表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/99

第25話:護る覚悟

 夜。そこは、月明かりに照らされた彩華の家の前だった。静かに風が流れ、木々の葉がわずかに擦れ合う音だけが響いている。

 空は雲ひとつなく、満月の光が淡く輝いていた。


 その門の前で、妖精の姿のエレナと鴉──鴎弩(おうど)が対峙していた。

 互いの視線が、夜気を裂くようにぶつかる。


「よくわかったな。手前がここにくることを……」


 低く響く鴎弩の声。

 その声音には、獲物を前にした捕食者のような静かな昂ぶりがあった。

 エレナは月明かりを背に、ふわりと髪を揺らして答える。


「鴉はプライドが高いって聞いたからね。特にあんたは。それに今日は満月、力が最大限になる夜。──そして、陽菜が“裁定者”になった。そうなれば、彩華を狙うのは必然……」


 その言葉に、鴎弩の嘴が歪んだように見える。


「なるほど。少しは頭が使えるか……」


 低く響いたその声に、空気が一瞬震えた。エレナの小さな身体のまわりに、ほのかな光の粒がふわりと舞い始める。

 それは最初、緑の淡い輝きだったが、次第に眩い閃光へと変わっていった。


 やがて光の中から、ひとりの少女が現れた。妖精の翅は消え、代わりに月の光を受けて輝く人の姿。

 その瞳には、確かな意志と冷ややかな強さが宿っていた。


 人間の姿のエレナはゆっくりと髪を払うと、鴎弩を真っすぐ見据えて口を開く。


「やっぱ、アンタ一人なんだね。鴉焔(あえん)とか言うのは、怖くて逃げたんだね」


 エレナの挑発の言葉に、鴎弩の瞳が獣のように細まり、低く唸った。


「……鴉焔様がくるまでもない。死結晶を患った小娘など、手前だけで十分だ」


 その瞬間、鴎弩の鋭い爪のついた手元に、淡い黒の輝きがにじみ出した。 それはゆらゆらと揺らめきながら形を変え、やがて二本の刀の輪郭を描き出す。

 闇から浮かび上がるように二振りの刀が現れると、その刃先が月明かりに反射し、冷たい鋼の光を放った。


 鴎弩は無言のまま、刀をゆっくりと交差させ、金属が触れ合う澄んだ音を響かせる。

 その構えは、まるで狩人が獲物を仕留める直前の静止のようだった。


 エレナが小さく息を吸い、前へ出る。


「その腰にある、死結晶の短刀、もらうわよ。彩華のために」


 風が二人の間を抜け、アスファルトの小砂を舞い上げた。

 エレナは右手を伸ばし、鴎弩を指さす。


「でも、その短刀。とっととくれるなら、アンタ、特別に見逃してあげてもいいけど」


 それに、鴎弩が不敵な口調で話す。


「欲しいなら、力ずくで奪うんだな。ククク……」


 挑発するような声音に、エレナはわずかに目を細める。

 口の端に小さな笑みを浮かべながら、静かに構えを取った。


「そうこなくっちゃね。彩華も寝てるし、早く終わらせてもらうわよ」


 鴎弩が片眉をわずかに動かし、刀を持つ手を下げたまま応じる。


「手前も時間がないのでな。早く終わらせてもらおうぞ」


 鴎弩の低い声が終わると同時に、鴎弩は想願空虚を展開させた。家の門、道路、夜空──すべてが霞み、次の瞬間、世界が裏返る。

 そこは夕焼け色に染まる、果てのない砂の世界。建物も木々もなく、見渡す限りの砂丘だけが連なっていた。


 エレナが一歩踏みしめると、細かな砂粒が靴の周囲でざらりと音を立てる。


「ここが……アンタの内にある世界ってわけね」


 その言葉を待つ間もなく、鴎弩が咆哮を上げた。


「クォォォォー!!」


 黒い残光を引きながら、二振りの刀を振りかざして突進してくる。

 刃が閃くたびに、空気が悲鳴を上げた。


 シュッ──ッ!!


 鋭い音と同時に、エレナは地面を蹴って後方へ跳び退く。

 直後、刀が砂を抉り、砂塵が舞い上がった。


「ちょっ……手羽先めーー!!」


 エレナが砂塵の中から飛び出し、低い姿勢で鴎弩へ突っ込む。


「食らえっ!」


 右の拳が鴎弩の顔面めがけて放たれた。

 だが鴎弩は首を傾け、紙一重で躱す。


「遅い!」


 鴎弩の返す刃が横薙ぎに閃く。エレナは身体を仰け反らせ、刀身が鼻先を掠めた。

 バランスを崩しかけた瞬間、エレナは左足を軸に身体を捻り、右足で回し蹴りを放つ。


「はぁっ!」


 鴎弩が左手の刀で蹴りを受け流し、空間を捻じ曲げているエレナの蹴りはそのまま刀をはじき返す。

 エレナは右足を地に着けると同時に砂を蹴って後退した。


「クククッ……その程度か」


 鴎弩が二刀を構え直し、一瞬で間合いを詰める。


 右の刀が縦に、左の刀が斜めに交差するように襲いかかった。

 エレナは右へ、左へと身を翻し、刃を躱していく。思わずエレナは呟いた。


「っ……速い!」


 だが、三撃目の突きがエレナの肩口を掠め、服が裂けた。

 空間を曲げ、盾にして防ごうとしたが、間に合わなかったのだ。


「くっ……」


 四撃目、五撃目──連続する斬撃に、エレナは後退を余儀なくされる。

 刃が次々とエレナの胴に容赦なく迫り、服が再び裂けていった。


 だが、鴎弩の右刀が大きく振りかぶった瞬間──


「今だっ!」


 エレナは左手を突き出し、青白い光弾を放った。

 至近距離からの一撃。


「ぬっ!」


 鴎弩(おうど)は咄嗟に左の刀で光弾を弾く。光弾が砂に着弾し、小さな爆発を起こした。

 その一瞬の隙に、エレナは距離を取るが、鴎弩は既に追撃に転じていた。刀が振り下ろされる。


「甘いな! 小娘が!!」


 エレナは咄嗟に横へ転がって回避する。


「ぐぅ……っ」


 すぐさま立ち上がるが、鴎弩の左刀が迫っていた。エレナは空間を捻じ曲げ、右腕の肘で刀を受け止める。


「ぐぅっ……!」


 その衝撃に膝が震える。

 すると、隙を見たエレナは、左手を鴎弩の胸元へと向けた。


「もらったァァ!」


 至近距離から青白い光弾が放たれる。

 

 鴎弩は咄嗟に身を引くが、光弾が右肩を掠めた。

 後ろで小さな爆発が起こり、鴎弩の体勢がわずかに崩れる。


「よしっ!」


 エレナは砂を蹴って踏み込み、鴎弩の顎へ掌底を放つ。


「はぁっ!」


 だが、鴎弩は左刀の柄でエレナの手首を弾いた。


「まだまだ、甘いな!」


 そのまま右刀がエレナの脇腹めがけて振るわれる。


「きゃあっ……!」


 エレナは咄嗟に防御するが、衝撃に吹き飛ばされた。

 砂に叩きつけられ、数メートル転がる。


「ぐ……っ、はぁ、はぁ……」


 エレナは砂まみれになりながら立ち上がる。

 服はあちこち裂け、肩と脇腹、腕に鈍い痛みが走る。息も荒い。


「はぁ……はぁ……まだ……まだよ……!」


 それでも、エレナの瞳の光は失われていなかった。


「彩華を助ける……そして、陽菜を守るためにも、負けられない……!」


 鴎弩はゆっくりと歩み寄り、二刀を構える。そして嘲笑った。


「ククク……。いい目だ。だが、それだけでは勝てぬぞ」


 鴎弩が地面を蹴る。輝く残光を引きながら、二刀が同時に振るわれた。


「クォォォ!」


 エレナは後方へ跳び、刃を躱す。着地と同時に、両手から光弾を発射した。


「はっ、はぁっ!」


 青白い光が夕焼け色の砂丘を駆け抜ける。だが鴎弩は、二刀を旋風のように振るい、両手から放たれた光弾を斬り払った。


「勝てぬと申したはず!」


 光弾が爆発し、砂煙が舞い上がる。その煙の中を、鴎弩の影が突き抜けてきた。


「なっ……!」


 右刀が袈裟斬りに閃く。エレナは捻じ曲げた空間を盾に、左腕で受け止める。

 右腕で再び光弾を放とうとする。だが、それを察知した、鴎弩は自ら後退した。


「くっ……このままじゃ……!」


 エレナは後退しながら、隙を窺う。


 後退した、鴎弩(おうど)が突進して右刀が大きく振りかぶる──


「今だっ!」


 エレナは地面に手をつき、スライディングで鴎弩の足元へ滑り込んだ。刀が空を切る。そのまま鴎弩の懐へ潜り込み、至近距離から右手で光弾を放った。


「食らえっ!」


 青白い光が鴎弩の胸部へ直撃した。


「ぐおっ……!」


 爆発の衝撃に、鴎弩の巨体がよろめく。エレナは立ち上がり、追撃を仕掛けようとする。だが、鴎弩の左刀が横薙ぎに振るわれた。


「笑止っ!」


「っ……!」


 エレナは咄嗟に後方へ跳ぶが、刃が太腿を掠めた。


「きゃあっ……!」


 バランスを崩し、砂に膝をつく。捻じ曲げた空間で防いだため、幸い切り傷は免れている。

 だが、刀の重みで太腿に痛みが走る。


「ぐ……っ」


 鴎弩が二刀を構え直し、ゆっくりと近づいてくる。胸には光弾の痕が残り、わずかに荒い息が出ていた。しかし、その目は、まだ鋭さを失っていない。


「……これで終わりだ」


 エレナは歯を食いしばり、立ち上がろうとする。

 だが、身体が思うように動かない。

 腕も、脚も、胴も──すべてが痛む。


「くそ……っ、まだ……まだ立てる……!」


 震える脚で、エレナは何とか立ち上がった。服はボロボロで、砂と汗にまみれている。

 それでも、両手を前に構え、青白い光を収束させる。


「陽菜のために……!」


 鴎弩(おうど)が二刀を上段に構える。


「その執念、見事だ。だが──」


 黒い気が二刀に纏わりつき始めた。


「これで終わらせてもらうぞ!!」


 エレナの鼓動が高鳴る。


「康太、結衣、悠真……彩華、蓮……陽菜!!」


 だが、次の瞬間──。


「エレナーっ!!」


 少女の声が、砂漠に響き渡った。


「えっ……!?」


 エレナが上を振り向く。想願空虚の空から、二つの影が飛び降りてきた。

 それは、陽菜と彩華だった。


「陽菜……!? 彩華も……!?」


 驚きと喜びが入り混じる声が、自然と漏れた。


「させるかーーっ!!」


 陽菜が右手を前に突き出す。掌から青白い光弾が飛び出し、一直線に鴎弩へ向かう。


「なっ……!?」


 鴎弩(おうど)は咄嗟に一歩後退した。光弾が砂に着弾し、爆風が巻き上がる。

 その隙を突くように、陽菜の背中から白い帯が同時に九本伸び、鴎弩を狙って鋭く突き進む。

 鴎弩は避けるためにさらに大きく後退し、低く唸るように言葉を漏らした。


「貴様……春裁(しゅんさい)(きみ)……」


 エレナは、着地した陽菜へと視線を向ける。


「陽菜……」


 呼びかけに応じるように、陽菜が低く言葉を返した。


「勝手に行動して。ウチたちが気づかないと思ってたの?」


 その言葉を裏付けるように、玉藻、蓮、竜司、そして翅脈も鴎弩(おうど)の展開した想願空虚に現れる。

 エレナの瞳が驚きに見開かれた。


「みんな……!」


 短い沈黙ののち、陽菜はエレナに近づき、鴎弩に聞こえないよう囁く。


「いい? エレナ。あいつはエレナが相手してて。彩華と翅脈(しみゃく)が隙を見て、あの短刀を奪う」


 エレナも小声で応じた。


「うんっ。 わかった」


 陽菜はエレナに何かを呟くように伝える。それは鴎弩には気付かれていない。

 陽菜が鴎弩を睨みつけ、そのまま全員に聞こえるように勢いよく叫んだ。


「じゃあ、エレナ! 第二ラウンド開始だっ!!」


 そしてふたりの声が重なる。


「「デスる前に、ぶっ潰す!!」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ