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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第24話:康太とエレナ

 陽菜は蓮と並んで、自宅の近くまで戻ってきた。夕暮れの風が頬を撫でる中、自宅玄関前に三つの影が見える。

 そこには、エレナ、翅脈、そして美佳が立っていた。

 どうやら、ふたりが帰ってくるのを察して、待っていてくれたらしい。


「さすがエレナちゃんね。阿吽の呼吸ってことかな?」


 美佳が微笑みながら言うと、翅脈もすぐに頷いて続けた。


「さすがなので。想いが通じているからなので」


 ふたりに褒められ、エレナは自慢げに腰に手を当てて、ふんっと鼻を鳴らす。

 その様子に気づいた陽菜と蓮は、思わず顔を見合わせた。次の瞬間、陽菜の目が大きく見開かれる。


「美佳さん!!」


 陽菜が驚きの声を上げ手を振る。蓮も嬉しそうに明るい声で続けた。


「お久しぶりです!」


 ふたりが近づくと、美佳は微笑んで口を開いた。


「お久しぶり!」


 ──少し後。

 陽菜たちは近くの公園に移動し、静かな時間を過ごしていた。

 公園にはほとんど人影がなく、夕暮れの光だけが優しく差し込んでいる。


 蓮はブランコのそばのベンチに腰を下ろし、エレナと翅脈と楽しそうに話していた。

 翅脈は妖精の姿のまま、蓮の膝の上にちょこんと座っている。

 エレナは蓮のスマホを借り、画面をふたりに見せながら操作していた。お気に入りの服を見せて、蓮に感想を聞いているようだ。


 一方の陽菜は、美佳と少し離れたベンチに並んで座っていた。

 どうやら、ふたりだけで話したいことがあるらしい。


「いろいろ大変だったみたいね。エレナちゃんと翅脈ちゃんから聞いたわよ」


 美佳が優しく切り出すと、陽菜は少し照れたように笑う。

 でも、陽菜のその顔には不安が宿っていることを美佳は察していた。


「そんなことはないですよ。ただ……ちょっとエレナが心配で」


「そうね……」


 美佳が静かに頷く。その反応に、陽菜は思わず問い返した。


「ひょっとして、何かエレナが言ってましたか?」


「うん」


 美佳は少しだけ視線を落としてから、言葉を続けた。


「エレナちゃん、陽菜ちゃんに迷惑をかけてるって悩んでるみたい。自分なんかいないほうがいいって……」


 その言葉に、陽菜の目が曇る。


「やっぱり……気にしてるんだな」


 小さく呟いた陽菜に、美佳が穏やかに言葉を重ねた。


「エレナちゃん、何かを決めてると思うの。たとえば、自分で責任を取るとか……」


 その一言に、陽菜は言葉を失った。きっと、エレナは自分ひとりで鴉を倒すつもりなのだ。

 そして、その死水晶を彩華に渡す。エレナにとっては死水晶自体に害はない。けれど、鴉と相討ちになる覚悟かもしれない──。


 美佳の声が、再び穏やかに響いた。


「陽菜ちゃん。前にも言ったけど、“今”を大切にして。陽菜ちゃんとエレナちゃんは、お互いが“今”を大切にして一緒にいるからこそ、笑えているんだから」


 その言葉が、静かに胸の奥に染みていく。

 分かってはいた。けれど、改めて言われると、感慨深くなる。


「ウチは、エレナが大事です。エレナがいない世界なんて、考えられないの……」


 陽菜の真っ直ぐな言葉に、美佳は優しく微笑む。


「うん、分かるわよ。だから、ちゃんとエレナちゃんを見てあげてね」


 その言葉に小さく頷いた陽菜は、ふと美佳の顔を見つめて口を開いた。


「美佳さんって……」


 思わずこぼれた声に、美佳が小首をかしげる。


「うん?」


 陽菜は慌てて手を振った。


「いえ、なんでもないです」


(美佳さんと、沙耶さんって……似てるな)


 陽菜はそう思いながら、そっと目を伏せた。

 その姿をみた美佳は、陽菜を見つめて優しく微笑んだ。


 --------


 夜、蓮たちはもちろん、美佳も家を後にした。

 陽菜の部屋は静まり返り、寝息だけがかすかに聞こえる。カーテン越しに、満月が明るく光っているのが分かった。


 今日は、エレナも人間の姿で一緒に寝ていた。甘えたふりをして、同じベッドで陽菜と並んで横になっていたのだ。

 妖精の姿では、部屋のドアを開けるのが少し大変だったからだ。

 寝静まった陽菜を見計らい、エレナはそっとベッドから起き上がると、彼女は慎重に動き、陽菜を起こさないようにデスクへ近づく。

 そして、手作りの押し花をそっと置いた。


 小さな白い押し花。手のひらに収まるほどの大きさで、エレナが今日のために心を込めて作ったものだった。

 それは感謝の印であり、愛情の表現であると同時に、別れの挨拶の意味も込められていた。


 エレナは、寝ている陽菜をそっと見つめた。

 本当は陽菜に触れたかった──でも、触れれば起こしてしまうかもしれない。


 彼女はそっと微笑み、優しい声でつぶやいた。


「陽菜……だいすき。ありがとう」


 その瞳は、涙であふれていた。


 エレナは階段を静かに降り、リビングのテーブルに三つの押し花を並べる。

 同じく小さな白い押し花。それは、康太、結衣、そして悠真の分だった。


 涙が、再び瞳をあふれさせる。


 やっぱり、みんなと一緒にいたい──そんな気持ちを、必死に押し殺しながら。


 その時、後ろから静かな声が部屋に響いた。


「こんばんは。妖精さん」


 エレナは振り向く。リビングの柱にもたれ、肘をついて立つ康太の姿があった。

 部屋は暗いが、落ち着いた表情で微笑んでいるようにも見える。


 エレナは思わず手で涙をぬぐった。頬を伝う温かいものを感じながらも、顔には穏やかさを保つ。


 康太は静かに言った。


「ちょっと、いいかな。久しぶりに」


 そう言うとエレナは頷いた。

 康太はリビングの窓を開け、フローリングに腰を下ろす。窓の外に足を軽く投げ出し、夜風を感じながら月明かりに照らされた。

 ひんやりとした風がカーテンを揺らし、月明かりがふたりの間に柔らかく落ちる。


 エレナも隣に静かに腰を下ろす。

 すると、康太がエレナに向かって話かけた。


「エレナが押し花を持ってきたってことは、なにかあるんだね」


「うん……」


 エレナの元気のない返事に、康太は穏やかな声で語りかける。


「自衛隊まで来て……陽菜もエレナも、大変なことに巻き込まれているのは分かっているつもりだよ」


 エレナは少し俯き、静かに答えた。


「……だから、陽菜や康太に、これ以上迷惑をかけたくないの」


 康太は優しく微笑む。


「そうかな?」


 康太が優しく問い返すと、エレナは一瞬だけ俯き、目を細めた。

 月明かりに照らされた瞳が揺れている。


「……だって、わたしがいなければ、陽菜もこうはならなかったと思うの。彩華にも迷惑かけた。鴉を倒すのがわたしの責任……」


 声は小さいが、決意の色が滲んでいた。

 康太はゆっくり息をつき、エレナの顔を見つめながら語りかける。

 その視線には、温かさとわずかな厳しさが混じっていた。


「エレナの気持ちは、俺も分かる。誰かを守りたいというその気持ちがどれほど強いかも、想像はできるつもりだ。だけどな、一つだけはっきり言わせてほしい」


 康太は少し間を置き、慎重に続ける。


「一人で行って、帰ってこないつもりなら、それは違う。エレナがいなくなってしまったら、陽菜はどうなる? 悠真は? みんなはどう感じるか考えてみて。エレナが守ろうとしている“みんな”が、結局いちばん傷つくことになるんだ」


 さらに康太は柔らかく言葉を重ねる。


「陽菜はね、エレナがいないと半人前なんだよ。エレナも、陽菜がいないと半人前なんだよ」


 間を置いて、康太は静かに、でも力強く言った。


「エレナは、みんなの想いがあって帰ってきてくれたんだ。俺はそれ以外の理由はないと信じてる。だから、俺たちの想いがある限り、ぜったいに生き続ける」


 エレナの瞳に涙があふれ、声にならない息が漏れる。


「いいかい? 絶対に帰ってくること。陽菜を悲しませちゃいけないよ」


 そして、少し冗談めかして康太は付け加える。


「明日は、エレナの好物の唐揚げを用意してるからな」


 エレナは小さく頷いた。


「……うん。康太。必ず帰ってくる」


 康太はテーブルの押し花に目を向けながら言った。


「この押し花は、帰ってきたら改めて俺たちに見せてくれ」


「うん」


 エレナは微笑むと、立ち上がってそっとポケットに押し花をしまった。


 夜風がカーテンを揺らし、月明かりがふたりを優しく照らす。

 やがて、エレナの身体が淡く緑色に輝き、小さな妖精の姿に変わった。

 光の粒子が舞い散るように、ふわりと浮かび上がるその姿は、夜の闇に溶け込むように柔らかかった。


「康太、行ってくるね」


 そっと康太に寄り添うように抱き着く。


「うん。行ってらっしゃい」


 エレナは淡い緑の輝きを放ちながら、リビングからふわりと飛び立った。

 康太は、窓の外へ消えていく小さな光の粒を、しばらくじっと見送る。


 胸の奥に、ぽっと温かいものが広がる。

 それは、彼女が必ず帰ってくるという確信から来る、静かな安心だった。


 ──大丈夫だ、戻ってくる。


 それは単なる希望ではない。みんなが、エレナを、陽菜を守ろうとしているという確かな実感。その温かさが、夜の静寂の中でじんわりと心に染み渡る。


 それこそが、想いの力──そう康太は感じていた。


 康太は、階段の陰からそっと見守る陽菜の存在も、ちゃんと分かっていた。

 書斎に戻ると、そこには結衣の姿があった。不安を滲ませた声で、彼女が問いかける。


「……大丈夫かな」


 康太は微笑み、そっと結衣の手を握って答えた。


「大丈夫だよ。ふたりとも、運にも才能にも恵まれた子だ」


 そして、五分も経たず、書斎にいる康太の耳に、廊下を歩く静かな音と、玄関の扉が開く音が届く。


「今日は、特別だぞ。陽菜」


 そう言うと康太は一人、ふっと微笑んだ──。


--------


(あとで、エレナはお仕置きなんだからっ!)


陽菜は心の中で固く誓った。

玄関の扉を開けると、夜風に揺れる影の中で玉藻がひらりと立っていた。


「やはり予測通り、動きがあった。夜道は危険だ。わらわの手を握るがよい」


「うん」


陽菜はそっと玉藻の手を握ると、ふたりの姿はまるで空気に溶け込むかのように夜に溶けていった。


(沙耶さんが教えてくれた。あいつらの弱点を……! そこを突けばっ!!)


陽菜は心の中で呟く。


満月が静かに光を注ぐ夜。目指すは、彩華の家──。

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