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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第9話:通学路の廃工場の怪②

 蓮が視界の揺らぎに気づいてから、場の空気は一層重く淀んだ。

 息を呑む三人。辺りの空気が一気に重くなる。

 コンクリートの壁も、鉄骨の梁も、まるで呼吸しているかのように歪んで見えた。


「ここ……やっぱり普通じゃない」


 陽菜の声は震えていたが、覚悟を決めた響きもあった

 エレナは陽菜の肩にそっと手を置き、静かに言う。


「この“想い”すごく強い。ここで、何か……壊れるくらいの感情が残ったんだ。想いが、巨大な形を持とうとしてる」


 エレナの言葉と同時に、廃工場の薄暗い空間が、一気に“夕焼け色”に染まった。

 空間そのものが、想いに引きずられるように変質する。想願空虚への侵入だった。


 そして、その中央のコンクリの割れ目から砂煙や埃とともに、“影”が立ち上がった。


 それは最初、人の姿に見えた。だがすぐに、バキバキと骨が軋むような音を立てて形を変える。

 無数の脚。異常なまでに長くうねる胴体。

 巨大なムカデ、人の想いが化けた“怪異”だった。


「む、む、む……虫ぃぃぃぃっっ!?」


 陽菜が叫ぶ。全力で叫ぶ。

 エレナも一瞬顔を引きつらせ、蓮は言葉も出ない。


「ねえ、エレナ、蓮……逃げよう! 逃げて正解だよねコレ!!」


「賛成っっ! ムリっ!!」


「ちょ、おま、陽菜が来たいって言ったんだろがーー!!」


 エレナと蓮も絶叫し、三人はほぼ同時に工場の出口へと駆け出した。

 転びそうになりながらも全力で走る。


 だが──


「うそ……っ!」


 陽菜が叫ぶと同時に、壁の一部が爆発するように吹き飛んだ。

 その破片の中から、ムカデのような巨大な怪物が巨体をうねらせて現れる。


 ──先回りされていた。


「陽菜っ、よけーーっ!」


 蓮の叫びより早く、怪物の巨大な胴が陽菜に体当たりした。


「うわっ!?」


 鈍く重い音とともに、陽菜の身体が空中に跳ね上げられ、そのままコンクリートの壁に叩きつけられた。


「陽菜っ!!」


「陽菜ーーっ!!」


 エレナと蓮が駆け寄る。砂煙や埃が舞い上がる中、陽菜は、


「……うっ、いった……」


 スカートがめくれ、ボーダー柄の下着が丸見えのまま。

 陽菜はその格好でぐったりと倒れていた。


 蓮がすかさず駆け寄って叫ぶ。


「陽菜、大丈夫か!? お、今日はボーダー柄か!?」


 すかさずエレナが、呆れたようにツッコむ。


「ちょっと陽菜、下着、よごれちゃったよ」


 陽菜は顔を真っ赤に染めながら、ごまかすように、半分キレ気味に言い返す。


「ウチのかわいいおパンツさらして蓮を興奮させるとはな……」


 埃まみれになりながらも、立ち上がっていた。


「そう簡単には逃げられないってわけね……」


 陽菜がぼやくように言い、蓮の方を向く。


「ねぇ、蓮……おパンツ汚れたから買って♪」


 陽菜は上目遣いで、目をウルウルした明らかにあざとい演技をした。


「お前なぁ! 何でオレが買うんだよ!つーか、 自分から来たいって言ったんだろが!!」


「虫は別だろ! 汚れも想定外だっつーの!!」


 陽菜はムッとしながらも、あざとさ全開でにじり寄る。


「ま、まぁでも……あいつ、ヤバいのは確かだよな」


 蓮は額の汗を拭い、真顔になった。


「前回と同じだ。想いを、ひとつに……!」


 集中する蓮。その心に、微かな声が届いた。


 ──そう、心をひらいて……想いを合わせるの


「……エレナ! 今の、お前の声か!?」


 蓮が陽菜に叫ぶ。


「聞こえたの!? マジで!?」


「おっしゃああああ!!」


 陽菜が拳を握る。それは三人の想いが、再び繋がった合図だった。


 だが、怪物が再び、うねる胴体で攻撃を仕掛けてくる。


 巨大な脚がコンクリートを叩き割り、鉄骨の梁を薙ぎ払う。

 三人はそれぞれ、スレスレで跳んでよけた。

 蓮の動きも、前とは違う。迷いがない。直感が導くように、身を翻した。


 だが、


「うぐっ……!」


 蓮が胴体を捕らえられた。

 ムカデのような胴が彼の身体に巻き付き、締め上げる。骨が軋む音が聞こえた。


「蓮っ!」


 陽菜が叫ぶ。


 エレナは陽菜の隣に駆け寄ると、まばゆい光を身にまといながら、そっと陽菜の背に手を添えた。

 そのぬくもりが、陽菜の胸の奥に眠るものを静かに、確かに呼び覚ましていく。


 背中にそっと触れるエレナをそのまま感じながら、陽菜は前へと踏み出した。

 陽菜は、その巨大な怪物に向かって手刀のような動きを繰り出した。


 それに呼応するように、白い光が鋭く飛び出す。

 やがて光は刃のような輝きを帯び、迷いなく怪物の身体をまっすぐに切り裂いた。


「ギィィィィィッ!!」


 怪物はうめき声を上げた。光が閃き、裂け目から黒い霧が噴き出す。

 裂かれた胴体が痙攣し、蓮が放り出された。


 陽菜が駆け寄り、支える。


「……生きてる! セーフッ!!」


 しかし──

 裂かれたはずの怪物の身体が、音を立てて再び繋がっていく。

 そして、ぐるりと三人を見下ろしたその怪物の“顔”が、かすれた声を発する。陽菜たちの心の中に響く声。


『なぜ……ここに来た……』


「……っ!」


 陽菜が一歩、前に出た。


「あんたの”想い”と共鳴したから……だからここに来た」


 怪物は続けて質問した。


『……なぜ、俺を……滅ぼそうとする……?』


 その問いに、エレナが答える。


「ちがう。ここは“煉獄”……あなたはここに居続けたら、永遠に苦しむだけになるの!」


『それが、俺の……望みだ……苦しみ続けなければ……報われない……!』


 怪物が耳を劈くような雄叫びを上げ、再び三人に襲いかかってくる。


「この、わからずやぁぁぁぁ!!」


 陽菜は一歩も引かなかった。


「だったら、その想いごと見せてみろや! ポンコツ化け物クソ野郎っ!」


 鋭い叫びとともに、陽菜は両手を突き出す。

 白いロープのような光が走り、怪物をがんじがらめに巻きつける。


「……いっけえぇぇぇっ!!」


 陽菜は全力で引き絞るように、想いの力で生成された光のロープを振り回す。

 怪物を宙へと投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。


 砂煙と埃が舞い上がる中、陽菜は振り返りざまに叫ぶ。


「エレナ、蓮! 手伝って!!」


 その声に、ふたりが即座に反応した。


「うん!」


「わかった!」


 陽菜は一気に距離を詰め、怪物の歪んだ身体にそっと手を当てた。


「……土足で悪いけど」


 呟いた声には、わずかな迷いがにじんでいた。

 その行為は、相手の心を覗くに等しい。無断で踏み込むことへの、ひりつくような後ろめたさが、陽菜の胸を静かにかすめる。


 光の帯は、怪物をしっかりと縛り上げていた。もがくたびに、軋むような音が響くだけで、その巨体はもはや身動きひとつ取れない。


 どろりとした皮膚の感触が手のひらに広がり、思わず顔をしかめる。だが、それでも引くことはなかった。

 エレナも、蓮も、無言のままその後に続くように手を伸ばし、三人の“想い”が、そっと一点に集まっていく。


 怪物の身体に触れたその瞬間、微かな“人間の心”が、かすかに震えた気がした──。

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