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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第26話:死結晶を奪え!

「九尾まで……。大人数は卑怯だな」


鴎弩(おうど)は低く呟くと、手を横にかざした。

すると砂丘の中から、異形の存在が次々と姿を現す。灰色の肉体に、オオカミを思わせる獣面。

その手には、死神が振るうような巨大な鎌が握られていた。

刃の先が鈍く反射し、金属のような音を立てる。


鴎弩の右手の刀がわずかに傾き、刃先が陽菜たちを指す。

それが合図だった。


何百もの異形の群れが、一斉に吠えて、地を揺らすほどの足音を立て突進する。


「エレナ! 彩華!!」


陽菜の叫びに、ふたりが頷いた。エレナと彩華は群れを無視し、一直線に鴎弩へと飛び出す。

陽菜は白い帯を九本展開し、旋回させて前方の異形をまとめて薙ぎ払う。


砂塵が舞い、悲鳴のような音が辺りに響く。

さらに一本の帯を収束させ、刀のように形を変えた。鋭く、白の刃が閃き、灰色の身体を一閃で切り裂く。


異形を切りながら、陽菜が心の中で呟く。


(くっ! 足元が砂で……踏ん張れない!!)


その背後で、蓮と竜司のブレスレットが輝いた。宝玉が共鳴し、蓮の手に光の刀のような刃が現れる。それは紅蓮のように赤く燃え上がっていた。


「行くぞ、竜司!」


「おうっ!」


竜司もまた、手をかざし、光の矢を放つ。矢は水流のように青く揺らめき、空気を裂いて飛んだ。

ふたりのブレスレットは、陽菜と彩華の力を媒介することができるのだ。


息を合わせたふたりの動きが一つになる。赤と青の閃光が交錯し、次々と異形を倒していった。


陽菜たちが切り裂いた異形は、砂となり溶けるかのように消えていく。

だが、数は尽きず、切っても切っても次から次へと湧き出してくる。

さらに、足元は砂丘──柔らかく不安定な砂の上。思うように踏ん張れず、動きはどうしても鈍くなる。


その状況を見ていた玉藻が、苦笑交じりに呟いた。


「さすがだ。鴉随一と言われる幻術使い……その数は比ではない。だが、わらわには及ばぬ」


そう言うと、懐から砂粒のような輝きを一掴み取り出し、ひらりと手で撒くように投げた。

無数の玉虫色に輝く砂粒は、宙を舞い、やがて無数の式神に変貌する。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前。急々如律!!」


玉藻の声に応じ、式神は玉虫色に輝きだすと、次第に人の形へと姿を変えた。

裹頭(かとう)を被り、黒の半素絹姿(はんそけん)の僧兵たち。手には薙刀(なぎなた)を握り、顔は表情のないのっぺらぼう。

無数の僧兵が整然と立ち並ぶ。


玉藻が手を前にかざすと、僧兵たちは一斉に異形へ向かって突進した。


--------


一方、エレナと彩華は鴎弩(おうど)と真正面で対峙していた。


「クォォォォー!!」


鴎弩も叫び声を上げ、二刀を振りかざして突進する。


 シュッ!!


二刀の鋭い音と同時に、エレナは地面を蹴って後方へ跳び退いた。刀が砂を抉り、砂塵が舞い上がる。

彩華は右に一歩かわし、鴎弩の背後に回り込もうと動いた。


「甘いっ!」


鴎弩は左足を軸に、彩華に向けて右蹴りを放つ。

しかし彩華は、既にその動きを読んでいた。


「なにっ!!」


鴎弩(おうど)の目が大きく見開かれる。彩華は右手をかざし、術を放つ。


月弓命道(げっきゅうめいどう)!!」


術は鴎弩の脇腹を直撃し、衝撃で体が吹き飛んだ。


「ぐはぁぁ!」


砂煙が舞う中、鴎弩の巨体が地面に叩きつけられ、衝撃波が周囲を揺らす。

その衝撃で、左手に握る刀が勢いよく振り落とされ、砂丘に突き刺さった。


エレナと彩華はその隙を見逃さず、一気に突進する。


「調子に乗るな! 小娘どもがっ!!」


鴎弩は瞬時に起き上がり、怒りを込めた声をあげながら、右刀をエレナに向けて振り下ろす。

エレナは空間を捻じ曲げるように操作し、右肘で刀を受け止めた。


そのまま受け止めながら、エレナは勝ち誇るように口元を歪めて言葉を放つ。


「アンタたちにはね……弱点が二つある。陽菜から教えてもらったの」


その言葉に、鴎弩は思わず息を飲んだ。


「何ぃ!?」


さらにエレナは続ける。


「一つは、わたしたちは想いを共有できる。彩華とも、その想いは繋がっているの。アンタの動きは丸見え」


次の瞬間、彩華が鴎弩に向かって再び突進した。エレナは鴎弩の刀を払い、一歩後退する。

その動きを見計らい、鴎弩は左足を軸に彩華へ右蹴りを放つ。

無論、彩華は既にその動きを読んでいた。


「お前たちも行動が変わらんっ!!」


怒声を放つ鴎弩(おうど)に対し、彩華は右蹴りをかわすと静かに後退する。

そして、次の瞬間──気付けばエレナが鴎弩の前に立ちはだかり、口を開いた。


「わかったでしょ」


 同時にエレナは至近距離から青白い光弾を放つ。


「くそっ!!」


鴎弩は吹き飛ばされた。


その隙を突くように、彩華の胸元に潜んでいた翅脈が、勢いよく飛び出す。

狙いは正確。鴎弩の腰に差してあった死結晶の短刀を、一瞬で奪い取った。


翅脈はすぐさま彩華のもとへ舞い戻る。


「彩華姐さん、持ってきたので!!」


「翅脈っ!」


彩華はそれを受け取ると、服越しに胸元へとそっと押し当てた。

黒紫の淡い光がにじみ出し、痣がみるみる薄れていくのが分かる。

やがて光が弾け、死結晶は細かい黒い粒となって空気に溶けた。


「エレナ、OK!!」


彩華のその声に応じて、エレナは一直線に倒れている鴎弩へと突進した。

鴎弩が地を蹴り、再び立ち上がる。だが、既にエレナは鴎弩の前に立ちはだかっていた。


彼女の瞳には、迷いは一片もない。


「二つ目は──その首が、アンタたちの弱点」


エレナが静かに言い放つ。

瞬間、手のひらに青白い光弾が形を成した。


「わたしたちを甘く見ないで」


小さく呟くと、エレナはその光弾を至近距離から放つ。

光が鴎弩の首に命中し、冷たい閃光が砂丘に反射した。


「くっ……そっ!!」


その言葉を最後に、鴎弩は砂丘の上に崩れ落ちた。

彩華と翅脈が、エレナの後ろに並ぶ。


「やりましたので……」


翅脈の言葉に、エレナも静かに頷く。


「うん……」


彩華が一歩前に出て、エレナに向かってそっと口を開いた。


「エレナ……ありがとう」


エレナは無言で首を振る。その瞳の奥には深い安堵が宿っていた。


次の瞬間、辺りを包んでいた空気がふっと揺らぐ。

鴎弩が作り出していた想願空虚が、まるで砂の粒子に戻るかのように細かく砕け、静かに崩れ落ちていった──。


--------


その頃、陽菜、蓮、そして玉藻は、僧兵と共に迫りくる異形の群れを切り払っていた。

だが、次の瞬間、異形たちは、まるで煙のように砂粒となって消え去った。周囲を覆っていた夕焼けの砂丘の景色が細かく砕け、すっと引いていく。僧兵の式神も玉虫色の輝きを放ちながら、砂粒となって姿を消した。


鴎弩が作った想願空虚が消え、現実の満月の光が一面を照らし出した。


「……終わった、の?」


陽菜が小さく呟く。

玉藻は静かに目を閉じ、頷いた。


「うむ。鴎弩(おうど)が倒れたようじゃな」


蓮がエレナたちを見やり、安堵の息をついた。


「エレナたちが……やったんだな」


陽菜と玉藻も、エレナたちの方へと振り向いた。

満月の光が辺りを照らし、彩華の姿をとらえる。


「彩華!?」


陽菜が駆け寄りながら声を上げると、彩華は肩をすくめて、軽く笑った。


「問題ナッシングってやつ?」


その軽口に、陽菜の頬がふっと緩む。胸の奥にあった緊張が、静かにほどけていった。

陽菜は彩華に近づくと、そっと彩華を抱きしめる。その瞳からは涙が流れた。


「彩華……よかった……」


彩華は、少し照れたように小さく笑って言う。


「アンタに抱かれると、気持ち悪いな」


陽菜がわずかに笑い返す。


「……それは、こっちのセリフだ」


二人の間に流れる空気は、言葉以上の信頼で結ばれていた。

しばらくして、陽菜はそっと彩華から離れると、エレナの方へと歩き出した。


陽菜はエレナの前に立つ。

すると、エレナは微笑んで陽菜に言った。


「陽菜! やったね……」


だが、その瞬間だった。陽菜の右手が振り抜かれ、乾いた音が辺りに響いた。


ビンタ。


一同が息を呑む。


蓮が止めに入ろうと一歩踏み出したが、玉藻と彩華が無言で手を上げ、静かに制した。

竜司と翅脈は、ただその光景を黙って見守っている。


エレナは頬を押さえ、震える声で言った。


「……陽菜?」


陽菜は彼女をまっすぐに見つめていた。その瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「なんで、ウチと約束したじゃん……、一緒にミッションクリアするって……」


嗚咽混じりに、陽菜は続ける。


「ウチはエレナがいないと嫌なんだよ。エレナが一緒じゃないと……自分のせいだなんて思わないでよ……」


「みんな……悲しませないでよ……お願いだから……」


その言葉に、エレナの瞳からも涙があふれる。

エレナは強く陽菜を抱きしめ、声を震わせた。


「ごめんね……ごめんね……」


陽菜も返す。


「本当は、もっといっぱい叱って怒ろうと思ったのに……なんでだろ……」


そう言うと、陽菜は涙をぽろぽろと流しながら微笑んだ。


「エレナ、無事でよかった……」


二人は抱きしめ合いながら、しばらく声を抑えて泣き続けた。


その様子を、周囲の仲間たちは静かに見守っていた。微笑みを浮かべながら、ただふたりの涙をそっと受け止めるように。


その光景を、少し離れた場所から、一人の妖が微笑ましく見つめていた。


「あらあら、せっかくの綺麗な顔がふたりとも台無しね」


その声に、陽菜たちが顔を上げる。


「美佳さん……」


美佳は、淡い月明かりの下で涙をぬぐいながら、穏やかに微笑んだ。

ゆっくりとふたりに歩み寄り、優しい声で言う。


「ふたりが心配で……。ちょっと来てみちゃったの……」


彩華が蓮に小声で問いかける。


「知り合い?」


蓮は静かに頷きながら答えた。


「ああ、ふたりにとっては、またちょっと特別な人かな」


その会話を聞いていた玉藻が、ふと視線を上げる。

その先で、先ほど倒したはずの鴎弩が、微かに身を起こしていた。


「消滅したわけではない……来るかっ!」


玉藻の叫びが夜空に響く。


「陽菜! エレナ!!」


月明かりに照らされる中、瞬間の静寂を破るように、鴎弩(おうど)の巨体が再び動き出した──。

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