似できない。だからこそ、心の底から尊敬と感謝の念が込み上げてくる。


 藤堂がふっと口角を上げて言う。


「少しは、私たちを信用してくれた……かな?」


 その問いに、陽菜とエレナは勢いよく声を揃えた。


「「まったく信用しまくってるっす!!」」


 部屋の空気が一瞬やわらぐ。藤堂は小さく肩をすくめ、くすくすと笑った。


「なら、よかったわ。彼らも命を懸けた甲斐があったわね」


 陽菜は少し俯き加減で、ためらいがちに尋ねた。


「その……、怪我された隊員さんは大丈夫だったでしょうか……?」


 藤堂は穏やかに頷く。


「ええ。みんな軽傷よ。すでに復帰してるわ」


 その言葉を聞いた三人は、ほっと胸を撫で下ろした。

 その様子を見て、藤堂は優しく微笑む。


「心配してくれてありがとう。その言葉だけで、全員が自分の仕事に誇りを持てるわ」


 そして藤堂は、そのまま話を切り出した。


「それでね。今日はちょっと見てほしいものがあるの。以前、佐藤さんに話した、服役囚が死亡した事件の件で」


 それは、以前陽菜たちがユーチューブ撮影のアルバイトで廃墟を探索した際の出来事だった。

 その廃墟で対峙した怪異の元凶となった服役囚が、刑務所内で不自然な死を遂げたのである。


 藤堂はバッグからノートPCを取り出し、開きながら続ける。


「もちろん、佐藤さんたちを犯人だとは思っていないわ。だからそこは心配しなくて大丈夫」


 無論、それは藤堂の本心だった。陽菜たちと共にあの戦いを乗り越え、世の中の不思議を十分に理解しているのだ。


 陽菜たちは三人揃って無言で頷く。

 藤堂がノートPCを開くと、画面には一枚の画像が映し出された。


「この女性を知っているかしら?」


 画面には、玉藻のような着物を纏った女性が映っていた。おそらくどこかの監視カメラの映像だろう。

 黒髪を長く垂らし、すらりとした立ち姿の女性。ただし、映像は荒く鮮明ではないため、顔までははっきりと確認できない。


 陽菜が画面に顔を近づける。


「んー……ウチは見たことないかな~」


 エレナと彩華も順に画面を覗き込み、首をかしげる。


「わたしも知らないな~」


「あたしも、この人は初めて見る」


 陽菜が腕を組み、さらに考え込むように言った。


「服装は玉藻さんに似てるけど……顔は違うよね?」


 エレナも頷きながら、指を画面に向けて呟く。


「うん。……この女性が、ひょっとして犯人?」


 エレナのその言葉に、藤堂が静かに口を開いた。


「まだ、断定はできないの。ただ……監視カメラの映像が消されていたので、民間業者に復旧を依頼していたの」


 彩華が小さく声を漏らす。


「……そしたら、これが映ってたってことね」


「そう……なの」


 四人は無言で画面を見つめ、思案を重ねる。


 ──その時だった。


「そやつが、藤原得子(ふじわらのとくし)


 そう言って、ふわりと現れたのは玉藻であった。


 陽菜は少し驚いた様子で振り向いた。


「玉藻さん!」


 玉藻は静かに頷き、言葉をつづける。


「今しがた、蓮たちと共に、黒羽殿から見せてもらった」


 さらに玉藻は藤堂に伝えた。


「藤堂殿。次の版画も見せてあげててくれ」


 藤堂はそれが画像であることを瞬時に理解し、タッチパッドで二枚目の画像をクリックして表示した。


 映し出されたのは、一枚の紙──そこには菊の紋様が描かれていた。

 しかし、その紋様には不自然に×印が刻まれたような切断線が走り、何かの意図が込められていることを示していた。


 陽菜たちが画面を見つめると、玉藻が解説を始めた。


「その菊の紋様は”十六葉八重表菊じゅうろくようやえおもてぎく”──平安の世の”帝”の紋様。この時代でも同じ紋様だと聞く」


 陽菜が理解したように頷く。


「なるほど……天皇陛下の菊の紋様ね」


 エレナが首をかしげて質問する。


「じゃあ、この×印って何を意味してるの?」


 玉藻が静かに答える。


「それは刃による傷を表している。つまり、”帝を討つ”という意味じゃ。そして、得子は薄墨紙(うすずみがみ)にそれを書いていた。それが密告され、不穏な空気となった──わらわが得子の内に入った理由でもある」


 陽菜は納得して小さく頷く。


「なるほど、合点がいったね」


 彩華も理解を深めるように付け加えた。


「なら……この傷は、帝を討つ剣。つまり、『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』ってことね」


 彩華の言葉に玉藻が頷いて答える。

 

「うむ。まさにその通りじゃ」


 それは三種の神器と呼ばれる宝物。


 ──八咫鏡(やたのかがみ)

 ──八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 ──そして、草薙剣(くさなぎのつるぎ)


 それぞれが、皇位の証とされ受け継がれている秘宝。そして、平安の世では、権力を象徴する宝物ともされていた。


 玉藻が静かに口を開く。


「これは、藤原得子(ふじわらのとくし)が動き出したということじゃ」


 その言葉に、陽菜とエレナは同時に唾を飲み込んだ。

 空気が一気に張り詰め、部屋の空気まで重くなるのを二人は感じた──。


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